夢想勇者☆パステルドリーム   作:黒マメファナ

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第10話:狙いはGREEN

 廊下を歩いていく。普段はこんなところを通ることはない。けれども私は奥へ奥へと歩みを進めていた。

 理由は単純、この奥の部屋で執務をこなす人物に呼び出されたからだった。

 ──緊張するわね。社長室の扉をノックし、白鷺ですと言うとどうぞと秘書の方が返事をする。

 

「失礼、します……」

「突然呼び立ててすまないね、いや僕からそちらに出向こうと思ったが執務が終わらなくてね」

「……はぁ」

 

 いつ見ても眩い金を纏うヒトだった。掛けていいよと促されお客様用のソファに座った私に秘書さんが紅茶を置いてくださる。

 軽く礼を言って社長に視線を送る。一体、どうして呼び出されたのか見当もついていない状態なのだから、少しでも安心がほしい。

 

「パスパレは、どうだい?」

「……形にはなっていますが、危機感が足りないとしか言いようがありません」

「フフ、ずばり言うねぇ」

「濁しては社長の質問に答えたことにはならないかと」

 

 なんだか最近は特にそう。まるで仲良しこよしの集団のようにしているみたい。頑張るのは結構だけれど、まるで現実が見えていない。このライブが失敗したなら何もかも終わりだというのに。

 

「しかし、少しばかりメンバーに目が向いていないんじゃないかな?」

「……どういう、ことですか?」

「彼女たちはそこまで蒙昧ではない、ということだよ」

 

 そう言って、社長室から外を伺う彼に釣られて窓際に移動する。そこには駅前の劇場のところで、通行人に何か声を掛けている様子の四人がいた。

 ──あれは彩ちゃん達? 何を……という疑問を声にする前に丸山くんがね、と社長が語り出す。

 

「チケットの手売りを提案したそうだよ」

「……彩ちゃんが?」

「ああ」

 

 チケットの手売りだなんて……めげない子ね。そんな風に上から見下ろしてしまう。手売りだなんてある程度顔が売れて人気、もしくは逆に全く無名だからこそ効果があるもの。ましてパスパレはアテフリ、口パクという悪名までついたグループだ。そんな記憶もまだ残っているこの状況下でなんて、無駄どころか逆効果でしかないのに。

 

「今頃、まだやっていたんだ、や解散したと思った、と心ない言葉を浴びせられているだろうね」

「……でしょうね」

「だがそれでも彼女たちはめげない。いいや、多少めげることもあるだろうがそれでも配るのをやめようとはならない」

 

 澄んだ瞳で、社長はそう語る。危険な行為だと止めようとしたと相談を受けたが僕は許可をした。そう楽し気にしている彼に向けてなぜそんな許可を? という疑問を口にする前に彼はまた口を開きその疑問に答えていく。

 

「僕は輝くスターの誕生を、夢溢れる彼女たちを……信じたくなったのかもしれないね」

 

 ──バカげている。私には理解できない。夢なんて、持っていても意味がないのに。努力なんて、あんなふうにこれ見よがしに曝け出してするものじゃない。

 あんなパフォーマンスのように努力を見せるなんて、と憎しみに似た感情が溢れてくる。

 

「……これを見せたくて、私を?」

「いやいや、それを踏まえて今後の方針を、と思ってね。こういう話は()()()()()()()()()()()()?」

「──っ! え、ええ……」

 

 その言葉は私の憎しみで開けられた感情の隙間に入り込んでくるような、甘い蜜のような声色だった。

 社長は、フフと笑い……私の肩に触れる。まるで蜘蛛の糸に絡めとられたかのように身体が動かない。

 

「そういう……コトですか? 成功のためとは言え()()だけは避けたかったのですが。未だ経験はありませんから」

「勘違いをさせてしまっているようだが、別に身体を使え、という訳ではないよ。キミが望むならそういう方法でもいいけれど」

「……遠慮しておきます」

 

 だろうね、と彼は離れていく。

 ──そして同時に確信した。彼は別にパスパレの成功なんて微塵にも願っていない。けれどああいうわかりやすいパフォーマンスを、利用しようとしているだけなのだと。

 

「随分と引き際がいいですね」

「何がだい?」

「手っ取り早いでしょう、そういう使い方の方が」

「フフ、フフフ、いやいや……」

 

 私の指摘に彼は今まで見た中で一番、面白いおもちゃを見つけた子どものような笑みを湛えて見せた。

 そして、彼はアッサリと言い放つ。私が成功を手にするためにとは思いつつも絶対にやらないことに肯定する言葉を。

 

