(前書きに意味はない)
ティアマトの影の中で始まった一対一のバトル。ロッドで嵐のような片刃剣の連撃を受け止めていく。おねーちゃん、じゃなくてムシュフシュの剣は小刻みに振動していた。そうすることによって切れ味を上げて攻撃をしてきている。それだけじゃなくて、斬るだけじゃなくて突くという行為も混ぜてくる。ああもう、強いなぁ!
「無駄よ」
「なにが!」
「あなたにわたしを倒すことはできない」
「そんなの、やってみなきゃわかんない──でしょ!」
ぐっと下半身に力を込めて漆雷を纏い、身体能力を上げていく。一直線じゃなくてフェイントを織り交ぜてのスピード勝負、それに対して彼女はまるで闘気を消してあたしに向かって語りかけてきた。
「……
「っ! この!」
「ほら、この程度で動揺し魔力を乱すようで、わたしに勝てるわけがないでしょう!」
ギィンと音を立てて、ロッドの一撃を受け止められる。そのままロッドに手を掛けられ、脇腹に蹴りを叩きこまれてしまい、あたしはたまらず地面に転がった。アイツ、おねーちゃんの顔して、おねーちゃんの声で! 許せない!
「
「……なるほど、磁化ですか。ですが、あなたにわたしは倒せない。でしょう日菜?」
「ふぅ、そうだね。あたしが氷川日菜である限り、おねーちゃんの身体を叩くことなんてできない」
「そうね、だったら諦められるでしょう?」
「……ううん、諦めたくないっ」
だって、あたしの知ってる勇者でアイドルはさ、絶対に諦めないもん。きっと今ごろ彩ちゃんも戦ってる。ボロボロになりながらもきっと、諦めずに前に進んでる。だからさ、だからあたしも戦うんだ。おねーちゃんとまた、一緒にいられるように!
「だから日菜、あなたには」
「日菜じゃないよ! あたしはドリームサニー! 夢を打ち砕く、夢を照らすお日様スマイル! ドリ~ムっ、サニー!」
「……そう」
「いくよムシュフシュ!」
もう迷わない。あたしは勇者だから、夢を叶えるから! またおねーちゃんと一緒に、今度は一緒にギターを弾きたい。一緒に笑いあいたい。昔みたいに仲良し姉妹に戻りたい! だからこそ、その身体を奪ったアエーシュマを、あなたを倒してみせる!
「無駄よ、借り物の雷でわたしに勝てると思わないことね──
「──っ!」
ムシュフシュの姿が、消えた、んじゃない。雷を纏ったんだ。蒼白い雷を纏って、ものすごい速度で、音が置き去りにされていく。
──これ、あれだ! 振動が音、それと雷に剣先から炎を出す三つの能力は、この間戦った悪魔の能力だ! それを、ムシュフシュが使いやすいように改良していて、やっぱりおねーちゃんは意識を乗っ取られてもおねーちゃんだなぁなんて、なんだか嬉しくなっていた。
「はやっ! ちょ、わわ!」
「磁化なんて便利な能力はないけれど、電気信号である以上、通電に耐えうることさえできれば、こうして! 身体能力を爆発的に上げることができるわ!」
「えへへ」
「何がおかしいのかしら! 敗北を前にして頭がおかしくなったの?」
「ううん、やっぱり
あたしの原点、できないって心のどこかでわかっていたけれど、それがあたしの原点、あたしの、途方もない夢みたいなもの。彩ちゃんやイヴちゃんなんかと違って全然キラキラしてないけど、あたしは……この夢を、おっきな夢を絶対に忘れない!
「あつ、っいてて……やっぱバアルの雷借りてるだけじゃダメかぁ」
「そうよ。万物転換、あなたは何でもできるけれど、所詮は借り物ね」
「うんそうだ。あたしは夢も何もかも他人任せだ。他人のことを理解したいってことも、パスパレに入った理由も全部……でもね」
「なにかしら?」
「──パスパレにいたいって気持ちと、勇者になった気持ちは、あたしだけのものだ!」
あたしはいつだって、万物転換を他人の力を借りる気持ちでしか使ってなかった。真似っ子、あたしの弱点でもあるその言葉は確かにその通りなんだと思う。でも、それだけじゃダメなんだ。
──転換した力を自分のものにしてこそ、この破龍は真の力を発揮するのよ。千聖ちゃんはそう言ってたっけ。みんなみんな、自分の武器を本当に大事にしてるんだなぁって思う。拳、刀、銃、槌、悪魔たちだってそうだ。この困難を本当に打ち克ってこそ、あたしの勇者としての真価が試される。だからブレイクスルー、あたしに力を貸して!
「こ、これは……?」
「なに……なんなのそれは!」
「そっか、キミは、生きてるんだね」
「ドリームサニーの武器から、魔力が……? これは一体」
そこに流れてるのは漆雷、通電、あたしの知ってる雷に関する魔力のハイブリッドだった。なるほど、この子の真の力は今まであたしが転換させた魔力を記憶して、それを複合させて戦うことができる。正しく困難を打ち砕く力を導きだすブレイクスルー!
