和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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 ファンアートのご紹介をさせて頂きます。

 此方、Xin,さんからは二点です。後者のその尖った耳は……あ、ふぅん(察し)

・橘家令嬢様
https://www.pixiv.net/artworks/133439723
・松重家孫娘
https://www.pixiv.net/artworks/133722858

・此方は柵さんよりAIイラスト、蒼鬼様です。
https://twitter.com/saku__shigarami/status/1951827524566302946

 素晴らしいイラスト、誠に有難う御座います!


第二一一話●

 それは嘗ての夜の焼き直しに佳世には思えた。まるで狂言に思えてしまった。歴史というものは繰り返すものである。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。

 

 目の前には変貌して血濡れの愛する人がいて、桃色の姫君が相対して、己は脇役のように足下にて跪いている……それは実に無様であった。

 

「あはは……はは……ははははは…………」

 

 乾いた笑い声が漏れる。笑うしかない。ここまで見事な尊厳破壊はないだろうとすら佳世には思えた。客観視した。現実逃避である。

 

 彼のため、佳世は全てを捧げる覚悟があった。全てを失う覚悟があった。全てを手放し、投げ捨てる覚悟があった。金も、人間性も、道徳も、家族すら、必要ならば犠牲にする事が出来た。幾度も己の内で葛藤して、議論して、熟慮して、熟考して、覚悟して、そして見出だした結論。

 

 その成れ果てが、これだ……まるで何も変わっていない。いや、寧ろ尚酷い。

 

(全部、想定の内ですか……?)

 

 悠然と、余裕綽々な桃色の姫に向けての諦念と羨望を含んだ視線。全てが彼女の掌の上だったという事なのだろう。己は愚かな道化だ。踏み台だ。物語の脇役。否、仇役か。

 

(お似合いの、役回りですね……)

 

 彼が望まぬと知りながら、身の程を知りながら、沢山犠牲にして劇の主役に踊り出ようとした悪女には、こんな惨めな末路こそ相応しい……。

 

「さぁ、何をやってるのかしら?漸くの見せ場よ?シャキッと決めてしまいなさいな?」

「え……?」

 

 背後から柔らかく抱き締められて、抱き抱えられて、立ち上がらされる佳世。それをした姫君は耳元でそんな事を囁いて、彼女と手を、掌を、指を絡める。そして押し付けるようにしてそれを授ける。これは……。

 

「丸薬……?」

 

 いや違うと佳世は判断する。枯れた縄……荒縄?芋がら縄?縄を締め丸めた塊?何、これ?

 

「姫、様?」

「ふふふふ。いいからおやりなさいな。折角、あの女の手を借りぬ見せ場を譲って上げたのよ。一世一代の晴れ舞台、やって魅せなさい?」

「……」

 

 不敵に笑い試す葵を見て、佳世は手元を今一度見る。そして彼を見る。全身肉を裂いて割って切り落として、下の顎すら失ったその姿に胸を締め付けられる。低く唸る彼に向けて、まるで灯に誘われるように一歩前に立つ。

 

『◼️◼️◼️◼️………ッ!』

「伴部さん……」

 

 彼は一歩退いた。佳世よりもずっと大きな一歩だった。距離は寧ろ離れた。警戒するように静かに喉を鳴らす。佳世は訳の分からぬままに、口ずさみ始める。

 

「伴部さん。……お願いします……逃げないで下さい。恐れないで、下さい」

 

 打ち震える声音で佳世は願う。無理な願いなのは承知だった。きっと彼の脳裏には、記憶の底には己の残虐な所業が焼き付いている。己が何をしでかすのかと怯えている。分かっている。だけど……!!

 

「お願い、します……!貴方を、救いたいだけなんです!喜んで、幸せになって欲しいだけなんです!そのためで……嘘、ですね。私は貴方に執着してますから」

 

 必死に懇願して、嘆願して、一歩進み、一歩退かれ、同時にそんな反応をされる己を見返して冷笑する。己を蔑むような笑い。彼のため、それを錦の旗として己の欲を満たそうとしていたのはどうしようもない事実だ。

 

 だが……決してそれだけではない。

 

「ですけど!確かに私はっ!貴方のために……!それは、その想いは!本当なんです!気にいらないって、疎ましいって、余計な御世話って!思ってるでしょうけど!だけど!だけど!本当で……本当、なんです!!」

 

 途切れ途切れの言葉になっているのは計算ではなくて己の飽和してしまった感情の言語化に苦労していたからだった。猛り奔流する思いを言の葉に乗せる事に佳世は苦慮していた。彼女の知る語彙ではこの想いを全て乗せるのは不可能に思えたのだ。あぁ、普段みたいに口が回らない……。

 

「だから、だから……っ!」

 

 普段の商人らしい滑らかな舌の回りは何処へやら。駆け引きの演技も、小悪魔めいた振る舞いも消え失せて、ただただ臆病な少女の姿だけがそこにある。拙く思いを、纏まりもなく脈絡もなく述べるだけ。まるで白痴だ。

 

「おねがい……きらわないで…………」

 

 姫から貰った丸薬を飲ませる事すら抜け落ちて、そんな事を口にしていた。唯一彼に残った皿のように滑らかな一つの複眼の表面に己の無様な顔が映し出される。本当に本当に無様だった。

 

『……』

 

 沈黙。沈黙。沈黙。静かな静寂……唸り声は嘆息のようでもあった。

 

「あ……」

 

 永遠のように思えた膠着は終わった。一歩、愛する人の成れ果てが進み出た。大股故に、あっという間に佳世に肉薄して、鼻先が当たりそうな程。眼前に鼻息が吹いて佳世の髪を揺らして湿らせる。ギョロリギョロリと窺って、ビチャビチャと水音鳴らして彼は顎を開いた。上顎だけの口を限界まで開いて。

 

 無数の鋸のような牙が見えた。蚯蚓染みた触手の束のような舌がのたうつ。酷い悪臭。垂れる涎が血液と混ざって床に早くも池を溜めていた。

 

 伸びる舌が、蜂蜜色の少女の頬を不器用に撫でる。それはまるで、慰めるように……。

 

「とも、べ、さん……!!」

 

 一切の躊躇なく、佳世は身を乗り出した。噛み殺される事すら本望とばかりに腕を喉奥に押し込んで、頭まで半ば入れるように。彼の奥目指して授かったそれを……飲ませ込んだ。

 

「っ!!」

「あら、狡い。私の時とは大違いじゃないの?」

 

 彼のえずくような身震いを感じた。グッと顎が締まりかけて、しかし寸前で止めたのを理解した。仮に彼がそのまま反射的に噛み締めていたら佳世は潰れていただろう。背後で葵が愉快げに宣う。彼女の時は浅くではあるが噛みつかれたものであった。尤も、口振り程にはその事を気にしてはなさそうだ。佳世は勿論、葵にとってもそうなのだ。彼から与えられるものは喩えそれが痛みであろうと悦びに成り果てる。

 

 そして佳世にとっても、今はそんな事はどうでも良い事で……。

 

「伴部さん……!」

 

 彼のその行いに思わず顔を上げて愛しい名を呼んで、しかし返答も反応もなかった。唯、彼は震える。打ち震え始める。悶える。まるで腹の内で何かが暴れているかのようだ。獅子身中ならぬ神子身中の……。

 

『◼️◼️◼️……◼️◼️◼️……ッ』

 

 吐息。荒息。硬直して停止した。そして……そして、遂にその時は来た。

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!!?』

 

