夢想勇者☆パステルドリーム   作:黒マメファナ

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第2話:迫るDEVIL

 Pastel*Palettes(パステルパレット)──それが私が所属するアイドルバンドの名前だった。でも、なんだか思ったよりも順調な滑り出しとはいかないみたい。そもそもアイドル研究生出身が私だけで、他はハーフでモデルの子が一人、今回のメンバーの目玉でもある女優の白鷺千聖ちゃん、後はオーディションで選ぶってことだったらしいんだけど、ギターは決まってドラムが見つかってない。

 

「……大丈夫なのかなぁ」

「彩さんなら大丈夫です!」

「ありがとう……えっと」

「私はサンフラワー・ドリームポップ、精霊界から来たものです」

 

 現状私の話相手兼悪魔退治のサポートをしてくれるのはこのサンフラワー……えっとごめん名前長くない? 略してポップでいっか。

 雑ですねぇ!? とツッコミを入れてくるこの夢の精霊は、この世界の住人が摂る栄養を夢のエネルギーとして変換できるらしいんだけど。

 

「うう、この姿じゃ摂取できないんです……」

「なんとかならないの?」

「方法ならありますが……」

 

 どんな? と首を傾げるとポップはそれはですね、見せた方が早いですと私のカバンに入り込んだ。ええ……これでバイトに行くの? 見つからないでね?

 大丈夫ですとポップはまたも自信満々に呟いた。ねぇ待って、ポップの大丈夫、だんだん信用なくなってきたよ? 

 私の心配をよそに時間は進んでいく。バイトの時間になって、ちょっとギリギリに用意していると、おはようございますっ、と元気な声が聴こえた。

 

「おはようございます! えっと新しい子?」

「はい! 新しく入った上原ひまりです!」

 

 その瞬間見つけた、と声がした。それは紛れもないポップの声で……ってなんでしゃべっちゃうの~? 

 焦ったのも束の間、上原ひまりちゃんが驚いた顔をして虚空を見上げた。え、なに? なにがあったの? 

 

「……ふぅ、同期完了です彩さん」

「え? どういうこと? ポップ?」

「はい、あでもこの姿ではひまりと呼んでくださいね」

「う、うん、でもえっとひまりちゃん? どういうこと?」

 

 ポップ、もといひまりちゃんのこの状態の説明がされたのはバイトが終わってからだった。

 ファストフード店の客席で、ひまりちゃんはルーズリーフにペンを走らせて解説してくれた。

 

「私は精霊界の住人で、その中でも高位の精霊たちはこの世界にリンクできる人間、端末と呼ぶ人もいたみたいですが──がいます。私の場合はそれが上原ひまり、というわけなんです。まさか彩さんの近くにいるなんて思いもしませんでしたが」

「……うん?」

「わかってませんね?」

「う、うん」

 

 溜息を吐かれてしまった。けど確かにひまりちゃんの雰囲気はポップにそっくりで、つまりは憑いてるってこと? そう問いかけたらまた溜息が、うう、難しいよこれ。

 ひまりちゃんはいいですか? と説明をよりかみ砕いてくれる。

 

「精霊としての私はいわばこのジュースみたいなものです。単体でこの世界に存在し続けるには器が必要なんです。そしてひまりとしての私が器なんです」

「……なるほど?」

 

 イマイチピンとは来てないけど、とにかくひまりちゃんがただ乗っ取られてるってわけじゃなさそうなのはニュアンスでわかった。それなら安心だよ~。

 同期、というのは人間としてのひまりちゃんと精霊としてのポップの記憶を同期させて存在を同じにすることらしい。よくわかってないけどね、この辺は。

 

「ん~、おいしい~♪」

「よ、よかったね、ひまりちゃん」

「はい! ずうっとお腹空いてたんです~!」

 

 それからは普通にバーガーを食べて、私はひまりちゃんと別れた。あ、そっか、ひまりちゃんにはひまりちゃんの生活があるもんね。賑やかだったぬいぐるみ状のポップがいなくなっちゃったことにちょっとした寂しさを覚えた時だった。

 

「見つけた」

「……え?」

「お前の、夢を奪う……そうだ、夢を!」

 

 わわ、いきなり帰り道に襲われるなんて! ゆらりとサラリーマンのおじさんが虚ろな目で迫ってくる。その後ろには夢を失ったことで出てくる……この間みた負のオーラみたいな黒いものが溢れて……口から泥を吐き出した。

 

「ぐは……あああああっ! 夢を、奪う……壊す!」

「そんなこと……させない!」

 

 ポップがいないのが不安だけど、とりあえずやるしかない。私は右手にあるバングルを構え……ってあれ? あれれ? 起動しないよ? どうすればいいのこれ!? 

