夢想勇者☆パステルドリーム   作:黒マメファナ

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ペオル主人公ムーブくるー?


第29話:EMERALDは燃ゆる

 痛い、痛い、そればかりがジブンの頭の中で浮かんでは消える。頬や肩、腕や脚に切り傷が作られて、火傷のようになっているアトもあった。目の前でそんなジブンに向かって愉悦に染まった笑みを浮かべるベンヌが仕込み杖を延ばしてくる。それをなんとか弾こうとして、ムチのようにうねる刃に手の甲を斬られ、杖の状態に戻った石突きで腹部を殴られ、蹴り飛ばされた。

 

「う、ぐっ! ああっ!」

「いいねぇ、いい声で鳴いてくれるじゃないか」

「はぁ、はぁ……っ!」

 

 なんとか逃げ回るけれど、今度は熱波が飛んでくる。ベンヌの熱波は羽根の一枚一枚から出ているようで、その気になれば爆風を生み出すこともできる死の翼、それをそよ風のように羽搏かせて、相手を精神的にも肉体的にも追い詰めてくる。

 ──いい性格してるッスね! しかもなに相性が悪いかというと、その熱波だ。

 

「武器構築・突撃(アサルト)!」

「無駄な抵抗はしないでくれたまえ」

 

 ジブンとしては、弾丸は鉛の塊ってイメージが拭えない以上はどうしても実弾になってしまう。魔力も武器の構築と分解に重きを置きすぎているせいでどうしても火力が他の四人に劣ってしまう。はは、これが現実だ、ジブンはあの四人のキラキラには叶わない。

 

「そうら!」

「あぐ、っつう……!」

「おやすまない、思わず撃ってしまった、なっ!」

「う──っぐ、うぅ!」

 

 脚を銃で撃ち抜かれて、痛みと苦しみで膝を折ったところでトーキックを鳩尾に叩き込まれて、ボールのように転がってしまう。こんな、こんな目に遭って、ジブンは死ぬのだろうか? こんな苦しんで、痛みに呻いて、咽て血反吐を吐き出しながら、敵の加虐嗜好を満たすだけ満たさせて、死ぬのだろうか? 

 

「それが絶望だよ、ドリームファイア。キミは絶望し、世界を壊す存在になる。大丈夫だ、他の子も一緒だ。私が保証しよう」

 

 ベンヌの声に、頭がぐるぐるとかき回される感覚がする。世界を壊す? それは悪魔になって、ということだろうか。なんだか笑えてしまった。まだ、まだそんなことを言っているんスね。勇者を悪魔に堕とし、そして世界を壊させる。楽しい人形アソビッスね。

 

「なにがおかしい?」

「……いいえ。千聖さんと彩さん、二人の勇者を見て、なんとも思わないんスね。アエーシュマって悪魔は」

「なに?」

「千聖さんは自分の絶望を乗り越えた。彩さんは、たぶん自分の絶望と向き合った。アエーシュマが思ってるよりも、この世界の勇者の心ってのは、強いんスよ」

 

 絶望しない。絶望したとしても、諦めない。もうあの二人は自分の人形でないということにも気づけないなんて笑えるほど愚かな首魁だと思う。きっと、ティアマトですら彼の人形なんかではない、ベンヌも、そうだ。

 

「……お前は」

「ベンヌさんは、自由なヒト……じゃなくて悪魔ッスからきっと、サタンの、復讐とは肌が合わなかったんスよね」

「理解したように言うね」

「わかっちゃうんです。なんとなく、ッスけど」

 

 日菜さんがそうだ。最初は悪魔に復讐するために勇者を続けていたと思っていた。思っていたのに、それをふと訊いてみる機会があって、そこで日菜さんはきょとんとしてからあははは! と大きな声で笑い飛ばした。

 

「なんて言ったと思います? 楽しいんだって、みんなと一緒に夢を追いかけるのが楽しいから勇者なんだって」

「……だからどうした」

 

 頭に銃口を押し当てられる。イライラしているみたいで、その引き金を引かれたら、ジブンは間違いなく死ぬ。その冷たさを味わいながらそれでも口は止まらない。このヘンテコな戦いは、やってちゃいけないんだってことをジブンは伝えたいから。

