夢想勇者☆パステルドリーム   作:黒マメファナ

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第33話:裏切りのGREED

 あれから、あの戦いから一ヶ月が過ぎて、すっかり七月になっていた。何度かベンヌたちと戦ったけれど前のような本格的な侵攻もなく、私たちはアエーシュマの思惑の外でアイドル活動を続けていた。ライブは成功して……え、MCはちょっと危うかったけど、それでも暖かい雰囲気は私が夢見てきたステージと同じだったなぁ。後は、あゆみさん……私の理想とするアイドルが引退することになって、私は彼女の前で彼女を越えることを宣言したり、千聖ちゃんが舞台に挑戦したりと色々あった。

 ──そんなある日、私はサタンが代表を務める警備会社の武道場で悪魔王と手合わせをしていた。

 

「っぐ、ああ、アア!」

 

 体力が尽きたことで悪魔化が暴走し、ハチャメチャに攻撃を仕掛けていく。身体がまるで勝手に動くような暴力の嵐、だけど無秩序な攻撃が彼にかすり傷も与えることができるわけもなく、いなされ、地面に叩き伏せられてしまう。

 

「ペオル」

「あいよ」

「……はぁ、はぁ……っつう~」

「五分ってとこか。中々伸び悩んでんな」

 

 ペオルがポップに頼みこむカタチで協力して創り出した封印の鍵を使って私の中にある悪魔、ウガルルムの魔力を閉じ込めていく。普段はポップ、とペオルかサタンが持っておりそれを使うことで初めて私は悪魔化が可能になっていた。ウガルルムはすごく凶暴っていうか、自分の破壊の魔力に呑まれてしまうため、私の体力が尽きて魔力が維持できなくなると暴走しちゃう。それをなんとかしようとトレーニングをしている最中なんだけど、これがうまくいかない。

 

「元々の魔力操作の緻密さが関係しているようだな。まだ一つ一つの動作が粗い」

「安心しろ、オレだってそんなに得意じゃあねぇからな」

「ペオルに慰められると殴りたくなる」

「なんでだよ」

 

 勇者の衣装から胴着に戻って、今度は空手の動きをトレーニングする。拳の先の先まで気を遣う。ダンスの時みたいに先端まで全部を使って拳を振る。そういうイメージを持つことでも魔力操作は格段に良くなるらしい。

 

「気を遣う、だけでいいの?」

「実際、目端まで気を遣うことのできる千聖、イヴの二人は繊細な操作が可能だろう?」

「確かに」

 

 元はモデルとして撮られることを意識しているため表情の作り方やポージングに気を遣えるイヴちゃんと、女優を本業として活動するため細かい仕草などから生み出される演技を求められる千聖ちゃんはすごく魔力操作が上手だ。イヴちゃんは斬りたいものだけを斬る神髄も千聖ちゃんの回路と通電もその操作に裏打ちされたものだ。

 

「オーラを拳に広げる感じ、なのかな?」

「オーラという曖昧なイメージである限りは完成からは程遠いな。抽象的なものほど具体的なイメージを持て」

「……はいっ!」

 

 とは言われたものの、難しいなぁ。そもそもサタン、レッスンの先生の数倍はスパルタだよ~身体痛いし、ポップ、もといひまりちゃんが大丈夫ですか~と肩を揉む振りをして癒してくれなかったらバイトもできないくらいだよ。

 

「大丈夫ですって彩さん! イヴちゃんの日常は私の癒しに支えられてますから」

「……それは、どうなの?」

「どうなんでしょうね?」

 

 そういえばイヴちゃんはこれにプラスして剣道部に茶道部、華道部といった部活を兼任してるんだもんね。あのバイタリティどうなってるのかと思ったらポップ頼りだったか。そろそろマッサージ機器扱いなのも怒られそうなんだけど、意外なことにひまりちゃんはいいんですとにこやかに笑ってくれる。

 

「でも、サタンたち悪魔のことは……」

「確かに、許せません。でもサタンという悪魔を生み出したのは、ある種は私たち精霊王が悪いんです」

「精霊王……たち?」

「はい」

 

