私は最近、昼食を束と一緒に食べている。
切っ掛けは、真耶が一冬に弁当を作って来たのを見て、束が気を利かせたのだった。
「しかし、良かったのか? 真耶と二人きりにして」
「ん? 何が?」
「何が? って、どう考えても、真耶は一冬に惚れてるだろう。それで、お前も一冬に惚れているだろう? いうならばライバルなのに、悠長にしてていいのか?」
私の言葉通り、束と真耶は一冬に惚れている。真耶は相談して来たのではっきりしているが、束は今でも隠しているつもりだ。
「うぇ!? わ、私は別に…」
「いや、惚れてるだろ。お前は顔に出やすいし、何より付き合いが長いからな。見ていれば分かるさ」
「…そんなに、分かりやすい?」
「一冬を見てる時の真耶の目を想像してみろ」
私がそう言うと、束が目を瞑る。どうやら、思い出そうとしているらしい。
「…良い目をしてるね。可愛いまやまやがより可愛く見えるような目だよ。所謂恋する乙女の目だね」
「まあ、お前もその目をしている」
「嘘!?」
「本当だ。それに事件の時に顔を赤くしてただろ? ISのハイパーセンサーで見ていた」
「見てたの!?」
「安心しろ、一冬は見ていない。…で、認める気になったか?」
「…うん。私はかずくんが好き。何時からか覚えていないけど、いつの間にかかずくんの事を目で追いかけていて、寝ても覚めてもかずくんの事を考えていて、かずくんの笑顔にドキドキして…」
顔を真っ赤にしてそう言う束。
…私の片割れながら罪作りな奴である。
束や真耶だけではない。私に一冬を紹介してくれという話は学校中の人から来る。
まあ、確かに一冬がモテるというのは分かる。子供の目から見ても美男美女だった父さんと母さんの血をひいてるだけあって、見た目も良いし、性格も良い。兄弟というひいき目を抜きにしてもモテるのは分かる。本人にその自覚は無いが。
束は「仲の良い幼馴染」真耶は「慕ってくれる後輩」としか思ってないし、それ以外の女子達は「クラスメイト」「同級生」「後輩」とかしか思っていない。…不憫だな、女子は。
女子であり、束の幼馴染であり、真耶の先輩である私としては、一冬には真耶か束の気持ちに気付いてほしいと思う。
「束がどれだけ一冬が好きかは分かった。なら、本当に何故、一緒に居ようとしない。真耶にチャンスを与える?」
「たしかに、かずくんは大好きだよ。でも、まやまやも好きなんだ。それに今は同じ家で過ごしているんだし、学校にまで一緒に居たらまやまやが可哀想だよ」
「…同情か?」
「違うよ。多分ね、私はもう諦めているんだ」
「諦める? どうして?」
「こんな形でISが広まったから、私はもうかずくんと一緒になれない。それで、他の女に取られるぐらいなら私も大好きなまやまやが良いなって」
「…それで良いのか?」
「良い訳ない! 私だって、かずくんと一緒に居たい! かずくんの一番でありたい! でも、一杯迷惑かけて、その上にさらに迷惑をかけるなんて私には出来ないよ…」
本当、こいつは頭は良いのにバカだな。
私は落ち込んでいる束にデコピンを食らわせる。
「痛っ! なにすんの、ちーちゃん!」
「束、お前は考えすぎだ。私も一冬もお前の行動を迷惑だとは思っているが、それを嫌だと思った事は無い。そうでなければとっくの昔に幼馴染なんてやめている」
むしろ、楽しんでいるな。それを楽しんでいるから、充実の学校生活を送れていると言っても良いくらいだ。
「でも…」
「それに、一冬なら多分『そんなくだらねえ事でへこんでるんじゃねえよ。俺は笑顔の束好きだぜ』とか言いそうだな」
「…たしかに、かずくんなら言うかもね」
「ていうか、言うだろ」
「そうだねー」
そう言って二人で笑い出す。やはり、束に暗い顔は似合わない。
「ありがとう、ちーちゃん。何かすっきりした。ちゃんとかずくんに私の気持ちを言葉にして伝えるよ、中学の卒業までに」
