和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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新章です。態態作中に記述はしていませんが当然ながらこれ迄同様、目と鼻の先で凝視されています。
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第七章 必ずしも選択肢に干渉出来るとは限らないよねって件
第八五話


 地下の座敷牢の中に、それは無惨に打ち捨てられていた。

 

 簀巻きにされて折檻されて、しかもそれだけでは飽きたらず、嫉妬と怒りに狂った雑人共にも何度も罵声を浴びせられながら足蹴にされて殴打されて頭から冷水をぶちまけられる。過酷な懲罰と私刑を受けた幼い少年は既に意識朦朧で瀕死であった。

 

 最早己が生きているのか死んでいるのかも分からない。手足の感覚も曖昧で、鈍い痛みだけはどうにか感じ取れた。

 

 かつんかつん、と階段を下る足音を聞き取る。それは遠くからのようで、直ぐ近くからのようで、しかし彼の思考は混濁していてそれをはっきりと認識出来ない。

 

 鉄格子の向こう側から近づく灯りに気付く。ぼんやりと彼は視線を向ける。人影が二つ、鉄格子の前で止まる。

 

「允職、こいつだよ」

「随分と無惨な有り様だな。まるで襤褸雑巾ではないか。大丈夫なのか?不具になっていては使えないぞ?」

「それならそれで構わないってお達しでさ。何せやった事がやった事ですぜ。寧ろ助かる機会があるだけ恩情ってものですよ」

 

 獄卒が冷笑しながら宣う。実際、それはある意味で恩情ではあった。本来ならばその罪は命を以て償っていても可笑しくないのだ。

 

 同時にそれは事実上の死刑宣告でもある。下人衆の平均生存年数を思えばこの少年が天寿を全う出来る可能性は皆無、それどころか初任務でおぞましい恐怖と激痛の中で食い殺される事だって十分に有り得る事だった。

 

 故の冷笑、そして傍らの存在はそんな獄卒の反応に無言で応じる。連れない態度に獄卒は肩を竦ませて、南京錠に手をかける。懐から取り出した鍵でカチャリと錠を外す。

 

 人影が牢の中に足を踏み入れた。踏み入れて、少年を見下ろす。当の少年はそんな影を見上げて、互いに視線を重ねる。影が、口を開く。

 

「命を受けた。今後は私がお前の身元引受人という事らしい」

「え?あっ………」

 

 かけられた言葉の意味を理解する前に、少年は抱き抱えられた。ガッシリとした、それでいて柔らかい腕だった。少年の顔を黒い長髪が撫でて仄かに甘い香りが鼻孔を擽った。

 

 その感覚に少年は本能的に安堵と、そして僅かな気恥ずかしさを胸の内に抱いていた。同時に少年の意識の奥底の理性が冷笑する。この状況で呑気なものだと己を嘲る。しかし………それでも確かに、どうしようもなく、少年は安心してしまっていたのだ。己を救い出してくれたその存在に。地獄に垂らされる蜘蛛の糸のように思えて。

 

「先ずは手当てするぞ。此方は万年人手不足でな。……精々長持ちしてくれよ?」

 

 掛けられる声は随分と勝ち気な口調で、不敵な声音だった。そんな声に反応するようにして少年はぼんやりと、無意識に己を抱き抱えるその人物を見上げる。そして………。

 

『ふふふ、恐れなくて良いのですよ。例え己を構成する全てを失っても、貴方には私がおりますからね、可愛い坊や?』

 

 目と鼻の先で、緑髪の堕神が邪悪な善意を湛えた微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

「ひぃ………!?」

 

 全身汗だくになって覚醒した俺は無意識的にそんな悲鳴を漏らしていた。息を荒げる。心臓が激しく鳴っていて、倦怠感が全身を包み込んでいた。得体の知れぬ恐怖感に身を震わせる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。今、何が……夢?」

 

 あっという間に忘却の彼方に消えていく直前の光景、しかしそれは確かに大切な何かで、それが散々に汚辱されたような訳の分からぬ不快感に思わず吐き気が込み上げる。

 

「畜生、最近はこんなのばかりだ。碌に寝れもしねぇ………」

 

 口元を覆いながら、俺は吐き捨てる。ストレスなのか緊張なのか、近頃は中々熟睡が出来ず、その苛立ちを吐露する。神経が逆撫でされる。

 

 尤も、そんな愚痴も苛立ちも長くは続かない。何故なら、直後に俺の脳裏からは意識を失う前の記憶が一気に溢れ出て来たからで………。

 

「そうだ、入鹿達は……っ!?う、ぐっ!!?」

 

 上半身を勢い良く起き上がらせて、同時に身体全身に感じる痛みに俺は呻きながら倒れこむ。妖化の反動による筋肉痛もあるのだろうが、それだけではなくて筋肉そのものが固まっているようであった。

 

「痛てぇ……!!?糞、一体何れだけ意識を………ここは、何処だ?」

 

