──アエーシュマとの戦いを終えてすぐ、おねーちゃんは目を覚ました。絶望を斃して、あたしがおねーちゃんに自分の夢の力を伝えることで目覚めることができた。それと同時に彩ちゃんのライブを聴いた、夢を喪った人も、また立ち上がることができたって話を知った。あたしたちは夢を力に変えるだけじゃなくて、誰かに与えることができる。それを知ったあたしの心は、すっごく弾んだ。おねーちゃんはなんにも覚えてなかったけど、でもそれからすぐ、ちょっと前に久しぶりにおねーちゃんとお出かけができたし、あたしの夢を想う力はより強くなった。
「よっ、ほい!」
「小癪な……」
「
「ブレイブテリトリー、さらに! タイムジャック!」
ティアマトとの戦闘はあたしたちが押していた。単純な物量と火力で言うならティアマトはスターとサンダーで十分なくらいだ。この二人の組み合わせはすごいんだよね。悪魔化もできるから個々の能力も爆発的に上がるし、なにより普段から何かある度に戦ってばっかりだからね。
──でも、ティアマトの脅威はここだ。能力のパターン。単純に手札が多いだけじゃなくてその組み合わせと機転もものすごくて、前回は無茶を承知で時間凍結中に魔力を使われてサンダーはやられていた。だけど三対一というこの状況においてそれは隙を狙われるから使えないし、そもそも時が止まってるから使える能力はすっごく限られてるんだよね!
「がっ……!」
「えっ!?」
バリアが消え、髪と瞳が青色に変わった次の瞬間にはティアマトが吹き飛ばされ地面に叩きつけられていて、その衝撃に呻いた。タイムジャック中、スターに赤の力で殴りかかろうとしたんだろうけど、その対策は千聖ちゃんと念入りにしてたんだよね。タイムジャックの発動前の予備動作を感知した瞬間に、あたしとサンダーの合体技をスターの周囲に張っておいたんだよ!
「な……なにをした?」
「私のプリズンにサニーの反転を張り巡らせていたのよ」
「オートリバーシってとこかな!」
つまりティアマトは反射する壁を殴ったってこと。それだけじゃないよ、サンダーのプリズンに触れたってことはもうわかるでしょ? 散々喰らってるんだからさ! あたしは
「デスアガートラーム……破壊してやる、全てを!」
「させないよ!」
髪の色を赤と白に変えたことによって破壊の魔力を帯びた魔法弾をステッキから放つティアマト。建物とかがまるで削り取られたように穴が空くそれを身体に受けたらどうなるかなんて考えたくもないけど、破壊には破壊で対応できるんだよね!
「スター、解放してください!」
「うん……お願い力を貸して、ウガルルム!
ポップが鍵を開けたことでスターも悪魔化する。スターが理性的に活動できるのは長くて五分だったっけ。あたしの纏雷も時間制限あるし、ここからは短期決戦だよ! 身体に溜め込んだ雷の力を全力解放して、操作もそこそこに一歩を踏み出す。それでもサンダーのマーキングの特性のおかげであたしはほぼ自動的にティアマトの目の前に飛び出すことができた。
「キッチンガーデン……!」
「
ステッキから植物の蔓を伸ばしてきたところで破龍に魔力を食わせていく。イメージするのはムシュフシュ、おねーちゃんの力。纏雷したまま、三節棍状態にしたロッドに炎を纏わせて蛇のようにしならせ、ティアマトの植物を焼いていく。ちょっと無理してるけど、あたしだっていつまでも成長しないわけじゃないよ。
「ならこういうのはいかがでしょう! デットリーテンタクル!」
今度は緑だった目と髪の半分が紫色に変わって、残り半分の白色が黒に変化する。
「追い詰めまし──っ!?」
「ヴァリアントスター……ストーム!」
「この……っ!」
「そこよ、
まだ溜まってない、と一瞬焦ったけどスターとサンダーの攻撃にティアマトの注意が逸れた。あたしは独りで戦ってるんじゃない。彩ちゃんも千聖ちゃんも、もちろんここにいないイヴちゃんと麻弥ちゃんも、あたしたちはきっとたぶん、独りじゃなんにもできなかった。誰か独りが勇者だったらきっと壊れていた。
「母なるワタクシの前で、そのチカラを使うな! その星のチカラを生んだのはワタクシだ! そのチカラでこのワタクシの身体に傷をつけるな!」
「生憎と、もう独り立ちしたのよ──
「
「おねーちゃんの身体を使ったんだから、このくらいの反抗、されて当然だよっ!」
「殺す──!」
今度は
「ま、まずくない……?」
「ただ、あの厄介な触手とイロージョンシャドウが併用できないのはいいわね」
確かに触手とイロージョンシャドウの併用はちょっと辛かったけど、これはこれでって感じだよね。そう言っていると上空から爆炎が降り注いでくる。見るとベンヌが不機嫌そうな顔で猛禽を翼で撃ち落としていた。
「あれ、おじさんボロボロじゃん」
「あの軍隊を一人で全滅させたんだ。労いの言葉がほしいものだねドリームサニー」
「やだ!」
「……そうかい」
え、だってベンヌが喜ぶとかどーでもよくない? あたしはこの子を参ったって言わせたいんだから、そのために頑張ってくれるんだったら労うくらいしてあげるけどね。そう煽ってあげるとベンヌはもう一度そうかいと言って短銃をティアマトに向けた。
「ティアマト、もうやめにしないか?」
「……なぜ? まだ誰も殺していないのに」
「もうわかっているんだろう? このままでは誰かを喪う。我々が生きているのは彼女たちが殺すことを目的としていないのと、悪魔王がその勇者たちの意思を汲んでくれているからだ」
