──アエーシュマは悠然と私たちを迎え撃つ。その口許に笑みを浮かべながらファイアの銃弾を盾で弾きながら遂に、その能力を完全開放する。額から金色の角が生え、髪が骸骨兵の、デーモンを象っていく。その一体がスノーの剣を受け、もう一体がすかさず襲い掛かっていく。
「
「助かりました、スター!」
「いやでも……」
ほぼ無傷で立ち上がりまた私たちに襲い掛かってくるデーモンたち。堅いとかいうレベルじゃない。アエーシュマと同じ剣と盾を持つそのデーモンたちは今まで戦ってきたどれよりも強くなっていた。
「あれは、ティアマトの
「それで糸をデーモンにして操ってるってことッスか」
「それなら、あたしが!」
飛び出したのはサニーだった、ブレイクスルーを振り回しそれに振動、音の魔力を加えていく。フルフルの、そしてそれをベースにしたムシュフシュの魔力である音と炎、そして雷を自在に操ってサニーはデーモンを一体薙ぎ倒した。
「それっ!」
「──アンプルールクラブ」
「う、わぁ!?」
そのまま本体を叩きに行くけどアエーシュマもロッドを出現させ防御する。その横からまたデーモンが二体出現し腕力に吹き飛ばされながら囲まれてしまった。スノーがすかさずサニー、今助けます! と刀を、細雪をすらりと抜き放ち真一文字に二体の胴体を斬り離していく。
「そこッスよ!」
「エンペラーハートグラール」
二人が喜びを分かち合っているところで再度出現させようとしたのをファイアがスナイパーライフルで妨害していく。よし、やっぱりアエーシュマは一度に糸で生成できる総数が決まってるみたいだ。私は紅星の力を、悪魔の力であり、今ではティアマトが遺してくれた力となったウガルルムの力を腕に集めていく。今日は恐ろしいほど親和性が高い。悲しみは一緒だから、そしてアエーシュマへの思いも、一緒だから。
「ヴァリアントスターブレイク!」
「ふっ、このくらいなら」
デーモンが三体盾になって破壊され消滅していく。そしてその盾に阻まれ姿が消えた一瞬に、アエーシュマの魔力が大きく波打った。
──ここだ、タイムジャックがくる! ティアマトには無理やり破壊の力と併用されてピンチになったけど、こっちだって対策は立てたんだから!
「サニー! ファイア!」
「準備おっけー!」
「武器構築・タイムボム!」
サニーには予めサタンから同じタイムジャックの魔力をロッドに蓄えてもらっていた。ティアマト対策だったんだけどね! フィールド生成の爆弾を創り出したファイアがそれを空中に投げて射撃すると炸裂した範囲の時が急激に遅くなる。
「──くっ!? タイムジャックが解除された?」
「やぁああ! ヴァリアントスターストーム!」
「ぐはっ……! チッ、まさかこれを対策してくるとはね!」
次に糸が編み出したのは紫の触手と草花の蔓のようなもの、ティアマトの紫と緑の能力が遠距離に離れた私とアエーシュマの間を縮めてくる。だけど触手が輪切りにカットされ、とんできたミサイルに爆撃されどちらも不発に終わっていく。
「この!」
「はぁあ! 轟雷、地を奔れ!」
「うぐっ!?」
続いてデーモンを創り出そうとするけどそれをサンダーに通電の起点、回路に逆利用され、雷撃を受けて苦しんでいく。それで反転して使ってくるのはもちろん、デスアガートラームを武器に纏わせる、だよね! ロッドを振り回すアエーシュマに対して、私は既にファイアからの支援を受け取っていた。
「武器構築、完了ッス、衝撃が強いんで注意してください!」
「ありがと! 力を貸して、ウガルルム! ヴァリアントスター!」
「武装を大きくしたくらいで、破壊に破壊で立ち向かえると思うのか! 愚かだなドリームスター!」
「ブレイクッ!」
「無駄だよ!」
破壊の魔力と破壊の魔力がぶつかり合って周囲に衝撃を与える。拮抗、いや私が僅かに押されている。だけど、ファイアの武器構築がある! タイタンアーム! その鉄杭による一撃の衝撃を、アエーシュマはなんとか耐えるけれど、私は更にもう一発、装填する。無駄だなんて言うけど、そんなことない。無駄な努力なんて何一つなかった。無駄な出逢いも戦いも、お別れも、そんなものがあるはずがない。あっていいはずがない! だから、だから私は、私は戦う!