 嘔吐とでも言うべき勢いの喀血。頭から真っ赤に、赤黒くそれを被る佳世。婚礼衣装はもう白い部分が無いくらいにドス黒く染まり、蜂蜜色の髪もまた同様。全身を生温く生臭く染め上げられる。

 

 それはあの時と瓜二つ。違うのは己は傍観者ではなくて当事者である事。その事実を再度自覚して、思わず洗礼の聖水を受けたような感覚に襲われる。そして、続けてそれが来る。あの時の通りに。

 

「んっ!!?」

 

 本能的にそれを理解していた。身構えていた。それでも体格差から思わず後ろに仰け反って転げそうになるのを二の姫が支える。そして受け止める。最愛の人を。

 

 あの時とは違い、今度は己が彼を受け止める。

 

「伴、部さんっ……!!」

 

 それを理解して、それだけで佳世には感動的で、それだけで仮初めでも救われそうになる。全身が打ち震えて、涙が出そうになる。

 

「……わるい、こ、だな。まったく」

「っ!!?」

 

 そして、耳元で囁かれた言葉に佳世は今度こそ息を呑む。血の滝を浴びる中で頭を抱えるように髪を撫でられて目を見開く。蔑みも敵意もなく、唯呆れつつも仕方なさげな言い様にどうしようもなく、佳世は涙を流していた。

 

「伴部さん……!!」

 

 掛けた呼び掛けにしかしそれ以上の返事はなく、彼は虚脱したように佳世の身から刷り落ちそうになる。慌てて抱き締め直そうとして、しかし体格と体重と筋力の差は如何ともし難い。寧ろ彼共々床に崩れ落ちてしまう。彼に組伏せられるように、敷物にされるように、佳世は倒れ伏す。ずっしりとした重みが少女の華奢な身体を沈めた。圧迫感。しかし、そんな事はどうでも良い事である。一瞬の多幸感と、続いて負の感情が押し寄せる。

 

「伴部さん!ともべ、さん……!!?」

 

 唯己に覆い被さる彼の名を呼ぶ。彼の身を擦り揺らす。反応も返事もない。それが何処までも恐ろしかった。抱き締める。返答を懇願する。焦燥する。怖い。恐い……!

 

「……彼の手当てをしなさい。急いでね?」

 

 葵の命が、しかしそれが己に向けてのものでない事を理解するのに数瞬要した。引き離される。彼が持ち上げられて、支えられて、引き摺られていく。防護服を着込んだ二人分の人影が何なのか一瞬分からなかった。遅れて十薬の人擬きの二人である事に気付く。

 

 理性では分かる。己がこの場で役に立たぬ事は。二人に引き渡す事が道理だとは。理性では

 

 

「いや!伴部さぁん!!?いやです!いや、いやあぁぁっ!!!?んっ!!?」

 

 失われる感触が狂おしくて苦しくて、思わず起き上がって泣き叫んで奪い返そうとして、扇子を額に突き付けられて背中からまた床に押し付けられた。

 

「ふふっ」

「う、うあぁぁぁ"ぁ"ぁ"ぁ"……!」

 

 此方を見下す姫の冷笑に、佳世は泣きじゃくって絶望する。既に矜持は、誇りは、自尊心は、何もかもがどうしようもなく襤褸襤褸だ。

 

 何も出来ぬ自分は敗北者だと、どうにもならないくらいに分からされる……。

 

「そんな酷い顔しないで欲しいわねぇ。まるで私が悪者みたいじゃないの?」

 

 不細工に泣き腫らす佳世を見下ろして肩を竦めて呆れたように。そして葵は命じる。

 

「貴女達、湯を張ってあげてるから、さっさとこの娘引っ立てて浸りなさいな。酷い臭いよ?彼の臭いだといっても、ここは一旦落としておきなさい」

「……はい」

 

 皆を代表するように前に出た葛が答える。何も身に纏わず、肌も、秘所すら晒しだした公家の娘の精一杯の一礼。他の生まれ直したばかりの一糸も纏わぬ女達は自らもふらつきながらも、無言で葛に倣うとその命に粛々と従っていく……。

 

「佳世様……共に……」

「いや……ともべさん……いやぁ……」

「わかっております。大丈夫……大丈夫です……」

「今は皆で……どうか落ち着いて下さいませ……」

「いやぁ…………」

 

 疲労困憊の彼女らは打ちひしがれて譫言を呟く佳世を皆で連れて、宥めて、幽鬼のように力なく部屋から退いていく。お互い寄り添い合いながら、肩を寄せ合いながら、人肌を求めるように。それはまるで望む人の温もりの代用のように……。

 

 彼を見送り、陰気な牝共を一瞥して、ふぅと溜め息を吐いて、そして鬼月の二の姫は面倒そうに仕事に取り掛かる。次々と簡易式を放ち、具現化し、掃除用具を持たせ、何よりも強力な清塩を抱えさせれば、酷い有り様の部屋を消毒して、片付けさせていく。

 

 本当に酷い有り様だ。部屋全体が血肉で満ちている。肉臭で満ちている。屠殺場すらここまで酷くはないだろう。何よりも、中身を吐き出した巨躯は尚も処理に困ろうて。その肉は上質過ぎて、容易に廃棄処理する訳にはいかぬ。簡易式だけでは流石に荷が重い。

 

「だから貴女にやって貰う必要がある訳ね?」

 

 もぞもぞもぞ、と。倒れた殻肉が蠢く。内から何かが動き回っていた。ボゴリと音を立てて、背を突き破って、凄まじき神気と共にそれは現れる。

 

『( -∀・)ワタシ!ケンザンネ!!』

 

 ……その輝きし神気の波動と巨大かつ強靭な躯に似つかわしくない間抜け声な念話であった。

 

「……」

 

 思わずジト目になってしまう葵は己は悪くないと自己弁護する。己が教育した訳ではないのだ。全ては彼の責任だ。コホンと咳払い。

 

「早く食べてしまって下さいませ?さもなくば鬼共にでも横取りされてしまいましょう?」

『(´゚д゚`)ナヌヌッ!(≧ヘ≦ )パパハワタシノヨ!プンスカ!(´・ω・)チュルチュル……( ^ω^)デリシャス!』

 

 葵の指摘に何処までも間抜けな念話で応じる神格は慌てたように己の『親』の脱け殻に牙を突き刺し体液を啜り始めた。

 

 本当に間抜けな念話であるが、それを受け取らぬ者からすればこれ程恐ろしい光景もなかろう。神気を放つ牛車並みの躯の大蜘蛛による捕食光景である。毒を牙から注入して肉すら溶解して飲み干すのだ。おぞましい。

 

『……!!』

『…………!』

『( :゚皿゚)コレハワタシガパパカラモラッタモノヨ!(。・`з・)ノヨコドリシチャダメナンダカラネ!』

「……何やってるのかしら」

 

 大綱にまで成長している縄と小さな釘とが獲物を横から摘まみ食いせんとして蜘蛛とやいのやいのと喧嘩し始めて、呆れたように葵は眉をひそめる。圧倒的に格下の呪具と憑喪神風情相手に神格が同水準での争いをしていた。先代の蜘蛛が見たら泣き崩れそうな光景である。

 

(それにしても随分と大きく育ったものね。流石に予想外だわ)

 

 佳世に授けた縄玉は、こいつらであった。彼が十薬領にて自爆する刹那、腹の中に納めたこれらは彼の中にて休眠状態に入った。より正確には釘を抱いた形で蜘蛛が更に縄に巻かれて揃って干物のように乾燥していた。身を凝縮させて縮小させていた。

 

