千聖ちゃんが最後の勇者だった。その情報をもたらされてから、私はなんとかして一緒にと誘ったけれど、全部きっぱりと断られ続けていた。
──まぁそうだよね。でも、そんなことをしている時間はないって……私たちだって、精いっぱい努力をしてるのになぁ。
「仕方ありませんよ、千聖さんはこういうの苦手そうですから」
「確かにね、もっと手っ取り早い方法とか思いついてそう」
「……そうかなぁ」
「気にしないでいきましょう! チサトさんだって、いつかはわかってくれます! 勇者のことも、アイドルのことも!」
「……うん、ありがとう」
手配りをし始めて四日目、ここのところ毎日悪魔が襲撃してくる。成功されては困ると言わんばかりに、アエーシュマの軍勢が邪魔をしてくる。悪魔たちの協力も頼みたいんだけど、シャヘルはサタンの護衛、バアルも別の仕事を普段しているからって。今日は一日来れないらしい。どうやらあのメンバー、警備会社を経営してるっぽい。確かに腕は立つとかいうレベルじゃないし、納得だけど。
そんなことを考えながら、手配りをして数時間後、また人気が急になくなると同時に独特の甘ったるいような気配が強くなる。
「なんか匂い覚えてきちゃったね~」
「確かに、そろそろ事務所ですれ違ったらわかるかもしれませんね……」
「みんな、変身するよ!」
「ハイ!」
リングを指に通し、バングルに重ねる。ピンク、水色、緑、紫の光がそれぞれの夢を、力を彩っていく。
相手はまたもや金色の鎧に身を纏った、ペオルが命名するに成りそこない、らしい。勇者の力と悪魔の力でただ雑多に人から絶望を集めてカタチにした。人形。その一体一体が金糸に繋がれている、アエーシュマの操り人形たち。
「ハァァ……!
夢を撃ち抜く、夢に煌めく一等星! ドリームスター! 私はピンクのアイドル衣装を身にまとい、二つに結ばれた髪を揺らして飛び上がる。魔法力を籠めて、地上に向けてインパクトのした拳の雨を降らせていく。
「雪花流真・居合!
誠と真を貫く雪の花! ドリームスノー! ありとあらゆる技術を吸収し進化し続ける彼女は以前の居合、崩天とは比べものにならないスピードですべてを両断していく。黄金の鎧もなんのその、煌めく白銀の刃は悪魔を斬り、活路を見出していく。
「
夢を照らすお日さまスマイル! ドリームサニー! 万物転換という他の全てを圧倒する魔力特性を持つ彼女の戦いは変幻自在、困難を打ち破るという意味がつけられた棍の先に炎を纏わせ回転させ、悪魔たちを焼き払っていく。
「武器構築……
夢という緑を燃やす炎! ドリームファイア! システマチックな彼女らしい武器の分解構築を扱い、連射型の銃を創り、近づく悪魔を文字通り撃ち抜いていく。
その気になれば鎧や剣も分解できるようで、不意に近づかれてもその力を使って回避していく。
「よし、これで……っ!」
あらかた片づけて、というところで銃撃が飛んでくる。
街灯の上には鴉のような、だけど艶のある光を纏わせた羽をたたみ、人間体に戻った悪魔が口角を上げていた。
「お嬢さん方、またお会いできて光栄だねぇ」
「……ベンヌ」
「夢を打ち砕く、月光に舞う死告鳥……月鳴のベンヌってねぇ、どうだい?」
「ダサ」
「あらら、三時間は考えたんだが……不発かぁ」
名乗りを上げてくるソイツに全員の警戒が上がる。彼は完全体の中でアエーシュマから力を受け取っている。並みの完全体よりも強い。だけどこっちは四対一だからまだいける! 逃げるのではなく立ち向かう意思を持って、武器を構えていく。
「センジンはお任せを!」
「行くよスノー!」
「おおっと」
刀の間合いを把握しながら、私とスノーが攻撃を仕掛ける。その手数から逃れるためたまらずに限定的に悪魔の力を解放したベンヌが銃を撃ちながら空へ羽搏いていくけど。ここが狙い目! 飛び上がり銃を構えたベンヌの手を、鋭い矢のような閃光が貫きたまらずに銃を落とした。
「──っ! やるねぇ!」
「武器構築……
「からの~、ほっ!」
サニーが足元の魔法力をバネにして跳躍力を上げ、ベンヌの高度まで達する。羽搏いて高度を変えて逃げようとするけど、そうはさせない! 私とファイアが同時に左右の羽への攻撃をしていく。ファイアが素早く構築した対物ライフルによる狙撃で左羽が、そして私の魔法力を使って拡張したスノーの振り下ろしで、右の羽を! これが私たちが編み出した新しい技!
