「なんか時間が流れるのって早いな」
「どうしたのさ、一冬。突然そんな事言って」
時間が流れ卒業式の前日、俺は珍しく実と二人だけで昼飯を食べていた。
大体、ここに千冬、束、真耶がいるのだが、今日は居ない。何でか知らないけど、話があるとかで教室を出て行った。
「いや、夏休みがちょっと前だったなって思って」
「あー、確かに。勉強ばっかしてたからかな?」
実は家の近くにある藍越学園に進むらしい。藍越は自由な校風で知られ、このご時世でありながら就職率も良く、それでいて進学率も良いという優良校である。
それと共にこのあたりで随一の生徒数を誇る高校でもある。俺も、何も無かったらここを第一志望とするつもりだった。
「明日で中学生活も終わりか」
「まあ、それで僕達の友情は変わんないけどね」
「住んでる所が同じだしな。…前も言ったけど、一夏の事頼むな」
「はいよ、任された。束さんと千冬さんにも同じ事言われたよ。大丈夫、僕達『更識』を信頼して」
「分かった」
半年間『更識』の家にお世話になって、出会った人たちは皆信頼できる良い人たちだというのは分かっている。そこに心配はない。さっき言ったのはまあ、念押しみたいなものだ。
「一冬、居るか?」
俺を呼ぶのは教室に戻ってきた、千冬。
「何だ、千冬?」
「真耶が放課後、屋上で話があるそうだ」
「ん、分かった。放課後だな。そういや、束は?」
「ISの参考書作りの大詰めで、空き教室を先生から借りたらしい。まあ、今日は特にする事も無いからな。食事を終わらせてその教室に戻っていったよ」
「…苦労してんな」
「だが、楽しそうでもあるぞ。『ISを多くの人にちゃんと理解してもらえるように頑張らないとね。私はあの子達の生みの親なんだから』だそうだ」
「新しい楽しみを見つけられて何よりだな」
「落ち込んでいるのは、アイツに似合わないからな」
千冬の言う通り、束に落ち込んでるのは似合わない。俺は束の笑っている顔が好きだ。言うなら束の笑顔は太陽だな。やっぱり人間曇り空より晴天の方が好きだしね。
「しかし、真耶の用って何だろうな。千冬知ってる?」
「…知っているが、私の口からは言えない。言えるのは、真耶の言葉をしっかり受け止めてやれって事だけだ」
「よく分かんないけど、了解」
真耶の言葉をしっかり受け止めてやれ、ねえ…。他でもない千冬の言葉だ。真耶の為にも俺の為にもその方が良いんだろう。俺に出来るだけの事をやろう。そう決めて俺は残りの授業に集中する。
そして放課後。
俺は帰り支度を済ませてから屋上に向かった。
ウチの学校の屋上は解放されている。結構珍しいんじゃないかな? 他の学校は知らないけど。だから、たまにここで弁当を食べたりする。
屋上へのドアを開けるとそこには真耶と束がいた。
「あれ? 真耶が話があるって千冬に聞いたんだけど?」
「私もねかずくんに話が有ってね。まやまやも知ってるけど、ちーちゃんに内緒にしといてって言ったんだ」
「何でさ?」
「サプライズ!」
小っちゃいサプライズだな、オイ。
「…まあ、良いや。それで二人とも俺に話が有るんだろ?」
「はい」
「そうだよー」
「それで、どっちから聞けばいいんだ?」
「…どっちにしようか?」
「…どっちにしましょう?」
そこを迷うのかよ。ていうか決めとけよ。
少し二人で話し合った後、
「同じ事だから同時に言うよ」
と結論が束の口から出た。
「分かった。何時でも来いよ」
俺がそう言うと二人は深呼吸をして、
「「私は、かずくんが(一冬さんが)大好きです! だから私と付き合ってください!」」
ゑ? この二人は今さっきなんと? 俺の事が好きで、付き合いたいと?