 正直そのまま延々に乾燥させたまま封印するのも一つの手ではあったが、彼の身を思えば現実的ではなかった。あの女の生き肝は生物故に長持ちせず、消耗品だ。祖母の巫女擬きとて使いきりになるだろう。やはりこの蜘蛛が一番使い勝手が良いのは確かなのだ。

 

 ……あの女と祖母に余り借りを作りたくない事が本音である。鬼月葵は感情の女であった。しかし感情と現実を擦り合わせる努力は惜しまない。

 

 現実を感情に合わせる努力は惜しまない。 

 

(要は殺さなければ良いだけの事……)

 

 運命が一方的に繋がっている小癪な繋がりであるが其処は鬼月葵は才人である。やれぬ訳ではない。殺さぬだけで封じる手立ては幾つか考えてはいるのだ。無論、まだ試すべきではないが。本番前に練習と実験は必要だろう。

 

 だから……今はこう嘯いてやるのだ。

 

「それにしても困ったわね。その大きさでは到底彼と連れる事は出来そうにないわ。これからはずっとお留守番かしらね?」

『(´・ω・`)?………Σ(´Д` )ナヌヌヌッ!?』

 

 蜘蛛の巨体を見上げて何処か子供らしく宣う葵。釘と縄と喧嘩しながら躯を吸血していた蜘蛛はキョトンとしたかと思えば遅れて驚愕したように振る舞う。真性であった。演技ではない。前代が泣くぞ。

 

「困ったわねぇ。本当に困ったわねぇ。可愛い娘を肩に乗せて外出出来ないなんて何て悲しい事かしらぁ?」

『((( ;゚Д゚)))アワワワワワ!(≧ヘ≦ )パパヲカナシマセルワケニハイカナイワ!』

 

 凄まじく馬鹿馬鹿しく動揺する神蜘蛛。その巨体に似つかわしくないくらい慌てて、慌てて、そして何かを思い付いたように反応する。

 

『( ゚д゚)ハッ!( -∀・)プリティラブリィナワタシハナイスアイデアヲオモイツイタワ!』

「それは良かったね」

 

 エグい外見で片側の眼群を閉じてぶりッ娘する蜘蛛。内心イラッとしながら涼しげに装い流す二の姫。いいからさっさとやれよ、と内心で愚痴る。

 

『( ・`д・´)ウォー!メタモルフォーゼ!!』

 

 意味不明な宣言。そして瞬間的に発光して、光が消えて……何も起きない?いや、違う。

 

「成る程。そういう事ね」

 

 脱ぎ脱ぎ脱ぎと内側が蠢いて、そして背中からカパリと突き破られる。そしてお出座しするのは男の掌程の躯の小さな大蜘蛛。

 

『( ´,_ゝ`)フーッ!!』

 

 脱いだ己の『殻』の上でドヤる蜘蛛。それは濃縮であり凝縮であった。己をより密度を高めての脱皮。成長。強靭化。虫籠に入れるギリギリまでの縮小。己を内から大掛かりに創り変えるに等しい行い……それはある種の己の内の現実改変とも言えよう。馬鹿馬鹿しい振る舞いではあるが、行為自体は驚愕物である。

 

 『( -∀・)ダイエットセイコウ!コレデパパトノランデブーニイケルワネ!』

「それは良かったわね」

 

 フリフリと調子に乗る蜘蛛を今度は見下しての葵の返答。毎度毎度頭に直接馬鹿声を響かせて来るのには辟易とする。彼と命と繋がり、その潜在能力は軽視出来ぬのだから尚更質が悪い。不快だが、使える内は使い倒してやるしかなかった。しかし……。

 

「……失敗したわね。これ、どうしようかしら?」

『(´・ω・`)?』

「貴女と彼の殻の事よ」

『Σ(´Д` )アッ!』

 

 唖然とする蜘蛛と嘆息する葵の前で、不用意に処理出来ないデカい廃棄物が二つに増えてしまっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 目覚めた知らない天井だった。百一回目の天井だった。

 

「再走って訳じゃあないでしょう?」

 

 語録めいて呟いて見て、しかし裸ん坊の上半身を起き上がらせて見渡して、それは違うと確信する。言語化しにくいが……自覚なくとも儀式の観測者だった故だろうか?これは違うとこれまでの感覚から察する。

 

「よりによって全く同じ部屋に寝かせてくれるなよな……」

 

 一瞬とは言え嫌な予感を抱いて心臓に悪過ぎた。実際の所周回してたのだから実際ここに寝たされたのは数回なのだろうが……余り良い気分ではなかった。

 

「取り敢えず……どう、なってるのやら、な?」

 

 俺がここに寝ている理由、全ての顛末。事の真相。それらを知らねばならなかった。だから俺は鈍り痛み軋む身体を無理に起こそうとして……。

 

「ん?」

「あ……」

 

 そして布団の中に潜んでいた人物の存在を認め、視線が重なるのだ。

 

 ……華奢で細身の身体を何一つ隠さずに晒して布団に潜んでいた南蛮娘と。

 

「う、うおおおっ!!?」

「ま、待って……!?」

「うおっ!!?」

 

 驚愕。羞恥。道徳。理性から俺は慌てて布団から飛び出そうとしていて、しかし手を掴まれて引っ張られると体は情けなくスッ転んでしまう。転ぶようにそのまま佳世の上に覆い被さるように。

 

 肘で彼女を潰さぬように支えたのは良かった。それ以外は最悪だった。寝床で幼さを残す少女に被さる。それも全裸で。完全にアウトだった。……夢幻に消えた周回での乱行を思えば今更?それはそれ。これはこれである。

 

 ……丁度彼女の肚辺りを突き刺すように当ててしまってるのは痴漢やセクハラなんてレベルではない。

 

「えっと……その、退くからよぉ!?」

「待って下さい!」

 

 家主に見つかったこそ泥みたいに逃げようとするのを佳世が叫んで制止する。二度目の制止だった。必死の叫びだった。二度打ちであり、漸く動転していた俺もビクリと震えて落ち着く。

 

「待って……お願い、します。このままで。……お話を、させて下さい。駄目、ですか?」

 

 何処までも健気で、何処までも悲しげで、何処までも卑屈で、何処までも怯えきって、何処までも媚びるような……そして何よりも半泣きで上目遣いに此方を見上げる少女の嘆願を、拒絶出来よう筈がなかった…………。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 端から見たらそれは褥の男女の交わりの後の語らいにも見えただろう。しかし橘佳世が語るのは言うならば自白であり、自供であり、懺悔であった。

 

「それはまた……随分と金の使い方を間違えたな。えぇ?」

 

 粗方の罪状を聞き終えて、最初に出てきた感想がそれであった。

 

「最初にお金のお話なんですか?その気持ち悪いとか……馬鹿にしてとか……そういうのではなくて?」

「其処は俺の性って奴かね?金には苦労してたからな。どうやってもそちらを意識しちまうな」

 

 この屋敷に女中ら。それ以外にも寄付金に装備、便宜、接待費用……果たして俺の身売り代何百年分か。良くもまぁ散財してくれたものだという物好きさこそが先に来てしまう。ホストに貢ぐ鴨女、今の佳世に持つ印象はそれであった。商才と実家の力がなければ女郎堕ちしてたのではないだろうか?そんな不安すら抱く。

 

「ちゃんと……稼ぎを考えて貢いでましたよ?そうしないと継続出来ないですから。其処は考えてました」

「先ず貢ぐって選択について深く熟慮して欲しかったな?」

「…………」

 

