もう隠す必要もなしとばかりに焔を纏った翼を広げた悪魔が無人となった駅前に降り立つ。危険な雰囲気を醸し出す鴉羽のハットを被ったおじさんの見た目のベンヌは、くるりと見回しておや? と首を傾げた。
「ドリームスターがいないなぁ」
「さぁ? 今日は来てないよー」
「……そうかい」
「さて、始めようね、おじさん?」
「……そういえばキミの悲鳴をまだ愉しんでいなかったな」
挑発は完了、この変態おじさんが怒るの部分は抑えといてよかったよかった。まぁこっちの不安要素はあの黒ツンツンが連携を取ってくれるわけないってことなんだけど。そんな風に考えていたら麻弥ちゃん……ドリームファイアからアイコンタクトがある。
──好きにやらせていいと? なるほどね。囮に使えばいいのか。
「じゃヨロシク、バアル!」
「オレに指図すんじゃねぇよ!」
とかなんとか言って早速トンファー片手に飛び出していくバアル。扱い易くていいね。
まぁあたしとスノーはバアルが金鎧の悪魔を蹴散らしてできた道を進んでいく。いやホント楽でいいねこれ。温存もできるし。
「バアル、邪魔をするな」
「ジャマしてんのはテメェだ! この裏切者ガァ!」
「はぁ……」
銃声を響かせる。弾丸はバアルをまっすぐに向かって……そして直前で逸れて後方に消えていく。これには流石のベンヌも驚いたようにまた三発、だがそれも当たるはずなのにバアルにはかすり傷も与えられなかった。
だが更にベンヌやあたしたちを驚かせたのは、バアルから角が生え、一気に魔力量が増大したことだった。
「食らってやる! ハァ!」
「……これは!?」
何をしたんだろう? という疑問を解消させたのは黒い砂のようなものがバアルの周囲に集まっているところだった。
──磁力、バアル自分と周囲を磁化させてるんだ。ここは近づくとあたしたちの武器とかも引き寄せられちゃうからとスノーと頷いて距離をとる。
「どこから……この力を!?」
「ハッ、オレもタダでヤられに来たわけじゃねぇんだよ!」
「ならば、焼いてやろう!」
「遅ぇ!」
雷を纏って反射速度を上げての速度アップ、前はいつも使ってたから簡単に読めちゃったんだけど、今度は速度を上げたり下げたりすることで調整しているらしく、ベンヌを翻弄している。翼を使って炎を巻き上げるけど、それすらも避けていく。
「チッ、この……ちょこまかと!」
「ハッ、捕まえれるもんなら、やってみな!」
飛び上がり、距離をとったベンヌに対して、バアルは両手のトンファー、ヤグルシとアイムールを投げつけた。まるで意思を持ったようにベンヌを追跡し、的確に打撃を与えていくそれの原理をファイアがなるほど、と頷いた。
「さっき打撃を与えた時に、ベンヌの身に着けてる何かに魔力を流して、磁化させたんスね」
「それでトンファーが」
「磁力で勝手に追尾する、というわけですね!」
ならばとファイアが何発が銃弾を撃つ、ヤグルシとアイムールに向けて撃ったそれをバアルが磁化させることでトンファーだけでなくファイアの弾丸も追尾するようになっていた。
流石のベンヌもこれには苦戦しているようで、振り払えない攻撃に苛立ちを顔に見せていた。これなら、勝てる、そう思っていた時だった。
「この……!」
「あらあら、苦戦しておりますね、焼き鳥さん」
「──テメェは?」
「お前は……なんでこっちに」
「シュマ様からでございますよ~。あなたは能力に頼りすぎでは? もう少し応用というものを知るとよいかと」
それは、女の子だった。背はそれなりに高めですらりとした、だけどまだちょっとだけ幼さのある、私たちより同年代か少し下くらいの女の子。高めのツインテール、黒髪のツインテールを靡かせながら、どうもどうもとスカートのすそをつまんで一礼してくる
「ワタクシ、シュマ様からクイーンの称号を賜りました虹愛のティアマト、と申します。以後お見知りおきを、勇者様がた」
「……へぇ!」
あたしはその紹介を受けるや否や、飛び出して三節棍を伸ばして攻撃をする。コイツが先代の勇者であり七体目の悪魔。サタンが言うにはアエーシュマへの愛という忠誠を誓い、その言葉のままに悪魔を殺して殺して、殺しつくし、サタンたちに封印された暴虐の悪魔姫。
その実力を見るための攻撃は直前で障壁のようなものに塞がれる。
「バリア」
「──
「おお、なるほど万物転換ですか」
髪の毛が黒と白のツートンカラーに変わって防御されたと思い貫通の魔力を籠めたのだが。その瞬間ぞっとするほどの魔力が彼女からあふれ、あたしの貫通の魔力を食らっていく。なに、これ? あたしの魔力を吸収してる? 蠢く影のようなものが全てを食らってくる。
「怖がらないでください、あなたもワタクシのナカに還してあげますよ♪」
「スノー!」
「ハイ! 助太刀いたします!」
刀を振るスノー、そしてそこに挟み込むようにロッドを振り下ろした。だけど、まるで何かハンマーのようなものに殴られたようにあたしもスノーも吹き飛んだ。