 顔をしかめてぼやいて、しかし周囲の光景に漸く意識が向いた俺は困惑した。

 

 俺は畳の上に敷かれた褥に横になっていたようだった。視線を動かす。先ずは襖障子が目に入り、屏風、油の差してない灯台に唐櫛笥や鏡箱、鏡台に二階棚といった調度品、そして空の御帳台………。

 

「姫、様……?いや、これは………」

 

 一瞬、ゴリラ様の部屋にいるのかと思って、しかし御帳台や屏風の絵柄が違う事に気付く。良く見れば調度品の装飾も地味だった。だから俺は此処がゴリラ様の部屋であるという推測を捨て去る。しかし………。

 

「えっ………?」

 

 そしてそのまま視線を更に移すと俺はその影に気が付いた。簡易的に室内を布で仕切る几帳、その向こう側に映る人影を。

 

 細い人影だった。肉付きは良くはなく、しかし髪は長く、女性だと分かるたおやかな人影。恐らくは着替えの最中であったそれは、俺の崩れた音に反応して動きを止める。一瞬の沈黙、そして次の瞬間にそれは几帳の陰から姿を覗かせた。艶やかな黒髪に紅玉のような瞳の女。

 

「雛、様……?」

 

 鬼月家本家一の姫、鬼月雛は几帳の陰から頭を覗かせるとじっと俺を見つめる。そして、口を開く。

 

「目が覚めたか、丁度都合が良い。七日間も寝たきりだったからな。流石にどう起こすべきかと悩んでいた所だったんだ」

 

 淡々と、平然と、当然のように雛は嘯いた。俺はその態度に呆気にとられて、しかし直ぐに湧き上がる多種多様な疑問に声を上げようとして……慌てて頭を下げた。

 

 それは当然の事であっただろう。単純に非礼という事もあるがそれ以上に彼女が、雛が几帳の影から身を乗り上げて此方に向かって来たのだから。それも、上半身をさらしを巻いただけの出で立ちで、である。

 

「礼は良い。面を上げろ」

「いえ、しかし………」

「目を見て話せ」

 

 俺の眼前で立ち止まった雛が俺の顎をくいっ、と無遠慮に掴んで持ち上げる。持ち上げて無理矢理視線を合わさせる。

 

「っ………!」

 

 至近に映る鬼月の一の姫君、その端正で凛々しい風貌は美青年にも思えて、しかし露出される肌の白さに巻きの甘いさらしの下から分かるうっすらとした膨らみに確かに目の前の人物が女性なのだと意識させられる。小さな谷間に思わず視線が向いて、直ぐに反らす。

 

「雛様、余りそのような出で立ちで現れるのはどうかと………」

「ん?」

 

 俺が恐る恐ると申し出ると、雛は一瞬目を丸くして、己の姿を一瞥すると次に小さく苦笑する。そして俺に向けて宣う。

 

「お前が言えた義理ではなかろう?今の自分の姿に気がつかないのか?」

「はい?」

 

 雛のその言葉に俺は僅かに思考停止して、直後に視線を己の身体に向ける。そして気付く。俺が文字通りの意味で真っ裸の全裸である事に。

 

 下着すらも着込んでいない事に。

 

「こ、これは失礼をっ………!!?」

 

 俺は咄嗟に自身が潜っていた布団を引っ張り下半身をひた隠す。ひた隠した後に気付く。その布団が己の私有物ではない事実に。俺は動揺して、恐縮する。

 

「ふっ、そう慌てる事はあるまい。………昔は良く風呂に入った仲だろうに」

「えっ……?」

 

 口元を緩めて紡がれた雛の言葉に俺は呆気に取られる。雛はといえばそんな俺の反応を気にする事なく言葉を続ける。

 

「衣服は其処にある。後で着替えると良い」

 

 呆気に取られたままに雛が視線を向けた先を追えば、部屋の一角に折り畳まれた黒装束。その上には般若面が置かれていた。

 

「は、はぁ………し、しかしながら、これは一体どういう事で………?」

 

 俺は応答すると共に困惑する。疑問が余りに多過ぎたのだ。何故俺がここにいるのか、何故雛がここにいるのか、何故俺が全裸なのか………それらはほんの一部に過ぎない。俺は完全に今の状況に混乱していた。

 

「話すと長くなる。しかし今はそんな事を説明している時間もない。身支度をしたら付いて来て欲しい」

「……っ!?し、承知致しました。して、どちらに御同行すれば良いのでしょうか?」

 

 険しい表情を浮かべて俺に要請する雛。その様子からただ事ではないと理解した俺は緊張しつつも小さく頷いて応える。

 

「屋敷の本殿だ。お目覚めになられた父上………御当主様に向けて、先日の一件の弁明をせねばならなくてな」

 