 俺の指摘に、佳世は反発も言い訳もせず、唯項垂れるのみだった。その普段の小悪魔ぶり、お転婆ぶりからは想像出来ぬしおらしさに、俺はやりにくさを覚える。

 

「……お前が其処まで好いてくれるのは、まぁ男として嬉しくない訳ではないんだけどな?」

「重かったですか?やり方が……気に入りませんでしたか?」

「どちらもだな」

 

 大金を注ぎ込まれるのも、多くの他者を犠牲にするやり口も、人に苦渋の選択を強いる事もいただけない。素直に好意を口にして欲しかった……というのもまた難しいのだろうなぁ。

 

(そもそも、身分が違うしな)

 

 それこそ公言すれば二度と顔を合わせられないようにさせられたかも知れない。俺の命が狙われたかも知れない。身分違いの恋愛とはそういうものである。特に、俺の場合は尚更面倒事に巻き込まれる……。

 

「それに……勝てないと思いました。葵様の、伴部さんに対するあの人の深い愛には、到底敵わないと」

「俺がアイツの好意を知ったのは最近なのだがな……お前が先に知ってるとか、まるで俺の目が節穴みたいじゃないか」

「申し訳ありません……」

「いや、お前を責めてるって訳じゃないんだけどさ?」

 

 全ては何も気付けず、察する事すら出来なかった俺が愚か者であっただけの話だ。俺は何時もそうなのだ。何時も、何時も手遅れになるまで相手の事を理解してやれない。だからあんな事に……。

 

「あんな事……?」

「伴部さん?」

「いや……何でもない」

「ん……」

 

 何かを思い出して、何か思い当りそうに感じて、しかし目の前の少女との理解よりも優先するべき事があるようには思えなかった。疑問は脇に置いて、誤魔化すように彼女の頭を撫でた。若干乱暴な、掻くような撫で様に、しかし佳世は抵抗せずに従順に受け入れる。目元を細めて、吐息を漏らして、まるで今が一番の幸せであるかのようにされるがままになる。

 

 男の支配欲と満足感を煽る、魔性の振る舞い……。

 

「まさか、計算してるか?」

「ふぇ……?」

「……すまん。忘れてくれ」

 

 俺の質問に蕩けたような表情で首を傾げる佳世の態度は、それが天性のものである事を意味していた。穿ち過ぎという事であった。己を自己嫌悪する。毬のような女もいるのだ。それに及ばずとも、魅力的な女の振舞いは、時に一切の打算計算なく男の感情を激しく揺さぶるものであった。佳世のアザとさは、何の脚色も演技もなくとも魔性だった。

 

 初めてあった時から磨きに研きあげられた天性の魅了……。

 

「本当、良い女になりやがって……」

「んんっ……」

 

 頭を撫でていた手は自然に下に流れて頬を撫でる。髪を弄び、唇に親指を当てて遊ぶ。無作法で、まるで自分の所有物に対するような振る舞いに、しかしそれに対する反応一つ一つが愛らしくて、思わず夢中になりそうだった。

 

 本当に良い女だった。男にとって都合の良い女であった。俺にどうして惚れているのか分からない程に魅惑的だった。猫に小判、豚に真珠である。彼女を構成する全ての要素が俺には勿体無いように思われた。そんな彼女は、文字通り全てを俺のために捨てて捧げてしまうくらいに入れ込んでいる……その事に自尊心を擽られない男はいない。女でも入れ込むのではなかろうか?

 

「伴部さん……好きぃ。大、好きです……あの時から、ずっと大好きでした……。大好きなんです……」

 

 俺の手に弄ばれながら、佳世は求愛する。求愛の言葉を譫言染みて口走る。剥き出しの愛を、へし折れた自尊心と共に晒し出していた。

 

「馬鹿な女でごめんなさい……自己満足で、自己中心的な女で、ごめんなさい……だけど、だけど……大好き、なんです。大好きなんですよぉ……」

「そうか……」

 

 ひたすら紡がれる贖罪。懺悔。嘆願。告白。それを明白に拒絶したら佳世は何処までも絶望してしまうだろう。今のへし折れ切って、襤褸襤褸の心をこれ以上責めるのは殺人に等しかった。きっと心が死んでしまうだろう。生きながらに死んでしまう。

 

「伴部さん……伴部さぁん……」

「分かった。分かったから。よし、よし……」

 

 彼女が憎い訳じゃない。疎ましい訳でもない。確かに恩義があった。空回った愛から今回ヤラカしたが、だからといって全体の献身を思えば尚も俺にとっては溢れんばかりに恩恵があったのは否定出来ない事実だった。彼女の儀式がなければ、俺の身体は再生出来なかっただろう。彼女は、為すべき儀式に己の野望と欲望を付け足しただけなのだ。

 

 だから……答えは言わない。唯、慰める。しかし、それは失敗だった。

 

「いや、いやぁ……なぐさめないで……こわい、こわいです……やさしくされると、こわい。こわいよぉ……」

 

 泣き腫らして、泣きじゃくって、それでも俺に弄ばれて、慰められて、甘える彼女の心理はきっと商人らしい計算が前提にあった。代償に対する報酬。彼女にとって喜びは何かの代償と引き替えだった。俺に慰められる行為に何かに恐ろしい支払いがある事を佳世は恐れているように思われた。これが手切れ金代わりの最後の交わりになるのではと怯えているようであった。

 

「……別に縁切りなんてしねぇよ」

「いや……すてないで……すてないで……」

 

 俺が宥めても、佳世は愚図るだけだった。俺の言葉を、寧ろ恐れていた。

 

「佳世……」

「うそ……うそです……やさしくして、すてるんです……めんどくさくて、うざくて、わがままな女だからうとんでるんです……やめて、ひどくあつかって……なぐって、おかねをもとめて……おねがい、おねがいですからぁ」

 

 商人の性なのか、彼女自身の性なのか。佳世は他人との関係を等価交換を前提としていた。そして俺に対してその基準が捻れていた。佳世にとって俺との関係は俺が上であり己は下だった。俺が彼女に丁寧に接して、善意で接しても、それは恐怖のようだった。その代価を恐れていた。

 

「たくさんやくにたつから……つごうのいいおんなになるから……にげないで。きらいにならないで……」

 

 貢ぐから愛して欲しい。捧げるから側に置いて欲しい。酷く扱われていいから見て欲しい……それが彼女の根底だった。だから俺の彼女の扱いを怖れて、しかし……それでも彼女には普通の人としての感性もあるのだろう。大切にされて、慰められて、幸せを感じて、その矛盾が彼女の可虐と被虐と、その不安定な心を構築しているように見えた。幼児退行している気すらあった。

 

 ……つまりは情緒不安定という事である。

 

「確かに、面倒な女だよ。お前は……」

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 ただただ怯えて、謝って、絶望して、きっと自己嫌悪もしていた。 見てる側が悲しくなってしまう程に。容赦ない悪人ならば散々付け入るだろう有り様だった。

 

「……佳世」 

「え……あっ」

 

 だから俺は彼女を抱き締めた。

 

「と、ともべさ……んっ」

「いいから、何も話すな。抱かれておけ」

 

 何か語ろうとしたのを、胸板で顔を覆って、頭を押さえるように撫でて黙らせる。どちらかと言えば抱き潰すという表現に近かった。

 

 それは原始的な愛情表現だった。相手を包んで、肌の温もりで満たして黙らせる。お互い何も着てない故にそれはより一層動物的でもあった。直接的に、相手への情の意思を叩き付ける。それは言葉を尽くすよりも今の佳世には効果的である筈だった。

 

「……。!」

 