「それをシュマ様が望むとでも?」
「そのアエーシュマを喪うと言っているんだ」
──そうだよ。このままじゃ戦争になる。どっちかが全員死ぬまで終わらない戦いが始まっちゃうんだよ? それはティアマトの愛ってものに反してるよ、と彩ちゃんが言った瞬間だった。ぞっとするほどの量の影があたしたちの足許に広がっている。あーまずいなぁ、まだ溜まりきってないのに。そう焦っていると千聖ちゃんがコソっと声を掛けてくれた。
「……あとどれくらいかしら?」
「三分、いや二分」
「わかった。ベンヌ、仕事よ」
「時間稼ぎか……まったく、どっちの味方をしても人使いの荒さは変わらないか」
「あら、私はご褒美くらい出してあげるわよ?」
「良し」
「いや良し、じゃないから」
彩ちゃんの一旦解除された悪魔化も丁度二分持つかどうかってところだから、これが最後のチャンスだ。まずはとばかりに飛び出したのは千聖ちゃんの言葉の魔力によって俄然元気を取り戻したベンヌだった。完全悪魔化をして、その姿まで変わっていく。うわ、あたしたちの時にすら見せなかった本気の本気、ここで使ってくるんだ。
──紅蓮に染まった灼熱の羽をはためかせ、夜に浮かぶ漆黒の太陽がその場に顕現した。ペストマスクのような顔の下半分と目を覆う仮面の奥で、紅に染まる瞳が影を生み出すティアマトを見下ろしていた。そして、取り出した一対の曲剣を空中で振るだけでその熱があたしたちのところまで伝わってくる。
「ベンヌ……ッ!」
「憐れな悪魔姫、私が……送ってやろう」
「黙れ! ワタクシを見下ろすな!」
炎を纏いながらベンヌが超高速で空中を滑っていくのを合図にサンダーとスターが駆ける。一瞬だけ、ベンヌはそれを見て羽根の爆撃を躊躇ったけど、サンダーがチラリと上空を見たことで死の風雨を降り注がせていく。
「はぁぁぁ! 雷撃よ、地を奔れ!」
「ヴァリアントスターストーム・バーチカル!」
「ぐぅうううう! この、この、このぉっ!」
「──紅炎の刃」
「わ、ワタクシの壁を……っ!」
「影を創り出す以上、太陽である私とは相性が悪いだろうよ」
体勢が崩れたところで、ティアマトは素早く髪を金色とピンクにしていく。ドリームスターの力とアエーシュマの糸の能力! だけど糸もベンヌの太陽の炎には通用せずに燃えてしまう。強すぎるでしょ……これがマジのベンヌなんだ。アエーシュマが、どうしても味方につけたかった悪魔の真の力。
「よし、溜まったぁ!」
──時間稼ぎとは言ったけどここまで押すことになるなんて思わないまま、あたしは破龍に魔力をフルチャージした。全ての力を放出するためにロッドの先端がドラゴンの顔になって、ティアマトに向ける。蒼い雷の力をつぎ込み続けたあたしの究極の一撃、回避しようとするけれどタイミングは完璧、スターが影を殴って、壊した。
「やれ、ドリームサニー!」
「なぜだ、何故、お前たちはこうも──!」
「いっけぇぇぇぇ!
先端から魔法弾を発射していく。参考にしたのはティアマトの魔法弾と麻弥ちゃんに光の魔力を上げた時の光線銃かな。威力が全然違うけど、そこはまぁいいよね。大出量の光線が止んだ時、目の前にはボロボロになって、それでもなんとか立ち上がろうとするティアマトがいた。
「はぁ……はぁ……わた、くしは……!」
「クイーン、そこで消滅しては、旦那の愛とやらはどこに向くんだい?」
「知っているでしょう……? あの方は、最初からワタクシのことなど、見てはいませんよ……だから」
「──そんなことない!」
最後の抵抗をしようと髪の色を変えたティアマトに大きな声で反論をしたのは、スターだった。そうしてスター……彩ちゃんは
ティアマトも、それどころかベンヌも千聖ちゃんもあたしも驚く中で、彩ちゃんだけが、彼女のために必死になって手を差し伸べようとしていた。
全部出たのでティアマトの勇者能力まとめ。
・クイーンズオーダー:単純に言うと勇者の能力。五個ありイロージョンシャドウや回帰した悪魔の能力と併用できるがサタンとは違い勇者の能力を二つ重ねることはできない。クイーンズオーダー発動時はバリアを常時展開できる。
赤:デスアガートラーム、破壊の腕、腕が赤黒く変色して握力や腕力がものすごくあがる。またステッキから破壊の弾丸を放つ。
青:タイムジャック、時間凍結、時を止める。めちゃくちゃ燃費が悪く組み合わせられる能力も少ないが赤と相性がいい。ステッキから出すと撃たれた対象を中心に範囲内の時がものすごく遅くなる。本人は大丈夫。
緑:キッチンガーデン、侵食花弁、悪趣味な家庭菜園。魔力を注ぐことで地面から植物を生み出す。植物は対象から魔力を奪ってそれを花からビームとして放出する。ステッキからは蔓を出して鞭になる。
黄:ドールプレイ、処刑人形、物体を操る。魔力を糸状に伸ばして捕らえたものを自分の想い通りに操ることができる。ただし無機物の方が簡単で生物、特に魔力を持つものは操るのがとても難しく、防御が疎かになりやすいためもっぱら影。ステッキから魔力弾を出して対象を指定することも可能。
紫:デットリーテンタクル、致死の触腕、触手プレイ(できない)。自分の身体から触手を生み出して攻撃する。触手から溶解液が噴射でき触れたものを解かせる。物騒な能力。ステッキからは魔力弾として出てくる。もちろん溶ける。