「おねーちゃんの技も使わせてもらうよ──
「くっ、纏雷!」
音が置き去りにされる技の応酬だった。痛い、身体がバチバチするし速度に骨とか筋肉とかが軋む感じがする。だけど、思った以上にムシュフシュの魔力、蒼星の力はあたしの身体に馴染んでいた。この辺も双子だからなのかな? 纏雷同士のぶつかり合いは互角だった。
「近接戦闘だけだと思わないで、穿て、雷光弓!」
「よっと、
「──吸い込まれて!?」
雷に関連する能力である黄星の能力を発動させて、ブレイクスルーの先端を避雷針にする。ムシュフシュの雷の矢は全部そっちに吸い込まれていって、あたしはそれを自分の身体に流しこんで纏雷の魔力の足しにする。
──ってかこの能力めっちゃ燃費悪いね! 爆発的に膂力が上がるからしょうがないって感じだけど、あたしもあんまし長くは使えないね。
「この! また! またわたしの真似をして、わたしを追い越そうとするの!?」
「──やっぱりそれが、おねーちゃんの絶望なんだね」
おねーちゃんは色んなところでスポーツや勉強ですっごい才能を開花させた。それを全部ダメにしたのは他でもないあたしだ。あたしが同じことをしておねーちゃんよりも活躍、もしくは全然努力せずにおねーちゃんと互角くらいになっちゃうせいでいっつも、おねーちゃんに絶望を与えていた。
──あはは、悪魔みたいだ。あたしは、ヒトに絶望を与えて生きている。オーディションの時だって、未経験のはずだったあたしの技術に口を開けるしかなかった人たちのことを知っている。天才っていうんだよね。天才は、ヒトを絶望させて、その死骸の上に立つことで光輝くことができる。きっと、アイドルの世界だってそうだ。
「だからだよ」
「なにが!」
「だからあたしはっ、おねーちゃんと一緒にいたい! 氷川紗夜と一緒に生きていたいんだ! それが、おねーちゃんを傷付けたあたしの、覚悟だから!」
「……日菜」
纏雷を最大出力に上げる。もうあたしの魔力はきっと勇者なのか悪魔なのかわからないくらいに渦を巻いてるに違いない。でもそれでいい。あたしの性根は勇者なんかじゃなくてきっと悪魔だから。悪魔化はしないけど、頭に角が生えちゃうくらいが、丁度いい。
「
「──まだよ! 奏でるわ! あなたのレクイエムを!」
「そう来ると思ってたよ!」
あたしの弱点、万物転換のスピードが遅いことを、今ここでブレイクスルーするしかない! 雷を無理やり、一瞬でも早く! 破壊の魔力に転換する。頭が痛む、イマジネーションの加速に脳がフル回転している感覚がする。同時にもう、纏雷にかかる負担が限界をとっくに越えてる……でも! あたしは負けない! あたしは、おねーちゃんが……おねーちゃんが大好きだから!
「とど──けてみせるっ!
「て、纏雷のダメージを、無理やり破壊に転換して……っ!? 」
音のバリアと、剣を砕いていく。彩ちゃん、ドリームスターのインパクトの収縮によって一点集中の破壊が彼女の腹部に突き刺さった。ごめんおねーちゃん、後でポップに頼んで治してもらうから! そう思いながら迷いなくあたしはロッドを振り抜いた。
「あ、っぐ……はぁ……日菜」
「おねーちゃん! おねーちゃん……っ!」
「わたしは、あなたの姉の記憶は持っていても、氷川紗夜では、ないわ」
「それでも、おねーちゃんはおねーちゃんだもん!」
「……そう、なら、泣かないで……日菜。あなたは間違っていない。あなたが前に進むためには、
でも、と泣きじゃくってしまうあたしに対して、ムシュフシュは、優しく頬を撫でてくれる。微笑んでくれる。同時にわたしの中の絶望は、これで晴れると教えてくれた。そうしたら目覚めるだろう、とも。
「けれど、本当に絶望に意識を奪われた人を助けるには……勇者が、その力で夢を語ることが、大事よ……そうすれば」
そうすれば、ヒトに夢を与えることができる。そういってムシュフシュは気絶した。
──なら、他の二人を助けに行かなきゃ、そう思ったけど身体が動かない。万物転換で回復みたいなことも多少できるんだけど、なんか魔法で回復っていうイメージが湧かなかったからなぁ。ポップの回復、真似したくてもなんでかできないし。
「でも、きっと大丈夫だよね……イヴちゃんも、麻弥ちゃんも、強いから」
そう、信じてる。あたしは信じてるんだ。人を信じるってすごい、なんだか心があったかくなる言葉だなぁとか思いながら、おねーちゃんを膝枕しながら真っ暗な空間の空を見上げた。えへへ、もうちょっとおねーちゃんの髪触っててもきっと怒られないよね! うん、きっとそうに違いないよ!
ムシュフシュ、悪魔といえどニューエイジは宿主の人格を引き継いでしまうのが逆に弱点な気がしてきた。ダブルチュとかウガルルムとか。