 抵抗を止めて、語るのを止めて、佳世は大人しくそれを受け入れた。手を回して、足を開いて挟み込んで、全身で好意を受け止めた。まるで蜘蛛が獲物を捕らえ抱き締める様にも思えた。ある種滑稽ですらあった。

 

 ……ひたすらお互いを抱いてどれだけ経ただろうか?一刻は過ぎたのでは無かろうか?一言も発せず、互いの温もりを、心臓の鼓動を、吐息のみを交換して交感し続けた。

 

「……もう、大丈夫か?」

「……はい。有り難う、御座います」

 

 永遠はない。俺が終わりを告げると名残惜しげにしかし佳世はそれを受け入れた。始まりあるものには終わりある事を知らぬ女ではなかった。

 

「勝手に抱いて礼を受けるのも可笑しな話だけどな。……嫌がってないぞ?役得だからな」

「それは私もです。……もっと抱き締めて欲しいくらいです。駄目、ですか?」

「駄目じゃないが……ぶっ通しはな?体勢がキツい」

「……実は私もです」 

 

 まるでじゃれるようにして語らう。それは肉愛よりも親愛に近い交わりだった。

 

 知っている。等価交換は決して佳世は全員に向けてそうしている訳ではない事を。両親や老女中には……身内や家族に対してはそんな計算なく甘えている事を、俺は見ている。

 

(家族、か……)

  

 佳世を甘えさせながら、僅かに心に抱く感傷。目の前の令嬢を羨ましく感じて、それこそ彼女に代償を求めたくもなる。

 

「……家族、作ってあげましょうか?」

「……口に出てたか?」

「はい」

「気恥ずかしいな」

「可愛らしいです」

「……誘惑しよってからに」

 

 普段の小悪魔ぶりが戻って来たのだろう。しかし剥き出しの本音に罰を与えるように軽く頬をつねる。モチモチと弾力ある頬肉を引っ張られて、なのに佳世は何処か満たされたように蕩けていた。されるがままとなって口元から情けなく涎を垂らす様は、まるで赤子みたいだった。

 

「でふへどぉ……」

「ですもこうもねぇよ。この光景すら見られたら問題だろうが。ましてやそんな事になって俺が五体満足でいられると?」

「だりぇか、わひゃらなければもんひゃいない、でふか……?」

「お前なぁ、そういう所だぞ……?」

 

 頬をつねるのを止めて、ペシペシと軽く叩く。道徳を備え付けるための躾は、しかし彼女には違う意味があるようだった。叩かれる度に悶えて恍惚とする様は……おぉ、うん。

 

「隙あらば色気付きよってからに……」

「あらぁ、二人きりで睦言?狡いわねぇ?」

「っ!!?」

 

 天性の南蛮娘の魔性をぼやいた直後、甘い香りと甘い声音と甘い感触が同時に背後からやって来た。背中から抱き着かれるように包まれて、俺は堪らず仰天する。欠片の気配すら感じられなかったからだ。

 

 遅れて、相手が何者なのかを察する……。

 

「あお、い……?」

「えぇ、葵よ。それとも他に抱き着かれるような御相手に覚えが?……まぁ、沢山いるでしょうねぇ?」

 

 背後に首を回して恐る恐ると名を呟けば、桃色の姫は意地悪そうにクスクスと鈴を転がすように笑う。俺の頭に、肩に、垂れ下がる彼女の髪が揺れて豊潤な香りを立ち込めさせる。香を染み込ませた薫りだった。

 

 いや、そんな事よりも……。

 

「少々……距離が近いのでは?」

「少々所ではない程に近いわね?」

 

 文字通りの密着であった。本来ならば指先すら触れてはならぬ関係である。一方的に罪を問われて打ち首すらあり得た距離感。しかもこれは……。

 

「っ……!?というか、何故そんな出で立ちでっ!?」

 

 首から下の肌色の面積を見ての羞恥の指摘。文字通りの生まれたままの姿。つまり、全裸であった。羽織る事すらしていない。

 

「何故って、湯上がりだからに決まっているでしょう?この匂い、良い香湯でしょう?思わず長湯しちゃったわ」

「はぁ……」

 

 その指摘で漸く俺は彼女の髪が湿っている事、頬の火照り、肌の温もりに気付いた。長湯故か、大分熱が溜まっているように見受けられた。

 

 いや、そうじゃなくてな……!!?

 

「待て、それは可笑し……んっ!?」

「野暮な突っ込みはお止めなさいな。貴方だって其処の令嬢にのし掛かってるでしょうに。それに……私の気持ちなんてとっくに分かっているでしょう?」

 

 口元に指を当てて来て不敵に微笑む葵に、俺はそれ以上突っ込みが出来なかった。彼女は鋭く確信を突いていた。道化による茶番劇はお仕舞いだった。

 

 ここからは、剥き出しの本音の言葉のみ……。

 

「葵、俺は……」

「私は貴方の道具よ。貴方の野望、貴方の目的、貴方の復讐、それを果たすための便利な道具。都合の良い女よ。其処の南蛮娘同様にね。それでは不満足かしら?」

 

 俺の機先を制して、佳世をちらりと見て、再度此方を見て、そして飾る事もなく直球で葵は己の立場を提示した。己と俺との位置関係を明言した。

 

「……あの雨の中で宣言されて今更だが、傲慢不遜なお前らしくもないよな。復讐に協力するのは兎も角、そこまで言うか?もう少し自尊心ってのはないのか?」

「自尊心なら全部貴方に捧げたけど?そもそも、貴方がいなければ自尊心どころか純潔も純情も何もかも喪っていたのが私よ?」

「そうかもな。折角守ってやったんだから大切にしろよ」

「だから大切に貴方のために取って置いたのよ?」

「勘弁してくれよ……」

 

 ああ言えばこう言う葵との問答。これも一種のヤンデレ……なのだろうか?原作ならばもっと攻撃的で支配的だったのがここまで反転しているとは。しかも御相手が俺と来てる。

 

「男を、見る目がないのか?佳世もだが、悪食過ぎるだろ?」

 

 両親や家への復讐に俺という手駒を利用する……なら分かる。しかしこれは違う。献身だった。奉仕だった。矮小な下人に対して有り得ぬ態度であった。

 

「人の恋愛の好みを否定するのは良くないと思わない?ましてや自分を卑下するなんて……それこそ女への侮辱よ?貴方だって、好いた女に自虐される不快感は分かっている筈。違う?」

 

 正論だった。欠片も否定出来なかった。理解は出来る。しかし……やはり立場故に色眼鏡で見てしまうのは避けられなかった。 

 

「お前や佳世程の女に愛されるのは男冥利に尽きるがね……旨過ぎる話には警戒するものさ」

「其処は信用して貰う他ないわ。信頼を積み重ねる猶予はないでしょ?私達の行為で信じて貰いたいものね」

 

 葵はそういうとズンと己の体重を俺に乗せた。重いと思ったがそれは心地の良い重さであった。彼女の豊かさが全身に感じ取れる実感……それは男にとって至福であった。

 

「貴方のためにこうして、売女みたいに媚びてるの。少しは私の努力を信じて頂戴?それとも、貴方の頭の中にある高慢な私は陰謀のために身体を使う程に賎しいのかしら?」

 

 手を回して来る。少しでも密着せんとして来る。己の身体を自覚させようとして来る。はぁ、と溜め息が響いた。艶かしい吐息は、葵が俺の身体に興奮してる証明だった。

 

「信じる努力、ね。……それをしなかったら?」

「私の機嫌が悪くなる。……貴方に都合の悪い事をして気を惹こうとするかも知れないわね?」

 

