──記憶がフラッシュバックする。緩やかに、だがしかし閉塞した世界において突如として溢れ出た絶望という感情から生み出された悪魔たち。精霊とは違う、新たな種族とも言うべき彼らの橋渡しとなるために、私はその魔を受け入れ勇者となった。私は悪魔の父として、精霊たちに彼らの市民権を訴え、そして。あの日、仲間だった彼女を殺した。最愛のヒトを喪った。ならば正義を貫け、という友の言葉、あなたは、あなたのまま生きてという、優しくて残酷な最愛の言葉を遺されて。そして、復讐を決意した。だが、その邪な感情が、ああして全てを滅ぼした。アエーシュマという邪悪を生み出してしまった。
「……夢、か」
「どうしました、サタン様」
「いいや、少し、眠っていたようだ」
「ここのところ眠っておられないようですから、少し横になられた方が」
目が覚めると、シャヘルがそんな風に心配を露わにしてくる。私以外にはほとんど感情を表層に出さぬ男だが、最近では随分とドリームスノー、若宮イヴと交流が増えた。バアルもペオルも。彼らは変わっている。他者を殺すことでしか自分たちの存在を認められなかったあの頃から、確かに。
──大丈夫だと手で制すると同時に、ドアがノックされる。次いで聴こえた声はバアルのものだった。
「入れ」
「サタン」
「失礼します、とサタン様を呼び捨てにするなバアル。お前は礼節というものを知れ」
「ああ? 突っかかってくんな」
こういったやり取りもまた、変化の一つだろう。だが今はそんなことを言っている場合ではなさそうだ。独断専行が基本のバアルがこうして私に報告に来ることそのものが異常事態を物語っている。
「言い争いは後にしてくれ……要件は?」
「ああそうだった。ペオルの反応が消えた」
「──消えた? 滅びたか」
「いいや、そういう感じじゃなかった。プツリと途絶えた感じだ」
「遮断された、というわけだな」
ああ、と頷くバアル。ティアマト、仕掛けてきたか。だが相当頭に血が上っているようで、内部を探るためのペオルに手を出してくるとは思わなかったな。戦闘能力はないがあれはあれで切れ者でもある。常に自分の魔力を感知できるようにしていてくれるのもまた、こうして我々に戦闘が始まったことを伝えてくれるからだ。
「終わらせよう、我らの因縁を」
「おう! あのクソガキ、ぜってぇぶっ飛ばしてやる!」
「かしこまりましたサタン様、今回は全力で……!」
行こうか、我々の戦いをするために。眩しく、輝くような夢を抱く彼女たちの世界を、私も守ろう。それが贖罪になるとは思っていない。だが私は誓ったのだ。
──今度こそ、正義を貫く。私が私であるために。彼女の熱が私の心臓にある限り。
影が針のように連なって地面から飛び出してくるのを私と
「どうやら任意の植物を生成する能力ね、気を付けてスター!」
「キッチンガーデン、でございます」
「悪趣味な
つまりアレが勇者の緑の能力。ティアマトの顔の二倍くらいの大きさの花弁から何かが飛び出してきて……その瞬間ビームが私の横をかすめた。サンダーの言う通り悪趣味すぎるよね! 乱発をされたら困る、私はまた光が収束し始めた花の茎を狙って回し蹴りを放った。
「
「そこ、でございます♡」
「しまっ──っああああ!」
「痺れてくださいませ、ワタクシの愛の前に」
しまった、陽動だった。そう思う間もなく髪の色が黄色と黒に変わると、私の胴体をがっちり捕まえていた影から電撃が流れ込んでくる。サンダーの通電、だけど! この痛みは残念ながら慣れちゃったよ!
「うぐっ、スター、ストーム……バーチカルッ!」
「──っ! この!」
少し浮いていた身体を無理やり沈めて地面を蹴る。回し蹴りは使えないから、縦に回転しての踵落としを放った。まさか電撃の中で動いてくるなんて思わなかったのか、さすがのティアマトの表情に焦りが出る。それでも素早くバリアが展開され、私の攻撃が防がれる。──そう、防がれるその瞬間を私たちは待っていたんだよ!
「乱れたわね……スター!」
「うん!」
私はティアマトのバリアに触れた。その瞬間、サンダーの悪魔化能力である避雷針が取り付けられたってことだ! そこに影を伝ってサンダーの電気が避雷針となったバリアに吸い込まれていく。当然、次のサンダーの魔力をもらった私の攻撃も、全部ね!
「
「ぐっ、わ、ワタクシのバリアが……っ!」
速度を格段に増したスターレインが全て一点に刺さっていく。やがてバリアが脆くなっていき、そして崩れていく。その瞬間を狙っているのがサンダー、ハンマーを構えて
「こんなことでワタクシを追い詰めたと、そう思っているのか! ナメるな──!」
「きた! サンダー!」
瞳が青色に変わり、髪の色も白と青に変わる。彼女にとっては初めて見せる技、でも、私たちはその技を研究しつくした!