「チィッ! 合体技とは!」
「羽は使えないよ! やぁあ!」
「グハッ!」
鳩尾にクリーンヒット! やった! そのままサニーは遠心力と重力に任せてベンヌを地上に叩きつけて着地する。
よしっ、決定的にダメージを与えることができた!
「ファイアナイス! 修行の成果出てたよ~!」
「そ、そうっスか……フヘヘ」
「うん! 今のは早かった!」
「タイミングもバッチリでした!」
土煙を上げながらも、ベンヌは立ち上がるけど、やっぱりダメージは大きいみたいで膝をついている。ここまで追い詰めたんだから次は完全悪魔化に気をつけないと。
──アエーシュマから魔力を供給されてるベンヌはサタン陣営よりも負荷なく完全体になれる。そしてその能力は冥……死を司る。サタンはその能力を封じ込める意味を以て、月鳴の二つ名を与えていたんだけど……真のベンヌの二つ名は
つまり本来のカラーは黒でも銀でもなく──紅蓮だった。そんな思考を肯定するように、新しい羽が、今度は紅蓮の炎を纏った、まるでフェニックスのような羽を広げて、銀だった角をまるで炎で焼き焦がしたような熱した赤に染めて立ち上がった。
「強くなってるねぇ……アエーシュマの旦那の予想通りってわけかい」
「予想、通り?」
「そ、予想通り。勇者は夢と希望の力で強くなる……そしてその夢や希望が大きければ大きいほど……絶望は深くなる」
「なに、言って……?」
稲妻が走る。ベンヌと私たちの間に落ちたそれはバアルの黒ではなく青白い光だった。目を覆うといつの間にかそこには一人の女性が立っていた。イエローの髪、紫の瞳、私たちと色違いの、黄色のアイドル衣装。
「……チサト、さん?」
「千聖さんも勇者として覚醒してたんスね!」
「……千聖ちゃん、もしかして」
喜ぶ私たちの中で、サニーだけが苦い顔をしてる。どうして? その理由はすぐに……ファイアを落雷が襲い倒れ、スノーが身長よりもはるかに長い槌、ハンマーに吹き飛ばされたことでわかった。
「夢を
「……ドリーム、サンダー」
「やっぱりか……抱き込まれちゃったね」
「それって……!」
「ええ、私はアエーシュマ
「なるほど、そんでおじさんのことをルーク、って旦那が評したわけか」
そんな、千聖ちゃんが……アエーシュマの味方!? どうして? アエーシュマは世界を滅ぼそうとしてる。夢もなにもかもを潰して、破滅させることが目的なのに!
──叫ぼうとした瞬間に、目の前に雷が落ちてくる。ううん、サニーが私を掴んで引っ張ってくれたから目の前だった。もし棒立ちだったら……あのアスファルトすらも簡単に砕き焼け焦げるような力を……!