 愉快げに語る葵の言に、俺はしかし冗談では済まなかった。思わず睨み付けていて、直ぐにそれを取り止める。

 

「……」

「ふふふ。怖い顔」

 

 少しも身の危険を抱いてないだろう葵の微笑み。その態度が憎らしかった。ひっぱたいて押し倒して分からせたくなる振る舞いだった。もしかしたら自覚して振る舞っているのかも知れなかった。鬼月葵という女はその構成する全ての要素が男にとって魅惑的過ぎる。

 

「女が愛に狂うと馬鹿な事ばかりするものよ。その娘みたいにね?」

 

 葵が佳世を見て嘯く。俺は眉を顰めて追及する。

 

「お前も……いや、お前が煽ったんじゃないのか?」

「否定はしないわ。けど素質があったのも事実よ?幾ら私でも完全にその気がない女共に富や命を賭けさせるなんて無理だわ。それに彼女達との繋がりで、その故は理解出来たでしょう?」

「……」

 

 御百度の夢の中、狂乱と狂騒と狂宴の共演の饗宴。その中で見た女達の記憶は思いは、今でも覚えている。忘れられる訳がない。そして繋がり貪られ、屈服して支配された時の彼女達を満たした幸福もまた、覚えている。

 

 人は彼処まで己を捧げられるのか。彼処まで己を貢げるのか。彼処まで他者の支配を受け入れて、他者に恋い焦がれて、そして……愛せるのか。その事を散々思い知らされた。

 

「私と、貴方の組み敷く令嬢のそれはあの娘達よりもずっと深いわよ?だからこそこんな屋敷も拵えたのだもの」

 

 そうよね?葵が尋ねる。佳世を見下す。腕の内に華奢な身を詰めた少女は寂しげに頷く。それだけで、佳世の俺に向けた感情が痛い程に分かってしまう。二人の愛もまた、嘘偽りはなかった。

 

「実の所ね。私も凄く我慢してるの」

「我慢?」

「えぇ。私って貴方が思う以上にずっとずっと、凄く嫉妬深いし我儘なの。本当なら今の鬼月なんて根切りしてやりたいくらいなの。貴方と私の鬼月にアイツらは要らない」

 

 それは鬼月葵の偽りなき本音だった。

 

「それは……」

「それに、貴方が他の女と関わるのも気に入らないわ。会話してるのも、目を合わせているのも、胸が苦しくなるし不愉快だわ。貴方が私以外の事を思うと悲しいし悔しいし、腹が立つわ」

 

 それは嫉妬というには狭量過ぎるように思われた。同時に、鬼月葵らしいとも俺には思えた。その根本はきっと変わらないのだろう。

 

「本当なら何処かに監禁してしまいたいくらいなの。こうしてお互い何も着ずに、一日中、一年中、まぐわりたいくらいなの」

 

 鬼月葵は語る。お互い獣に成り果てて、互いの体液のみを移しあって命を繋ぎたいと。愛に繋がり続けて、命を孕み、孕んだままに獣のように尚も愛を貪り続けたいと。

 

「十人でも二十人でも、いいえ。私の肚が壊れてしまうまで延々に。新しい鬼月を貴方と。貴方の血統で疎ましい鬼月を乗っ取ってやりたい。その後も屋敷の奥で俗世と縁を切って、延々に貴方と欲望のままに。貴方に迫る女は皆殺し……狂ってるでしょう?」

「あぁ。全くな」

「……美女が卑猥な話をしてるのよ?もう少し興奮してくれてもいいのに」

「狂う程愛されているってのは……まぁ、男の誉れではあると思ってるよ」

「玉虫色の返事なんてしてくれちゃって」

 

 裸の肩を竦めて、自嘲して、葵は諦めたように此方を見る。

 

「貴方としてはそんな私は許せないでしょう?」

「折角助けた餓鬼が地獄堕ちするような所業すれば、な?」

「安心しなさい。貴方にとことん堕ちてるから我慢してあげる」

 

 ふふふふ、と妖艶に葵は笑い、そして甘える。俺の肩に顔を乗せて来る。

 

「貴方に良識ある事は分かってるわ。だから他者を無遠慮に害するなんてしない。約束してあげる」

 

 それは常識的で、しかし鬼月葵にとっては尋常ではない譲歩だった。俺相手だからこそ、俺がいるからこそ彼女は己の欲望を抑えているのだ……そう主張する。

 

「俺は外付けの歯止めってか?」

「そうかもね。だからちゃんと私の髪を握っておいて頂戴。三つ編みの方が引っ張り易い?」

「手綱の間違いだろ?」

「同じようなものでしょ?」

「ちゃうわい」

 

 何処か砕けた掛け合い。そして葵はやはりまたクスクスと笑う。そして続ける。

 

「だけど貴方も人間、解脱してる訳でもなし。欲望自体はちゃんとあるのでしょう?女に、美食に、金に権力。何も要らないなんてあり得ない。特に力は……そうでしょう?だから見定めるの。貴方の良識と貴方の欲望の、そして私の欲望の両立出来る一点をね?」

「それが、あれか?随分均衡が可笑しい気がするぞ?」

「貴方はもう彼女達を見捨てられない。そうでしょう?それに、気持ち良くなかったとは言わせないわよ?……ふふふ、中々凄かったわね?」

「むむむ……」

 

 それは俺の儀式の最中での恥態を知っている者の態度であった。全て夢幻と消え去っても己がどういう振る舞いをする男なのかは変わらない。それを否定するのは欲望の捌け口になった彼女らへの侮辱であった。

 

「これは私にとっては功徳なの。貴方に雌共を宛がうのは貴方に欲望を味わって欲しいのもあるし、同じくらいに救ってあげてるの。愛する男に抱かれて不幸な女はいないわ。それが力ある男相手なら、尚更よ」

 

 力ある男に救われて、力ある男に抱かれて、力ある男の庇護にある……それは苦界に沈む無力な者にとっては不幸ではない。少なくとも、己で這い出す気概すら失ってしまったただただ救いを求めるしかない者達にとっては。

 

「アイツらが、その一例だと?」

「第一陣ね。貴方が望めばこれからどんどん増やすわよ。幸か、不幸か、悲劇なんて世間ではありふれてるもの」

 

 佳世の集めた女達は無数に苦しむ者の極々一部に過ぎない。

 

「貴方が鬼月に価値を見出だしていなくても、金と権力の価値は理解してる筈。それで為せる事、救えるものは沢山あるわ。……どうせ貴方は復讐が終われば無気力になるような手合いじゃないでしょう?」

「まぁ、仇討ち物語と違って現実ではその後も人生が続くからな。……続いて欲しいな」

「『人』生が?」

「分かってて強調せんでくれない?」

 

 此方としては、割と悩んでるんだがな?