「青い果実に興味がないだけさ。熟すからこそ果実は甘い……それだけさ」

「──つまり、清くいられるのは熟すまでだと」

「フフ……そんなずばりと言うキミにご褒美を上げよう」

「遠慮します」

「身構えなくていいよ……教えてあげるだけさ、僕の本当の名前を……」

「本当の?」

「ああ……僕の名前はアエーシュマ。夢を食らう六柱の悪魔が一、金弦のアエーシュマ」

 

 言っている意味が理解できずに怪訝な顔をすると、いずれこの名前を誰かに伝える時が来る……と笑みを浮かべた。その予言じみた言葉を最後に事務的なやり取りを少しだけ交わし、私は社長室を後にした。

 

「……なんなの、アレは」

 

 どっと汗が噴き出す。あれは危険すぎる。本能的な、根源的な恐怖を社長に……アエーシュマに感じた。

 誰に伝える? 誰に伝えれば理解してもらえるのだろう? そんなことを感じながら、私は次の仕事に、社長から言われたことをそのままスタッフに伝えるために事務所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴさんも彩さんも、最近どうしたんですか……?」

「彩ちゃん顔怖いよー」

「だ、だって……」

 

 麻弥ちゃんが危ない、ペオルのその言葉を信じて数日、私たちはなるべくいつも通りに……なってるかな? なってない気がするけど、狙われてると言われてはいそうですかと言うわけにはいかないんだもん。

 本当はチケットの手売りだって麻弥ちゃんを連れて歩くのはちょっと考えてしまったくらいなのに。

 

「いえ! 彩さんたちが頑張ってるのにジブンだけが留守番なんて……!」

 

 そう言われたし日菜ちゃんがアエーシュマって呼ばれる悪魔が近くにいるならあたしたちが傍にいた方が安全でしょ、と提案してくれたこともあって今は一緒にチケットの手売りをしていた。

 

「いやぁ、売れないもんだね」

「そうだね」

「これが悪魔の狙ったことなら、許せません……!」

 

 でも私たちは折れてない。絶望もしてないし、一歩一歩前に進んでる。その確信があるからこそこうやって頑張ってるんだから。

 ──でも、頑張りが無駄だったら? またあの時のように、せっかく頑張ったのに……何もできずに立ち尽くしてしまったら? 

 

「彩ちゃん?」

「……日菜さん日菜さん」

「ポップ、出てきたらダメって……もしかして?」

「はい……残念ながら」

 

 はっとする。悪魔の気配? ひとまず麻弥ちゃんを劇場に逃がさないと、目配せした瞬間にズン、と地面が揺れた。なにこれ? 地面が振動してる……!? 驚きに動きを止める間もなく、足許が崩れ始める。

 

「これは!?」

「ひ、な、なんですかあれ~!?」

「サメ? 違うね、シャチじゃない?」

「なんでそんな冷静なんスか! ここ駅っスよ!?」

 

 日菜ちゃん……けど、地面を泳ぐシャチって……なんかホントなんでもありだよね悪魔って。体長は五メートルから大きくても十メートルはないと思う。そんな巨体の背に誰かが乗っているのに気付いた。

 

「うわわ、っとぉ……意外と揺れるねぇ」

「……悪魔、だよね」

「でしょう。アレの背中に乗ってたんだし」

 

 間違いなく生成り……つまりあれがアエーシュマかベンヌのどっちかってことだよね。くあ、とあくびをするスーツ……じゃなくてあれは洋装かな。近世ヨーロッパから飛び出してきたような鳥の羽を模したようなハットと首のスカーフ、煤汚れたコートはちょっとだけ季節感がなくて、それが逆に彼の異常さを際立てていた。

 

「なんスか……あの人、客、なわけないですよね」

「あぁ、ん~、客っちゃあ客かなぁ」

 

 顎の無精ひげを撫でながら笑う背の高い男性はのんびりとそんなことを言った。茶色の髪と同じ髭、切れ目から見える眼光の鋭い瞳、年齢は四十、五十くらいかって感じの彼はそこの眼鏡の嬢ちゃんに用があるんでね、と口角を上げて懐に手を差し入れて、次の瞬間だった。

 鈍い音が駅に響き渡る。焦げ臭いような火薬のにおいが立ち込めて……悪魔の右手にはハンドガンが握られていた。薬莢が地面に落ちて、消えていく。

 撃たれた!? 麻弥ちゃんが!? 慌てて駆け寄るけど、傷はどこにもない、脈もある。

 