「まずい、千聖ちゃんもだ」
「……アエーシュマの?」
「うん。黄色に金が混じってる、そっちのおじさんと一緒」
サニーはバアルとの戦いやペオルのアドバイスで纏ってる魔力を色として視ることができるようになった。それぞれのカラーがあって、二つ名を付けていたサタンも恐らく持っているであろうその眼を使うことで、サニーはアエーシュマの金を探ることができる。つまり千聖ちゃんの力は本来の力にアエーシュマの魔力が上乗せされた感じなんだね。
「う……ポップさん、油断してしまい、申し訳ないっス」
「ファイア!」
「私、スノーの治療に行ってきますが……わかっていますね?」
隠れていたらしいポップが出てくるけど……うんわかってる。今のポップが治せるのは二人まで。ファイアとスノーでもう打ち止めだから。下手をすると、死ぬ。目の前に死が迫っている、というところでベンヌがとても楽しそうに笑ってくる。
「いいねぇ。イキモノが死を実感する瞬間というものを視るのは……そそらせる」
「あー、おじさんやっぱヘンタイさんだ」
「……決めたよ、水色のお嬢さん。お前にはコレだ」
そう言って、ベンヌが取り出したのは……錆びた大型のノコギリのようなもの、切れ味は決していいものとは言えないだろうけど、それを見た瞬間、背筋が凍るくらいの恐怖を感じる。敢えて、なんだ。切れ味が悪いのは、相手に死を実感させるため。切るのではなく、削るように、抉るように、じわじわと苦しみと痛みを与えるためのもの、尖った歯は肉を食いこませるためのもの。
「啼いてくれ、喚いてくれ。私が望むのは、キミたちの絶望と苦痛だ」
「……前も銃で脚とか腕とか狙ってきたのはそういうこと?」
「痛い、という感情が欲しい。私はわがままで欲深いから、ねっ!」
「サニー!」
「彩ちゃん、スターとファイアは千聖ちゃんを! 絶対目を覚まさせてよ!」
「日菜さん!」
羽搏いただけで、芝生があっという間に焼け焦げていくほどの熱気を放ちながら、ベンヌはサニーに襲い掛かる。だけど助けにいけずに、私とファイアは、千聖ちゃんに向き合っていく。こっちもまるで完全体の悪魔と感じてしまうような、寒気のするほどのチカラを感じる。
「ファイアは援護お願い」
「了解っス!」
千聖ちゃんは金色だけど装飾の少ない長柄のハンマー、リーチの差はあるけど、逆に長物はサニーやシャヘルとの手合わせで慣れてるんだよね! ハンマーだけでなく石突や柄での攻撃をかいくぐり、後退していく千聖ちゃんに詰め寄っていく。
「どうして、どうしてなの、千聖ちゃん!」
「……戦闘中におしゃべりなんて余裕ね、ドリームスター?」
「う、ああああああ!」
「彩さん!?」
柄を掴んだ腕から身体が焼け焦げるような痛みと痺れが発生し、慌てて手を離し回し蹴りで千聖ちゃんを後退させる。まだ腕がじんじんする。これは、感電? バアルとは違う雷の性質、纏って身体能力を上げる近距離的な使い方なんじゃなくて、魔力の放った場所を感電させる。だから上空から雷が出せるんだね。
「甘いわよ」
「……っあ!?」
「麻弥ちゃん!」
だけど今度は狙撃しようと銃を構えていたファイアが電撃を受けて倒れてしまう。なんで麻弥ちゃんが。そう思った瞬間に何かが脚に触れ、ビリっと電撃が走る。なん……だろう? これは一体? でも私はこれを知ってる。これは糸だ。見えないアエーシュマの糸が私たちの周囲に展開されてるんだ。その流れを操り自在に電撃を飛ばしてるんだ。
「言ったでしょう? 私はアエーシュマ様の駒だと」
「……千聖ちゃん」
感情の色を写さない瞳で膝をついた私のことを見下ろす。風切り音をさせながらハンマーを回転させ、大きく振り上げる。
──そう、そっか。千聖ちゃんは……そうなんだ。悔しい、もっと言葉を尽くせば、違ったのかもしれない。もっと千聖ちゃんのことをわかろうとすれば、アエーシュマから引きはがせたのかもしれない。ごめんね……千聖ちゃん。
「……
「なにを言ってるの?」
「──
「くっ……!?」
スターブレイクを純粋に魔力密度を増やした技、スターインパクト。より堅い相手も砕くし、
破壊力は人体なんて簡単に吹き飛ばす。魔力の流れに敏感な千聖ちゃんは僅かにハンマーと電撃で威力を逸らして数メートル後方に吹き飛んでいく。
私が甘かったんだ。相手が千聖ちゃんだからって思ってた。でもずっと言ってたよね、私はアエーシュマ様の駒、だって。
「
「……来なさい、ドリームスター」
戦いは苛烈さを極めていく中で、私はどこかで敵を倒すという意識が欠けていた。日菜ちゃんは常にその覚悟を持っていたから強いんだ。イヴちゃんはそれを貫くことで強くなっているんだ。麻弥ちゃんだって、努力してる。私だけが努力を怠っていた。
──覚悟を決めよう。夢を滅ぼそうとする悪魔は……全部私が斃してみせる。私は、勇者だから。
作者はこれをあやちさだと言い張っています