 

「ベンヌ、あなたは……どうッスか? アエーシュマに忠誠を誓って、駒になりたくてそっち側にいるんじゃ、ないッスよね?」

「──キミとおしゃべりをするつもりはない。ドリームファイア」

 

 はは、図星ッスか。でも今の戦いにベンヌが疑問を感じ始めてるのはよくわかった。きっとみんなそうだ。この戦いにビストレイヤーが勝利しても、勝者はビストレイヤーでもジブンたちでもない。あの男ただ一人なのだということに、彼は薄々気づいている。

 

「エア、バズーカ!」

「……ん? なんだ?」

「へへ、どうだ? サニーからもらったなけなしの魔力はよ!」

「──ペオル」

「な、なんで……ここに?」

 

 そこに風を起こして現れたのは、ペオルだった。いやペオルがいること自体はおかしいことじゃない。だってペオルは少し前まで、ジブンと同じ機材担当の裏方として活動していたから。でも、飲み込まれていたんスね。

 

「バトンタッチだ、ドリームファイア。ここはオレに任せな」

「え……」

「な、なに言ってるんスか……!?」

 

 カッコつけて見かけ倒しの山羊角の槍を肩に乗せてるところ悪いッスけど今ベンヌまで困惑しましたよ? というかどんだけ相手にも弱いと思われてるんですか? いや実際無抵抗で千聖さんとか彩さん、果ては日菜さんにまで殴られてるところ見ると納得してますけどね。

 

「キミを殺るのは、楽しくなさそうだ」

「あー悪い、退屈はさせねぇよ。なぁベンヌ」

「なんだい?」

「オレたち六魔、サタンを抜いた五魔の生まれが特殊なの、知ってるよな」

「ああ……知っているもなにも、私もそうなのだからね」

 

 生まれが特殊、ということにジブンは首を傾げた。シャヘルがそうだということを聴いたことはあったんスけど。何故特殊なのか、それは数に関係があるらしい。数? 六って数字ッスか? 

 

「そうだ。六ってのは勇者の花弁の数と同じ。オレたちは勇者の力から生まれたんだよ」

「……今更、なんの話だ」

 

 勇者の力から生まれた存在。それなのに、悪魔なのはサタンの天使長としての能力であった生誕(バース)が絶望したから。そして天使の力と勇者の基礎の能力、白を引き継いだのがシャヘル、追手から身を守るため、他の悪魔たちを虐殺から守るために紫と緑から生まれたのが、バアルとペオル、そして絶望と殺戮の本能から生み出したのが黄と赤、アエーシュマとベンヌ。最後に残った青を勇者になる際に引き継いだのが、ティアマトだった。

 

「んで、そのうち紫電だったバアルのヤツはあまりに多くを喪った悲しみと怒りに身を任せて磁化の黒雷を身に着け漆雷に成って、()()()()()()はあまりに暴力的過ぎたが故に封印された」

「……ペオルが?」

 

 ようやく、何が言いたいのかわかった。碧角のペオルは封印されているのだと。だが、その封印という能力がどこからきているのか、ジブンはそれに気づいたのだ。

 サタンの緑の能力は封印だったとしたら、その封印は……誰が引き継いでいるのか? 

 

「そーいうこった。お前の封印もティアマトの封印も、もちろんオレ自身への封印も全部、()()()()()()。頭脳労働担当が必要そうなメンツだったんでな!」

「粗末な言い訳だったな」

「……そう思うか、まぁいい。見てろ……封印を解除する」

 

 ──角の出せない悪魔、ペオル。なのに二つ名が角なのはどうしてだろう? ずっと疑問だった。魔力の流れを視る目が優れているのにそれを操作する力がどうしてないんだろう? それがわかる時がついにやってきた。

 

「っ!?」

「あ!」

 

 銃を構えていた。ベンヌの左腕が吹き飛んだ。風の魔力、さっきとはくらべものにならない威力の風の刃が、ベンヌの腕を回転させ、引きちぎったんだ。

 べちゃ、と嫌な音がする。だがベンヌ自身は何事もなかったかのようにアエーシュマの魔力を消費して回復していった。

 灼熱の角を生やし、怒りの熱を振りまく彼の視線の先には、さっきまでとはオーラの質も量も段違いの、エメラルドの角を生やし、同じ色の魔眼を煌めかせたペオルの姿があった。

