身の丈に合わなそうな役職を貰ってから数日後。俺は部屋で一人佇んでいた。思い出すのは先ほどのバランさんとの会話。
◆◇
「まだ教え足らない所が多いが私の指導は此処までだ。私も六団長としての仕事があるのでな」
「いえ、此処まで指導してもらえただけでも嬉しいです。お陰で俺も強くなれました。本当にありがとうございました」
バランさんは父上からの命令でハドラーが目覚める前に超竜軍団長としてドラゴン達を躾なければならないらしい。他にも仕事は沢山あり、俺の為にギリギリまで時間を割いてくれていたのだ。
「『俺』か……男らしい所が目立つから途中から私も意識していなかったが、私の指導は年頃の娘に課す鍛練ではなかった。その事が気にかかっていたのだが無用の心配だったようだ。次に会う時は魔軍司令殿が目覚めた時になるだろう。その時を楽しみにしているぞ」
「はい、バランさんもお元気で」
バランさんは俺の扱いに気を遣ってくれていた。その事に感謝しつつ俺はバランさんと別れを告げ、自室に戻った。
◆◇
うん……何時からだろうな……俺自身が意識しなくなったのは。何時からだろうな馴染んでいたのは。何時からだろうな……それが当たり前になっていたのは……
「完全に女の子扱いだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は部屋の外に漏れない程度の叫びを上げながら頭を抱えた。バランさんの言葉でこの何年間で俺が忘れていた……いや、馴染みすぎていた事を思い出す。
「何普通に女の子として過ごす事に慣れてんの俺!?転生したての頃は女の体に戸惑ってたのに、いつの間にか普通になってた!馴染みすぎてた!」
俺は思わず、自身の双球に手を添えた。そこには確かに女の子足り得る存在が。
「それに俺……いつから普通に父上と呼ぶようになってたんだ……」
ふと思い出したのは大魔王バーンとの会話の時だ。俺は口に出す時は『父上』と呼んではいたが、頭の中では最初は『大魔王バーン』と呼んでいた筈なのに、いつの間にか頭の中でも『父上』と普通に呼称していた。
「本当に何時からだ?……マジで無意識だった……」
俺は抱えていた頭を離すとベッドに腰を降ろす。尻尾を挟まぬように座ったり、無意識的に足を揃えようとする辺り、体が馴染んできているのだと再認識してしまう。
「……体に俺の意識が馴染んできてるのか?」
そう思うと何処か納得できる自分がいる。キルバーンと人の町に向かって初戦闘を経験してから俺の力は飛躍的に上がってはいたが……その分、意識が体に寄ってしまったのではなかろうか?
「だとすれば……相当マズいよな……」
俺は無意識のままに女の子として過ごしていて、魔王軍の為に働こうとしていた……いかん、思い出せ俺!男だった時の事を!原作を少しでも良い方向に持っていこうと誓った日を思い出せ!
「イーリス様、失礼します。バラン様も帰られた事ですし……バーン様から頂いた装備以外にもドレス等を着てみませんか?」
「ごめん、アイナさん!父上からの課題で魔法の鍛練をしなきゃだから!」
立ち上がり、意気込みを新たにした俺の所にフリフリのドレスを持ってきたアイナさん来襲。俺は言い訳を残してダッシュで逃げた。
色んな意味で危なかった……もしも、バランさんとの会話で今までの事を思い出さなかったら、あのドレスを着ていたかも知れない。
今後はもう少し意識して気を付けよう。そんな事を思いながら言い訳として放った父上からの課題をクリアしようと奮起するのだった。