夢想勇者☆パステルドリーム   作:黒マメファナ

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第5話:刃握るはSNOW

 ──イヴちゃんは頑張り屋だった。モデルからアイドルとして抜擢され、したこともないキーボードを毎日遅くまで頑張っているような子だった。

 そんな彼女が少し前に語ってくれた大きな夢を、私は忘れない。

 

「私! ブシドーを貫きたいんです!」

「ブシ、ドー?」

「はいっ」

 

 北欧系ハーフの彼女の微笑みはまるで妖精のようで、それでいて力強く水色の瞳の中に煌めくような夢を乗せて武士道、と口にした。

 そのために春から通っている、私と同じ花咲川女学園に通って、剣道部と茶道部と華道部を兼部し、更にアルバイトまでしているすごいバイタリティーあふれる女の子だった。

 そのイヴちゃんが今、月夜を反射し煌めく刃を持って私に背を向けて立っていた。

 

「まさか仲間がいたとはな」

「そうですっ! ドリームスターには手出しさせません!」

「……しかも、こちらは、ふむ」

 

 どうやら相手はあの力を長く維持できないようで、元の姿に戻ってしまっていた。きっとまだまだ食らった夢の力が足りてないんです、とポップが解説してくれる。けど私はもう左手しか動かない。

 

「チッ、やはりこうなったか……だが」

「逃がしませ……っ!?」

 

 刀を構えて振り下ろすけど、そこに迅雷の如く現れた男に防がれてしまう。あれはこの間の……! しかもあの悪魔が持ってる黒いあれは……旋棍(トンファー)? つまりコンバットから空手だけじゃない、いろんな拳法を使えるってことなんだ。

 

「なにやられてんだシャヘル!」

「……バアル、やはり今代の勇者は一人ではなかった」

「あん? じゃあオレさまが代わってやるぜ!」

 

 ガキン、と鉄のぶつかる音を立てて刀を力で押し上げた悪魔と、そこから距離をとったイヴちゃん……ドリームスノーは、にらみ合った。

 ビリビリとこっちにまで魔法力に転換された剣圧や闘気で風が巻き起こる。す、すごい……こんな、こんな……っ! 

 

「オレさまは漆雷(しつらい)のバアルだ! よく覚えておきな、夢想の勇者ッ!」

「ドリームスノー……参ります!」

 

 刀を中段ではなく上段……あれは霞の構え、だったっけ。刀を顔の高さに持ち剣先を相手に向けて腰を落とした。

 ──私は剣術には詳しくないけど、ここで旋棍相手でも全く迷いなく構えるところは、すごく安心感がある。

 

「疾ッ!」

「──早い!」

 

 バアル、と名乗った悪魔が音でも置き去りにしかねない速度で踏みこんだ。真っ黒な姿で稲妻のように……まさしく漆黒の雷と言うべき姿になって、ドリームスノーの懐に潜りこんできた。けど、安易すぎる突進技なんて交叉法(カウンター)で返されるに決まってるのに。

 

「雪花流……」

「甘いんだよ!」

「あっ!?」

 

 刹那の攻防、イヴちゃんが刀で捌こうとした瞬間に旋棍を回し、刀を上に弾いて上体を上げさせた。そして返す左の旋棍を回しイヴちゃんの脇の下あたり、水月を強襲した。

 ──その衝撃に堪らず脇を抑えながらよろよろと二歩後退るイヴちゃんだったけど、バアルの猛攻は止まらない。

 旋棍は元々専攻武器。故に交叉法は百も承知ってことだったんだ。だけど刀対策に棍の柄を長く持っていたせいか、イヴちゃんのダメージは見た目よりは多くないみたいだ。すぐさま横に転がり、回避していく。

 

「オラ、どうしたよ! 食らいつくしてやるぜ!」

「う……くっ!」

「ドリームスノー!」

 

 でも相手はその速力と旋棍の破壊力を生かしたスタイルを得意としてる以上、避けても一足で距離を詰められる。まずい……バアルのスタイルはイヴちゃんと相性が悪い。変身したせいか身動きがとれないシャヘルと目があった。あっちはあっちでいつ動き出すかわからないのに……私は! 

 

「ドリームスター……後を任せてもいいですか?」

「ポップ?」

「私が蓄えていた魔法力で、あなたを治癒します。どうか……どうかスノーと一緒に帰ってきてください……!」

 

 そう言って、キラキラと輝く光を私に注いで、ポップは消えた。分身が保てなくなっちゃったんだ。

 でも、これなら動く! 息を大きく吸って、吐いて……集中力を上げていく。うん、うん……いける。

 

「バアル! もう一人が復活したぞ!」

「アア!? シャヘル! まだか!」

「あと数分掛かる!」

「だらしねぇなオイ! じゃあコッチの活きの良い方も食ってやるよ!」

 

 瞬間でイヴちゃんに向かっていたのを私の方へと切り返してくる。前はその速さにやられたけど、私だってやられっぱなしなわけがない。

 繰り出された左右旋棍前部分での二連突き、下段から強襲してくる旋棍をいなして私はさらに一歩前に出ての正拳。

 

「チッ、この女!」

 

 それを紙一重で躱される、ココだ! 私から見て右側によけた相手に素早く右手を返すように裏拳を当てる。咄嗟に旋棍で防がれたけど、この技は……避け切れない! 

