夢想勇者☆パステルドリーム   作:黒マメファナ

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第32話:終幕のBLAZE

 ──目覚めてまず、右腕のとんでもない痛みに顔をしかめる。見るのすら嫌なそれから目を逸らしつつ、私は鳰原令王那ちゃんからもらった月鳴の力を使っていく。彼女はこれでしばらく他の能力は使えなくなってしまうけれど、アエーシュマが苦々しい顔をする。

 

「ヤツが苦しんだと思ったら……なんだ? 傷と魔力が……」

「よくわからねぇけどイケるぜ、合わせろシャヘルッ!」

「ああ……!」

 

 右腕の痛みが引き……そして周囲の仲間の傷を回復していく。それを感知したシャヘルとバアルの額から角が生えて、黒と白の閃光が超高速でアエーシュマに迫っていく。逆にアエーシュマは自分の精神の一部を殴り殺されているため、痛みを共有しているのかやや覚束ない動きで盾を張る。

 

「千聖さん、無事だったんスね」

「さっきの能力はお前か!」

「ええ、事情は後で説明するわ、ペオル、アエーシュマの足止め、できるわよね?」

「──おう!」

「麻弥ちゃん、私たちは彩ちゃんを救出するわよ」

「りょ、了解ッス!」

 

 とは言え、視る限り、彩ちゃんを捕らえているものの外側、幾重にも糸が張り巡らされている。これじゃあ麻弥ちゃんの弾丸だと跳弾して救出する本人に当たってしまいかねない。私の雷槌で砕いても同じ……となるとどうしたものかと悩んでいると、私に任せてください! と紫の衣装が視界に入ってきた。

 

「イヴちゃん!」

「私の万象切断で……その神髄によってアヤさんの周囲の糸だけを斬ってみせます!」

「でも、失敗したら」

「だいじょーぶだよ、麻弥ちゃん」

 

 日菜ちゃんも目が覚めたのね。彩ちゃんの意識は未だ眠らされたまま、奪還には確かにイヴちゃんの万象切断に頼らなくてはいけなさそうね。だけれど、当然あの男は三対一の状況でも妨害してくるわよ。それは日菜ちゃんが先陣を買って出てくれる。

 

「大丈夫、もうあたしは誰にも負けない。負けてやるもんか」

「……わかったわ」

「──それじゃあ、今度は私の相手をしてくれるかな、麗しき勇者たち」

 

 後頭部に、銃を突き付けられる。まだあなたがいたわね……ルークさん? 誰にやられたのか随分とボロボロだけれど、その状態で四人を相手にできるのかしら? いえきっと今のあなたなら私一人で事足りるわよ? みんなを送り出し、私は振り向かないまま雷槌を地面に置き、両手を頭の高さに上げてカタチだけの降参を取る。

 

「どうするのかしら? 今すぐ私を倒さないと全てが水の泡よ?」

「アエーシュマの旦那が、なんとかしてくれるだろうよ」

「あなたがそこまで頑張る価値、あの男にあるとは思えないのだけれど」

「それでも、彼には私の名を取り戻させてくれた義理が、あるんでね」

 

 月鳴、あなたはあまりに暴力を愛しすぎていたが故に、あまりに他者の死に対して、他者の痛みに対して強欲すぎた。だから名を封じられた。きっとその衝動すらも奪われ退屈を過ごしていたのでしょうね。それ故にあの男の輝きは眩かった。その恩義と退屈を払拭してくれた彼への義理……まったく、愚かな男だわ、アエーシュマという悪魔は。

 

「だから、ビショップ……キミの苦しむ声が聴けないのはもったいないが、さようならだ」

「ええ、さようなら……()()()()(メイス)

「くっ……キサマ!」

 

 ベンヌの武器が解体され、私の手の中に新しく片手で振れる錘と呼ばれる中国で作られたハンマーの一種へと変貌する。同時に私の雷槌も形がウォーハンマーから錘へと、双錘と構築され、素早く振り返りざまにベンヌの脚を砕く。