 直後、当然のように語られた雛の言葉に俺は衝撃と共に息を呑んでいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 ゲーム『闇夜の蛍』における主人公が預けられる退魔の一族、鬼月家。北土の化物退治の名門の、その当主であろうと人理を超越した魑魅魍魎蔓延るこの世界においては決して無敵の存在ではない。

 

 若作りババアこと、鬼月胡蝶の夫にその跡を継いだ胡蝶の次男もまた退魔の職務の果てに天寿を全うする事なく命を落とした。

 

 仕事の最中にその命潰える、退魔の家柄においては何らの珍しい事ではなく、しかしやはり名門が短期間に当主を立て続けに二人も喪った事は一族に大きな波紋と衝撃を与えたのもまた事実であった。

 

 鬼月幽牲為時………若作りババアの三男であるその男が鬼月家当主の座を継いだのは彼是十七年以上前の話である。

 

 元々霊力こそ豊富であったがその異能が戦闘向けという訳ではなかった事、本人が繊細かつ神経質で荒事を不得手とした性格をしていた事、しかも幼少期の躾をしても尚その矯正が芳しくなかったような退魔の家系の生まれでありながらその職務を然程果たせない人物であり、実の父からも一族から受け継いだ霊力量からして種馬位にしか期待されてはいなかった。

 

 尤もそれは本人にとっては願ったり叶ったりであり、月に数回の中妖大妖の討伐を果たすと後は趣味や真似事染みた農作業と悠々自適な生活を営み、それはとある農村で見惚れた村娘と密かに添い遂げて娘を拵えた後も大して変わりはしなかった。

 

 父の死に際して、その葬儀には出なかった。単純に父との仲が良い訳ではなかった事もあるし、跡取りとして法事を取り仕切る兄からすればこの一族の面汚しのような弟を世間に晒す事は厭っていたようだった。更に言えば血統としては己の次に当主としての権利を有していた事も一因だと思われる。

 

 このまま兄が恙無く跡取りとして収まっていれば、幽牲も気楽な生活を続けられたであろう。しかし、世の中というものは必ずしも己に都合良くは回らないものだ。

 

 名門の当主としての功を焦ってか、複数の一族を引き連れての凶妖退治に出向いた兄が逆襲を受けて死に絶えて、鬼月家は幽牲を拉致同然に一族に連れ戻した。立て続けの当主の死去を前にして、当時の鬼月家が相当混乱していた証明であろう。

 

 本人が嫌がるのを膝詰めにして、一族総出で説得して当主の座に押し込んだ。前当主の兄には才能に優れた子供がいたが、敢えて無視した。

 

 才能と実力ある当主が二人続けて失われたのだ。まして直前に死んだ幽牲の兄は功を焦った事での失敗であり、元々高圧的で猜疑心の強い性格から自派閥以外を冷遇していたのが仇となった。前当主が己の配下と共に討たれた事で、残る一族は幽牲を神輿として前任の色を消し去った。

 

 表面上は絶大な権力を持つ鬼月の当主として君臨して、しかし幽牲は当主としての職務に興味も関心もなく、周囲の言われるがままに判子を押すだけの立場に甘んじた。本人にとって息苦しい事を除けば傀儡である事は何の問題でもなかったのだ。

 

 そう、幽牲の周囲の人間は彼を侮った。そして侮り過ぎた。結果として彼らは幽牲の逆鱗に触れた。

 

 賎しき身分であり唯人に過ぎない彼の妻を追い詰めて病ませて死に絶えさせて、その後釜に名家たる赤穂の家の娘を無理矢理に正妻に迎えさせた。そして雛が妖に襲われる事態を見過ごして……それは幽牲の唯一の地雷であったのだ。

 

 直後から、彼は独裁的に鬼月家を支配した。人畜無害の腰抜けの腑抜けと侮られていた男は一族内で大規模な、そして容赦のない粛清を実行し、僅かの期間の内にその地位を磐石とした。そして彼は暴走していく。

 

 原作シナリオにおいては唯でさえ傲慢なゴリラ様の性格を歪めきった張本人であり、雛が独身のままに男っ気がない行き遅れ気味になる元凶、鬼月家内部の空気が悪い理由の半分くらいの原因、ましてや主人公様に幾度となく謀略を仕掛けてバッドエンドさせたり、それを潜り抜けても綾香を筆頭として盛大に周辺被害を拡大させてくれるプレイヤー達のヘイトを稼ぎまくった存在………鬼月家のヤンデレサイコファザー、それが鬼月幽牲だ。

 

 そして、俺の眼前にいたのは、正しくその件の男であった。

 

「面を上げるが良い」

「はっ」

 

 少し嗄れ気味な男の声音に、雛とその傍らに控える俺もまた同じように頭を上げて、そして身を強張らせる。今更ながら原作の設定を振り返って吐き気が込み上げる。

 

