第二部 第一話 もう、更識の家が実家な気がして来たのは俺だけじゃないと思う
「一冬、そろそろ出るぞ」
「もう、そんな時間か」
IS学園を卒業して、俺は地元の大学に進学した。俺の夢である教師になる為に。
偶然、実と同じ大学だったので、更識家から一緒に通っている。大体毎朝こんな感じだ。
千冬と束、真耶は日本代表とその専属メカニックとして、目前に迫った日本で開催される第一回モンド・グロッソの準備の為に日本で最もISの設備の整っている所、つまりIS学園にいる。
一夏達、弟妹世代は元気に小学校に通っている。そうそう、実の妹である、虚ちゃんに恋人が出来たらしい。お相手は一夏の友達の五反田弾君。ちょっと抜けてる所があるけど、かなり良い子だ。虚ちゃんは見る目がある。まあ、小学生や中学生にそんな事言うのはどうかと思うけど。
それと、一夏達に新しい友達が出来た。今年中国から転入してきた、凰鈴音ちゃん。元気で良い子だ。なんでも、転入早々からかわれていた所を一夏が助けたらしい。流石は俺の弟だね。
「つーか、お前妹に先彼氏作られてやんの」
「……それを思い出したかのように言うなよ」
移動中、こんな会話をしている。
この事については実も若干気にしているらしい。
「大学で良い子居ないのか?」
「居ないねえ。ていうか、まだ始まったばっかで、知らないし」
「好きな奴いないのか?」
「……お前になら話しても良いかな。ぶっちゃけ居る」
おっ、面白い話になりそうだ。詳しく聞くか。
「へえー、どんな子? 見た目は?」
「案外乗り気だな。こういうの乗ってこなさそうなのに。……そうだな、印象としては綺麗だな。そんでもって、カッコいい」
「ふむふむ」
「綺麗な黒髪と切れ長の目が僕は好きだね」
「へえー。性格とかは?」
「まず、家族思いだね。その子兄弟がいるんだけど、凄く兄弟を大事にしてるイメージ。面倒見も良いね。よく自分より小さい子と遊んでいるのを見るよ。でも、ちょっと不器用かな。一つの事に集中しちゃって。まあ、そこもかわいいんだけどさ」
「言うねえ。どんな子か少し会ってみたい気がするぜ。親友として」
親友が好きな子が気になるのは、普通だろう。決して浮気では無い。
「……一冬、お前鈍感すぎるだろ」
「突然、何? いきなり暴言吐かれたんだけど」
流石に、いきなりの暴言は傷つくぜ? どっちかというと俺はSだって二人の彼女が言ってたし、Sは打たれ弱いんだぜ? 。
「僕の上げた特徴を当てはめていってみ?」
俺は言われた通り、実の好きだという人の特徴を一つ一つ当てはめていった。すると…
「おお、千冬みたいな奴が好きなんだな」
俺の片割れが出来た。
「いや、『みたいな』じゃないんだよ。僕が好きなのは、織斑千冬さん」
「…………へっ?」
思わず間抜けな声が出る。まあ、そうだろう。親友の好きな奴が家族っていきなり言われたんだし。
「はは、変な声が出たねえ」
「いや、変な声もでるだろ。…しかし、千冬か。良いんじゃないか? 俺は反対しないぜ?」
「おっと、あっさり認めたね。てっきり反対が来るかと思ったよ」
「お前は俺をどんな目で見てんだよ」
「シスコン」
「よし、殴られたいんだな。表に出ろ」
そうでなくても小一時間ほど問いただしたい。ブラコンの気があるのは俺も千冬も自覚してるが、シスコンはねえだろ。
「バスの中だからそれは勘弁。まあ、シスコンは冗談としても家族っていうか、自分が身内って決めた人は凄く大切にするだろ? 特に血の繋がった家族と恋人二人には」
「…まあ、その通りなんだけどな。一夏と千冬、真耶と束を比べる事は出来ないけど、どっちも大事さ。でも、俺達はあんまりお互いの事に干渉はしないんだよ。相談とかされたら乗るけどな」
「そりゃまた何で?」
「多分、俺らはお互い『なんか困ったら、すぐ言いに来るだろう』って無意識で思ってるんだよ。生まれてからずっと一緒に居るし、一番話しやすい相手だし、俺はともかく、千冬は頼りになるしな」
