日本の冬はとことんいいものだと感じる瞬間がある。おでん、雑炊、そして、こたつ。
寒いという強大な敵との戦いの中で、癒しをくれるこたつ。
来年も、またこうして、お前と過ごしてるんだろうな。
なんてな。
寒さが厳しくなって、こうしてこたつに入るのもすっかり見慣れたこの頃。日本の冬と言えば、このこたつと、みかんと、猫と言ったところだろうか。
まあ、もっとも。
「目の前にいるのはそんな可愛らしいもんじゃないんだけど」
「なんか言ったか?」
「いーえ、なんでも」
こたつの上でみかんを既に五個も食べている幼馴染を見ながら、はぁとため息を吐いてみる。後ろで流れている年末の番組らしい賑やかな声なんか気にせず、食い意地を張るこの少年の姿を学校のやつらがみたらどう思うだろうか。
「そんなに食べると指がオレンジになるぞ」
「その時はまた爪とぎするまで」
「うちのこたつの布団でしたら許さんからな」
「分かってるよ。今日はちゃんと持ってきてるから」
丸い爪とぎボードをもってきて、誇らしげな顔をする彼。可愛らしい猫のデザインが施されたそれを、中性的で整った顔の隣に並べられると、どう反応していいか分からなくなる。
「年末になってすることが、みかんたべて爪とぎかよ……」
「そういうお前も出かけることなくこうして俺とこたつに入ってるじゃん」
「俺はいいの。お前みたいに女の子からの連絡を無視しないから」
「来ないだけじゃね?」
「うるせえよ。着てて無視してるお前ほど酷くない」
「人として問題なのはどっちだろうなぁ」
「携帯は静かな方がいいの。一人を邪魔されずに済むんだから」
「俺は?」
「邪魔」
「ちぇー」
みかんを食べながら、片手間に携帯の上で指を躍らせる彼は、きっと今ひっきりなしに来ている連絡をさばいているのだろう、と想い、また目を閉じる。この世はこうして理不尽ができあがるのだろう、なんて冷めた思考をこたつに入れて。
「はい、そろそろやめとけ」
「にゃあああ、返せよみかん、まだいいだろ」
「駄目だろ、晩飯あるんだぞ」
「ぐるるる……しゃあねえ、我慢するか……」
三角形の耳をひょこひょこさせている、威嚇の表情の彼をなだめる。耳を少しなでてやると引き下がってくれる、というのは最近知ったことで。
「今日の晩飯はタラのフライらしい」
「おっ、いいね、やった」
「だから落ち着け、な?」
「にゃあああ、顎を撫でるな! 猫扱いするな!!」
とはいえ、こうして猫が好きだろうと思うことをすると怒り出す。さながら、からかわれていじけている少年のように。
「仕方ないだろ。お前だってもう俺の前じゃその耳隠さないじゃん」
「バレたもんはもういいんだよ。だけど態度を変えるのは許さん」
「めんどくせえやつだな」
「ふん」
鼻息を一度荒く鳴らすと、彼はまた携帯に目を戻した。
「んで? その女の子たちはどうなのよ」
「可愛い~! って言ってくるから適当にあしらってるだけ。……はぁ、なんでこうなるんだか」
「構ってもらえるだけいいだろ。むしろちゃんと可愛い路線で行けよ、もう」
「俺はかっこよくなきゃ嫌なの。女の子の前では王子様で居たいわけ」
「贅沢だな、全く」
「半分は人だが半分は猫だからな、自由にやらせてほしいもんだ」
「関係なくね?」
「猫は元来我儘なの。自由に生きてるの。分からんか、女の子と絡みのない人間には」
「うるせえな……いいだろ俺は」
「そんなことねえだろ。幼馴染としてお前の女っ気のなさはちょっと心配なんだぞ」
「俺は一人が気に入ってんの」
「またまた、そんなこと言って」
「うるせえな、そんなにタラのフライがいらねえなら俺がもらうが?」
「は!?!? なんならお前のも俺のもんだろうが!」
「やるか?」
「やんのか?」
こたつの上にコントローラーを並べる二人。彼の指を見ると、おさえていた爪がまた伸びている。興奮しているのだろう。
まあ、こうしていつものように張り合うのは悪くない。少しだけ笑みをこぼす彼と、きっと同じようにこぼれているだろう俺の、キャットファイトが、今、始まる。
いつまでも、こんな日が続けばいいのにな。
なんて、柄にもないことを考えながら。
『続いてのニュースです。獣人の生態についての研究発表会にて、獣人の寿命はおおよそ二十歳から三十歳と短いことが、○○大学の△△教授から――――』