「ぐ……うっ! 無駄なんだよ! キミが見ている道は所詮ボクが用意した偽りの道でしかない! なのになぜキミは諦めない! 諦めろ! 絶望しろ! キミたち勇者でさえ、ボクの、ボクの手のひらにあるのだと知れ──!」
「嫌だ! 私は、私は諦めない! 絶望しない! だって私は、私が……夢を信じてるから!」
私のその背中に手が添えられていく。サンダー、スノー、サニー、ファイア。みんなが私を支えてくれる。私の勝利を信じてくれる。だから私は負けないんだ。みんなの想いを背負ってるから。
あゆみさんのように、私は誰かに夢を与える存在になりたい! あの日、誓ったんだ。私を見て、頑張ろうって思えるヒトが夢を諦めないでいようって言ってくれるその日を目指すんだって。
「みんな、彩ちゃんに魔力を!」
「うん! 受け取って彩ちゃん!」
「じ、ジブンの夢も彩さんに託します……勝ってください!」
「アヤさんの努力は、夢は誰にも負けません! だから、その道を貫いてください!」
みんなの声が、想いが魔力が、私の全身に満ちていく。そんな時、ふと声が聴こえた気がした。
──勇者は夢と愛を貫くもの、あなたの愛を、何かを好きという気持ちを忘れないでくださいませ。そうすればあなたは更なる高みへ至ります。虹色に輝く、一層の夢に一輪の愛の花を咲かせてください。唱えてくださいませ、あなたの真の力を。
「──っ! チェンジ、ドリームブレイバー!」
「なんだ……これは!?」
力が、力が溢れてくる。アエーシュマが驚きに満ちた表情になっているけど、これなら、今の私は無敵だよ!
その溢れる力を込めて、私は二個目の鉄杭を作動させて衝撃の強い一撃を繰り出した。
「ぐはっ、これが、これが……! 勇者の、更なる高みかっ! ティアが言っていたことは、これだったのか……!」
「これで、終わりだよアエーシュマ!」
「終わって、終わってたまるものか! ボクはまだ何も成していない! ボクが、ボクが目指したものは、こんなところで終わっていいものじゃないんだ!」
タイタンアームが解除され元の手甲になった右手の拳をしっかり握る。なんか衣装がちょっと変わってる気がするしなんか天使の羽みたいなのが生えてるけど、やることは変わらない。基本の構え、そこから基本の動作を素早くこなしていく。腰はしっかり落とし、下半身は動かさない。脇の締めと引手をおざなりにしない。拳の回転を意識する。基本動作は大きく早く!
「
みんなの想いが、夢が込められたスターブレイクは虹色の輝きを放ちながらアエーシュマの破壊の魔力を飲み込んでいく。それまでの悪魔の力がこもっていた破壊の魔力とはまるで違う、むしろ暖かな光を放っていた。
拳を放った先には、仰向けに倒れ伏したアエーシュマがいて、喜びをかみしめる前にイヴちゃんに抱き着かれてしまった。
「アヤさん!」
「わわ、っと」
「やったね、彩ちゃん!」
「はい! 素晴らしい一撃でした!」
「私、勝った? 勝ったんだよね!?」
「ええ、あなたの勝ちよ、彩ちゃん」
やったー! 思わず千聖ちゃんに飛びついてしまう。驚きながらも千聖ちゃんは受け止めてくれて、それどころか優しい声で頑張ったわねって言われちゃって、思わず涙が出てきてしまった。
──そのタイミングでサタンたちも到着し、日菜ちゃんが遅いよーと文句を言った。どうやらサタンたちはサタンたちでクルール率いるデーモンの大軍勢に襲われていたらしくバアルがそれに対抗してなにやら言い合っていた。
「ドリームスター、いいや、彩。アエーシュマを倒してくれたこと、悪魔王として礼を言う」
「いいよ、サタンが師範してくれたからってのもあるし」
「そうか……ならば師として、誇りに思う。よくやった」
「……はい!」