 精霊界はどうやらその天界、みたいなものと地上界みたいなのに別れていたらしいことを教えてもらっていた。そして精霊姫って称号は天界でのものらしく、ずっと精霊界の住人だ住人だと思っていたけどひまりちゃん(ポップ)はどうやらカミサマ側だったみたい。

 

「私たちは変化を恐れていました。変わらないことがどんなに愚かなのかもわからずに……だからこそ、ああいう結果を招いた。今ではそう思う時もあります」

 

 そんなひまりちゃんの頭を私は撫でた。アエーシュマの慟哭やサタンの怒りは、それだけ堪えたんだろうな。自分が正義で、悪魔たちが自分の世界を滅ぼした悪いヤツ。そう思っていた時がどんなによかったんだろう。私も、ただ悪魔たちを斃すって思ってた時の方がずっと気楽だった。

 

「彩ちゃんとひまりちゃんって、なんだか姉妹みたいだよね」

「そうかな?」

「うん、なんだか羨ましいなぁって」

「私は、弟ほしかったなぁ」

「ふふ、後ね、最近千聖ちゃん、すっごく明るくなってきたのも彩ちゃんの力なのかなぁって思うんだ」

「……それは、どうだろう」

 

 私と千聖ちゃんは今でも時折意見が対立することもあるし、舞台に挑戦した際はまた変身して本気で戦うこともした。そんな不安定な時の千聖ちゃんも、今の千聖ちゃんも親友として見ている花音ちゃんとしては、そう見えるのかな? 

 

「──そいつは素敵な話だ、是非ゆっくりと聴かせてほしいねぇ」

「あ、いら……しゃいませ?」

「どうも可憐なお嬢さん、こっちのセットをくれるかい? ドリンクはアイスコーヒーで頼むよ」

 

 それは長身の男性だった。どこかダンディな雰囲気を醸し出す髭、茶色の帽子の跡がつく髪もなんだかサマになっていて、いつものコートではなくフツーのスーツ姿でも、ハットがなくてもどこか目立つ印象を受ける。

 ──人間としての名前は知らないけど、悪魔としての名前なら知ってる。灼冥のベンヌ。ちょっと警戒するけど彼は、時間外労働はしない主義でねとおどけてくる。

 

「……? 彩ちゃんの知り合い?」

「ああ、私は彼女の事務所のスタッフでね。どうだろう? キミも我が──」

「──あら? そこで何をしているのかしら? その手はなぁに?」

「あらら、どうもビショップ」

「その呼び方はやめなさい」

 

 よ、よかったぁ千聖ちゃんだ。どうやらドラマの撮影帰りみたいで制服姿の千聖ちゃんが花音ちゃんに伸ばしていた手を制していた。た、戦いになったりしないよね? みんなの記憶から基本的には消えるし破壊もなかったことになるとはいえ、ここで戦うのは嫌だよ? 

 

「今日は交渉をしに来たんだよ」

「……彩ちゃんが一人の時に、かしら?」

「え、えっとぉ……?」

「ごめんねひまりちゃん、ちょっと店長に事情説明しといてくれる?」

「わかりました」

「な、なんでそんな冷静なのひまりちゃん」

 

 そんな風に困惑する花音ちゃんをよそに休憩を早めてもらって、私と千聖ちゃんはバーガーやポテトを口に放り込んでいくベンヌを睨みつけた。本当に敵意はないみたいだけど交渉ってなに? この前みたいに一時的な共闘でもする? 

