悪魔と手を組む、それは一つの方法ではあるけれど相手に背中を見せるようなものでもあった。だが、紗夜ちゃんや悪魔に憑かれてしまったほかの人たちを元に戻す方法を示したことで、日菜ちゃんも納得をしたらしい。
「オラ! 再構築がおせぇ! まだイケるだろ!」
「く、こう、っスね!」
「おう、できんじゃねぇか」
そして特訓にはバアルとシャヘル、ペオルが来るようになった。シャヘルはサタンの命で独断専行の多いバアルに対する監視のようなもの。要するに私たちを倒しにいかないようにするためのもので、バアルは恐らく鬱憤晴らしと戦いに飢えてるから。ペオルはアイドル好きなのが本気のようで本人曰く目の保養に、だそうで。
「コイツ殴っていいよねスター?」
「いいよー」
「なーんか最近、サニーだけじゃなくてスターも塩対応なんだが」
「知らん。サタン様の命に従うだけだ」
「んだよ連れねぇな」
でもペオルのエメラルドの瞳は魔法力を視ることに長けているため、アエーシュマの糸を視ることができる。また、力の流れみたいなのがわかるから魔法力を使った戦闘を指導してくれる人としてはとてつもなく適任だった。
「というかさーペオルってホントに戦えないの?」
「戦えないんだよ。弱っちいからな!」
「胸を張ることではないな……だが本当にこの男は弱い。我々がエサをして使っていた悪魔に劣るレベルだ」
「でも風操るんだからほら、空気のカッターみたいなのとかできるでしょ? あたしできるし!」
「……できたら苦労しないんだけどなぁ」
そもそもペオルは己の魔力を十全に充満した空間でしか戦闘ができないらしく、野外戦や殲滅戦にはとことん向かないんだと呟いた。頼みの綱である風すら、全力でやってこれだからな、とペオルが右手を頭より高く上げると屋内にそよ風が吹く。髪がなびく程度の、扇風機で言うところの中、くらいの風。
「使えない」
「だろ? 操作はできるから向きを変えることはできるんだが、なっ」
「──!?」
そういうとペオルから吹いていた風が下から上に巻き上がり……結果私たちのスカートがふわりと巻き込まれ……ってなにやってんの? と叫ぼうとしたら既にサニーがボコボコにしてた。怖いよ日菜ちゃん。
「ねぇペオル?」
「悪かったほんの出来心だったんだマジで許してくれ!」
「アイドル好きとか言ってるくせにそのアイドルのスカート捲るとかいい度胸してるね?」
「目! 目が怖えよ!」
ま、まぁどの程度の能力なのはわかったし、最後に敵対したらまず手始めはペオルかなーって私も思ってるし。
シャヘルは付き合ってられない、とスノーと刀を振り合っていた。流石に同じ武器を扱うだけあって、スノーはメキメキと上達してる。よし、私も負けてられない!
「バアル! 私と勝負しよ」
「ああ? いいぜ」
バアルは勝負好き。ノリノリで戦ってくれるから私としてもサンドバッグにはもってこいだった。あと荒削りな戦いかと思いきやトンファーで要所要所はきちんと防御してくる。私のインパクトの拡張や収束は消費が大きいからその点は不利なんだよね。
──そして、またレッスンのない間はチケットを手配りしていくという日々を続けていた。
だけどやっぱり全然売れない……それが私の心をじくじくと痛めつけているようだった。
三日程だろうか、彩ちゃんたちは今もチケットの手売りを続けている。所詮無駄なのに、あの社長はそれをただ踏み潰そうとしているだけなのに。
何があなたをそこまで駆り立てるの……彩ちゃん。
「千聖」
「──っ! しゃ、社長……」
「そこまで驚くとは……すまないね」
「いえ……」
駅前で声を張る四人の姿を見ていると、後から社長がやってくる。少しびっくりしすぎてしまったことに対してフフと笑われてしまうが……彼の突拍子もない言葉と不気味さを知れば誰だって飛び退きたくもなる。
「やっているね……だが売り上げは芳しいとは言えない」
「でしょうね。私から見れば無駄な努力でしかないですから」
「だがなぜ、彼女たちは戦うのだろうか? 相手は強大だ、絶望し、膝を抱えてうずくまるようなところで」
「……それがわかったら、こんな風に観察はしませんよ」
言い方が変だ。まるでその敵にカタチがあるような言い方だった。
同時に、肩に手を置かれる。ぞわりと悪寒がして肌が粟立つと同時に、まるで糸に絡めとられたように身体が動かなくなってしまう。
「キミに見せてあげたいんだ……絶望の正体を」
「……なにを?」
彼が、悪魔の笑みをたたえて指を鳴らす。通行人が……全員溶けて消えていく。何が起こったのか理解できない。そして代わりに、金色の鎧を纏い、二本の角をはやした骸骨のような兵隊が地面から生えるようにして現れた。
「あれは……!?」
「僕の兵隊たちさ……そして彼女らの、敵だ」
「……あなたが?」
社長が敵? すると彼女たちが、戦ってるのが……悪魔? 突拍子もないファンタジーを見せられて、私は困惑するしかなかった。だが社長は楽しそうに笑い、さあじっくり観察していくといい、と社長室に通されていく。
「……あれが、絶望だ」