「単にどっちかがどっちかを頼りっぱなしじゃないって事だね」
「そうだな。それに頼ってばっかだと、お互いの為にならねえからな」
何かに誰かに頼るのは非常に楽だ。でも頼り過ぎは人をダメにする。
「千冬さんもそうだけど、一冬も自分に厳しいからね。だからこその距離感なのかもね」
「かもな。んで、お互いの恋愛とかは、干渉する事には入らない。もちろん、手伝ってくれって言われたら手伝うし、相談があったら聞くけど、それに積極的にかかわる気は無いんだよ」
実際、束と真耶の時でも、千冬は二人の相談に乗っていただけで、最後の時も俺の話を聞いていただけだ。
俺の時は話の聞き方が上手いから、良い感じに引き出されていたけど。
そういや、束と真耶は千冬が背中を後押ししてくれたって言ってたな。
「なるほどね。分かった」
「それで、お前は千冬に告白すんの?」
「いつかはする。でも、今はモンド・グロッソに集中してほしいかな」
そういう細かい所でも気が使えるからこそ、俺はこいつになら大事な家族を任せれると思う。
「…っと、そろそろ大学だ」
「ホントだね。また千冬さんの事で相談するよ」
「OK」
さて、今日も一日頑張りますか。
その日の大学での講義が終わり、俺が更識の屋敷に戻ると、屋敷の駐車場に見覚えのない高級外車が止まっていた。車にそこまで興味のない俺が一発で高級外車と分かる、有名メーカーの物。
更識家は大きな家なのだが、車は普通に国産車だったはずだ。一体誰だ?
そう思いつつ、俺は屋敷に入った。
「ただいまっす」
「一冬君、お帰り」
「真一さん、外にスゲー良い車止まってましたけど、お客さんですか?」
「そうだよ。しかも、それは君にだ」
「俺?」
俺に高級車を乗り回すような知り合いいたっけな…。IS学園の時の同級生なら何人かありそうだけど、そいつらにはここの場所は教えてないし、中学の頃の友人も同じ感じだ。
色々考えながら、お客さんが居る部屋に案内された。そこには一人の男性がいた。歳は50代と言った所。スーツをビシッと着こなしたナイスミドルだ。
「久しぶりだね、織斑君」
「轡木さんじゃないですか。どうしたんですか?」
轡木十蔵さん。ISを総括する国際機関『IS委員会』の初代委員長。俺も何度か会った事がある。
なるほど、この人なら俺の居る場所が分かる訳だ。
「君にモンド・グロッソへの出場依頼を持ってきてね」
「……俺は、イレギュラーだから、国家代表じゃないんで、出場できないんじゃ?」
「そうなのだが、いろんな国の国家代表が君との戦いを熱望していてね。色々協議した結果、総合部門のみだが参加してもらおうと思ってね」
モンド・グロッソの競技はそれぞれ、格闘、射撃、機動そして、総合の四部門に分けられる。それに対応して各国は国家代表を最大三人(総合を除く三部門に一人ずつ)出場させる。総合は参加者の中の自主的な参加だが、格闘、射撃の出場選手は全員参加を表明、機動部門専任の選手も大半が出場の意向を現時点で示している。この結果総合部門は事実上の『世界最強のIS乗り決定戦』になった。
俺はそんな総合部門への参加依頼を受けた。なら、悩む必要は無い。
「なるほど…。分かりました、そのお話お受けします」
「やけにあっさりだね」
「いろんな国の国家代表って言っても、全員顔見知りですからね。そいつらと日本で開催のモンド・グロッソで久しぶりに会える機会と思っていて楽しみだったんですけど、それでなおかつ、参加できるのならしたいですよ」
むしろ、願ったり叶ったりだ。こんな面白い提案を受けないなんて考えられない。
「私も楽しみにしているよ」
「是非楽しみにしていてください」
そう言って轡木さんは帰っていった。
さて、本番に向けて調整しないとな。
こうして、俺のモンド・グロッソへの参加が決まった。後に俺が勝手に『モンド・グロッソ同窓会』と呼ぶ第一回大会まであと少し。
大まかに、大学生編は第一回第二回のモンド・グロッソをメインとしたお話で行こうと思っています。