 空手の試合ではもう使われなくなっちゃった上段突きと中段突きの同時攻撃……山突きを、魔法力を込めて叩き込んだ。

 避けようとしても衝撃波が襲い掛かる。回避防御不能の対人必殺技その二! 星重拳(スターダブルインパクト)! 

 

「ガッ……クソったれ!」

「よしっ!」

 

 上段は防がれたけど中段がクリーンヒット! バアルは吹き飛ばされて膝を突いた。今の内にスノーに駆け寄る。

 今の内に撤退するなら撤退しないと! 

 

「大丈夫?」

「かたじけないですっ」

「──テメェら。完全にイラっときたぜ……! 食らってやる! テメェら二人ともナァ!」

 

 駆け寄って肩を貸した直後、バアルに異変が現れた。真っ黒な髪からまるで猪のキバのような、二つ名と同じ漆のような角が生えて、そこからパリパリと火花がスパークし始めた。

 まさかコイツも変身するの? けど、変身の負担がかかってるうちに星連拳(スターレイン)で、なんとか……そう思っていた時だった。

 

「もういい、退けバアル」

「──っ!?」

「アア……ッ!? さ、サタン……!」

「サタン、様……!」

 

 突如として、新しい男が私たちとバアルの間に降り立った。あれが……二人の言っていた、悪魔の首領、サタン?

 それはなんだかシャヘルと似た姿をした……白に統一された美しい髪とナナメに切られた前髪、そして青い瞳。けれどこちらの方が幾分か年齢を感じる雰囲気を身にまとっていた。兄弟……なのかな? 

 

「シャヘルもバアルも、まだその力は使ってはいけないと言っただろう」

「も、申し訳ありません……!」

「うるせぇ、戦いのジャマすんじゃねぇ!」

 

 サタンの言葉に耳を貸さずに、バアルがその黒く肥大化した腕で殴り掛かった。

 突如の謀反。それにはシャヘルも驚き刀の柄に手を掛けた。

 ──だがサタンはまるで何事もないかのように、暴走する車のようなスピードで迫る鉄の塊のような右腕を素手でいなしながら左手でバアルの顔を掴み……突進の勢いを利用してコンクリートに叩きつけた。

 

「ガッグ!?」

「もう一度言う、退くぞ」

 

 あの一瞬だけ出たオーラは、寒気がするほどの強大さと恐怖をまざまざと私に刻み付けた悪魔化したバアルを素手で制圧した? 人間の姿で? めちゃくちゃすぎる。

 あれが、サタン。私たちが倒さなきゃいけない、敵なんだ。

 

「さて、ウチの部下たちが失礼した。今夜はここでお開きとさせてもらおう」

「……サタン」

「また会おう、夢想の勇者たち。同時にこれは、キミたちへの宣戦布告でもある」

「センセン、フコク」

「そうだ。我々は夢を奪う悪魔……キミたちの世界を食らうものだからな」

 

 サタンはそう言って、シャヘルとバアルを引き連れて闇の中へと消えていった。

 世界を食らうもの。サタンの言葉が引っかかった。そういえば訊いてなかったよ、夢を失った世界は……どうなるんだろう。ポップたちの世界は、どうなったんだろう。

 気になることは多いけど、今のところは脅威が去ったことでほっと息を吐いて、変身を解く。

 

「大丈夫イヴちゃん?」

「はい。それにしても……」

「うん」

 

 やっぱりイヴちゃんも気になることがありすぎるよね。そんな同意の意味で頷いた。

 しかしイヴちゃんはやっぱり! と目を輝かせて私の手を掴んでぶんぶんと上下に振った。え、ええ……なになに? 

 

「アヤさんはブドウカだったんですねっ!」

「え、いや……お母さんが道場の師範ってだけで」

「シハン! ブシドーを志すものとして是非是非、お会いしたいです!」

 

 武闘家って……いや私の空手は組手に特化してるとはいえあくまで試合の組手だよ? ああいう悪魔とかとの戦い方はお母さんに空手の本来、を聞きかじってそれを独学で再現してるだけ。貫手なんて言わば相手を殺すための技だし。

 

「イヴちゃんの……その剣術は?」

「雪花流のことですか?」

「うん」

 

 イヴちゃんだってほら、流派を名乗ってる以上師範とかいるでしょ? と問いかけたらいません! と元気よく言われた。が、我流……我流でそこまで強くなれるんだ。ちょっと羨ましいよ。

 

「ユーシャになって、イマジネーションしたのがカタナだったんですが……私の周りに真剣を扱える人がいなくて」

「そ、そうだね。真剣の流派なんてそうそう見つからないよね」

「だからドラマや動画を見てベンキョウしました!」

 

 だから居合とか構えとかが混じってるんだね。いくら魔法力でブーストしてるとはいえ、イヴちゃんの剣術はとっても頼りになりそうだった。

 なにより一人じゃなくて二人ってのが精神的にも楽になれる。

 

「とりあえず、帰ろっか」

「ハイ!」

 

 それにしても、敵は案外身近にいるっぽい。私たちのライブを失敗させたのが悪魔たちの仕業で、まるで探るように私たちに勝負を仕掛けてくる。

 ──これはポップも交え三人で作戦会議が必要だな、と私は切実に思うのだった。

 

 

 

 

 




ラスボスが序盤で出てくると大概何故か倒していかないという謎ね。
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