戦うようになって、少し焦ったけれどお披露目ライブ当日がやってきた。でも、そこで問題が一つあって……集まりからたった二週間のお披露目ライブは……アテフリであるということ。
「それって大丈夫なんですか?」
「う、うん……」
ポップにはそう言われちゃったけど自信をもって大丈夫って返すことはできなかった。
楽器ができるのは臨時メンバーから千聖ちゃんの言葉でメンバーになった麻弥ちゃん、そしてオーディションでメンバーになった日菜ちゃんの二人だった。
「白鷺さん、今日もいませんでしたね」
「……しょうがないよ、忙しんだから」
「でも、もう一週間切ってるんですよ? どうなってるんですかねぇ?」
二週間、レッスンに来るのは私とイヴちゃんだけ、日菜ちゃんが遊び半分でいたりいなかったり、麻弥ちゃんも別の仕事でいないし……千聖ちゃんはほとんど来なかった。
大丈夫、苦手なMCもたくさん練習した。大丈夫なはず……!
──その前夜、私は月明かりを見ながらポップと話をしていた。
「ついに、彩さんの夢への第一歩なんですね」
「うん……」
「緊張……はしますよね」
「そりゃそうだよぉ……」
悪魔のこと、夢を食らうってその生物のこと。そっちも考えなきゃだけど彩さんの夢が大事です、なんて言われてしまい、ポップのために……この二週間で出逢った新しい友達のために頑張ろうって思った。
「……けど、すいません」
「悪魔の気配した?」
「はい」
ちょっともやもやを発散する意味もあるし、ちゃんと勇者として頑張らないとね!
変身をして、私は窓から外に飛び出した。ポップを肩に乗せて、索敵をしてもらう。夢の精霊でもあるポップは夢を奪う悪魔を探知できるんだって言ってたんだけど、おかしい部分もあるんだって。
「……気配の発生が雑すぎます」
「そんなに?」
「はい、完全体ならもっと上手く隠せる……まるで」
「まるで?」
けどポップはいいえと首を横に振った。何か気になることがあるみたいだけど、私の明日のために黙っていてくれたんだよね。ありがとうポップ。
そんな気遣いに感謝していると、街中を飛び回る蝙蝠みたいな悪魔を見つけた。
「ググ……グギャ!」
「わ! 有翼は初めてだね?」
「そうですね……ですが」
「うん!」
この一週間、私はポップと相談して見つけたんだ。夢っていうのはイメージでもあってそれを現実にするのは魔法の力だから。
ちょっと怖かったけど練習したんだ。私は思いっきりアスファルトを踏みつけ、跳躍していく。ごめんね、練習の成果にさせてもらうから!
「やっ!」
「今です!」
「うん!」
空気にまるで透明な板があるようなイメージを持って、私は空中にむかって思いっきり足を出した。
──すると反動があって、更に跳躍、有翼の悪魔が飛んでる高さまでやってきた。
「ギャッ!?」
「ここで──はぁ!」
また空気中に、今度は床があるように空の上に立ったまま、上段回し蹴りを悪魔の首元に叩き込む。首筋にクリーンヒットし、悪魔はそれだけでアスファルトに叩きつけられ、苦しそうにうめいていた。
「ギギ……ッ」
「効いてる!」
「練習の成果がでましたね!」
「うん!」
と思ったのも束の間、蝙蝠みたいに口から音波を放って、私は後ろにバランスを崩してしまった。
──やば、そこには空中が、という認識が私の身体を空に投げ捨ててくる。けどポップがドリームスター! と呼んでくれてはっとする。大丈夫、地面はそんなに固くない。大丈夫!
「よしっ! 反撃!」
「グガッ! ギャギャッ!」
地面に手をついてすぐにダッシュして反撃する。胴体に拳を打ち込んで、倒れ込んできた頭を前蹴りで仰け反らせた。頭が上に向き完全に隙ができたところで、天地の構え……私の必殺の一撃を叩き込んでいく。
「
「ガッ──」
拳の一撃と衝撃波、二つをいっぺんに食らった悪魔はボロボロと飴細工のように崩れていき、中からOLさんらしき人が倒れ込んだのを受け止めた。えっと……救急車は、と思ったらポップが私がもう呼んでおきましたと教えてくれた。ああひまりちゃんがか。ありがとう。
「お疲れ様です」
「うん」
いつものようにちょっと離れたところで一息ついていた時だった。
ピクっとポップが耳をピンと尖らせた。え、また悪魔の気配? それを聴こうとしたその瞬間に、前方から人が歩いてきた。
「なるほどな、少しはヤレるみたいだな」
「誰……?」
「ドリームスター……この気配、悪魔です」
「悪魔? でも……」
目の前にいた人は若い男の人の姿をしているのに? だけど確かに邪悪で危ない雰囲気を纏っていた。
白のカッターシャツにちょっと季節外れのファーコート。黒のライダーの手袋をしたその男は、口許に三日月を作りながら私に向かって走ってくる。
「撃ってこい!」
「っ! やぁぁ!」
ほぼ完ぺきな入りで放った上段回し蹴りだったけれど、男は顎のところに手を置いてそれだけで防いでみせた。
──この悪魔、強い! でも……負けるわけには!