 場所は鬼月家本家の屋敷本殿の詮議に用いられる大広間。以前にも雛と共に妖狼の討伐に際して報告に参上した部屋である。あの時と同じく広々とした部屋の左右には鬼月一族の主だった人物が並ぶ。中には遠隔地からテレワークしてるのか、式神で参列してる連中もいるがそれは以前も同じ事なので問題ない。

 

 唯一、あの時と大きく違うのは上座であった。

 

 件の男。鬼月家当主、鬼月幽牲為時………スチール画やアートブックに描かれたその人物に比べて大分窶れた、しかし間違いなく同一人物だと確信出来る男が当主の座敷に鎮座して此方を見下ろす。その事実に、俺は緊張に唾を呑み身体を震わせる。

 

 不味かった。非常に不味かった。下手すれば凶妖と相対するよりも危険だった。

 

 この男の存在は、俺にとっては正に障害そのものだった。ぶっちゃけ雑人時代だって因縁つけられないように必死であったし、下人落ちしてからはハッピーエンドのためにはどうにかしてでも排除せねばならない目の上のたん瘤のようなものだった。

 

 二次創作内において転生オリ主達にあの手この手で退場させられるのもさもありなん。単純にヘイト稼ぎ過ぎな上に無駄に悪知恵が回るのだ。要らん事をする前にチートで始末したくもなろう。こいつがいないだけでゲームの難易度がワンランク下がる。

 

(糞、原作の修正力とでも言うんじゃねぇだろうな……!!?折角何年も寝てたんだからこのタイミングで起きて来るんじゃねぇぞ!?)

 

 原作と違いこの世界において幽牲は廃人となって寝たきりになっていた。それも何年も、ゴリラ様を陥れる一件以来である。

 

 理由は不明だ。原作と違って処女喪失もなく政治的にも失墜していないゴリラ様が憎みの余りに呪いでも掛けたのかも知れない。もしくはそれ以外の理由か………俺があの一件から助かり意識を取り戻した時には既にそうなっていて、隙あらば怪しまれぬ程度に探ってはいたが未だにその原因は分からない。何はともあれ、厄介者が消えて清々したのは事実だったのだがな………!!

 

(そうだ、ゴリラ様は………!?)

 

 慌てて参列者の中からそれを探し出す。彼女の立場を思えば打算に基づいた擁護くらいはしてくれると期待して。

 

「っ……!?」

 

 しかし俺の期待は無惨にも打ち砕かれる。確かに参列者達の一角に彼女はいた。しかし………其処にいた桃色の姫は普段俺が知るような高慢で傲慢な勝ち気な姫君ではなかった。

 

 明らかに萎縮して、何処か窶れた弱々しさすら感じさせる葵の姿。それを誤魔化すように扇子を広げているが到底隠し切れるものではなかった。周囲の者達も何事かと横目に奇異の目付きで葵を見る者すらいた。

 

(冗談だろ!?もう何かされたのか!!?)

 

 あのヤンデレメンヘラ男の事である。己がずっと寝たきりだったのを利用してゴリラ様に奇襲的に薬なり幻術なりを使っていても可笑しくない。いや、十にもなっていない実の娘を妖輪姦祭に貶めるような原作を思えば何もしていないと思う方が不自然だ。つまり………。

 

(外堀は埋められたって事かよ……!?)

 

 俺は本格的に焦る。この場で気紛れでも擁護してくれる者が文字通りの意味で消え去った事を。己が俎の上の魚である事を。煮るも焼くのも自由という最悪の状況に陥っている事に。………そして、次の手を考え付く時間は最早なかった。

 

「………さて、参列者も揃ったようだな。そろそろ本日の詮議を始めるとしよう」

 

 幽牲が厳かに口を開く。決して大きくない声は嫌なくらい部屋に響いた。参列者達は無言で応じる。

 

「雛、参上ご苦労。手間をかけるな。………下人衆允も、良く目覚めてくれた。身体の具合は良いかな?」

「はっ」

「………労りの言葉、忝なく存じ上げます」

 

 先ずは雛を労い、次いで俺の身体を労る当主。短く雛が応じ、俺もまたそれに慇懃に答えるが、仮面の下で盛大に顔をしかめる。

 

(お前が雛以外を心配するタマかよ………!)

 

 この男がそんな言葉を口にする時なんざ明日の天気は晴れ時々槍衾であろうか?体面?いや、原作での容赦も外聞も、後先すら考えていたのか怪しい行動からしてそれは考えにくい。では、何のために…………?