…千冬がしっかり受け止めてやれって言うのはそういう事ね。それに自分で決めたじゃないか。俺の為に、真耶の為に、それと束の為にそうしようと。
しかし、二人同時に告白されたのは初めてだし、今までのただのクラスメイトや同級生、後輩の告白とは俺の中では訳が違う。
俺が大切で守りたいと思う人間からの告白だ。
「…少し、考える時間をくれないか? 明日卒業式が終わってから、ここで返事を返すよ。絶対に」
「…分かったよ(分かりました)」
とりあえず、その日は解散になった。
更識の家に戻ってきて、俺は部屋に籠った。アイツらの気持ちに、真摯に向き合って俺自身が納得できる答えを探すために。
「しかし、束も真耶も何で俺の事が好きなんかね?」
「人を好きになるなんて理由は無いんじゃないか?」
俺の呟きは千冬に聞かれていたらしい。
「つーか、内容知ってるなら教えてくれよ。言われた時マジで驚いたからな!」
「今の今まで気づかなかったお前が悪い。束も真耶も結構前から傍から見て分かる感じだったぞ。それに私は相談も受けてたしな」
「マジで?」
「マジだ」
全然気付かなかった…。
「鈍感」
「…否定出来ねえ」
そこまで俺の事を思ってくれているとはね。
「しかし、どうすりゃいいのかね」
「一冬は束と真耶をどう思ってるんだ?」
「どうなんだろうな? そんなにその事を考えた事は無かったんだけどさ、俺の中では今まで何度かされてきた告白とは違うんだよ。あの事件の時、俺が護りたいなと思ったのは家族以外だとあの二人だったんだよな。てことは、俺にとって束と真耶は家族と同じくらい大事って事、だと思う。そこに優劣は無い」
「それは、困ったな。どっちが好きかなら答えは簡単だったのにな」
「だから悩んでいるんだよ。同じくらい大事で、二人が悲しむ顔は見たくない。どっちを選ぶかなんて出来ない。…これがちょっとでも時間差があったら良かったんだけど、同じタイミングだったからな」
「期限はいつだ?」
「明日」
「…なら、今日一日考え抜くしかないのではないか? まずは、束と真耶じゃなくて、お前自身が納得できる答えをな」
やっぱ、それしかないよな。
「そう、だな。…ありがとう、千冬」
「気にするな、私達はどっちかが困っていたり、迷っていたら、それをもう片方が支える。そうやって来たじゃないか。今回もそうしただけさ」
「んじゃ、千冬の時は俺を頼りにしてくれよ」
「恋愛事以外では頼りにしているよ。それじゃあ、私は部屋に戻る」
そう言って、千冬は自分の部屋に戻っていった。
まあ、この状況じゃ、恋愛事の相談は出来んわな。…にしても俺の片割れってばカッコイイねー。こりゃ、バレンタインに女子から大量にチョコもらう訳だ。納得。
さて、ゆっくり考えますか。
翌日、卒業式。
中学生活最後の日。旅立ちの日であるのだが、俺にとってはそれよりも大事な事があって、それに気を取られ、卒業式も上の空だった。
何人かのクラスメイトと別れの挨拶を交わした後、俺は昨日の約束の場所、校舎の屋上に向かった。
屋上に着くと、すでに束と真耶が来ていた。
「二人とも、早いな」
「私は卒業式の片付けを終えてから来ましたから、ついさっきですけどね」
「私は卒業式が終わってすぐ来たから結構待ったよ。…それで、答えを聞かせて貰えるかな?」
「…分かった。と言っても、本当に最低な答えしか出せなかったけど…それでもいいか?」
「「…うん」」
「俺には、束と真耶、どっちが好きかなんて決めれなかった。『白騎士・黒武者事件』の時、俺の守りたい人って誰かを考えた時真っ先に頭に浮かんだのは、俺の家族を除けば束と真耶の二人だったから。だから、たまには俺の本能に従おうと思ってさ。束、真耶、お前ら二人纏めて愛してやる! これが俺の出した最低な答えだ。これが俺の本心だ。幻滅したのなら嫌ってくれても構わない」
本当、一日、がっつり考えても人間として最低の答えしか出なかったよ。でも、この二人の告白は本心からの物だ。なら、俺も心の底からの答えで返すべきだろう。たとえそれが最低な物でも。
「最低なんかじゃないよ!」
「そうです。最低なんかじゃありません!」
大声でそう言う二人。いやいや、常識的に考えて最低でしょ。
「私はね、たとえどっちが選ばれても、どうしようって思ってたんだ」
「私もです。私を選ぶにしても束さんを選ぶにしても、それを流して元の関係に戻りたくても戻れない、そんなネガティブな事を考えていました」
