──目を覚ます。するとそこはどこかの医務室のようなベッドの上だった。変身は解除されていて、日菜ちゃん、麻弥ちゃん、イヴちゃん、そしてひまりちゃんが心配そうにこちらをのぞき込んでいた。
「アヤさん!」
「無事だったんですね!」
「ま、あたしたちがちゃんと守ったからトーゼンだけど!」
そっか……私、自分で自分の制御が効かなくなって、危なかったところをイヴちゃんと……悪魔に助けてもらったんだ。
とそこまで思い出したところで、あの後のことを訊く。なにがあったの、という質問を遮ったのはその場にいた誰でもなかった。
「──なんで、テメェらがここにいる」
「バアルっ!?」
驚いて上体を起こすと医務室のカーテンが開けられて、隣のベッドでバアルが寝ていた。傷を手当された跡が痛々しく、一瞬だけ大丈夫と声を掛けそうになった。でもバアルが寝てるってどういうこと? ここはどこ?
「いいですか彩さん……ここは」
「──我々の本拠地、ということだ」
更に被せての声、落ち着いた、けれど切れ味のある刃のような冷たい男の人の声。北欧系の顔立ち、イヴちゃんに近い印象のある顔立ちと青い、澄んだラピスラズリのような瞳、そしてまるで色という概念を置き忘れてしまったかのような美しく白い髪。サタン、悪魔たちのボス、二度目の対面となるその立ち姿は、だが以前のような寒気はしなかった。
「サタン、なんで勇者どもがそこにいる」
「少しばかり状況が変わってね」
「状況?」
「覚えていないか。キミはベンヌに撃たれた」
「……っ!」
ベンヌはそのあとシャチのような悪魔を捨て駒にした隙に完全悪魔化、逃げ延びたらしい。そしてその状況を説明してくるサタンへの疑問は、ひまりちゃんがすごく敵意を向けながら、落ち着いて聞いてくださいと口を開いた。
「一時休戦となりました」
「休戦?」
「納得いかない……としか言いようがないのですが」
「立てるか? 少しばかり話がしたいのだが」
「……わかった」
立ち上がり、部屋に通される。向かい合わせにサタンが中央でケガをしながらもやってきたバアル、そしてシャヘルとペオル。四体の完全体、私たちと敵対していたメンツが勢ぞろいだった。これだけのメンツが揃って、休戦ってどういうこと?
「裏切りやがったのさ、ベンヌ……っつうよりやっぱりアエーシュマが」
「それより前に、情報を共有しておこう」
サタンが口を開く。自分たちの目的を、そしてなぜアエーシュマと対立したのか。私たちはその言葉を聞き逃すまいとじっとサタンに視線を集める。もしも変なことをしようとするなら全員で即変身してバアルを攻撃する、そういう意味を込めていた。
「わたしが元々は精霊界にて神の意志を伝えるものだった……というのはそこのーーサンフラワー・ドリームポップから聞いているものだと思う」
「それで?」
「──精霊界を滅ぼしたのは、わたしではない」
「は!?」
その言葉に、全員が驚きの声を上げた。滅ぼしたのが、サタンじゃない……? どういうこと? ひまりちゃんもそれを知らなかったようで、怒りと共に机をたたいて立ち上がる。ふざけないでと言葉を荒くする。
「あなたが……! あなたが私たちの生活を奪った! 家族を! 友達を! 仲間を奪った! あの日あなたたちが侵攻してきたあの瞬間を! 私は絶対に忘れない!」
「……ああ、侵攻をしたのは事実だ。だが我らの目的は、あの世界の滅亡ではない」
ひまりちゃんが言葉を失ったように目を見開く。怒りに涙を流し、食ってかかろうとする彼女をまるで制するように、サタンは淡々とそれでいて静かな感情を込めて話を続けていく。世界の滅亡ではない。ならなぜ世界は滅びたのか。
「我々は自然のエネルギーを絶望で捻じ曲げた、魔の力を扱う。それは精霊を反転させた存在だからだ」
「……精霊の、反転? あ、悪霊みたいなものってこと?」