 

「まぁ単純に言うと、そうなるね」

「あら、どういうつもりかしら?」

 

 以前は変なものを取り込んだティアマトを解放するために共闘したけど、今は彼女、そっちでのんびりしてたよね? 共闘する理由はないと思うんだけど、ベンヌはポツリと語った。今のままでは旦那は大切なものを見失ったままだと。

 

「大切なもの……って?」

「今のままでは我々はキミたちに勝つことはできない。少なくとも前回の戦いで私はそう感じた。クイーンとナイト、それにアエーシュマの旦那を加えたところで結果は変わらない。それをわかっているんだろうねぇ……最近とみにパワハラが厳しくてね。勇者を殺せって言って聴かなくなってきた」

 

 殺せ、か。前までは私たちに利用価値がある。世界を破壊するのはこの世界で生まれた勇者たちだ。それこそが美しく残酷で自分を満足させる娯楽だと私たちを追い詰めることに策謀を張り巡らせていたアエーシュマがそんなこと。それでこの間ティアマトが突撃してきたんだね。何か焦ってるような、迷っているようなそんな感じがあったよ。

 

「それを返り討ちにされてから特に焦り始めているよ。だから……」

「──なにを、していらっしゃるのですか、ベンヌ?」

 

 音が、世界が止まったような感覚がして、私たち三人がその向きに顔を向ける。そこにいたのは怒髪天を衝く、という言葉が似合いそうな笑みをたたえたツインテールの少女だった。そしてそれは私たちを見るなりペコリと頭を下げてから……髪の色が黒と白に変わり、周囲から影が溢れてきた。

 

「イロージョン……!?」

「外に出る! 変身しろ!」

「行くわよ、彩ちゃん」

「うん……!」

 

 指輪をバングルに重ねて、私はピンク色の、千聖ちゃんは黄色の光に包まれる。アイドルのような衣装、私たちの夢の象徴であるその衣装に身を包み、私とドリームサンダーはそれぞれの武器を構える。

 

「ベンヌ……本気でシュマ様を裏切るおつもりで?」

 

 瞳と髪の白だった部分が黄色になっていく。すると影から様々な武器を持ったヒト型が多数独立して誕生する。ティアマトの黄色の能力であるドールプレイ。自分の魔力を与えた物体を操作、支配する能力。相手に魔力があればあるほど抵抗力は上がるけれど、それを敵ではなく自分の影に使うことで自由に操れる軍団を創り上げていた。

 

「さぁ、行きなさい。ワタクシの愛のために!」

「く、勇者! コイツらは私が引き受ける。ティアマトを頼んだ」

「無茶を振るわね」

「でも、やるしかないよ」

「ちょっと待った~!」

 

 髪の色を戻し、臨戦態勢に入ったティアマトと私たちの前に現れたのは、日菜ちゃん、ドリームサニーだった。悪魔の気配を感じて近くにいたから直行してきてくれたらしく、頼もしい仲間に私たちは微笑む。

 

「あたし、おねーちゃんを悪魔にしたことまだ許してないし、なによりこの子に負けっぱなしなんだよね!」

「ならばサシでの勝負でも致しますか? 瞬殺、してあげますよ♪」

「ううん、もちろんサンダーとスターの力を借りるよ。でも二人はサポートに回ってくれる?」

 

 そういうことなら、と私とサンダーは顔を見合わせて頷いた。リベンジに燃える日菜ちゃん(サニー)は真の力を解放したロッド、破龍(ブレイクスルー)を回しながら、ティアマトに宣言した。

 

「今度こそ勝つ! 参ったって言わせてやるから!」

「……その自信過剰な口がシュマ様の心安らぐ嬌声を上げられるまで存分に調教し(いたぶっ)て差し上げましょうか」

「あはは、無理でしょ? ってか普段からあんなご主人様に尻尾振ってきゃんきゃん鳴いてるわんわんがゆーことじゃないよね!」

「……ふふ、ふふふふ……今言ったこと、シュマ様の前でさせてやる!」

 

 あー、また煽るから、と思ったけどそれが日菜ちゃんの作戦だもんね。それに、私たち二人じゃ相討ちがせいぜいだった。悔しいけどサニーの力を借りて、三人で勝とう! 私たちは目配せしながらティアマトに向かっていった。

 

 

 

 




パレオはどこまで行ってもわんこ。ところで鳰原令王那、作中12歳ってマジですかシュマ様
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