夢想勇者☆パステルドリーム   作:黒マメファナ

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第20話:貪欲なるSHADOW

 私にとって芸能事務所は、それまでなんだかワクワクする場所、って言えばいいのかなそんなイメージだった。夢を叶える場所なんだから、きっとそう思ってきたからなんだと思う。

 でも、今日そこに足を踏み入れるのは違った気持ちだった。見方が違えばまるで印象も変わってくる。今日の私にとってこの場所は、敵が潜む場所でしかない。

 

「準備はいいか」

「……うん」

 

 乗り込んでいく。目指すは社長室、アエーシュマのいる場所。その扉を開けるとそこにはまばゆいばかりの金色を輝かせる男の人が座っていた。

 あれが……アエーシュマ? 一目見て、カッコいいとかキレイとかじゃなくて、危ないと感じてしまうくらいの妖しさがそこにはあった。

 

「ノックくらいしたまえ」

「必要あるまい」

「……これは悪魔王、こちらの世界では初めてお目にかかります」

「要件は……わかっているな?」

「ええ、だが……動くのが一足遅かった」

 

 その言葉に半ば虫の知らせのようなものを感じ、後ろを振り返ると雷を纏ったハンマーが私たちの頭上に振り下ろされていくところだった。ペオルがそれをありったけの風で逸らし、足許の床が砕けるほどの威力で破砕していくのをなんとか避けるかたちになった。

 

「あっぶねぇ」

「……あれは、どういうことだ」

「どうして……千聖ちゃん!」

 

 それは千聖ちゃん、ドリームサンダーだった。だが様子が違う。あの時、助けてくれた彼女の顔ではない、冷たく妖しく輝く金の瞳、まるでシトリンのような輝きを放つ角から電気を走らせるその姿は……悪魔という他なかった。

 

「この身体はもはや白鷺千聖のものではない」

「……まさか、勇者すら食らったのか」

「だがあれほどの力を持つ悪魔……わたしですら知らぬ悪魔だというのか」

「そう、ワタシは新たな悪魔である。父たるアエーシュマ様から黄星(おうせい)の名を受けしもの」

 

 新しい、悪魔? 確かに絶望から新たに生まれるのが悪魔という存在だけど、その名を受けて生成りとして顕現するには特別な儀式がいるはずじゃ……? サタンを見るとその顔には若干の焦りが見える。もしかして、アエーシュマがそこまでの力を持ってるってこと? 

 

「アエーシュマ様のビショップ、黄星のダブルチュ……あなたたちをここで潰えさせるもの」

「三対一でか、随分な自信だな」

「おい俺のこと忘れてねぇかシャヘル」

「それには及ばねえぜッ!」

 

 シャヘルの真後ろに現れた新しい悪魔がその巨大な鉄剣で襲い掛かる。今度はエメラルドグリーンの宝石のような角を持つ二メートルくらいの大柄の悪魔だった。また、二体目の新しい悪魔……!?

 

「俺様は翠星のクルール、称号はナイトだ! よろしくなひょろい剣使いの悪魔さんよォ!」

「……キサマのような男は好かん」

 

 サタンも、ペオルも、もちろん私も驚愕しているところに拍手を響かせながらアエーシュマが姿を現す。実に楽しそうで、その顔は悦に浸っていた。

 そしてまるで子どもが自慢げに自分の創り出したものを紹介するように両手を広げてどうだい! と口角を上げる。

 

「もはや悪魔の父はキミだけのものじゃないよサタン。僕もキングだ」

「ふざけているな、お前は」

「その御言葉、例え父なる悪魔王であっても許せるものではございませんね」

「……お前は、ティアマトか」

「はい! シュマ様の忠実なるシモベにして総てを愛すクイーン、ティアマト……遅ればせながら顕現致しましてございます」

 

 更に先代の勇者であり悪魔全員……おそらくアエーシュマとベンヌを除く四体でなんとか封印したとされる最凶の悪魔、ティアマト。その正体は私と年の変わらない女の子だった。だけど明るい印象があるはずのその笑顔は、恍惚に歪んでいた。

 

「なるほどな……あの悪魔たちを生み出したのは、お前かティアマト」

「ええ」

「……え」

 

 悪魔を生み出す悪魔、それがティアマトだっていうの? その力を無理やり奪ったアエーシュマが生み出した失敗作が金鎧だというペオルに私は驚愕の声を上げてしまう。つまり、彼女は人間の素体と悪魔のデータ、そしてどういう方法かがあればほぼ無限に完全体を生み出せるってこと? 