 

「──ぐアッ!」

「熱風が放てないほどボロボロで、よく勝とうと思ったわね」

「そうするしかないからさ……ははは、同情してくれ」

「ええ同情するわ……あなたはもう、破壊なんてものに拘ってもいないだろうに」

「……それを決めるのはキミでも私でもない。旦那さ」

 

 地面に這いつくばり、それでも魔力を高めて……自爆でもするつもり!? だけれど私は素早く残っていたドリームファイアの再構築を使って投斧槌(トマホーク)に変換し、それを投げて避雷針(マーキング)でジャンプする。だけれど会心の自爆も、魔力が大幅に消失するだけで不発に終わる。このまま見届けていればいずれ彼は、彼の意識は消滅する。だけど、私は……私は一度だけ、あなたの本音を訊いた。訊いたのよ? それで、ただあの男のために命を捨てるのを見殺しにしろと言うの? 

 

「は、はは……嬉しいねぇ、美しきビショップから、そこまで想われて、いたとは」

「──もう、ダメなの?」

「ああ、魔力が維持できない。私はこれまでのようだ……」

「それじゃあ最期に訊かせて。あの時の言葉は、本心だったの?」

「……どうかな? 気まぐれな、それこそ雲のような……掴めるはずもない、私の夢さ」

 

 そう、と私は()()()()()()()()()()()()を彼に渡す。なぁに? 驚くことないわよ? 癒しの月鳴、殺戮の灼冥とは真逆に位置する、優しくて、けれど冷たい魔力。どちらもあなたの心を映す鏡でしょう? 

 

「といっても抵抗すれば今すぐにでも全力で叩き潰すわよ」

「……何故だ」

「お生憎様ね。破壊や殺戮なんて、趣味じゃないわ」

 

 私はそんな殺伐とした世界にいた。肉体でなくとも相手の心を、自分の心をひたすらに殺すような世界に。相手の自尊心、自信、そんなものを壊して、殺して、手が血塗れになるような世界に生きてきた。そこで生きる術を、私は殺すことでしか学べなかったわ。

 

「だけどね、ベンヌ。世界は、そんなに非道で、汚いものばかりじゃないの。あなたが夢見た青く美しい空に浮かぶゆったりと流れる白い雲のように。優しくて、自由なものもちゃんとあるのよ」

 

 そう、彩ちゃんがそうであるように。だから私は丸山彩を信じることにした。血に汚れてしまった私の手をそれでもしっかりと握ってくれた彼女だから。

 だからあなただって、殺す以外の生き方を探しても、いいはずよ。この世界はあなたにだって優しく微笑んでくれるはずなのだから。

 

「世界は、どうだろうねぇ」

「なら壊すの? 今全力で魔力を放出すれば私の命は簡単に奪えるわよ?」

「……いいや、今私が見上げる空が素敵に笑っているからね。それはできそうにない」

 

 ふふ、そういうキザったらしい言い方は好まないけれど、あなたがそうやって殺戮に身を浸さない時間があるのなら。私はあなたの空くらいになら、なってあげるわよ。今だけは、あなたが飛べる空に。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 目を覚ます。私は、そうださっきまで自分の中で戦って、そう思ってバッと起き上がると麻弥ちゃん、イヴちゃん、日菜ちゃんの三人に抱き着かれる。あれ、ここってまだ事務所のところ? そう思っているとビリビリとお腹が痺れるような魔力の波動がある。

 

「じょ、状況は!?」

「今しがた彩さんをアエーシュマから助け出したところッス!」

「イチかバチか! 大成功しました!」

「あはは、妨害されて集中乱れてたら彩ちゃんごと真っ二つだったけど!」

 

 ちょっと!? えっとそこはまぁいいや。助けてくれたんだもんね、今の日菜ちゃんの余計な一言はスルーしておくとして、戦況はどうなってるの? 訊ねるとほぼ同時にアエーシュマが外まで吹き飛ばされていた。

 ──顔を抑えてうずくまり、そんな彼が見上げるは悪魔王サタン。よかった、無事だったんだ! 