 

「正直な所、貴方が何に成り果てようと私も橘の御令嬢も、貴方と楽しんだ女共も構わないのだけどね。この屋敷に引きこもって居れば安心よ?やる事を終えたら、傷を舐めあって延々と過ごすのも一つの手だわ」

「化物相手にか?」

「信じられない?」

「……信じられてしまうのは嫌だな」

 

 蟲獣神姦なぞ、仏すら恐れぬ所業なのだが。人としての尊厳を溝にブチ込む以上の親不孝である。……あの過去の数々を思うに出来てしまうんだろうなぁ。

 

「ふふふ。安心して。貴方がそれを譲れないのは分かるから。協力はするわよ。だから自裁はしないで頂戴。この件だけじゃないわ。どんな事があっても。絶対に、約束して」

「破ったら?」

「まぁ、半分くらいは後追いするんじゃないかしら?」

 

 さらりとエゲツない事をいってくれる葵であった。しかも「させる」ではなく「する」である。

 

「流石に其処までは……あるんだろうな」

 

 夢幻と消えた感応の記憶と感覚故に、それが分かってしまう。この短期間の間に何度も実感させられる。この上ない説得力だった。

 

「……他に良い人でも見繕えばどうにかならないか?」

「それよりは子供でも作ってあげた方が良いでしょうね。……貴方の内の堕神、それで言いくるめたのでしょう?」

「……見てたのか?」

「推測しただけよ。……生まれ直したあの女共の身体も調べてね」

 

 儀式による贄の魂の徴収、そして降臨後の人としての理性の維持。それはぶっつけ本番で自分で出来る自信がなかった。だからこそ俺は因子に寄生する堕神の神格を丸め込む必要があった。

 

「奴の間抜け面は、まぁ傑作ではあったな」 

 

 豊穣と繁殖の神からすれば円環の振り出し戻しは許せぬ所業であろう。一か月を延々に繰り返すのだ。ならば繁殖のしようがない。それを指摘してやればぽけっと目を丸くして唖然として、遅れて頭にビックリマークを出してくれた。そして畳み掛けるのだ。俺が神格になろうと人であろうと繁殖は出来る。しかし贄達は失われたらもう繁殖の機会は永遠にないのだと。何と哀れな存在であろうかと。

 

 説得は効いた。儀式に介入して儀式の代価の支払いを差し止めた。俺の理性の維持に協力して、入れ物の製作にノリノリでアシストしてくれた。まるで土偶を造るノリだった。泥人形ならぬ肉人形である。

 

「因みに後追いしない残り半分は?平和に暮らしてくれるのか?」

「禁術で貴方を蘇らせるんじゃないかしら。今回みたいに」

「お前や佳世は?」

「それを聞く?」

 

 つまり、そういう事である。……今回と同じか、あるいはそれ以上か。

 

「死ぬつもりは……ないんだがな」

「保証は出来ない、そうよね?」

 

 死にたくて死ぬ奴はいない。そして俺の為さんとする事は決して平坦な道ではなかった。空手形なら乱発してもいいんだがな。

 

「餓鬼……餓鬼ねぇ。……一応確認するが、一体いれば皆で育ててくれるか?」

「一人一つじゃないと喧嘩するでしょうね。あと、勝手に娘扱いされてる連中は当然無しよ。ちゃんと母体の袋からの者にしてあげなさい」

「バレたか」

 

 望み薄であったが、やはり頓智は利かぬらしい。となると……。

 

「あの人数に?家畜の種付けじゃねぇんだぞ?……そもそも養育費どうするんだってばよ?」 

「あ、あの……それでしたら私が費用払いますので、安心して子作りして頂ければ、と」

 

 実現した末の光景を想像して俺がゲンナリとすれば、先程からずっと組み敷かれていた佳世がここで会話を補足して来る。いや、ちょっと待てよ。

 

「あっ、ちゃんと就職先の斡旋もしますので心配しないで下さい!」

「いや、そんな話じゃなくてね?」

 

 他人の餓鬼の養育費と就職先用意するこの令嬢の目的は……?

 

「貴方の子なんだから当然でしょう?そもそもあの女共の所有権はその御令嬢のものだものね」

「だからってな……」

 

 それは流石に畜生過ぎないか?

 

「じゃあ彼女にも作ってあげたら?」

「佳世と婚姻しろと?お前はいいのかよ、嫉妬深い姫様?」

「私生児に決まってるでしょ?」

「その、御迷惑でしょうから……認知しなくても大丈夫ですので……お金もいらないので……」

「畜生を超えた畜生!?」

 

 最早エロゲーじゃねぇよ。鬼畜ゲーのムーヴだよ。挿絵差し替えたら畜産ゲーだよ。無責任過ぎるわっ!佳世、お前ちょっと自尊心失い過ぎだろ!?

 

「俺を余り情けない男にするのは止めてくれ……というか餓鬼の話は取り敢えず脇に置こうか?」

 

 余り青少年には刺激の強いお話は一旦後回しにするのが規約上安牌な訳で……。

 

「そうそう、あの女達調べた結果なのだけれど。全員貴方に最適化されてたわ。多分貴方の種以外だと孕めないわよ?」

「それマ?」

「因みに猶予期間中に産ませないと違約金として魂を徴収されるようね」

「邪神を超えた邪神の所業!」

 

 あの糞神いぃぃぃっ!!上手く契約変更するってほざいてぇ!俺を騙したのかぁ!!?*1

 

「えっ、嘘?マジ?えっ、えっ……?」

 

 何か……相当不味い状況になってない?

 

「安心しなさい。貴方ならデキるわ」

「はい!ヤレばデキます!」

「慰めてる?それ、本当に慰めてる?」

 

 本当の本当に頭を抱えそうになる。色々問題があるのに、其処に問題をN度打ちされた気分……いや実際思考停止になりそうなくらい問題が積み重なっている。一度、文字に起こして整理せねばなるまい。

 

「ふふふ、前途多難かしら?」

「他人事だからって笑ってくれよって……」

「怒らないで。馬鹿にしている訳ではなくてよ?何でもかんでも自分で背負う様に呆れてるだけよ?」

「伴部さんの事を他人事だなんて思いません。……他人とは思ってませんから」

 

 俺が口を尖らせて愚痴れば葵が、佳世が其々に反論して見せる。

 

「他人じゃないね。家族ってか?」

「より正確には良い人ね」

「その良い人がこのままだと下半身がだらしない事になりそうなんだが?」

「良いじゃないの。家族が恋しいのでしょう?沢山家族作っちゃいなさい?」

「さっきの執着的な独白した女らしくない物言いだな」

「言ったでしょう?お互いに、妥協点が大事って」

 

 後ろから全身全霊で身を乗せて、絞めるように桃色の娘が抱き愛してくる。愛嬌以て頬擦りまでしてくれる。

 

「貴方の種なら我慢してあげるわ。母親代表として立派に育ててあげるんだから。貴方にとっても悪い話じゃないと思うけど?」

「何かもう……色々参るね」

 

 其処までの覚悟。其処までの倒錯……とは言えないのだろうか?正室が側室の子まで面倒を見るのはあり得ぬ事態ではない。何方かと言えばあの葵がそれを言う方が仰天だ。

 

「私にとっては貴方だけが家族よ。私の良人。私が一方的にそう思ってるだけだから気にしないで。利用するだけでいいわ」

 

 だけど、と……葵は続ける。

 

「貴方が家族を増やすという事は、私にとっても家族が増えるという意味なのは覚えておいて頂戴?貴方が手元に置いた女は私にとっても同じ家族。貴方が生ませた子供も家族。息子で娘よ。貴方のいる場所……そうよ。誇張なく、私にとって家族の主軸は貴方。貴方こそが私にとっては家なのよ・・・・・・・・・・・・・・・?」

『あは!』

 欠片の躊躇なく葵は極めに極めて捻じれに捩じれて、そして純粋な愛と情を吐露して見せる。底知れぬ彼女の覚悟の宣言だった。

『あははははっ!』

「葵……「えい♪」っ!?」

『やったぜ』

 唖然か、圧倒されていたのか、慄然していたのか、感嘆していたのか、自分でも分からなかった。唯その間隙が葵に狙われた。

『言質もーらったぁ♪』

 葵の顔が目の前にあった。口内に甘くて僅かな苦みが広がった。絡められる舌を受け入れるしかなかった。水音。口吸い。吸水。そして硬い塊を押し込まれた。これは……飴?薬飴?飴の口移し?