「麻弥ちゃん……っ」

「心配しなさんな、気絶させただけ──!」

「──破龍(ブレイクスルー)・黒」

「おおっ……黒い雷? こりゃバアルと同じ」

「白」

「今度は光! なんでもありかい青色の嬢ちゃん!」

 

 日菜ちゃん、もう変身したサニーがすっごい怖い顔でロッド……銘は破龍(ブレイクスルー)にしたらしい棍で近接戦を仕掛けていく。本来の姿である三節棍を伸ばして腕に巻き付き、黒い雷を発生させ、相手が銃弾で対応してきたら素早く戻して今度は連結した状態でロッドから光線を放った。

 だけどそれは避けられ、射撃を繰り返しながら距離を取っていく。

 

「ふうん……オジサン強いね」

「ハハ、おじさんは厳しいねぇ。これでもまだ六魔の中では末弟なんだがね」

「じゃあオジサンがベンヌってヒトでしょ」

「……ペオルかな? 相変わらず何を考えているんだか」

 

 あの悪魔がベンヌ、月鳴のベンヌ。というかサニーがソレしゃべっちゃっていいの? と思ったけど裏切りがバレれば一人敵が減るって思ってるんだろうなぁ。サニーは姉の紗夜ちゃんがまだ目覚めないことを恨んでる。悪魔を恨んでる。

 

「アエーシュマって悪魔の差し金?」

「ご明察」

「じゃあその悪魔と、ついでにサタンがどこにいるのか教えてもらいたい、なっ」

「いやぁ、それをしたら上司に怒られちゃうよ。おじさん中間管理職みたいなところだからね」

 

 ロッドを躱して街灯の上に立ち銃弾を放つ、放つ、放つ。おそらく魔力が銃弾になっているんだろうから弾切れはない。けれどリーチの差をサニーは強化された動体視力を使ってロッドで銃弾を弾き、弾き、避けて距離を詰めていく。

 

「お嬢ちゃん強すぎないかい!」

「あはは、破龍(ブレイクスルー)()()

「っ!」

 

 ロッドの先が刀に変化し、薙刀のように振るう。

 虚を突かれたベンヌはけれども咄嗟に身を捻ってハットのみを残して体重を後ろに下げて回避する。

 ──そしてその薙刀はハットをあっさり両断し、返す刀で街頭をまるで葱のように真っ二つにした。

 

「万物転換……まいっちゃうね。今のはさしずめなんでも斬るってとこかい?」

「ありゃ、バレちゃう?」

 

 イヴちゃん、ドリームスノーと同じ特性。相手がどういう能力を使うかを知ることで応用が利いてくるって言葉通り、まるで相手の技を真似しちゃうみたいな感じなんだね。そんな風に眺めていると、ポップに名前を呼ばれる。

 

「さっきのシャチが」

「そっか……狙いは麻弥ちゃんなんだもんねイヴちゃん麻弥ちゃんを連れてどこかに!」

「ガッテンです!」

 

 ──変身をして足止めを担当する。地面から顔を出した姿は本当にシャチだった。ただかわいい感じのパンダ柄じゃなくて骸骨みたいにごつごつした灰色。牙を剥きだして口を開けて迫ってくる。よし、ひとまずコイツを倒せば! 

 

「──って思うよなぁ!」

「うぐっ!?」

「ハッ! ソイツは囮だよバカが!」

「バ、バアル!」

 

 唐突に表れたバアルの旋棍、ヤグルシを脇腹に食らってしまう。けどイヴちゃんを追いかけず続く猛攻を仕掛けてくるってことはイヴちゃんの、スノーの方には!

 しまった、バアルもベンヌもシャチもみんな時間稼ぎが目的で、本命にはきっとシャヘルとサタンの二人が! 

 

「おせぇんだよ」

「う、く!」

「どうした! 反応できて、ねぇ!」

「きゃっ!」

 

 脅威の連打を捌ききれず体勢を崩され、回し蹴りを食らって吹き飛んでしまう。

 ──まただ、また、なにもできない! 悔しい、悔しい……私は、私は弱いままだなんて! サニーはバアルを圧倒した。今もベンヌを振り切ろうと必死に戦ってる。きっとスノーも、今頃麻弥ちゃんを護るために戦ってる。私は……私は? 

 

「私は……」

「なんだ……こりゃあ」

 

 失意と悔しさの間に何か光のようなもの、金色が降り注いだ気がしたと思ったら、意識が遠く、闇に閉ざされていく。

 声が聞こえる。甘い声、すべてを赦してくれるような優しい、男の声がする。

 熟した果実は、僕のものさ。それを最後に、私は私から切り離されていった。

 




悪魔の連携にピンチでございます。
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