私、丸山彩! アイドルのトップスターを目指す高校一年生!
今日もレッスンを受けて、研究生として日々研鑽、夢に向かって一歩前進! そんな風に頑張ってます!
「お疲れ様です!」
でも、ずっと埋もれてる。同期で入った子たちは辞めちゃってるか研究生からアイドルに羽ばたいている。けど、私は未だに研究生止まり、トークのなさとあがり症が原因なのはわかってるんだけど……舞台に立つとどうしてもトチっちゃうんだ。
「ただいまー」
「おかえり彩」
「お母さん、道場借りるね」
「ええ、いいわよ」
お母さんは空手道場の師範で、私も手ほどきを受けてるけど、まだまだ。嫌なことがあったり、レッスンで上手くいかないことがあると、ここで私は一人静かな時間を作って精神統一していた。
今日も、また後輩だった子が一人新しくアイドルグループの一員になる。私は選ばれなかった。夢がまた遠のいたことで泣き虫な自分を振り払っていく。
「うう……ぐす、負けない。私は……絶対」
気持ちをリセットして、明日からの自分で頑張ろう。そうやって過ごしていた時だった。新しいアイドルグループを作るという話が飛び込んできた。
今流行のバンドとの融合、そこのボーカル枠に私が指名されたなんて! 他の枠はまだ決定していないけど、四月にはお披露目がある。私は溢れる活力でその日を待っていた。
一日一日を大事に、レッスンを重ねていく私に、ふと同期の研究生だった子から声を掛けられた。
「丸山さんって、まだ諦めてなかったんだ」
「……え」
「アイドルバンドの話聴いたよ。でもそのグループ、見切り発車って噂あるよ」
「そ、そうなんだ。でも私は──」
「才能ないから、見込がないから
「……っ!」
なんでそんなこと言うの? そんな声は私の喉から出なかった。物凄く暗い顔、何があったのなんて聞けない、でも怖い顔をした、一緒に研鑽し合った仲間だと思っていたその子は、私に呪いのような言葉を吐いてくる。
「才能ないんだよ。そんなので、トップスター? 芸能界ナメてるでしょ?」
「私は、私……」
「そんな夢、捨てちゃえ。叶わない夢なんて……捨てろ、今すぐ捨てろ」
胸が痛んだ。私だって、才能がないことくらいわかってるよ。いっつも、どんなに練習したってトークはミスしちゃう。あがり症でダンスも覚えてるのにステップ間違えたりする。でも私はアイドルが好き、あの人のようにキラキラしたくて、私は……あの人に夢をもらったんだ! だから、捨てられない! 捨てたくない!
「そうです、捨てる必要なんてありませんよ」
「……え?」
「誰だ!?」
──そんな時、声が聴こえた。キョロキョロと辺りを見渡すとネコ……なのかな。妙な、なんだからぬいぐるみみたいなネコっぽい生物が事務所の机の上にいた。
その口から、かわいらしい女の子の声がする。
「キサマ……まさか」
「やっと見つけた。悪魔め……」
「アクマ?」
「うぐっ!?」
その不思議生物を認識した途端に、その子の動きがおかしくなった。苦しんでる。喉を抑え苦しみ、そして……口から真っ黒な泥のようなものを吐き出した。
な、なにこれ……おぞましい、怖いという感情に支配されるそれは、どんどんと友達の身体を覆いつくしていく。
「あれは悪魔です。夢無き世界の住人。他者の夢を食らうもの」
「え……わ、私の友達が悪魔?」
「いいえ、彼女はただ囁きに呑まれたです」
夢を失った人間の心に住み着き、他者の夢を妬ませ恨ませたり、夢を抱けない自身に絶望させることを養分として成長する。そして成長した悪魔は別の人間の夢を食らって、仲間を増やしていく。
──正直、説明されてもちっともわからなかったけど、あの子が悪魔ってわけじゃないんだよね? で、でもつまり悪魔のターゲットって。
「そう、あなたです」
「わわ、嘘!?」
驚くのと泥が角や腕、身体を形成したのはほぼ同時だった。まるで骸骨のように白く煤けて落ち窪んだ頬に剥きだしの鋭い歯。眼球なんてなさそうな黒い空洞なのに奥には血の赤のような眼光が私を真っ直ぐに刺してきた。
「ガァァァァァァア!」
「ひっ、やだ……嘘……」
腰が抜けた。体長は二メートルくらいになっていて、私はあまりに怖くて走ることも声を上げることもできなかった。
こんなところで、私の夢は終わっちゃうの? 私は、トップスターになるのに……こんなワケのわからないことに巻き込まれて……失っちゃうの?
嫌だ! 心の中で私は叫んだ。せっかく、夢への切符を掴んだところなのに、こんなところで……!
「悪魔が夢奪い、世界を滅ぼす時──五色の花の勇者が、夢を以て世界を護る」
「……え」
「私の世界、精霊界に伝わる伝説です。あなたはその勇者として、選ばれました」
「え、なに……なにこれ!」
ピンク色の光が私を包んで、悪魔の腕を止めていた。まさしく言葉通りなにこれ、という状況だ。私の身体から出てるの? 混乱した頭に追い打ちをかけるように不思議生物が私に声を掛けた。
「強く思い描いてください、あなたの夢を」
「夢……」
「夢を奪う悪魔に対抗するのもまた夢です。夢を強く確かなものとすれば、悪魔を討ち果たすことができます」
咄嗟に思い浮かべる。私の夢。キラキラのアイドル。
ステージの上で輝く、小さな、けれど大きな星。トップスター! 私の、成りたいもの、私が成ってみせるもの!