これは、空気……? 緑と黒に変わっている髪色を白と黒に戻しながら、正解ですとティアマトが拍手をしてくる。いちいち余裕だなぁ。
「さらに、こういうこともできますよ?」
「スノー!」
「あはははははは、無駄です!」
今度は黒と紫の二色になり黒い影のようなものが腕にまとわりついて刀のようなものに変化する。ファイアが素早く武器を再構築して弾丸を連射していくが彼女の背中から溢れだした黒が爪のようなものを形成し全ての弾丸を斬り裂いていく。
「万物転換、分解と構築、万象切断、それに
千聖ちゃんの能力まで把握してるのか。ただ、ティアマトの能力がわからない。黒い影を操作する力は確実なんだけど、それだけじゃない。絶対になにかある。その秘密がわからない限りあの悪魔は斃せない。
「ファイア! あたしの力を!」
「りょ、了解っス!」
「なにをなさるおつもりで?」
ファイアにあたしの魔法力を分けていく。その能力は破裂の特性、これでファイアの弾丸は連射できる炸裂弾に早変わり。火花を散らしながら悪魔に向けて連射していく。
──それをあたしは見逃さなかった。髪の毛の色がピンク色と白色に変化すると影が消え、かわいらしいステッキが手に収まり軽く振ることで、
そして白が黒になり……影が腕のカタチに変化した。
「まずい、スターブレイクが来る!」
「え!?」
「うふ、逃がしませんよ~?」
「な!」
「これは!?」
蜘蛛の糸のような、金の糸があたしたちの身体に巻き付いてくる。それはアエーシュマの能力と同じ、そう考えた瞬間に彼女の髪を見ると、ピンクと金色に変わっていた。やっぱりそうだ。虹愛の、二つの名の意味は、その能力は。
「
悪魔と勇者、その全ての能力を操ってくる。おそらく本人オリジナルのカラーが黒と白、悪魔としての基礎的な力を司る黒と勇者としての基礎的な力を司る白の二つに、悪魔の能力で吸収したものを再現する能力だ。
「ゴホッ……う、あ、彩ちゃんを……ドリームスターはどうしたの!?」
「察しがよろしいですね、殺してはいませんよ?」
「殺しては……って」
「今頃我らがキングと、ナイト、そしてビショップによって既に物言わぬ死体になっているかもしれませんが」
その言葉は冗談めいていながらぞわりと肌が粟立つほどの恐怖があった。それにアイツの言ってることに気になる部分もある。ビショップは千聖ちゃんが敵だった時に名乗っていたものだ。そしてあたしの記憶にある千聖ちゃんはまるでこれから全てを解決するような顔をしていた。敵になる雰囲気はなかったのに。それにナイトって、まずいよね敵が完全に増えてる。
「あたし、事務所の方行ってくる!」
「はい!」
「行かせるわけ、ないでしょう!」
「──いや、行かせますよ!」
「そうです! ファイア、お願いします!」
そう言ってファイアがスノーの刀に触れて、それを分解していく。次に見たそれは少し短くなった二つの刀に変わっていた。片方は小太刀くらい、片方はもう少し短く、脇差くらいのもの。それを手にあたしとティアマトの間に割って入ってくる。
「邪魔をするな!」
「雪
伸びてきた影をスノーは小太刀のみを構えて高速の突きを繰り返していく。避けた影も小太刀の防御に阻まれ、更に避けてもファイアの銃弾に阻まれる。ならあたしも最後に余計なことをしてあげるよ!
「二人とも、受け取って!」
「これは……」
「かたじけないです!」
「なにを……!」
逃げながら二人に変換した魔力を譲渡する。シャヘルの暁光の真似っこ、圧倒的エネルギーを放出する、光の力。スノーはファイアの魔力がなくなって刀がいつもの長いやつ一本になるけど、それで十分だろう。
「──光腕一閃!」
「武器構築! 閃光銃、っス!」
速度と火力が段違いにあがったことでさしもの悪魔も動きが止まったみたいだ。あたしはその間に事務所に向かう。
──そしてものの数分もしないうちにたどり着いたそこでは、ボロボロのシャヘルが膝をついていた。
「ドリームサニー、か?」
「なにがあったの?」
「そいつは俺がのしてやったんだよ!」
「……誰?」
「俺様はクルール。アエーシュマ様から
そこには嫌なことを思い出させる悪魔がいた。鉄剣を佩刀した、二メートルくらいの大柄な男の生成りタイプ。そのオーラはあの時のおねーちゃんと同じ色だった。悪魔化してるその角は魚の鱗のような模様があるエメラルドグリーン。おねーちゃんの身体から生まれた悪魔・エリゴスが組み込まれてるのは明確だった。
「いいね。たった今斃す理由ができたよ」
「ほう、俺様を斃す!? コイツは大きく出たな!」
「いいから始めようよ。ナイトさん? あたしがぶっ潰してあげるからさ!」
油断はできない。シャヘルがあの状態で相手に角が生えてるってことはまず間違いなくシャヘルやバアルと同程度の実力があるということ。
ただおねーちゃんから夢を奪った悪魔にこんなかたちとはいえ、リベンジができるという喜びにあたしの身体が震えた。
合体技はライブ感で決めてる。意外と気持ちい