「言葉を変えるなら、そうなる。精霊とはあり方、その存在そのものが逆、それが悪魔だ」
「だから、だからどうしたっていうの?」
──声が震えてる。それは、ひまりちゃんも気づいているからだ。夢を反転させた力を扱い精霊とは全く逆の存在。夢の力がないと存在が維持できなかったひまりちゃん、ポップの逆ということはつまり……悪魔は。
「魔を摂取しないと生きていけない……っスか」
「そうだ」
「だからって、私たちの生活をめちゃくちゃにしたんですか!?」
「……そうすることでしか、生き永らえることができない」
人間だって、同じだ。人間は植物や動物を食らうことで生き長らえている。それが知性ある生物同士でしか起きえなかったから、こんな悲劇になった。人間を食らう人間が生まれればきっと、私たちもこうなるんだ。
「そんなことで納得できると!?」
「天使長だったサタン様は、それを憐れまれた、そして賭けたのだ」
「……賭けって?」
日菜ちゃんがひまりちゃんを落ち着かせながら疑問を挟む。シャヘルが語るには夢も魔も司ることのできる存在が、精霊界にはたった一人だけ存在していた。
夢を魔法力に変換し、イマジネーションを扱うことのできるものが。
「……まさか、伝説の正体は」
「ああ、五色の夢と一色の魔を操る勇者、我々はその存在に救いを託した」
五色の夢と一色の魔を操る……それが勇者。私たちの力の正体。サタンたち悪魔はそれによって救済を求めた。種族としての救済を。
だが、それを良く思わなかった人物が……アエーシュマだったんだ。
「あれは破滅や暴力を好む、危険な存在だ。わたしはそれを見抜けなかった」
「……勇者は出現したが、助けを請うた我々に突如襲い掛かった。多くの仲間が屠られ、サタン様の中へ還っていった」
仲間を、屠られた。背筋が寒くなる。操られたんだ……私と同じように、身体を奪われ、その絶大な力を振り回し、世界を破滅に導いた。アエーシュマに操られて、暴走して。
──精霊界を滅ぼしたのは、精霊界の夢を奪いつくし死の世界に変えたのは……その勇者だった。
「そんな……!」
「それで、そのアエーシュマが今度はあたしたちの世界を滅ぼそうとしてるってこと?」
「そういうことだな。ベンヌを探ってたんだが、やっぱアイツは手ェ組んでやがった」
「そしてどうやら、アエーシュマは勇者の力を奪って我が物にしているようだな。ベンヌの回帰に力を貸したのも、ヤツだろう」
先代勇者の力を奪ったアエーシュマとベンヌは今度はこの世界を滅ぼす。サタンたち通常の悪魔は、種の存続……そのためにこの世界の人間から夢を喰らい、生きながらえるというもの。
「……どっちも許せないよ。あたしは」
「日菜さん……」
そうだ。結局、どちらとも分かり合うことはできない。紗夜ちゃんを、お姉さんが未だ眠ったままの日菜ちゃんにとって、それは特に顕著だ。それはサタンたちもわかっているからこれはあくまで一時的な休戦に過ぎない。アエーシュマは自分と自分の配下以外の全てを消そうとしているのだから。
「ドリームポップ……いや上原ひまり」
「……なんですか」
「精霊姫であるキミならば、残り一人の勇者候補も、本当はわかっているのだろう」
「……せいれい、き?」
「わかってはいますが、彼女の周囲には常に悪魔の気配が付きまとってる。そう思って麻弥さんのことも言わずにいたんですから」
ちょっと待って? ひまりちゃん、ポップってお姫様だったの? お姫様と言ってもこの世界で言う巫女のようなものです、と言い放つ。特にその役職に意味はなかったとはいいつつも、彼女は勇者の力を継ぐものを見分けられると。
「え、でも日菜ちゃんの時は」
「……記憶が残る時点で、察してはいました。私だってやっぱり万能じゃないんです。芽が出ていないと見分けることは難しいんです」
「へぇ、そうなんだ」