 

「うむ。………皆の者も察していよう。此度の議題の初め、それは先日の一件についてだ」

 

 俺の内心の焦りを知ってか知らずか淡々と、それでいて大仰に当主はそう発言する。

 

 それはこの状況からしてほぼ間違いなく蛍夜郷における騒動の事であった。誰も声を上げないという事は既に内容は周知されているようだった。

 

(吊し上げか………)

 

 既にあの時に全てが終わったらどうなるのか覚悟はしていた。そしてこの集いの意味合いもまた……寧ろこのような茶番染みた裁判でも掛けられるだけ有情なのだろう。俺は努めて平静を装う。そして幽牲の言葉の続きを待った。

 

「事実の確認と処置について納得をしてもらうためにもこの席を設けさせてもらった。皆には足労をかける事謝罪する。………時間もあるまい。審問を始めようか。隠行衆頭、説明を」

『ははっ!』

 

 議場の一席を占めていた巨大な雉が腹を乗り出して一礼と共に俺に視線を向けた。東討隊を率いる鬼月宇右衛門の声だった。雉は一度尊大に此方を見下すと、次いで周囲を見渡しながら歌うようにしてその口上を述べていく。

 

 俺が蝦夷を逃がした事、逃がした蝦夷と共に蛍夜郷に向かった事、雛と通じて呼び寄せた事………他にも幾つも申告される先日の騒動の説明、それらはあるもの事実であるものは誤認で、あるものに至っては俺自身も知らぬ内容であった。

 

『………げほん、以上が先日の蛍夜郷における騒動の詳細になります』

 

 長々と説明して、最後に態とらしく咳払いして宇右衛門は発言を終える。同時にざわつく室内。傍らの者達同士で耳打ちをし合い、あるいは無関心を装い、幾人からは怪訝な、あるいは敵対的な視線が突き刺さる。幽牲がそれを手で制して、ゆっくりと口を開く。

 

「雛よ。此度の騒動、説明はしてくれるのだろうな?」

「無論です。此度の一件、全て私の指示によるものなのですから」

 

 落ち着いた幽牲の質問に対して即座に返された淡々とした雛の言葉に再度議場がざわめく。俺もまた無言で、しかし内心で驚愕する。今、彼女は何と言った?

 

「そも、この一件の始まりは私の浅はかな軽挙にあります」

 

 雛は淡々と報告するように語る。此度の四方における討伐に関して、下人衆允に対して言付けをしていた旨を。己の功名心のために獲物の横取りを企んでいた事を。

 

「其処に蛍夜郷での捕縛の誤認が舞い込んだのです」

 

 手配されていた蝦夷の賊と蛍夜の奴婢を誤り捕らえ、しかして何処か合点のいかぬ商会の令嬢が捕らえた奴婢を再度確認して見ればそれは赤の他人で、しかも間が悪くその蝦夷は重要な情報を有していた。

 

『しかしだな、雛姫殿。その蝦夷の話が事実であれば先ずは隠行衆頭殿に申し出るのが先決ではないかな?それに隠行衆共を襲うような荒事は必要はないだろう?』

 

 出席者の一人が……正確には代理である鶸の簡易式が雛の説明に対して横槍を入れるように問い掛けた。

 

(この声は……矢島か)

 

 鬼月矢島、鬼月綾香の父親である鬼月家分家、衣笠鬼月家の当主の一人である。原作であるゲームでは登場しないがノベル版と漫画版にて娘を失った後に消沈するその存在が描かれた。因みにノベル版では屋敷に侵入した妖共に立ち向かい物量で呑み込まれ、漫画版では霊力異能を奪われた上で他数名と共にダース・タマキに斬り捨てられる事になる。確か西討隊の長に任じられていた筈で、それが簡易式で以て参加している理由であろう。

 

「矢島殿の疑問は尤も、それもまた私の指示によるものです」

『その理由は?』

「隠行衆の無力化については、隠行衆頭殿の認可を得られぬ事を危惧したのが一因です」

『何だと?』

 

 雛の言葉に雉はあからさまに不機嫌になる。しかし雛はそんな叔父の視線をそよ風のように受け流して発言を続ける。

 

「捕縛した蝦夷から瞳術や言霊術を仕掛けられる危険もありますので商会の令嬢相手に目隠し猿轡を外しての面会を許すとは思えなかった事、そして既に邦守に下手人捕縛の報を伝令してしまっていた事………以上の要因から隠行衆頭が提案を受け入れる可能性が低いと判断致しました」

 

 つまりは、功績を取り消しにする処か騒ぎだけを起こしたと思われるのを厭い、そのまま知らぬ存ぜぬで処罰する恐れを危惧したのだと、雛は言外に宣う。それに対して宇右衛門の式は不機嫌この上ない表情を見せるが、それもまた雛には何らの問題もないように思えた。

 

「更に言えば当時の状況が今この場のように説明を許す悠長な時間がなかった事が挙げられます。………其れは蝦夷の疑惑が晴れて、郷に迫る怪異共の存在を伝えられた直後の事でした。隠行衆頭も存じているでしょう、宿場街を襲った妖の事は」

『むっ……!』

 

 雛の言葉に宇右衛門は式越しからでも分かる程に憮然とする。あの碧鬼の事を思えば宇右衛門らが打ち倒せずに逃がした事は想像に難しくない。

 