「──あは、あははははは! 無様でございますねぇドリームサンダー! 今何をされたかおわかりですか? わかりませんよねぇ!? このワタクシを理解しようなんて、烏滸がましいッ!」
「がっ、あ……っぐぅ!」
──後ろで、嫌な音がした。振り返ると赤と黒の髪と赤の目、それと虹色の角を出したティアマトが、ボロボロになっているサンダーの、千聖ちゃんの右腕を赤黒く変色した左腕が握り砕いていた。
「
「千聖ちゃん! っあ! このぉ!」
「──ふふ、うふふ、いいですねぇ、その必死な顔! どうですか!? あなたを信じた裏切り者はきっと、もう楽器を握ることもできないでしょうねぇ! あはははは、ブザマ! これがワタクシに、シュマ様に抗った報いだ! ──
「ぐふっ──!」
焦って突進したせいで腕を影に掴まれ、浮き上がってしまう。そして腹部の鈍痛、私の能力であるインパクトの拡大をモロにくらってしまう。だが私は後ろに吹き飛ぶこともできずにもう一発、血反吐を吐き出すほどの威力の拳を叩きこまれた。
「がふっ……!」
「おっと、おやすみにはまだ早いですよぉ?」
「こ、の……っ!」
「あなたは苦しんで、苦しんで苦しんで苦しみ抜いて、死んだ方がマシというような絶望を味わっていただくんですよぉ? まずはその身体でシュマ様にご奉仕を──?」
──石を投げる。その辺に転がっていた、瓦礫を。全然威力がでなくて、影を纏ったティアマトにはなんのダメージもないけど、絶対に諦めてたまるもんかという意思を込める。私は、まだ負けてない。負けてなんかいない……!
「勝手に、勝利宣言、しないで……もらえるかなぁ? 私は、なにをされても、絶望なんてしない。私には叶えたい夢があるから」
「……叶うと思うか? このままキサマは堕ちるところまで堕ちる。死んだ方がマシなほどの生き地獄に」
「それでも、諦めない……わた、しは……アイドル、に、トップスターに、なる……!」
「そう、で……ございますか。ならそんな口がきけないように喉を潰して差し上げますね♡ シュマ様の前で苦痛と悲鳴に喘がせることができないのはいささか心残りではございますが……ワタクシの前でくだらない夢を、愛を語った罰を、受けなさい」
影が指のカタチに変わる。そのままスタースパイラルのような収縮を受けたら、私はもう二度と声が出せなくなるだろう。もう、歌えなくなるだろう。でも、歌え無くなっても、脚が折れても腕が折れても、ボロボロになっても。私は夢を、諦めたくない! 努力が報われる先を、信じてるから!
──そうだよ、アタシだって、アタシだって信じてる。努力の先にある誰からも認められる存在に! そう、心の中で叫ぶ声が聴こえた。なら、あなたも力を貸して。努力を信じてるのは、一緒なんだから!
「くらいなさい……なんだ?」
「ウグ……アアァァ!」
「まさか、ウガルルム!? アイツらに封印されているのでは……まさか絶望でこじ開けた?」
「チガ、う……コレが、夢の、力……だ!」
「チッ──イロージョンシャドウ!」
「はぁぁああああ!
ティアマト、あなたはウガルルムを生む時にガープの能力、自分の赤の力に近いものを混ぜ合わせて生んだんだね。その赤とピンクの混ざった拳は、影すらも破壊する、赤黒く変色した手甲から流れてくる魔力は荒々しく全てを壊すほどの破滅の魔力!
「……何故です? ドリームサンダーのようにウガルルムを、打倒したと?」
「違う。あの子は私だ。私は私と戦うんじゃなくて話し合う道を選んだ。あの子も努力に裏切られただけの、私だから!」
「その様子ですとすぐに暴走しそうですね! 戯れてあげます!」
目が、おかしい。ううん、違う目がすごく良くなっているんだ。ティアマトがスローに見えるほど、私の知覚能力が上がっている。耳も、鼻も、全てが鋭敏になっている。紫、刀を取り出したってことはスノーの万象切断か、そう判断するのも容易なくらいだった。
ただ体力がガンガン減っている感じもする。まるでずっと全力疾走してるくらいの。これで体力が切れちゃったら暴走する、そんな気もした。だから一撃で決める。一撃で、斃す!
──ビーストブレイクみたいなのじゃダメだ。拳には勇気を、星の勇気と獣の荒々しさを。だけどやっぱり忘れない。基本の構えと中段から放つ、正拳突きの動きだけは。
「
「こ、この、技は……ワタクシの魔力そのものを……打ち砕く、のか……っ!」
「ほ、ほらね……諦めない、努力は、私を……」
ティアマトが完全に沈黙したのを見てほっとしたせいか、悪魔化を解除して、意識が暗転してしまう。
──勝ったよ、千聖ちゃん。私、やっぱり諦めないでいいんだ。歌うのも、アイドルになるのも諦めたくない。それが私らしさって言うんだったら、私は死ぬまで、ううん死んでも夢を諦めたりなんか、しないよ。
こうして暴走フォーム獲得。悪魔化すると収縮が使えなくなるというデメリットがある。要するに拳を振るうだけで敵味方関係なく全部ぶっ壊す!