ゆきますくオリジナル短編集   作:ゆきますく

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だから、君なんだよ。
君じゃなきゃ駄目なんだよ。

こんなにも、私を夢中にさせるのに。
こんなにも、私の視線を奪い続けるのに。

みんなに優しい目を向けないで。
私に、私だけに向けていて。
貴方の、貴方だけの世界に、私を取り込んで。

だからね。

君が、好きなんだよ。


達の君へ

だから、君なんだよ。

 

真っすぐに向かう君の瞳の先には、いつもプラモデルがあって。そのしなやかな指先は、私ではなくて細かな部品に向けられていて。今の私は、こんなにも君に夢中なのに。

「なあ、三崎はどう思う?」

「え?」

「いや、城のプラモデルの話。やったことないけど、どうだろう、って」

「お城はあんまりよくわかんないけど……プラモデルなら達樹くん好きだしいいんじゃない?」

「だよな……プラモデルって書かれててやらないわけにはいかないよなぁ」

こうして学生ホールで駄弁っている彼は、こちらを見向きもすることなく、カタログに視線を落とす。いいのかな、そんな無防備に足を組んでいて。七分丈のパンツの先に見える足首は、綺麗な白色。私は、彼を見るふりをして、視界の端のそれを捉える。

「まぁ資金的には余裕あるし、一個ぐらいやってみるか」

「いいんじゃない? それでも」

彼が笑顔でにかっと笑う。鼓動が早くなる。この笑顔が、いつか私にだけ向けられたらいいのに。そんな淡い期待を抱きながら、ランチタイムは過ぎていく。

 

 

*

 

 

だから、君じゃないんだよ。

 

「三崎ちゃんじゃん」

「あら、先輩。お久しぶりです」

「久しぶりってことはないだろう。ほら、この前一緒に飲んだじゃん」

「サークルの打ち上げですけどね」

いつもじろじろと見てくる先輩。もはや名前さえ思い出せないけれど、この出来上がった鼻と綺麗に笑う顔だけは、妙に脳に焼き付いてしまう。どうせ、こうして話していれば自然と靡くだろうと思っているようなこの態度に、辟易とする。

「最近あんまりサークルの方には顔出してないよね? お仕事忙しい?」

「いえ、ちょくちょく行ってますよ? 先輩がいないだけで」

「へぇ、いつ頃?」

「仕事によります」

「やっぱりモデルのお仕事って不定期なんだねー……」

「そうですね」

キャンパスの大通りをつかつかと歩いて、なるべく早く歩いて、振り切りたいけど、それでもちゃんと隣についてくる。私の歩幅では彼の歩幅にかなわないのは分かっているけど、私が早く歩いていることぐらい、気づけばいいのに。苛立ちを少しぐらい伝えても、罰は当たらないだろうか。

「まぁ、またよければ飲みに行こうよ。二次会でよく使ういい店知ってるんだ」

「ええ、また機会があれば」

「ああ、それじゃ」

隣から不快な感覚が消える。一度も振り向くことなく、前へ突き進み続けた。少し息を整える。

これが、達樹くんならいいのに。今頃何をしているんだろう。今日はサークルの部室には居ないと聞いている。でも、きっと頭の中はプラモデルでいっぱいなんだろうな。今頃お家で作業してるのかな。お家ではちょっとだらしない恰好なのかな。シャツ一枚に短パンだけ、だったりして。それとも、プラモデルでも買いに行っているのかな。お城のプラモデル欲しがってたしな。ここら辺で有名と言えば、昔の江戸城とかかな。また細かい作業頑張るんだろうな。

夕方のキャンパスは大勢人が通っているけれど、達樹くんがいないと分かっている人込みなんて、私の眼中にはなかった。

 

 

*

 

 

だから、君なんだよ。

 

大学の授業を受けている達樹くん。学生ホールでお昼ご飯を食べる達樹くん。プラモデルを一心に触る達樹くん。サークルの打ち上げでお酒を飲んで真っ赤になった達樹くん。セルフタイマーを使ってこっそりと集めた、達樹くん写真集は、スマホのアルバムの、鍵付きフォルダのさらに奥のフォルダに入っている。