「十人を越える退魔士でも倒しきれぬ怪物の襲撃です。そんな最中に無用な事を伝えて隠行衆頭の気を逸らす訳には行きませぬ。それに所詮は蝦夷の戯れ言、事実が分からぬのならば無視される可能性もありましたし、実際事実かも分からぬ事でした。真偽の分からぬ以上は隠行衆頭の手を煩わせない方が良いと私が独断したのです」

 

 件の蝦夷と共に実際に事態を把握してその話の真偽を見極める事、そしてそれが事実であれば改めて雛に向けて報告を行う事………それを指示したのだと雛は淡々と口にする。まるで事実をそのまま伝えているかのように堂々と。当然ながらそんな話、俺は初めて聞いたものである。

 

「して、その蝦夷の言が事実であったと?」

「はい。ですので下人めにはその足止めを命じ、直後に私も馳せ参じた次第です」

 

 幽牲の問いに雛は恭しく答える。場に流れる沈黙………皆が当主に視線を向けて次の言葉を待つ。そして十を数える程の時間を経た後に、幽牲は口を開く。

 

「御意見番殿はこの話を存じていたのでしたな?」

「えぇ。雛が郷に向かう直前に報せを受けましたの。ですので後処理のために式を送りましたわ。そうよね、宇右衛門?」

『ぬぬっ………如何にも、その通りで御座います』

 

 当主の問い掛けに部屋の端にて煙管を吸っていた胡蝶が堂々と嘯き話を振れば、雉もまた不本意そうに唸りながらも肯定する。さて、この話何処までが事実であるのだか………。

 

「ふむ、そうか………。雛、確かにお前の言う通り此度の一件、軽率であるな?」

 

 小さく嘆息した後、脇息に凭れて幽牲は雛をそう評した。僅かに、本当に僅かに場がざわめく。幾人かが明確に怪訝な表情を浮かべる。

 

 原作と違い、年単位で寝込んでいたがために彼の雛への偏愛故の御乱行はまだ多くなく、若い参列者の中には余り知らぬ者もいるだろう。それでも寝たきりになるまでにやらかした所業の絶対数は少なくないし、それを知る者もまた同様。故の動揺、困惑。

 

「隠行衆頭の、宇右衛門殿の体面を傷付ける行いは言語道断である。ましてや此度の一件で家人を失った遠因の一つでもある。………沙汰を下す。雛、お前には謹慎を命じる。期間は十日である。後程隠行衆頭にも謝罪する事だ。分かったな?」

「………はっ」

 

 そして下される処遇。幾人かが我が目を疑うような表情を浮かべ、また幾人かは首をひねる。雛はそんな周囲の反応を気にもせず恭しく一礼する。

 

 俺もまた困惑していた。幽牲の言葉に驚愕していた。しかし次の瞬間にはそれを気にする余裕はなくなった。

 

「して、御当主。其処な下人の処遇は如何に?」

 

 参列者の一人が俺の処遇について宣えば、俺は緊張に身構える。あの幽牲が雛を叱責して罰を下すのだ。ましてや俺に対してなぞ……俺は最悪の事態を覚悟する。だが………。

 

「無用だ。允職は雛の命に従ったまでの事。そしてそれを明確に制止を命じた者もいない筈だ。であるな?」

「は?はっ、そのような御命令はお受けしておりませぬ」

 

 まさか話を振られる、質問されるとは思っておらず一瞬反応が遅れるがどうにか取り繕って下人らしく黙々と答える。その答えに頷く幽牲。

 

「うむ。下人は道具だ。道具を罰する者なぞおるまい?であれば下人に処罰するなぞ滑稽な事であろうて。………下人衆頭殿はどう思う?」

 

 幽牲が話を振ったのは木菟であった。木菟の式神……その声音と幽牲の問い掛けからしてそれが鬼月思水の使役するものである事は明瞭であった。

 

『………まさしく、正論でありましょう』

 

 小さく鳴いてから、木菟は淡々と応じる。幾人かが納得するように、あるいは不満げに唸る。

 

(正論、ねぇ………)

 

 確かに思水の言う通り、幽牲の発言は正論であり、同時に幽牲らしからぬ発言であった。俺の知るこの男は雛のためならば他人が幾人犠牲になろうが気にもしないようなヤンデレであるのだから。

 

「異論がある者はいるか?いるのならばこの場で聞こうぞ?」

 

 幽牲が確認するように問う。表情は千差万別、中には明らかに不満そうな人物もいるものの、誰も発言はしなかった。そして暫し参列者達を確認し、幽牲は頷く。

 

「うむ。ではこの一件の沙汰は以上だ。両者共に退出せよ。……次の案件に移ろう」

 

 俺と雛の退出が命じられる。それに従い、俺と雛は議場を退出する。

 

「っ………!」

 

 一瞬、俺はゴリラ様と視線が合った。合うと同時にゴリラ様は気不味そうに俺と視線を逸らす。

 