彼女たちは本当の意味で戦っていた。日菜ちゃんも、麻弥ちゃんもイヴちゃんも……彩ちゃんも。ああ、これが、これが……絶望。本当の敵はこんなに近くにいるのに、私の隣で高みの見物をきめているのに。彼女たちは攻撃を受けたりしながらも戦っていく。
「そしてキミにも、その素質が宿っている」
「……私、にも?」
「そう、千聖……キミの力を引きだしてあげよう」
頭に手を置かれ、自分の記憶が流れ込んでくる。無理やり脳をいじられたような三半規管がおかしくなったような、気持ち悪さがあり、だがそのせいか私の身体が黄色の光に包まれ、社長の、悪魔アエーシュマを弾いた。
「見つけた……キミの覚醒のトリガーを。さあそのリングを使うんだ」
「どうして……? こんなこと……!」
「千聖、拒否権はないよ。それともここで死ぬのかい?」
「──っかは!」
何か見えない糸のようなものが黄色の光を貫き、巻き付いてくる。この糸が締まれば簡単に私は死ぬ。まるで心臓を鷲掴みにされたような恐怖が襲ってくる。嫌だ、嫌だ! 死にたくない! 私は……私はこんなところで。
「くっ!」
「そうだ、彼女たちを見ただろう? キミもそうなるんだ!」
イメージの凝縮、彼女たちと同じような衣装姿になる。これが……変身? 私も、勇者に、頭の中にイメージが爆発してくる。
──夢を撃ち抜く、夢を阻むものに鉄槌を! ドリームサンダー。それが、勇者としての私。
「ドリームサンダー……それがキミの勇者としての名か」
「……あなたが私を阻むというなら」
「まさか。僕はキミの味方だ」
「……なにを言って?」
キミの夢を後押しするのが、僕のしたいことさ。そんな声が糸に乗って届いてくる。どうやら私の周りにその見えない糸がまだ張り巡らされているらしい。だが僅かに感じる力の……魔力の流れがそれがすべて彼から伸びていることを察知した私は手を出し糸に触れた感覚に従い握る。その魔力を逆流させるイメージで私のチカラを流し込む。それは電気となり彼を感電させていく。
「う……!?」
「こんなものを張り巡らせているあなたを……信用できるはずがないでしょう?」
「フフ、フフフ……素晴らしい。やはりキミが一番大きな力を持っている。バアルのように雷を纏うことで反射と反応を上げるのではなく、魔力の流れを手繰る……! これほど繊細で大胆な操作ができるのはキミだけだ千聖……いやドリームサンダー」
まともに受けたはずなのに饒舌に、アエーシュマはまるで子どもがアイスの当たり棒でも引いたかのように嬉しそうに、だが心底邪悪に笑んだ。
そして今度はこちらの番だとでも言いたいように指を鳴らす。その途端、私はまるで縫い付けられたかのように身動きが取れなくなった。
「……っ!?」
「ああ動かないでくれ。キミの首を絞めた時に少し細工をしてね」
「なに……?」
「私の糸は……この髪なんだ」
そう言って、アエーシュマは美しく纏められた金色の長髪に触れた。
髪……!? 人間の髪は……日本人の多い割合で約13万から14万ほど、ブロンドの欧米人では15万を越えると言われている。相手が正確に人間ではないと仮定しても、そういうことだろう。だが、その髪が一本一本は細かいとしても目を凝らしても見えないという風になるのは……と考察したところで、答え合わせのようにアエーシュマは語り始めた。
「そして僕の能力は、これは本来あまり戦闘向きではないんだが、感覚変化と操作、というものだ」
「……感覚、変化と操作?」
「そう。僕の髪を媒介に魔力を流し、感覚を三つまで変化できる。例えばキミに使っているのは僕の髪の色を認識できなくなる色覚の変化、そして貫かれてもまったくの痛みのない痛覚変化、そして意識の操作」
「──っ!」
魔力で髪を操作して髪の長さを操って自在に相手の感覚を操作する……確かに戦闘向けではない、だがそんな凶悪な能力が……と考え脱出しようとするが、身体に刺さっているということは魔力を流し込めば私自身をも感電させてしまう。即座に対応してくるなんて……この相手は、強い。
「僕はキミが欲しい……千聖。そのためならキミの夢への最短を約束しよう」
「……なるほど? 手駒がほしいと?」
「フフ、正解さ。こちらは手数は多いが粒は小さくてね……しかも向こうは相容れないはずの陣営が手を組んだ。キミの雷の力と僕の糸の能力、そしてベンヌくんの力さえあれば、打倒も可能……というわけさ」
「いいわよ……なってあげるわ」
「強気だね、それじゃあこれからよろしく、僕の千聖」
その言葉を最後に身体の自由が効くようになる。どうやら向こうは……と観察していたら何やら魔力を持ったものたちと協力をして一掃していた。
相容れない陣営との共闘、つまりあのアエーシュマは悪魔の裏切りもの……そして私は勇者の裏切りもの、というわけね。
「たとえそうだったとしても……私は、私の成功を収めてみせる」
──そう、例え。彩ちゃんたちを……殺すことになっても。
私は無駄な努力はしない。努力なんてして当たり前、それを積み上げた上で、何を成すか、それが私の生きる道、私の夢に繋がる最短距離なのだから。
社長はロリコンなんですかね……?