ちょっと顔がいいだけの、あの先輩に話しかけられた日は、帰り道、電車の中でひっそりとそれを見る。自分のためだけに集めた、大事なアルバム。こちらを見つめてくれているものはひとつもないけれど、彼の何かに向けている熱心な眼差しや、背伸びして失敗している可愛いところが映った写真を、こうして集めるようになったのは、あの先輩のせいでもある。

もともと、達樹くんはサークルの中でも可愛がられている方で、特に上級生からは飲みにつれていかれたり、いじられたりする方だった。だから、合宿の写真にもよく達樹くんは映っていたが、その中でも特にあの先輩と一緒に映っていることが多かった。上級生には、二人並ぶと兄弟みたいだね、と言われたり、それにしてはちょっと芋過ぎる、なんて達樹くんがいじられたり。そして、私たちの同期の女子の間では、先輩がかっこいいだの、達樹くんはまだまだ可愛いだの、男らしくないだの、色んな声が飛び交っていた。そういうのが嫌で、サークルから距離を置き、彼だけを見つめるようになった。誰も彼の魅力になんて、気づかなくていい。私だけ。私だけが、彼を好きでいればいいの。

そんな思いを、このアルバムは思い出させてくれる。電車の中で、ひっそりと見つめる彼は、いつも私を見てくれない。だからこそ、振り向かせたくなる。その視線を、一身に浴びるのが私になるように。

いつか、きっと。

 

 

*

 

 

だから、君で、だから、君じゃないんだよ。

 

「ねえ、達樹くん」

「ん? ああ、どうした、三崎」

サークルの部室でプラモデルをしてる彼を見つけて、声をかける。こちらをちらりとも見ないけれど。小さな背中を丸めて、ピンセットの端で小さな部品をつかんでは、はめていく。

「結局お城、買ったんだ」

「ああ、これ? 大阪城ね。なんか関西の方じゃ観光名所らしいから」

「そうなんだ」

「うん」

キャッチボールが短い。私は彼に見とれていて、彼はプラモデルに夢中で、会話が必要ないから。そうすると、どんどん彼の背中が無防備に見えてくる。今私が抱き着いたら、どんな反応をするんだろう。

「あ、ごめん、ニッパー取ってくれないか?」

「えっと、これ?」

「ん、さんきゅ」

黙々と作業を続ける達樹くん。私が椅子に腰かけているのを一瞬見てくれた。そのまま、視線はまたプラモデルへ。今、一瞬の視線は、プラモデルに向けているものと同じものを向けてくれた。真っすぐに私を見てくれた。かっこいい、男の子の目。そんな目、人に向けちゃだめだよ、達樹くん。だめ。私だからよかったけど、他の人なんかに向けちゃだめ。好きになっちゃうよ。そんな簡単に人をたらしこんじゃ、だめ。抱きしめたくなっちゃうでしょ。そんな目で見られたら、ほっぺをすりすりしたくなるでしょ。だめ。いい? 他の人に向けちゃだめだからね?

あの視線を何度も思い出しながら、思わず脳内で早口でまくし立ててしまう。その間も、無防備にさらされたうなじや、集中しているからか空きっぱなしになっている唇に、視線を奪われる。こんなの、達樹くんにバレるわけにはいかない。だけど、彼が背中を向けている間だけは、一心に堪能できる。この時間は、至福の時だった。

だけど。

「あ、お疲れー。達樹、もう始めてたのか」

「あ! 先輩。お疲れ様です」

そんな私の思考に、ぴしゃりと水を差す音。彼だ。不快な、あの声。達樹くんの集中を奪ったのに、彼は悪びれる様子もなく、達樹くんに近づいていく。邪魔、しないで。声にはならないけれど、視線を外すことで少しだけ抵抗する。デスクに向きなおし、広げた課題を見つめてみる。耳だけ、達樹くんの声を入れたくて、すませる。