そしてもう五色の夢を持つ勇者の力を継ぐもの、その最後の一人をひまりちゃんは知っていると名前をつぶやいた。
──同時にそれは最悪の展開でもあることを、サタンは予感していたようにやはりかと応えた。
「ええ、おそらくアエーシュマはもっと確実に勇者を継ぐものを見分けられるのでしょう」
「すると自ずと正体も割れてくる、か」
「……どいつだ。オレがきっちりケジメをつけてやらねぇと気がすまねぇ」
考えればおかしいことだったんだ。私が勇者の力に目覚めたすぐあと、ポップは二人目の勇者、イヴちゃんを見つけていた。そして日菜ちゃん、麻弥ちゃん……そして、五人目である、千聖ちゃん。この五人が同じアイドルグループをしているのは、偶然じゃない。アエーシュマによって既に、仕組まれたものだったんだ。
「するとマネージャーとかプロデューサーとか、その辺ってことだよね」
「そう、ですね……ペオルさんは誰か察しているんですか?」
「おそらく上層部の誰か、ってことまではな」
「ジョウソウブ……つまり事務所でパスパレを組むことを提案した人が、悪魔だったということですか?」
衝撃的な事実、そしてここまでは完全にアエーシュマの掌の上だったという事実が、私やひまりちゃんの表情を固くさせていた。
日菜ちゃんは、それより、と立ち上がる。立ち上がり、リングを指に掛けて変身する体制を整えながらサタンの襟首を掴んだ。
「敵の目的はわかった。けどさおねーちゃん、まだ眠ってるんだけど?」
「夢を奪われたものは廃人か眠り続けるかの二択だ」
「……っ!」
「だが、方法はある」
「……なに」
一触即発の雰囲気の中、サタンは一切声のトーンを変えずに淡々と説明をしていく。夢は奪われるだけではない、と。強大な夢の力を持つものによって夢は与えられることができるのだと。
「それって……!」
「勇者としての力を、想いの力をプラスに働かせれば、与えることができる。それが夢奪われたものたちを救う唯一の方法でありーーいや、これ以上はよそう」
「……よろしいのですか、サタン様」
「いいんだシャヘル。まだ決まっている事象ではないのだーー見返りくらいは用意しよう。こちらにもまだ、言いたいことがある」
言いたいこと? というよりその言葉はまるで忠告のようにも聞こえた。
──先代の勇者について。悪魔たちは世界が滅亡した際にこちらに渡ってきた。勇者の力も。それゆえに、サタンは確信していることがあった。
「先代勇者は……この世界にいる」
「……え?」
「先代勇者、ティアマトーは……悪魔だからだ」
「アクマが……ユーシャ、ですか?」
どういう状況になっているかはわからないが、その勇者であり悪魔でもあるものを既にアエーシュマは手の内に入れている可能性がある、と。
──五人目の勇者、千聖ちゃんと先代の勇者、そして七体目の悪魔ティアマト。そしてアエーシュマとベンヌ。当面の目標はこちらに絞られることになった。
☆丸山彩の悪魔メモ
・鯱の悪魔:マルコシアス
見たまんまシャチの悪魔。大柄な体長で海じゃなくて地面を泳ぐ獰猛な悪魔。どうやらアエーシュマに操られているらしく理性はないものの的確に作戦を立てて攻撃をしてくる厄介な相手だった……らしい。私はほとんど対峙してないからあれだけど、シャチと同じでメロン体、ってのが頭部にあってそこが外皮の中で一番柔らかく弱点だったみたい。日菜ちゃんが撃破。
・金鎧の悪魔:デーモン
恐らくはアエーシュマが悪魔と勇者の力を組み合わせて量産した悪魔とも言い難い成れの果てだな。一体一体の性能は低いがその分数が多く。アエーシュマが操ってるため隊列を組んでくるところが厄介なところだな。あの時は大和、ああいやドリームファイアの殲滅力でゴリ押しした感じだ(ペオル記)←なんで勝手に私のノート読んでるの!? 日菜ちゃんの言う通り一番最初に滅されるのペオルだからね!?