『これであなたもおうち♪』

「そしてこう♪」

「うおっ!?」

『わたしのおうち♪』

 困惑している間に天地が入れ替わる。上が下に。下が上に。上にいた者が下の者を引き上げて、己は地に平伏した。

『これでいっしょだねぇ?』

「やっぱりこれね。この位置関係こそが正しい」

『ずっとずっと』

 己が下になった体勢を、組み敷かれて、見上げる体勢を一瞥して、葵は満足そうに宣った。佳世を抱くように横たわり、肉付き良く血行も良い豊満な全身を惜し気もなく葵は俺に鑑賞させる。否、己だけではない。

『ずーっといっしょ♪』

「んっ……」

「ふふ、ほら此方も見て上げなさい?」

『もう逃がさないよ?』

 佳世の身体を巧みな手管によって弄ぶ葵。南蛮娘の剥き出しの身を、その痴態を俺に見せつけて来る。そして俺にそうしたように口移す……。

『逃げられないよ?』

「何を……ん!?」

『あはぁ♪』

 一体何を狙っているのか困惑して、遅れてやって来る悦楽。そして脳裏に過る光景。これは……これは、まさか?

『何時だってわたしはいるよ?』

「葵、この飴は……!?」

「ふふふ。正解」

『あなたに憑いてるよ?』

 俺の追及を最後まで聞かずに葵は認める。最後まで語る必要はなかった。お互いに、三者共に言葉は不要だった。全ては繋がっていたからだ。

『◼️◼️?』

 血肉を通じての感覚の、快楽の、意思の、記憶の共有……そう。夢幻における酒池肉林のあの再現だった。

『ひひひひ♪』

「やって、くれたなお前……!」

「貴方こそ……んっ、良くこんなの、我慢出来るわねぇ?」

「と、ともべ……さぁん……」

『何をやろうと無駄だよ?』

 葵と佳世の情欲に当たられるように下腹部に感じる感覚に罵詈を浴びせれば、それは此方の台詞とばかりの葵の買い言葉。頬を真っ赤にして、息は荒々しく、身を捩じる。傍らの佳世はもっと酷い。

『こいつはわたしのだよ?』

 二人の女が目の前にいる。その心の内は手に取るように分かる。彼女らは全てを受け入れる覚悟が出来ていた。全てを差し出している。待ち焦がれている。

『わたしの方が知ってるんだからね?』

「言っておくけど……貴方の方は少し薄目だからぁ、当てられてるのは何方かというと、私達、よぉ?」

『あはっ♪』

 きゅうん、と鳴くように息を吐いて、葵は言葉を紡ぐ。佳世に至ってはもう悶えるばかりだった。耐えられないとばかりにイヤイヤと頭を激しく振るい揺らす。己を慰める。その瞳は尋常ではない程に酔っていた。

『あはは!』

「んな事っ……盛った方が言う事かよぉ!!?」

『今だけは喜んでいいよ?』

 ドン、と二人に被さるように上乗っての罵倒。葵はと言えば不敵な笑みを必死に拵えて煽動で以て答えた。佳世の蕾をつねり、己の果実を揉みしだき、脚をいっそ下品に広げて魅せる。懇切丁寧に手入れした園に思わず視線が固定されてしまう。羞恥しつつも興奮する彼女の想いが伝わって、それが俺の欲望を増幅させて、それが彼女を一層奮わせる。永久機関だ。

『我慢は慣れっこだよ?』

「……!!生意気なっ、お前よ……!ブッ壊されたいのかよ……!!?」

『だけど……』

 実際に可能かともかは兎も角、今ならそれが出来そうに思えてしまう。二人纏めて、壊れるまで、壊れた後も……今なら薄い本染みたファンタジーも出来そうに思えた。

『最後はわたしが勝っちゃうんだぁ♪』

「ふ、ふふ……纏めて駄目になったらぁ、御好きな襖開いて頂戴?」

『あなたの魂を連れていく』

 情けなく蕩けた美貌での息絶え絶えの応答。その意味を理解する。鬼月葵は準備万端だ。

『奥底の魂も連れていってあげる』

 匂う。臭う。四方八方から、この部屋を囲むように。壁一枚向こうで待ち構える無数の気配。思わず期待に息を呑む。

『お肉はあげる』

「ちゃーんと……出来上がってるからぁ。ここに来る前に、確認したからぁ……うふふ。うれしいわねぇ。そんなきたいしてくれるなんてぇ?」

「……!!」

『わたしにはいらないもんね!』

 此方の思考を受けての生意気な物言いに、頭に血が昇る。思わずその肩に掴みかかる。餅のように柔らかかった。彼女の体が揺れて、果実が揺れる。揺れる様を見せつけて来る。それが俺の情を昂らせて、それを受け取った葵は愉悦する。揉みしだいていた片方を搾り出す。

『肉はろーごく』

「ねぇ、せっかくだから……くらべてみない?わたしのだけはまだ、でしょう?だれのがいちばんか……ぎんみしましょう?」

「う"っ"、う"っ"、う"っ"、う"っ"……!!?」

『魂のゆりかご!』

 もう葵も呂律が回らなかった。浮かれ過ぎて、馬鹿みたいに搾るだけだった。佳世の方はもう先程から水音と嗚咽しかしない。

『ぬけがらにすぎない!』

「ばか、おんな……!」

「おほめにあずかりぃ、こうえいよぉ……?」

『分かりあったつもり?』

 罵倒にはもう御約束の返礼の言葉。馬鹿だ。本当に馬鹿女だった。淫売よりも尚淫乱だった。

『繋がってるつもりぃ?』

「どうするかぁ、あなたにえらばせて……アゲル。うふ、ふふ……けど、ねぇ?どうせなのよ?このきに……おたがいもっともっとわかひあおうって、おもわない?」

『残念だねぇ?』

 深く深く、何処までも深く。掘り下げて、分かり会える機会だと、馬鹿女は嘯いて魅せる。酷い言い訳であった。

『それじゃあ肉を通しての繋がりでしかないよぉ?』

 ……魅力的過ぎる、建前だ。

『まぁけ狗♪』

「くっ……!!?」

『ざぁーこざぁーこ♪』

 彼女に迫る。片腕は佳世に伸びていて、何処かを揉みしだいていた。片腕は葵の臀部に伸びていて、爪を立てて懲罰染みて掴みあげていた。そして身は……あぁ、糞!糞!そんな期待するな!愛情を向けて来るな!卑怯だぞ!!?

『……』

 あぁ!あぁ!!馬鹿女!大馬鹿野郎!そんな淫乱な、物好きな、可愛らしい……畜生!糞!健気にしやがって、お前は……お前は!全く思い切りが良すぎて、育ちやがって……自分を大切に、けど!?あぁ、なんて都合が良い、出来た牝、分からせて、あ、纏めて、柔、あ、ああぁぁぁぁぁ!……糞、糞糞糞甘、あまぁ……!!……あぁ!!あぁ!!……ッ!うぉ、………!!!!

『なに視てんのよ?』

 

『呪ってやる』

 

『覚悟しとけよ』

 

*1
母、何か失敗しちゃいました?




 次回、章末です。実は前話及び本話前半は以前に紅とんぼさんが執筆して下さった二次創作(R-18注意)オマージュな側面があったりします。宜しければご覧下さいませ。
https://syosetu.org/novel/253284/1.html
『わたしは後ろにいるよ』
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