「部品足りてる?」

「ええ、先輩、月刊何とか系、ちゃんと集めてたんすね。レポートもちゃんと出さないのに」

「まぁな。こういうの好きだし。あと、月刊大阪城! って、ちょっとかっこよくない? 響きが」

「いや響きがどうというよりは、この外観はかっこよすぎないですか?」

「いいよな、こういうの」

「まぁ、先輩がプラモ好きって意外ですけどね」

「いつも、いつかやろう、いつかやろう、って思ってるだけで、なんかやる気起きないけどな」

「駄目っすよ、こういうのは一気にやらないと。揃ったんならもうやるしかないっすよ」

「まぁでも達樹がやってくれるってなら、この大阪城も本望だろ」

「また調子見に来てくださいよ。なるべく早く仕上げるんで」

「分かった。んでさ、達樹、この後暇か?」

「えっと、特に用事ないのでここで多分作業してます」

「よかったら合コン付き合ってくれん? 男一人ドタキャンでさ、ちょうど困ってたんだよ」

「いいですけど……また譲ってくださいね、プラモ」

「ある分で言えば……あとは1/8の戦艦大和とか?」

「いいですね、それを半額で譲ってくださるなら、手を打ちましょう」

「よっしゃ、さすが達樹。19時にいつも打ち上げに使ってる居酒屋だから」

「分かりました……って、もうあと30分じゃないすか」

「そう、もう駄目かもって思ったらお前がいたからな。助かったよ」

「はぁ……もうこういうのは勘弁してくださいよね」

「大丈夫! いるだけでいいから、話とか適当に流してればいいから!」

「まぁもともとプラモやってる時間なんで……ご飯だけタダで食べに行く気持ちで行きますよ」

「それでいい! ありがとな!」

会話が途切れ、彼が立ち上がったのか、「ん、しょ」と声がすると、今度は私に向かってきて。

「三崎ちゃんも来る?」

「え……?」

「来るなら来るで、もう一人捕まえてくるからさ」

「い、いえ……私は……」

「ちょっと、三崎は関係ないじゃないすか」

「いやぁ、前から三崎ちゃんとは飲みたかったんだよ。達樹が来るなら、来るかな? って」

「三崎だって嫌でしょう……ただでさえモデルの仕事で忙しいのに」

「でもさ、どう? 達樹がいるし、退屈はしないと思うけど?」

にやにやと薄気味悪い笑みを浮かべて、こちらを覗いてくる。後ろには、達樹くん。こいつ、私が達樹くんをこんなに想っているのを知ってて……? でも、いや、どこで……? 分からない、けれど、もしこの気持ちが知られたら――

「達樹のこと、落とすならここだと思うけどな?」

小声で耳打ちしてくる。息が耳にかかるのと同時に、鳥肌が立つ。少し、煙草の匂い。この男、どこまでも腐っている。後ろで何も知らない可愛い視線を向けている達樹くんの表情が、疑問に変わっていく。

「ま、一応席は空けておくからさ、いつでもおいでよ、ね?」

いつものさわやかな笑顔を貼り付けなおして、部室を出て行った。残された、私と達樹くん。

「……三崎も行く?」

「そう……だね、行こうかな」

残った白いノイズが、耳に障る。達樹くんがいるのに、達樹くんを見つめられない。後ろめたい気持ちなんて、捨て去ったはずなのに。脅された後のこの後味の悪さは、煙草の匂いに少し似ていた。

 

 

*

 

 

だから、君で、だから、君たちじゃないんだよ。

 

「かんぱーい!!!!」

ついに始まってしまった。3対2の合コンになっていた。せめても、と思い、達樹くんの前に座る。アルコールも、飲むつもりはない。

「三崎さん、こういう飲み会に来てるの初めて見たかも!!」

「そうだよね、確かに! 三崎さんモデルだしなぁ、お仕事忙しいんだよね?」

「え、ええ……まぁそれなりに」

始まってすぐ、私の方に話題が向く。余計なことをしてくれるなと、あの男を少し睨む。ソフトドリンクのジョッキを傾ける。

この空気が嫌で、目の前の彼を見つめてみる。私の視線に気づかずに、お酒と枝豆を行ったり来たりしている。オレンジ色の証明に照らされているからか、お酒のせいか、この場の雰囲気か、彼の頬がほんのりと赤みを帯びている。いつもプラモデルを触る繊細なその指で、枝豆をひとつひとつ丁寧に剥いていく。