 

「碧眼のペオルだ。改めて、征くぞかつての同胞(はらから)よ」

「……いいじゃないか! 愉しみがいがありそうだなぁ、ペオルッ!」

 

 散弾銃を放つが、それをまるでバトンでも回しているかのように山羊角の鉾が全てを弾いていく。そして、逆にそこからハンマーのような大質量の空気の塊、エアバズーカを飛ばして攻撃をしていく。

 

「威力を上げても風は私には効かんよペオル」

「……そうだな」

 

 そう静かに言うなり、鉾を空中に突き出し左に回転させる。なにをしているのか理解できずにベンヌも身構えている。まるで鍵を閉めるかのような仕草をしたペオルは突如として槍を構えて直接攻撃を仕掛けた。

 

「ふん、確かに身体能力は上がってはいるようだが、所詮はペオルか。燃やしつくしてやろう!」

「……できるか?」

 

 やってやろうと翼を広げる。だが、それだけだった。それだけで何の魔力の増幅もない。ベンヌの灼熱のような魔力がまるでどこかに消えてしまったかのように封じられてしまっていた。焦るベンヌは散弾銃を放つがやはりそれは風の防壁の前に意味を成さなくなってしまう。

 

「無駄だ」

「チッ、能力は凍結か」

「凍結ではない、封と開錠だ」

「何が違うのか、教えてくれると嬉しいねぇ」

「あくまで()()()()()()()。お前が増幅しようとした魔力をお前の中に押し込めてることで限界だ……だが」

 

 そこで、今度は鉾を右回りに回転させる。さっきは意味のない行動だったはずなのだが、ここでやっと意味がわかる。あれは魔力のオンオフのイマジネーションの一部なんスね。それによって圧倒的なペオルの魔力によって抑えられていたベンヌの灼冥が自らの翼や腕を焦がし始め、あまりの熱と痛みに呻いていく。

 

「っぐぅ!?」

「これで、トドメ……!? なんだ……?」

 

 ペオルが鉾をベンヌに向けたと思ったら、まるで空間にヒビが入っていくように崩れていく。クイーンがやられなければこの空間はアチラ側から解除されないはず、と驚くベンヌが呟いたことが真実ならば、つまり……元に戻っていくペオルと顔を見合わせてジブンたちは勝利を喜び合った。

 

「やったな、大和」

「ハイ! というか、さっきまでの、キャラ別人になってませんか?」

「うるせーな! なんかああなっちまうんだよ」

 

 そんな暢気な会話を繰り広げて、元の場所に、事務所のレッスン室に戻ってきたと思ったら、そこは凄惨な有様となっていた。倒れ伏すティアマト、そして腕が変な方向に曲がってしまっている千聖さん。

 ──相打ち!? 彩さんは? しかも二人とも重症だなんて! 駆け寄ろうとしたところで、ジブンは脚を撃ち抜かれたことを忘れてコケてしまった。瞬間、爆発が起こってベンヌと三人で何があったのかと同じ方向を見た。

 

「クソ、クソがっ!」

「……っく、サタン、さま……!」

「フフ、フフフフ! 敵将、討ち取ったり、ってね」

 

 そこには敵のボス、アエーシュマによって腹部を短剣で貫かれるサタンと、既にボロボロのシャヘルとバアルが立ちはだかっていた。そしてアエーシュマの後ろには見えない糸に吊るされて意識がないであろうボロボロの彩さんがいた。

 ──彼の口が愉悦に歪む。時は満ちたとばかりに。今全ての駒を喪ってでも、アエーシュマは目的の駒を、ジブンたちにとっての王と金を取ったのだと口許が三日月を創り出していた。

 

 

 

 

 

 

 




ペオルって悪魔で言うとベルフェゴールなんだけど、バアル・ペオルなんだよね。ペオル山の王でバアル・ペオル。それで本来は残虐な性格でもあるから(元ネタが)角を出せなくなる碧角によって暴力的な内面を抑えていた、みたいな感じ。
それより勝ったと思ったら負けてたよ!
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