「私には応援する事しか出来ないからな。まあ、頑張れ」
「その上で選ばれなかったら、一杯泣いちゃうから、慰めてね」
「…まあ、良いだろう」
アイツなら、真摯に向き合うから、その展開もあるだろうな。そうしたら、気が済むまで泣かせてやろう。
その日の放課後、私は真耶に呼ばれた。
「また、一冬についての相談か?」
「はい…。私なりに色々やっているんですけど、どれも無反応で」
「鈍感だからな、一冬は」
「鈍感すぎますよ! 今日も私の作ったお弁当を食べている時に『いやー、真耶の料理の腕は上がったなー。お前と付き合える奴は幸せ者だぞ』って言ったんですよ!」
「…なんか、すまん」
「千冬先輩が謝る事じゃないですよ。なにより、そんな鈍感でも私は一冬先輩が好きですから」
そう言って微笑む真耶。その笑顔は女の私にでも魅力的に映る、綺麗な表情だった。母さんの言っていた「恋する女性は綺麗になる」というのは本当らしい。
「…ここまで、真耶や束に好かれてアイツは本当、幸せ者だな。いや、アイツがああいう奴だからこそ、二人が好きになったのか」
「そうですね。最初は一目惚れだったかもしれません。でも、同じ時間を過ごしていくうちに、どんどん一冬先輩に惹かれていく私がいましたから」
「…やっぱり、アイツは幸せ者だよ」
間違いなく、恋愛事に関してはな。
「…でも、もう少しで卒業なんですよね」
「…ああ、そうだな」
しかし、真耶と私達には少しずつ、でも確実に、卒業という別れの時間が近付いてきている。
真耶がIS学園を受けない限り、私達とは疎遠になってしまうのだが、ここ数か月、束の作ったIS三号機「如月」のテストパイロットを務めている、真耶は「私もIS学園に行きます!」と公言している。
が、一年の別れになる事には変わりない。
「だが、一年だけだろ? それに休日だって会おうと思えば会えるさ」
「そうですけど、一冬先輩なら、一夏君を優先しそうです」
「…それは否定できないな」
私も一冬も弟である一夏を非常に大事にしている。たった一人の弟なのでそうなるのも仕方ないのだが、IS学園は寮生活なので、休日くらいは一緒に居てやりたいのだ。
「出来るなら、同じ年に生まれたかったなあ…」
「それはそれで楽しそうだが、それを嘆いても仕方ないだろう」
「ですね…。よし、決めた!」
「何をだ?」
「私、卒業式までに一冬先輩に私の気持ちを必ず伝えます! それで、どんな答えが返ってきても受け入れようと思います。…ライバルが束さんなので厳しいですけど」
最初は威勢が良かったが、途中で失速してしまう真耶。
「真耶は、まず自分に自信を持つ所からだな」
「自信、ですか?」
「ああ。確かに束は強敵だ。美人でスタイルも良い。性格も一冬とだから、底抜けに明るい。おまけに頭もすこぶる良い。でも、真耶もかなり魅力的だと思う。可愛いし、その顔に似合わない抜群のプロポーションをしているし、優しいし、勉強も運動も家事も出来る。十二分だと思うが」
「…そういう、相手を褒めるところとか一冬先輩そっくりですね、千冬先輩」
「そっくりというより、これはアイツの真似だ。私はそういうのに向いていないからな」
一冬は口が上手い…というより、褒めるのが上手い。私も口下手というほどでは無いが、一冬の様にはいかない。
「でも、ありがとうございます。憧れの千冬先輩にそう言ってもらえて、おかげで自信が付きました」
「そうか。…私は真耶も束も大事だから、こんな事しか出来ないし、どっちか一方を肩入れは出来ない。…頑張れよ、真耶」
「はい!」
その日はそれで、真耶と別れた。
…しかし、私の片割れは一体、どっちを選ぶのだろうか?
どの道、どっちかを泣かす事にはなるだろうから、殴る事は確定しているんだがな。どんな事情でも恋する乙女を泣かす男には罰を与えないとな。
次回、一気に物語は進み、導入部は終わりです。