「んで、達樹くんは毎回こうやって連れてこられている、と」

「まぁね。俺の大事な後輩だからな」

「可哀想~! 達樹くんだって自分の時間があるのに!」

「まぁ……先輩とは趣味も似てるんで」

「そうなの!?」

「おいおい、趣味の話はしないって約束だぞ」

「はいはい、分かってるっすよ先輩」

「えー! なんでー!」

「趣味は酒飲むことと女の子と遊ぶことだけ、って決めてるから」

「何それ!」

「でも先輩はちょっと遊んでそうな感じするよね~?」

「こんな飲み会毎回開いてるぐらいだもんね」

「いいだろ別に。君らだって毎回来るじゃん、そんなこと言って」

「それは、ねぇ?」

「えへへ」

あの男と嬉しそうに話す女二人。ちらりと見ると、すっかり惚れた顔。結局、こいつらもそういう考えなんだ。大きなため息が出そうになって、喉元でこらえる。同時に、ソフトドリンクをあおる。氷の音ががらんと響いた。

「三崎、次何飲む?」

「え? えっと……じゃあウーロン茶で」

あの男と夢中な女二人をよそ眼に、達樹くんが話しかけてくれる。こっちを見てくれる。いつもの目とは違う、優しい目。こんな顔、久々に見たな。

「先輩はちゃんとかっこいいって感じだけど、達樹くんは可愛い感じだよね~!」

「そうそう! 達樹くんはまだまだマスコットって感じ!」

「マスコットですか?」

「顔がちょっと幼いのもあるよな。お酒飲んでもう真っ赤だし」

「あはは……そろそろウーロン茶とかにしておきます」

「三崎ちゃんはお酒飲まない?」

「ええ……私は、明日仕事なので」

「そっかぁ、残念」

「何がです?」

「いや、三崎ちゃんとお酒飲めるのなんて珍しいなって思ってたのにな、って」

「……別に、来たくて来たわけでは」

「えっ、何? 三崎さんどうやって連れてきたの?」

「気になる~! 確かに普段来ないのに今回来てるしね!」

「いや、普通に誘っただけだよ。な、三崎ちゃん」

「……そうですね」

「あれ、嫌だった?」

「え、そうなの? 三崎」

露骨に嫌な顔をしすぎただろうか。達樹くんが心配そうな目で見つめてくる。達樹くんだって、無理にお酒飲んで、すっかり酔い切ってるのに、私を心配して。

「い、嫌とか、そういう話じゃ……」

「だよな! よし、三崎ちゃんも一杯ぐらい飲もうよ。明日仕事でも一杯ぐらい平気でしょ?」

「え、ちょっと、それは……」

「ちょっと、三崎困ってますって。……無理しなくていいからな?」

普段は私を全然見てくれない瞳が、こんな時だけ、私を見てくれる。とろんと、既に眠気を帯びたその瞳が、私を貫く。

「じゃあ代わりに達樹に飲んでもらおうかな。すいませーん! テキーラのショット四つお願いしまーす!」

「え!? 四つ!?」

「さすがに俺らも一つずつ飲むけど、今日は達樹も飲んでもらうからな」

「えー……もう勘弁してくださいよ」

達樹くんと肩を組みながら、私をちらちら見てくるこの男。まるで、救ってやれ、と言わんばかりのその顔。しかし、ここで飲んだら、私はきっと、彼の前で話していけないことまで話してしまう。だから――

「あー……いいね、やっぱこれだな」

「これは来るね~……」

「久々に悪酔いしたかもー……」

「うっ……」

酔いが回ってにこやかな三人に対して、明らかに不調な達樹くんの目は、回っている。……救えなかった。ごめんね。頭の中で何度も唱える。机に突っ伏した四人を見て、こんな惨状が待っていると知っていたなら達樹くんを引っ張って電車に乗ればよかった、と少し後悔もあった。