 

「お前の負けだ、アエーシュマ」

「……っく!」

「ヒトの心、というものを甘く見過ぎたな。勇者たちの、なによりティアマトの心を」

「心、なんてものはボクの糸によって操られるものさ!」

「無駄だ!」

 

 糸を張り巡らせるけれど、それをサタンはラピスラズリの角と、竜の羽を出し全てを熱で燃やしていく。ベンヌの灼冥と似ているけど、あれは怒りの炎、悦楽とかそういう感情とは程遠い、怒りと悲しみの熱が生み出す心の炎とでも言うべきものだった。

 

「操れるというのならそうするがいい。この私の、悪魔王サタンの燃ゆる心を! この怒りの劫火を止めることができるというなら、やってみろ!」

「この期に及んで説教か! いつまでキングのつもりでいる! キミがそうやって焔を揺らめかせるだけだったから、ボクたちは滅びかけた!」

 

 そんな叫び声、アエーシュマの言葉が空気を震わせた。今までのどんなものとは違う、本当の感情を露わにする。

 ──その隙を縫ったように、アエーシュマの前にまた新しい影が立ちはだかる。サタンの怒りの炎と、アエーシュマの嘆きの間に立つのは、傷の癒えたティアマトだった。

 

「お退きください、サタン様」

「……何故だティアマト。その男は……キミを」

「だからこそ! ワタクシは命を懸けてシュマ様が退くための時間を稼がせていただきます」

 

 今までにないほど必死な表情、それならばと腕に蒼炎を纏わせ振り被ったサタンを、私は慌てて止めた。腕にしがみつくような形でティアマトに迫った拳を止め、そしてティアマトに行って! と伝える。

 

「ドリームスター……」

「精神世界のお礼だよ、次はないけどねっ!」

「……恩には感じません。絶対あなたたちは絶望に堕とします。そして、シュマ様こそがキングとなるのですから」

「クイーン! 旦那! 掴まれ!」

「ベンヌ……それでは、またお会いしましょう」

 

 ナイスタイミングでベンヌが出てきて、私を一瞥してからティアマトはアエーシュマの糸を使ってベンヌに掴まっていく。あっという間に戦場から去っていくと、サタンは視線を私に向けてくる。うう、怖……敵の時に一度だけ対峙した寒気がするような圧倒的な力を感じる。

 

「あと少しだった。あと少しで討ち取れたのを……最後の最後でお前が邪魔するか、丸山彩」

「……私は、殺し合いをしているわけでもあなたたちの戦争を手伝っているわけじゃない」

 

 私が求めるものは夢を叶えるための道を創ること。その夢に向かうための道をアエーシュマが利用するから私たちが立ち向かっているだけだよ。それは私たち全員が同じ気持ちだ。私たちにとってこの勇者としての活動も、アイドルとしての成功の一つなんだよ。

 

「それに、いざとなったら私が倒す。私は、勇者だから」

「……今の力では暴走してしまうその力でか」

「なら、扱えるようにする。私は……私は諦めないから」

 

 なんならここで今、サタンと拳を交えるつもりで対峙する。だが、サタンは感情の読めないくらいに表情を動かすことなく、ならばと私の目の前に拳を突き付けた。まるでやってみろと言いたげな仕草、そしてこの結末を悪魔たちの手ではなく私たちに預けてくれるという意思を感じた。

 

「ならば、これからは私が稽古をつけてやる。ここで着かなかったヤツらとの決着は、お前が着けろ、ドリームスター」

「──うん!」

 

 一歩下がって、変身を解除した私はその拳に拳を合わせる。お願いします、私をイチから鍛えてほしい。次は、次こそは私たちだけでアエーシュマとティアマト、ベンヌを倒してみせるからさ! 

 

 

 

 




※ちゃんと作戦通りイヴちゃんが神髄(理論崩壊)を使って救出しました。
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