(おいおい、そんな可愛げのある奴かよ………)

 

 普段の高慢不遜な態度ならば間違いなく鼻で笑っていただろう。そんな態度をされたら此方の方が心配であった。いや、実際何されたの?止めてくれよ?原作時間軸に移行してから何か厄介事とか洒落にならないんだけど?俺は部屋を下がりながら本気で困惑する。

 

「さて。では次の議題であるが、新たに迎え入れる予定の家人を………」

 

 鬼月の参列者達の討議する次の議題は、しかし俺が出ると共に雛が襖を閉じたために最後まで聞く事は叶わなかった。詮議の部屋であるために防音の術式が張られているようであった。

 

「………」

「………」

 

 そして同時に誰も見る者がいなくなり、俺と雛は屋敷の廊下に何をするでなくひたすらに二人きりに無言で佇む…………。

 

「………雛様」

「止めろ」

 

 その場にて動かず、幾分か時間が過ぎ去った頃、俺は雛に問い掛けようとする。同時にその言葉は雛の鋭い視線と言葉によって阻まれた。

 

「此度の件に関しては既に決着した事だ。今更蒸し返す事は許さん」

 

 視線を合わせる事も、顔を向き合わせる事もなく、雛は宣う。

 

「ですが、何故………?」

 

 あの議場での会話の流れ、恐らくはある程度予定調和であっただろう決着、それに雛が関わっているのは明らかであった。

 

 そして、かなり朧気ながらも俺は覚えている。蛍夜郷で、瀕死の俺は確かに見た。明瞭としないまでも俺を抱き抱えて救出したあの人影は背丈からして雛であった事は疑うべくもない。

 

 つまりは、俺の首は雛によって繋がったという訳だ。それこそ宇右衛門からの反発を始め周囲からの顰蹙を買って、挙げ句には謹慎の処分を受けてすら。

 

 分からなかった。俺は彼女に其処までされる謂われはない。それどころか、俺は嘗て彼女を捨てて逃げ、挙げ句の果てには形式的であれ妹の手下だというのに………。

 

「勘違いするな。お前を允職に推薦したのは私だ。お前が何かやらかせばそれは推薦した私の責任でもある。ならば尻拭いするのは当然だろう?」

 

 淡々と、義務的にそう嘯く雛。しかしそれで納得出来る訳もない。俺を庇う理由としては弱過ぎる。

 

「しかし………いえ、承知致しました」

 

 更に問い掛けようとして、俺はそれを止める。これ以上突っ込むのは下人の分を超えていた。此処は引き下がるしかない。

 

「うむ。では、私は謹慎を命じられているのでこの辺りで失礼しよう。允職もまだ万全ではなかろう?己の小屋にて養生するが良い」

 

 そう言って、雛はさっと踵を返して屋敷の廊下を歩み去っていく………と、一度足を止めると小さく此方を振り向いた。そして俺と視線を重ねると口を開く。

 

「ふっ。やはり、様付けされると堅苦しくて敵わんな」 

「え………?」    

 

 不意討ちに近い発言に思わず俺は間抜けに声をあげていた。そんな俺を見て、雛は先程からずっと硬くしていた表情を僅かに緩めた。

 

 子供の頃、悪戯に成功した時のように微笑んでいた。

 

「あっ………」

「では、さらばだ」

 

 しかしそれも一瞬の事で、次の瞬間には彼女は普段の凛々しくも神経質そうな表情を浮かべて去っていく。俺は手を伸ばそうとして、しかし己の立場を理解するが故にそれは宙をさ迷うだけで、ただただ遠退く彼女の後ろ姿を無言で見つめるだけしか出来なかった。

 

 そして俺は漸く理解する。此度の茶番が損得勘定抜きの善意であった事に

 

「義に厚く、公明正大………か」

 

 雛が廊下の曲がり角に消えたのを認めて、暫くして俺は小さく呟いていた。  

 

 そうだ。彼女は義理堅く、そして慈悲深い人物だ。どんな人間でも見捨てず、小さな恩義でも忘れず、そして他者の過ちにも寛大だ。

 

 打算ありきの行いであったし、彼女とて当時は兎も角今はそれも理解していよう。それでも彼女は俺の行動に恩義を感じたのだろう。そして、俺が此度とった行動に一定の道理を認めたのだろう。

 

(何処から情報を得たのかは知れないが……ゴリラ様辺りか?)