 そんな慌ててる間に相手は悪魔に、今度は巨大じゃなくて逆にほっそりした、190㎝くらいの鋭い爪をもった悪魔に変身した。

 

「ガァァ!」

「わ、ちょ……きゃ!」

 

 悪魔が突進してきて、必死に転がって回避する。危ない、空手じゃないけど受け身の取り方教えてもらっといてよかった~。でも変わらずピンチだよ、だって変身できなきゃ勝てっこないじゃん! 冷静に考えよう、何か起動に必要なのかもしれない。ああもうなんで教えてくれなかったのポップ! 

 

「えっと、えっと……ああもう落ち着け私!」

 

 こういう時にテンパってトチっちゃうのが私の悪いクセなんだってば! わたわたとしていたら、指輪! と大きな声がした。指輪? あ、えっと確か化粧ポーチのところに、そう思った瞬間に、悪魔の爪がギラリと私の頭をかすめた。

 

「きゃ──この!」

「グガ!?」

 

 体当たりをしたら怯ませることができた。やった、前のと違って質量がなさそうだからいけると思ったんだよね! 

 今のうちに……! 私は化粧ポーチの中身をカバンの中にひっくり返して、その中にあった星型の指輪を見つけて右手の人差し指に装着する。すると、左腕が輝きバングルが出現した。よかった! 

 すぐさま花の模様の真ん中を押してから指輪をその上に重ねる。五色だったバングルがピンク色に輝き、私の身体を包み込んでいく。アイドルのような、私がいつだって夢見てきた衣装に包まれていく。ツインテールに結ばれた髪を揺らし、手甲と脚甲が力強さを運んでくれる。

 

「ポップ! 来るの遅いよ~!」

「これでも悪魔の気配を感じて急いできたんです!」

 

 愚痴は後にしておいて、私は悪魔に対して構えを取った。専守、相手の出方を伺うために両手を頭の高さで構える。今日の敵は素早いみたいだからね、じっと止まっていると悪魔はグっと膝をたたんで、地面を蹴った。まるでジェット機みたいなスピードで私に迫ってくる。

 

「っ!?」

「彩さん!」

 

 なんとか手甲で受け流したけど、これはまずいよ。躱すので精一杯、交叉法(カウンター)すら間に合わない。どうしたらいいのかな、そんな風に猛攻を防いでいると、ひまりちゃんから精霊の姿になったポップが私の肩に乗っかった。危ないよ? 

 

「彩さんは今常人よりも遥かにパワーもスピードも上です」

「うん」

「相手の土俵で戦う必要なんてありません、特に彩さんはスターブレイクがあるんですから」

 

 ──あ、そっか! 星拳(スターブレイク)は空気を殴る感覚でインパクトを拡大させる技。それを応用すれば、アイツの足を止められる。私は思いついたまま足を動かす。悪魔と同じようにコンクリートを砕くくらいの勢いで蹴って相手の爪を避けながら近くの壁で三角跳びをした。よし、後ろ取った! 空中だけどこの状態なら! 

 

「ハァァ──! 星連拳(スターブレイク・レイン)!」

「ギッ!?」

 

 それは遠当ての、連撃。魔法力をありったけ両手に込めて、目にも止まらない速さで叩きつけていく。最初こそ躱そうとしていた悪魔だったけれど、降りしきる雨を躱せるわけがない。一撃が肩に当たり怯んだ瞬間、私は素早く天地の構えを取った。右手に全てを懸ける。私の魔法力を籠めた究極の一撃を、相手の胸に向けて突き込んだ。

 

「──星拳(スターブレイク)!」

「グ、ガァァァ!?」

 

 悪魔の身体がボロボロと崩れていく。よし、私は息を吐き出しながら変身を解除した。あ

 でもこのサラリーマンどうしよう? とりあえず救急車呼んでおけばいっか。

 そう思っていたらよっと肩から飛び降りたポップがひまりちゃんの姿になった。

 

「私! 大切にしてくださいとは言いましたが化粧ポーチに入れたら意味ないじゃないですか!」

「ごめんね、私の不注意で……これからすぐ取り出せるようにしておくよ……うう」

 

 はぁ、とまた溜息を吐かれ、これ持っていてくださいと何かを手渡された。これ……ポップ、のぬいぐるみ? いちいち彩さんの近くにいられないのも不安でしたし、とひまりちゃんがいう。どういうこと? 