「はっ、いい蹴りだな、けど!」
「なにが……っ!」
「てめぇじゃ足らねぇな!」
すっと構える。ボクシングスタイル? ううん違うこれは、私が何かの番組で見たのをお母さんにちょっとだけ教えてもらったことがある……コンバットスタイルだ。細かいステップで連続で繰り出されるただのジャブ、それなのに一撃一撃の重さが……違いすぎる。
「うっ、あ!」
「ドリームスター!」
「つまんねぇな、オイ、殺したくなくても殺しちまうんだよ!」
負ける、このままじゃ……! そんな考えが頭をよぎった時だった。
──やめておけ、と男の貫手を腕を持って止めたのは白髪の青年だった。透き通るような青色の目をした、スーツも、手に持つ刀も、睫毛まで真っ白な青年。
「シャヘル! いいとこだろうが!」
「言ったはずだ、今は確かめる段階だと」
「まどろっこしい! オレは今──」
「サタン様の意向を無視するつもりか?」
「──ッチィ!」
よ、よくわからないけど……助かった?
私には一瞥もくれずに内輪で何かを言い合いながら去っていく二人の男をただ茫然と見てることしかできなかった。
「あれが……完全体の、悪魔。人間と完全に同期してしまった、本物です」
「あれが……本物の悪魔の力」
「はい」
恐ろしすぎる。今の私の力じゃ通じようもない。
あれは力を使わなければポップにも探知ができず対策が必要みたい。確かに……今あのバアル……だっけ? の貫手をあのシャヘルって悪魔が止めなかったら……私は死んでいた。
「ひとまず、対策は私に任せてください」
「……うん」
「明日、彩さんが夢に近づくことが、彩さんにできる強くなる方法ですから!」
ポップのその言葉に甘えて、私は明日に向けて意識を切り替えていった。私は明日になればアイドル研究生丸山彩じゃなくてパスパレの丸山彩になるんだ。そんな気持ちを切らないように。
──翌日、MCの紹介と共に私は舞台袖から光り輝くステージに向かっていった。
その瞬間、目に飛び込んでくる、約一万人に囲まれたステージ。私たちの初舞台……!
「──わぁ」
思わず感嘆の声が出てしまう。それはイヴちゃんも麻弥ちゃんも日菜ちゃんも同じような顔をしていた。千聖ちゃんは……流石だなぁ、元子役の突然のアイドル発表という驚きの視線にもきちんと笑顔で対応していた。
緊張しながら、私はきちんとMCを噛まずに言えた。みんな私たちのパフォーマンスに喜んでくれる。アイドルとバンドの融合というステージに夢を溢れさせていた。
「──キミたちは、エサでしかないよ……フフフフ」
そんな声が聞こえた気がした。えっと思う間もなく、突然……演奏が消えた。
メンバーみんなに……千聖ちゃんの顔にも動揺が走った。機材トラブル、どうしてこんな急に……? そんなことがぐるぐると頭を回る。なんとかしなきゃって思えば思うほど、足が竦んで声がでなくなってしまう。
「演奏してなくない?」
「は? これで終わり?」
「最悪……」
違う、違うのに。
完全にアテフリが裏目に出ちゃってる。みんなの落胆と絶望が広がっていく。私が、私は……夢を与える側なのに、みんなの、観客の夢を……奪ったんだ。
「そんな……嘘」
最前列にいたツインテールの女の子がそうつぶやいたのが見えた。千聖ちゃんの機転でなんとかなってる気がするけど、状況は決していいものじゃない。
失意のまま、原因が判明するのを待つだけ。
──バカだ、私……形式上のレッスンだけだってわかって、勇者としてのイメージトレーニングや悪魔との戦いばっかりに時間を使っていた。何かしらのアクションを起こせたはずなのに。折角掴んだチャンスも……夢への一歩も、ここで終わっちゃうの?
今日はひとまず、私たちは解散となった。詳しい話は明日……明日かぁ。
「彩さん……」
「ポップ」
「大丈夫……きっと大丈夫ですよ……」
ポップの言葉が、いつもは信用できないよーだなんて笑っていた大丈夫が、私の支えでもあった。
そもそも、アレは機材トラブル? 電圧がどうとか麻弥ちゃんは言っていたけど、あれは……あれは本当に、聞き間違い?
私の中であの聞こえた言葉だけがぐるぐると頭をめぐっていた。
「……ねぇあの時」
「悪魔の気配……はすいません、わかりませんでした」
「そっか」
とにかく、また明日。明日になればきっとなにかがある。
私は信じることしかできなかった。信じること、努力すること、それが私にとっての夢をかなえるための、夢を与えるための活力になるんだって思うこと。それしかできなかった。
☆丸山彩の悪魔メモ
・蝙蝠型の悪魔:ストラス
有翼で、蝙蝠みたいと言ったけど翼はカラスみたいだった。体長は翼広げて二メートルちょっとくらい。空中を飛び回って、音波を放ってくる厄介な敵……だと思うんだけど新しく覚えた空中を魔法力で固定する術を覚えたばっかりだったからそれなりに楽勝だったんだよね。