「え、わ……これは?」
ピンク色の輝きは五色のパステルカラーに輝くアステリスクを象ったバングルとパステルピンクの指輪に変わった。右手首にバングル、左の指にリング。さあ、と促されるままアステリスク型になってる中央部分のボタンを押す。五色に明滅するバングルに右手の人差し指にはめたリングを重ね、バングルの輝きがリングの宝石と同じパステルピンクに変わった。
「……これは」
「そのアイテムはあなたを勇者として、夢とそのイマジネーションを魔法に変えてくれます」
制服姿だったはずの私の姿が変わっていく。まるで夢に見たキラキラのアイドル衣装のような姿に、髪も下ろしていたはずなのに研究生として頑張っている時と同じツインテールに、変身していた。
「わぁ……!」
「危ない!」
「わっ──!?」
巨大な拳が迫り、私はそれを地面を蹴って……遥か後方に避けた。え今私三メートルくらい下がったよね? そう慌てているけど、もう一度あのネコっぽいアレの説明を思い浮かべた。
えっと、夢を魔法に変換する。つまり今私はその魔法でパワーアップしてるってこと?
「その通りです、ひとまずここは不利です。建物の外に逃げましょう」
「う、うん!」
ダッシュで、そう物凄いダッシュ力で悪魔から逃げ出す。事務所めちゃくちゃだけど大丈夫なのかな……って気にしてる場合じゃないよね。
私は公園の方まで逃げて、悪魔に振り返る。人はいないね、大丈夫だね?
「反撃です!」
「反撃……うん!」
すぅ、っと息を吸って、吐き出す。不思議生物が言うには勇者はその魔法力で指輪から武器を創り出し、戦った。そしてなんとなく、感覚的にその魔法ってのがどういうものか、私にはわかっていた。イマジネーション力。つまりは自分が振るってイメージの湧くもの。そんなの決まってる。
幼いころから学んできた、何かを守るための力が、私にはあるから。腕には手甲、脚には羽のついたブーツが装着されていく。指輪が魔法の力で分解され、武具になっていくってこういうことなんだと思いながら、右手を後ろ左手を前に、脇を締めて組手の基本の型を取った。
「ハァァァ──」
精神統一、集中、迫ってくる骸骨のような悪魔の巨体を見据える。薙ぎ払おうと相手が右手を大きく広げて私に迫らせた。それを合図に私は一足で悪魔の懐に飛び込み、低くなった頭……顎に思いっきり前蹴りを放つ。
「グギッ──!?」
「ヤァアア!」
蹴り上げられ上体ががら空きになったところで構えを素早く戻してから右足を相手の脇腹めがけて上段回し蹴り。その威力と衝撃の前に悪魔は吹き飛んでいった。
すごい、通じてる。私の全部が夢が! 相手に通じてるよ!
「今です、ありったけの魔力を籠めてください!」
「うん!」
天地の構えを取り、私は目を閉じた。息を吸って、吐いて、心のさざ波を落ち着けていく。右手に意識と魔法力の全部を集中させ、私は遥か後方に吹き飛ばされている悪魔を視界に収め、必殺の威力を籠めて空気に向かって正拳突きを放った。
「
前方に放った拳が空気を叩き、前方にいる異質の存在を破壊する。ガラスのように悪魔の身体が割れ、崩壊して、憑かれていた彼女だけがその空間に残されていた。
怪我は? 確認するけど大丈夫そう。よかったぁ……!
「ん、丸山、さん?」
「目が覚めた?」
「あたし……どうしてたんだろう」
医務室で、目が覚めた彼女は私が新しいアイドルになると聞いた時に許せないと思ったってことを話してくれた。自分の方が先にアイドルになって、夢を掴めると思った。でも現実はそんな簡単じゃなくて、摩耗して……気付けば夢の一歩を踏み出そうとする私に嫉妬した。
「丸山さんの方が歌もダンスも上手だし、すぐあたしなんて抜かされる……それが怖くて……怖くて……!」
「大丈夫、大丈夫だよ……」
これが、悪魔のやり方なんだね? 医務室から出て私は待っててくれたそのぬいぐるみ状のネコに問いかけた。
はい、かわいいソプラノボイスの肯定が聴こえて……私は今は見えなくなっているバングルが収まっている右腕にそっと触れた。
夢を奪って他人の夢を渇望させる。私にはそのやり方が赦せなかった。
「私、戦う……! どこまでできるかわからないけど、みんなの夢を守ってみせる」
「……よろしくお願いします、彩さん。いえ、ドリームスター」
夢を撃ち抜く、夢に向かう煌めく星! ドリームスター!
私は、こうして夢想の力で戦う勇者になった。アイドルとしての夢、夢を守る勇者、大変だけど頑張ろう!
世界観とか、わかんねーことだらけだと思うけどゆっくり描写していくんで理解できない場合は理解できないまま進んでいただいてくださいな。