「達樹……まだいけるか?」

「ん……え……む……」

「寝ちゃってるね~これは」

「あはは……まだまだだね、達樹くんは」

「う……あ……」

「これは解散かな~」

「さすがに俺もきついなぁ」

「じゃあお開きにしますかぁ……達樹くんどうしよう?」

「ちゃんと家帰さないとな」

「え~! せっかくでろんでろんなんだから持ち帰っちゃ駄目~?」

「そんなこと言ってると睨まれるよ、三崎ちゃんに」

三人の目がこちらに向く。と同時に、眉間にしわを寄せていた自分に気づき、はっとした。

「三崎さん、達樹くん好きなんだ」

「へぇ~!! いいね、可愛いもんね彼」

「じゃあ、まぁ、そういうわけだから、煮るなり焼くなり好きにしてよ。お膳立てはしたからさ。ま、俺はこっちの二人目当てで飲んでたし、いいんだけど」

そう言って三人は肩を組みながら、お代を置いて去っていく。残された、達樹くんと私。

「ね、達樹くん……そろそろ帰らないと、終電なくなっちゃうよ?」

「ん……そう……か……えっと……先、輩たちは……?」

「もう帰っちゃったよ、お代置いてってくれてる」

「あー……そっ、か……やっちゃったなぁ……」

「立てる?」

「いけるよ……あー、しんどいな……」

「支払いしとくね?」

「俺の分……」

「あとでいいから。ね?」

「ありがとう……」

 

 

*

 

 

だから、やっぱり、君なんだよ。

 

電車を逃し、結局大学に戻ってきた。居座るのは、いつものサークルの部室。寝泊りするために、ロフトを仮眠室のように改造してあるこの部屋は、達樹くんの作業スペースでもあった。

「んっ…………んっ…………」

途中で水を買って、ぐびぐびと飲み干す彼の喉仏がゆっくりと上下するのを、視界の端で見つめていた。私の喉も、ごくりと音を立てる。

「ありがとう、三崎。助かったよ」

少し落ち着いたのか、いつもの調子に戻った達樹くん。だけど、まだ肩で息をしていて、その上下に少し男の子の力強さを感じる。今、ここには私と彼、二人きり。

「終電逃しちゃったもんなぁ、ここ泊まるか」

「仕方ないね……」

「悪いな、三崎まで付き合わせて」

「え? ううん、いいの、全然大丈夫」

達樹くんはいつものデスクに腰かけると、ふう、と一息吐いて、よし、と呟いた。いつものように、ピンセットと説明書を見つめる。

「しんどかったら、寝てていいからな」

その前に、と振り返って言う達樹くんの横顔が、いつものようににかっと笑った。と思うと、何も言えない私をそのままに作業台へ向き直った。

ロフトに上って、仮眠用の寝袋に入る。ロフトの端、上から達樹くんの姿を覗く。真っ暗になった部屋で、デスクライトだけで作業をする背中は、私のことなんて何も気にしていない。黙々と大阪城を作っていく。時折、プラスチック同士が当たるカチカチとした音が鳴って、ピンセットを置く金属音がして、ふう、と一息つく達樹くんの音がする。彼にとって、その場所は一人きりの場所で、それが当たり前で、一人が飽和人数になっているんだろう。強いな。心の中で唱えてみる。同時に出てくる「寂しい」という感情を持った私が、まるで劣っているかのような。そんな気さえしてくる。

読者モデル、なんてやって、それなりに自分に自信があるつもりだったけれど、彼に出会って、彼の過ごし方を見ていると、そんなことさえただの強がりに見えてくる。自分の世界があって、誰も入る余地がなくて、一人でもちっとも寂しさを感じさせない。そんな過ごし方が、好き。そんな過ごし方に裏打ちされた強さが好き。その強さを、他の誰にも見せないその笑顔が好き。どんなに頑張っても振り向いてくれない、そんな君の君らしさが好き。そこら中にあふれている、男とか女とか、顔がいいとか、賢いとか、そんなくだらない価値観に縛られない、君の生き方が好き。

 

私は、君が好き。

誰にも興味がない、君が好き。

いつか、この気持ちをすべて伝えたら、君はどんな顔をするのかな。

 

そんな気持ちを胸にしまい込んで、私は目を閉じる。

彼と同じ空気を吸っている、その感覚だけを感じるために。

 

おやすみ。達樹くん。

 

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