 

「そんな野暮なことをおっしゃらないでくださいませ」

「……え?」

「彼らはいわばシュマ様との愛の結晶、でございますよ? そんな言い方はワタクシ、悲しくなってしまいます」

「愛のって」

 

 あらゆる夢の光を持つティアマトがアエーシュマの糸で汲み取った魔力と自分の力を混ぜ合わせることで……ってことだろうとペオルが解説してくれる。実際に彼の眼にはどうやらそういう色が視えたんだろう。

 

「しかしワタクシ、悪魔としてのみ顕現してしまって、勇者としての力をすべてシュマ様に渡してしまっていますし、未だ白鷺千聖さんの色しか取り戻せていないのですよ」

「……気を付けろドリームスター」

「わかってる」

 

 けど、どうやってその色を取り戻そうとするのだろうか。そんな風に考えていると黒だった彼女の髪に白が混ざってツートンカラーになっていく。それと同時にまるで身体から漏れ出るように影が溢れてくる。

 

「いただきますね……あなたのチカラ」

「あげるわけにはいかないよ!」

「おい不利だぞ!」

「いいからペオルはサタンと一緒にアエーシュマを斃してきて!」

「……行くぞペオル」

「ちっ、おうよ! いいかヤられんじゃねぇぞ!」

 

 余計なお世話だよ、弱いクセに! と言葉を返しながらも目線は私は少女の皮を被った影を溢れさせる悪魔と対峙する。相手は強大な力を持つ悪魔……それに立ち向かう。私は集中力を高めていく。相手は一体じゃないと思うしかない。

 

「そう身構えないでくださいませ、言うならばこれはダンスですよ? シャル・ウィ・ダンス?」

「ふざけないで!」

「あは♡」

 

 影が蠢いて、生物のものから武器に変わっていく。一つはハート型のステッキ、白色のそのハートの中心には二つの花があるけれどそのどれもが無色で、ただ片方の六枚の花には黄色が添えられていた。

 ──残りは黒い影のまま彼女の意志を汲む刃として私に襲い掛かってきた。圧倒的物量、だけど私は下がらない、前へ、前へ、前へ! 

 

「おお! なんと!」

 

 ティアマトから驚きの声が漏れる。刃の嵐の中にあっても私は歩みを止めることはない。捌いて、捌いて、弾いて……こんなところでイヴちゃんやシャヘルとの修練が役立つなんて思わなかったけど、やっぱり手数だけの攻撃なんてあの二人に比べたらなんでもない。隙ができたところで私はインパクトを一点に凝縮して、得意の上段回し蹴りを放った。

 

「──止めた!?」

「やはり近接戦闘は苦手です。ワタクシ、愛と夢を持ったラブリー♡ な魔法少女ですので」

「バリア! それがあなたの、勇者としての能力!」

「正解です」

 

 そっか、ティアマトは黒の影と白のバリアを使って戦う攻防一体の戦闘タイプ! 更に勇者としての武器であろうステッキから魔法弾を放って私を牽制してくる。遠距離タイプはファイアがそうだけど……こういうホントに魔法少女的な戦い方をする勇者が誰もいないから、やりにくいなぁ! そう思いながら距離を取ると流石のダンスでございましたと彼女は拍手と笑顔を送ってくる。余裕だね! 

 

「ええ余裕ですとも。さて、次はワタクシが踊る番でございますね──お行きなさい、侵食する魔影(イロージジョン・シャドウ)

 

 影が足許を侵食してくる。そこからドラゴンの顔が飛び出してきたり、針が出たりして私を全方位から追い詰めてくる。踊るとか言いつつ踊らされてるよね私! だけどこういう範囲攻撃に弱いだけの私じゃないよ! 

 

「スターブレイク!」

「無駄ですよぉ♡ 影はつかめるものでもましてや殴れるものではありませんから」

「うっ!?」

 

 スターブレイクで吹き飛ばそうとしたら、逆に腕を掴まれてしまう。こっちの攻撃は透過するのにそっちからは透過しないってずるくない!? 腕を一生懸命引くけれどダメで、それどころかなんか、力が出ない。あれ、私……? 

 

「ご協力ありがとうございます♡ あなたの攻撃の拡大と収縮、いただきました」

 

 ステッキの花にピンク色が灯る。そっか、今までの攻撃全部が、陽動ってこと……本当の目的は勇者たちの能力を奪うこと。

 ──回帰(テイクオーバー)、とティアマトは呼んでいた。その能力の前に力を吸い尽くされ、私は影の中で倒れこんでしまった。しかも、その影は私の身体をも呑み込んでいく。

 

「さぁ、しばらく眠りなさい……()()()()()、あなたはワタクシのかわいい娘……あのお方との、愛の結晶なのですから♡」

 

 私のことを知らない名前で呼ぶ。私は、私? アレ? 彼女は、()()()のお母さん? 彼女はティアマト、私の、アタシの、敵、大事なヒト。ああダメ、なんだか意識が混濁してきて……光の無い場所へと(アタシ)の意識は堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 あたしはクルールと名乗った悪魔の地面をも砕く一撃を回避していく。もう数分くらいこうして攻撃を避けてを繰り返してるけど、うーんこれでシャヘルがやられたって言うの? ってレベルだった。あまりにお粗末な剣の振りだ。