「「でも、二人とも受け入れてくれるのならそんな心配ないよね(ですよね)。だから、私はかずくん(一冬さん)を愛します」」
「…いや、俺が言うのもなんだけど、よく受け入れられるな」
普通受け入れられないと思うぞ。
「んー、私達の共通の答えとして『かずくんは好き。でも、ライバルも好き』って言うのがあるんだよ。ね?」
「そうです。本当ならライバルなんで、蹴落としたりしないといけないと思うんですけど、私達にはそれが出来なかったんですよ。だから、全部一冬さんに任せようってなったんです。それで、その答えをちゃんと受け止めようって」
だから、あっさり俺の答えを受け止めたのか。
「それにね、かずくん。私は思うんだよ。確かにこの言葉は今の常識や倫理から見たら最低かもしれない。でも、常識や倫理って、人間の理性が作った物でしょ? でも、愛とか恋って、もっと人間の奥の部分、本能的な物だと思うんだよね。だから、それに関する答えをそんな物で量っちゃいけない、ううん、量れないと思うんだよね」
「そうかもしれませんね。さっきの一冬さんの言葉は普通に考えていれば、最低で受け入れがたい物かもしれません。でも、一冬さんを想い、ライバルとの関係も大切にしたい私達にとっては最高の答えです」
こいつらは…本当、俺にはもったいないほどの女たちだよ。こんな二人に想われて、俺はマジで世界一の幸せ者かもしれないな。
「…そうか。これからよろしくたのむ。それで、今俺にやって欲しい事ってあるか? 一日待たせた詫びだ」
「一日くらい構わないけど…うーん、じゃあ、ギュッて抱きしめて」
「わ、私もお願いします」
「分かった。で、どっちから?」
「まやまやからどーぞ。私はこの前フライングでやってもらったから」
「…それ、後で詳しく教えてくださいね、束さん」
「りょ、了解」
束、余計な事言ったな。
「一冬さんもですよ?」
「イエス、マム」
力関係のトップに今、真耶が立った。
…そういや、親父もお袋の尻に敷かれてたな。これも血の成せる業か? いや、よく考えれば楯無さんも、真一さんも、柳韻先生も奥さんには頭上がってないし、案外そういう物かも。
「それじゃ…」
俺は真耶の傍に行き。彼女をギュッと抱き締めた。俺の腕や体に真耶の温もりや柔らかさが伝わってくる。
「一冬さん…」
真耶も俺を抱き締め返す。より温もりとか伝わる気がするんだけど、それよりも気になる、というより気になってしまうのは、中学生離れした真耶のその胸の双丘。真耶が抱き締め返したことによって、俺の体に押し付けられる形になった。いや、凄く嬉しいんだよ? でも、意識しすぎて、ある一か所に血が集中しちゃうんだ。それがばれると流石に不味いだろう。いきなり嫌われたくない。
「…譲ったけど、やっぱり私も混ぜろ~」
そう言って俺達の方に飛び込んでくる束。
「うお!?」
「きゃ!?」
支えきれず倒れてしまう。それでもなんとか、二人がケガをしない様に庇いながら倒れる。
「痛てて…。真耶、束、ケガ無いか?」
「私は大丈夫です」
「私もだよ。…ゴメンね、かずくん。ていうか、かずくんケガ無いの?」
「背中打っただけだ。これくらいなら全然平気。千冬の打撃の方が何百倍も痛い。束、これからは気を付けてくれよ?」
「うん…」
「まあ、俺としては二人をちゃんと庇えてたから、これくらいの痛みは平気だぜ?」
二人に心配掛けないために俺は笑顔でそう言う。
「「…ズルいよ(です)」」
何がズルいのかは分からないが。顔を赤くする二人。
「しかし、束はともかく真耶とはこの一年、そう簡単には会えなくなるんだよな。折角恋人同士になれたのに」
「大丈夫ですよ、一冬さん」
「ふっふっふ、実はね、まやまやは一年飛び級する事が決まっているのだよ」
「…マジで?」
「マジだよ。私作の第三号機「如月」のテストパイロットだし、学業も優秀だからね。安全を考えて、まやまやにはそうしてもらったんだよ。今日のかずくんの答えを聞くまではまだ、確定じゃなかったんだけど」
「今日、ここまで嬉しい結果になったから、私は困難でも飛び級して、皆さんと一緒に行きます」
「そっか…。それじゃ、また皆と同じ学園生活が出来るんだな」
「「そうだよ(ですよ)」」
「それじゃ、今日は帰るか。では、お姫様方、お手を」
俺はそう言って、彼女たちの前に手を差し出す。彼女たちは俺の手を握る。
そして俺達は歩き出す。俺達が切り開いていくこれからの道を。
超展開ですね。
一応ここで物語の導入部分は終わりです。ここからはIS学園編になります。
原作までまだまだだなあ…。