 

 何にせよ、此度の雛の行動は幼少期の俺との繋がりに対するある種の恩返しなのだろう。本当に律儀なものだ、土壇場で俺の取った行動に失望しても良いだろうに………。

 

「流石に今回限りだろうが………有難い事だな」

 

 流石に幾度も助けを求めるのは厚かましいだろう。今回、首の皮一枚で助かっただけでも僥倖だ。

 

「何せ、ここからが正念場だものな」

 

 時系列で言えば遂にチュートリアルが終わった頃合いだ。色々と原作から逸脱しているが………何にせよ、生きていればやり方はある。TSしてくれた主人公様が当てにならぬのは最早仕方無い。精々、郷で妹達と達者にして貰いものだ。

 

「そう言えば、彼方はどうなったんだ………?」

 

 入鹿はどうなったのだろうか?それだけではない。牡丹と白蜘蛛野郎も行方知れず、多分牡丹達は上手くやっているとは思うが………宇右衛門の所に残した部下も心配だ。

 

(糞、このまま御仕舞いと思っていたからなぁ………後先考え無さ過ぎたな。くたばるよりはマシだろうが)

 

 今更ながら、自身の無責任さと無謀さに自嘲の笑みが漏れる。そしてこうして己の愚かさを笑っていられるのも、雛のお陰だった。それを思うと余計に情けなく思えた。

 

「取り敢えずは、家に戻るか………」

 

 養生を命じられたように、俺の身体は倦怠感と筋肉痛でベストコンディションからは程遠かった。それに何か身体がかさつくな………乾燥しているのだろうか?湯船は無理でも温かい手拭いで全身を拭きたかった………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 既に時刻は夕刻に近く、空は茜色に染まりつつあった。俺はすれ違い様に向けられる屋敷の住人達からの好奇の視線を無視してそこに向かう。

 

「ん?あれは………」

 

 屋敷の敷地の隅に設けられたその小屋から白い炊事の煙がたなびいているのを見て、俺は一瞬首を傾げた。そして直ぐにそれが恐らく留守を預かる孫六達のものであろうと気付くと俺は気まずくなった。

 

 俺の使用人のような扱いで住まう二人にとって、此度の一件は気が気でなかっただろう。

 

 俺が処断されてしまえば彼らに居場所はない。直ぐに屋敷から叩き出されていた筈だ。職もなく寝床もなく、妹に至っては盲目で病弱ともなれば自然の厳しい北土での生活は困難を極めた事だろう。そうなれば待ち構える未来は………改めて自分が杜撰で身勝手な事をしたものだと罪悪感に囚われる。

 

(そして何が酷いかって、恐らくはもしあの時にそれを自覚していてもきっと妹のためにそれを実行していただろうと言う事で………本当、俺も相当な屑だよな)

 

 周囲に迷惑を掛け過ぎだと自覚して嘆息する。きっと二人共口では気にしていないと言いそうだが………内心はきっと不満だらけだろうな。二人の立場では俺に本音は言えまい。

 

「いっそ、罵られた方が気楽なのだが………それも自分勝手だな」

 

 気まずい帰宅になりそうだが、仕方無い。自分の行いに対する正当な代償であろう。罪と罰である。素直に受け入れる事にする。

 

 そして俺は若干ふらつきながらも小屋の前にまで辿り着き、一瞬だけ躊躇して、けれども覚悟を決めるとゆっくりと戸口を開いた。そして…………。

 

「ほれ『五光』。お前さんは……滓札か。じゃあ俺の勝ちだな」

「あぁぁぁぁぁっ!!?どうしてぇ!!?」

 

 部屋の主のように鎮座する狼の半妖が花札の役を床に叩きつけると同時に、紫色髪の少女が絶望に満ちた悲鳴を上げていた。

 

「んじゃ、約束通りその帯は貰うぜ?」

「嫌です!!こんな……私の身ぐるみ、全て持って行くつもり………きゃあぁ!!?」

 

 泣きながら反発するおかっぱ頭の少女。しかし半妖の方はそんな相手に少しの同情もせずに、既に薄い白装束一枚だけになってしまっている彼女から簒奪するように帯をふんだくる。半妖の傍らでは戦利品であろう上等な着物や小物が山を作っていた。

 

「ほれ、どうする?もう止めるかい?」

「ゔゔゔゔ………!!!!ま、まだです!こんな、こんな出で立ちで戻るなんて出来ません!!もう一度、もう一度です!!さっきも後少しだったんです!!今度こそ勝ってやりますよ!こいこいです!!」

「へへへ、そう来ねぇとなぁ?精々頑張りな。一度でも勝ちゃあ質入りしたものは全部返してやるからよ」

 

 解けた白装束の前を押さえて、羞恥の混じる泣き顔で半裸の少女は継戦を宣言する。半妖は意地悪な表情でそれに応じて山札をシャッフルしていく。………相手に滓札しか回らないようにイカサマしながら。

 

「…………」

 

 まぁ、あれだな。うん。取り敢えず俺は一旦戸口から小屋の外に引き返す。そして一度、二度と深呼吸して、落ち着いて状況を整理する。よし、分かった。そう言う事だな、よしよし………さて、と。

 

「……いやいや!?お前ら、人の家で何してんだよっ!!!??」

 

 戸口に突貫しながら、俺はそんな咆哮を上げていたのだった。

 

 


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