目が覚めると……水の中だった……って、なんじゃこりゃ!?
俺は突然の事態に思考が追い付かず慌てた。水の中から顔を出そうとしたらゴツンと頭に何かがぶつかり水から出られない。頭だけじゃなく体も動かしにくい。まるで狭い浴槽にでも入っているかのようだ。風呂で寝ちまって溺れかけたのか俺は。焦りから思わず力を入れて殴ると衝撃音と共に俺の周りにあった水が流れる感覚が……出られたのか?
俺は妙に重くなったと感じる体を起こすと違和感を感じる。まて、俺の家の風呂はこんな感じじゃない。って言うか此所は何処だ?
周囲を見渡すと完全に見覚えの無い部屋。やたらと広く薄暗い部屋の真ん中に、俺が今まで入っていたと思われるカプセルの様な容器に水が流れ落ちていた。
「なんだ今の音は……なっ!?」
「あ、すいません。ここは……」
薄暗い部屋で気付かなかったが扉があったらしく、開かれた扉から人の声が聞こえた。何がなんだかわからないが、此処が何処なのかこれで聞けるだろう。そう思って口を開くと人の声はあっと言う間に遠ざかって行った。
「う、動いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「え、いや、ちょっと待って!?」
姿は見えなかったが声の主は明らかに俺を見て逃げていった。なんなんだ?
「なんなんだ?本当に……っと?」
そこで俺は更なる違和感に気づく。俺ってこんなに髪を伸ばしていたっけ?胸の辺りが重たい……ついでを言えば股間の辺りが軽い気がする。
うん、凄く嫌な予感がしてきた。今流行りのライトノベルなんかで流行ってるよね異世界転生。スライムになったり、魔王になったり色々だよね。中には男が女キャラになってるのもあったっけ……そろそろ現実を見ようか……俺はそっと視線を下げた。まず俺は裸だった……いや、焦るけど問題はそこじゃない。落とした視線の先には見事なツインボムが。ちょっと待って……まさか……まさか……
「や、やはり見間違えでは無かった!私の研究に間違いは無かった!」
俺が混乱していると再び扉が開かれた。見たことの無い科学者風の男が俺を指差していた。
「あ、あの……」
俺が科学者風の男に圧倒されながらも口を開くと科学者風の男が笑みを浮かべた。
「これはなんとも喜ばしい事です。では、お願いします」
「え、あ、ちょっ!?」
混乱する俺を尻目に科学者風の男が一言発すると、それと同時に部屋の中に数人のメイドさんが入って来て俺の濡れた髪や体を拭き始めた。
「あ、あの……自分で出来ますから……」
「いえ、私達に身を任せてください。あのお方をお待たせしてはいけません」
メイドさんの中でメガネを掛けた女性が俺の言葉を否定して有無を言わさずテキパキと身支度を整えていく。ああ、プロの仕事だ……と思っていたら既に着替えは終わっていた。恐るべし早業。
先程まで裸だった俺はノースリーブの服にスパッツの様な物を履かされて腰にはパレオの様な物を巻かれていた。
「お済みになられた様ですね。では、大魔王様の所へ行きましょう」
「え、あの……」
俺の着替えが終わった事を確認した科学者風の男が口を開くと俺の手を引く。俺は聞きたいことが山ほどあるんだけど……今の俺の体の事とか。
そんな事を思っていたら科学者風の男が立ち止まる。そこにはやたらとデカい扉があった。
「あ、あのー……そろそろ話を……」
「しっ、着きましたよ。失礼いたします。例の者を連れて参りました」
『入るがよい』
俺が説明を欲すると叱られた、解せぬ。なんて思っていたら頭の中に渋いダンディーな声が響いた。なんか頭に直接語られたみたいな感じだった。
「失礼いたします、大魔王バーン様」
「……………はい?」
ギギッと扉が開く最中、俺は科学者風の男が言った一言に体がフリーズした。今、コイツなんて言った!?
そんな俺を置いたまま科学者風の男が一歩前に出る。その先には立派な玉座に座っている渋目のお爺様……じゃなかった。あのダイの大冒険のラスボスである大魔王バーンが座っていた。側には全身を隠す様なローブで身を包んでいるミストバーンが控えていた。
「うむ……どうやら本当に目覚めたらしいな、ミザルよ」
「はっ……私にも何が切っ掛けで目覚めたかはわかりません。ですが、今こうして目覚めたのは事実かと。そして……この個体は自分が何者なのか分かっていない様子でして……」
混乱している俺を放置して話が進んでいるが俺はそれどころじゃない。なんで俺の目の前に大魔王バーンとミストバーンが居るんだよ!?そんな風に思っていたらゾクッとした。視線を上げると大魔王バーンが俺を見つめていた。
「そなたは自分が何者かも分かっていない様だな」
「え……あ、はい」
威圧感とでも言うべきなのか……大魔王バーンの視線に体が震えて来そうになる。最初は本物の大魔王バーンかよ!?って思ってたけど、目の前の爺さんは本物だ。それを思わせる感覚があった。
「ならば……教えてやろう」
「は、はい……お願いします」
重々しく尊厳な雰囲気に大魔王と言う存在感が増していく。次の一言で俺の身に何が起きたか分かると思うと心臓がバクバクと鳴り響いている様な気分になっていく。そして大魔王は口を開いた。
「そなたは……余の娘だ」
「……………はい?」
大魔王様の思わぬ一言に俺はポカンとしてしまう。
俺、ダイの大冒険の世界に転生したら敵側で女になって、しかもラスボスの娘になってしまった様です。