サタンの言葉に私は涙を払って頷く。戦いはこれで終わりなのかもしれないけど、夢に向かう道はまだまだ終わりじゃない。私は泣き虫だし、すぐ動揺してしまうから、まだまだ精神的には成長できると思ってる。そのために、これからも自分を鍛えていこうと思う。敵を倒すとかじゃなくて、己を高めるために。
「……っぐ、サ、タン……!」
「お前の負けだ、アエーシュマ」
「その、ようだね……ボクは、結局、届かなかった」
そんな風に言葉を紡ぐアエーシュマだったけれどその表情はどこかすっきりしているように感じた。それから、彼はゆっくりと空を見上げて手を伸ばした。届かない、夕焼けに染まっていく空を、その美しさに目を細めながら。
「……キレイだ」
「ああ」
「思えば、ボクは足許ばかり、見てきた気がするよ……ティアは、いつも空を見て、笑っていたのに」
「ティアマトは、もう」
「ボクが殺した。いいや……彼女は、最期までボクを愛していたから、
どういうこと? と訊ねるとアエーシュマは空を見つめたままぽつぽつと話していく。あの時、最期にティアマトが発動したタイムジャックの中で何があったのか。何をしていたのか。タイムジャックはティアマトが最期を伝えるための時間だった。
「ボクは彼女の能力を奪えてなんかいなかった。だから影も防壁も奪えなかったんだ」
「……え?」
あのタイムジャックの最期の時間のなかで、彼女は金弦の力を発動させて三つの操作をした。一つは五色の力を悪魔の力へ変換し、もう一つは時間感覚の共有だと言った。それはつまり、あの間にはアエーシュマも動いてたんだ。
「──そして三つ目は、意識を魔力に変換していた」
「それを、アエーシュマは吸い上げたってこと?」
「そうなるね……ティアは、ボクの中にいる」
ならまだ生きてるの? そう問うけれどアエーシュマはどちらとも言えないと苦笑いをした。けれど愛を懸けて、愛に生きた彼女の献身を一身に受けたアエーシュマは決めていたんだ。ここで負けたら、彼女のわがままが正しかったのだと。
「例え死んでも、ボクのことを愛してくれているという証明をした。一緒にいたいと笑った……あの子は、ティアは、本当に愛おしい……ボクが、本当に欲しかったものだ」
気づくのが遅かった。遅すぎた。そんなことを言ったアエーシュマは最後に恐ろしいほどの魔力をあふれさせた。
──な、なんで、どこからこんな魔力が!? 私たちとの戦いで全部使い果たしたはずじゃ……!
「アエーシュマ……キサマまさか!」
「──これは、ボクの最期のわがままだ」
「そうか……わかった」
魔力の波動に吹き飛ばされるなか、チラリとサタンが悪魔化したのを見た。待って、やめて! そう叫ぼうとするけど嵐のように吹きすさぶ魔力同士がぶつかり合い、自分の声すらも掻き消されてしまっていた。
「キミたちの魂が、今度こそ安らかであることを願っている」
「フフ、当然さ……ボクはティアを……」
「ブレイズレクイエム」
蒼い炎が墓標のように立ち上る。その下にはアエーシュマがいたはずの場所。そしてそれは一瞬で終わった。嵐が止み、また夕陽が差し込んでいくその光に当てられて、灰になった角の欠片がサラサラと日差しに流れていった。どうして、と悲しみのままサタンに掴みかかろうとしたその時、魔力の残滓が見せる幻なのか、それとも別の何かなのかわからないけれど私にも二人の魂が見えた気がした。
──ボクはティアを愛している。だから今度は、今度こそ行こう。安らぎの世界へ。
「……あ」
ツインテールの少女の元に歩いていく金色の髪を持つ男は、今度こそ離すことがないようにとしっかりと手を繋いだ。そして男は彼女に優しい微笑みを向け、少女は嬉しそうな笑顔でどこか遠くへと旅立っていった。
これによりまして――アエーシュマ消滅。ビストレイヤー陣営はティアマト消滅、クルール捕縛、ベンヌ投降により全滅となりました。
めでたしめでたし、次回はエピローグですよー