 

「これで私が遠隔できます」

「わっ、ホントだ」

「呼びかけてくれれば返事もできますので」

「うん! ありがとう!」

「いえ、この分化が私の唯一まともな能力ですから……」

 

 でも、悪魔にも色んな種類がいて、こうやっていつ襲ってくるかわからない。

 大丈夫だよね、私頑張れてるもんね! そうひまりちゃんに言ったけど、油断はしないでくださいと難しい顔をされた。

 

「先ほどの二人は完全な悪魔じゃありませんでした、宿主の意識もあるしとても不安定で、不完全です」

「え……じゃあつまり」

「完全な悪魔はあんなものじゃありません……悔しいですが、今の彩さんではとても」

「そんな……!」

 

 事態は思っていたよりもずっとずっと深刻だった。

 夢を奪う悪魔にはもっともっと強い存在がいる。春の風は生ぬるくて、嫌なものを背中に運んできていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 暗い部屋にまるでホームシアターを見るようにプロジェクターに映像が流れる。そこには普通は記録に残らないはずの桃色の勇者の姿が、ドリームスターが戦う姿が映し出されていた。

 三角跳びをして悪魔の真上を取り、連続攻撃が雨のように悪魔を押しつぶしていく。その様子を五人の男が眺めていた。

 

星拳(スターブレイク)!』

 

 彼女にとっては渾身の一撃、であったはずの攻撃を映像越しとはいえ体感しているはずが、ため息がこぼれた。その主は続いてつまらなさそうに低い声で、弱者を嘲るように笑った。

 

「はっ、これが今代の勇者、ってわけか。喰らいがいがあるといいけどな」

「ただなぁ、情報提供元がちと不安なのと、妙なこともあるんだよなぁ」

 

 続いて気の抜けた声が補足をしていく。それに対して先程の煽るような声を出した男は興味がなさそうに鼻を鳴らす。

 そのタイミングで渋く、低く、まるで獲物を定める猛禽のような、燃え盛る炎のような声が敵対の意欲を減らしている空気を察して冗談を混ぜていく。

 

「なんだ、麗しい少女の肉を裂くのには躊躇いがある……キミたちの見解はそういうことかな?」

「キサマの加虐趣味に付き合う気はない。私は主の命に付き従うだけだ」

「忠犬だねぇ、おじさんはそんな風に誰かに尻尾を振るなんてごめんさ」

「……キサマ」

 

 そこに光の如き早さと威圧的な声音で、四人目の男の否定が入る。男は暗がりの中で唯一立ち上がっており、返しの言葉に言葉ではなく腰に佩刀している、恐らくは長刀の柄に手を掛けた。

 ──そのタイミングで、五人目、会議室のような部屋の一番奥に座る男が制止の手を上げた。

 

「やめろ、くだらないことで争うな」

「はっ、申し訳ございません」

「はいはい、すみませんね」

「それで……情報は、やつか」

「そもそも魔力絡みの映像記録を提出できるのっつったらオレか奴さんくらいだからな」

「警戒は続けておこう、頼む」

「了解、後は()が少ないことは?」

「それはおいおい……確かめてみればいいことだろう、バアル、シャヘル」

「御身の御命令通りに」

「ヤッてやるよ、言われなくてもな!」

 

 二つのコマを礎に、今、ポップの語る()()()()()が動き出そうとしていた。

 

 

 




☆丸山彩の悪魔メモ
・巨大な悪魔:ガープ
 わたしが勇者になる前、最初に出逢った悪魔で、勇者として最初に倒した悪魔。
 三メートルくらいの巨躯で鈍重ながら破壊力は十分、一撃で建物を飴細工みたいに粉々にする。けど、やっぱり足が遅くて間合いにもやや疎い。というか成りかけの悪魔たちはみんな知性に乏しいのが弱点な気がする。

 

 ・ほっそりした悪魔:アンドロマリウス
 二番目に出逢った悪魔。二メートルないくらいで特徴通り刃のように手も足もカラダも細く爪が鋭利に伸びている。ガープと違って素早く動き回れるから攻撃を回避していると防戦一方になっちゃう。ただし非常に軽く、足を止めれば大丈夫。
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