 

「テメェ! ちょこまかと逃げてばっかりじゃねぇか!」

「動きが退屈でさ、ねぇもしかして力押ししかできないゴリラなの? 魔力なし?」

「ああ!? 俺様に言ってんのか!」

 

 いや他に誰もいないじゃん。いやでも油断は禁物だよって言われてるしあたしもそう思う。いくらアッチは無限に悪魔化できるとはいえ少なくともシャヘルをほぼ無傷で倒したっていうのは警戒に値する。バカそうだけどたぶん、何かを狙ってる。

 

「オラ!」

「よっ──わちょ! 冷た!」

 

 突然のスプラッシュにあたしは驚きの声を上げた。鉄剣の衝撃で水道管が破裂したのか、地面から水が噴き出して、あたしを雨に打たれたように水浸しにしていく。あーもうサイアクなんだけど。

 

「おうおう、イイ感じに濡れたな~ええ?」

「は……もうホント、おじさんといいこんなんばっか?」

「なに言ってるかわからんが、ここからが俺様のショータイムよ! 唸れ、俺様の氷牙(アイスファング)──な、なんだ……俺様の身体が凍って!?」

 

 そんなことだろうと思った。どうやら水道管のところまで誘導してたっぽいし、あたしが濡れたところで喜ぶんだもんね。女の子を水浸しにして喜ぶの、えっちな理由じゃなきゃ自分が絶対優位なフィールドを創り出して勝ちを確信したってことだもんね。

 ──勝ったと思う瞬間が一番油断する。そんなこともわからないようじゃもう二度とシャヘルには勝てないと思うよ。

 

「う、動かん……!」

破龍(ブレイクスルー)氷結(アイス)──さてと、ねぇキミ、砕かれて死ぬか彩ちゃんの居場所を教えるかどっちか選んで」

「ああ! このくらいの氷を俺様が──グガァ!? う、う、腕が……っ!」

「もう一回言おうか?」

「ヒッ、あ、悪魔……!」

 

 悪魔はソッチでしょ? ふざけてないで、教えてよ。そもそもおねーちゃんの意識を奪った悪魔と同じ気配がしてるってだけでホントは今すぐにあたしの最大で最高の力を持って殺してあげたいのを必死で抑えてるんだから、右腕だけで済んでるうちにさぁ、教えてよ! 

 

「ガ、この……!」

「脇腹の次はどこ? 彩ちゃんの居場所?」

「──ドリームスターはここにはいないわよ」

 

 パッとクルールの向こう側を見る。そこにはシトリンの角を生やした千聖ちゃん、恐らく千聖ちゃんの身体を借りた悪魔があたしの質問に答えてくれる。ふーん、じゃあこのゴリラいらないや。あたしがロッドを振り上げようとするとそこに雷が降り注いだ。

 

「──ってわけにはいかないか」

「ええ、こんなのでも便宜上の兄ですから」

「こんなバカなきょうだい持つと苦労しそうだね」

「……黄星のダブルチュ、参ります」

 

 雷を纏ったハンマーを振り回し、地面を砕いた。あたしが氷で抑えておいた水がまたもや噴き出して……ってまずい! 今度は凍らせても避けきれず、あたしはその場から飛び上がった。

 

「……おや、判断が早いですね。ワタシ、とても感動しています。ですが」

「──消えた!?」

「既に避雷針(マーキング)は完了しております」

 

 ──しまった。回路と通電、千聖ちゃん(サンダー)と同じ能力だと思ってたけど、やっぱり違うのか。そこにもう一つ、別の能力を付け加えられている。それがマーキング。魔力で目印みたいなのをつけて……たぶんさっきのハンマーで地面を砕いた時だ。それで、あたしの身体に自動追尾するようにしていたんだ。後ろに現れたダブルチュにハンマーで吹き飛ばされた。

 

「うあっ! この……っ!? また!」

「はい、またです」

「くっ、探知もすり抜けるってアリなの!?」

 

 瞬間移動にしてはひどすぎると思うんだよね! そう思いながらもなんとか捌いていると、そこに新しい悪魔の気配がする。ここにきてまた悪魔!? 向こうの陣営思った以上に分厚いなぁとそちらを見ると、そこにはドリームスターがいた。ううん、ドリームスターじゃない。彩ちゃんまで、そんな……! 

 

「逃げろ! ドリームサニー! ソイツは、ヤバすぎる!」

 

 ペオルが焦ったように叫んで……ってサタンの肩に抱えられてボロボロだった。やっばいねこりゃ、大ピンチだよ。あたしはかつては一緒に戦うんだなって思っていたはずの二人と対峙して、流石に汗を滴らせた。

 

 




ラブリー♡じゃないが。
あとクルールくん、四将なのにザコすぎん?
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