鬼岩城の一室。魔方陣が描かれた地面の中心でハドラーが何らかの呪文をブツブツと言いながら赤い石と青い石に魔力を注いでいる。更にその周囲には岩がゴロゴロと転がっていた。
これからハドラーが禁呪法で生命体を生み出すと言うので見学に来た。
ダイの大冒険の世界観ってゲームのドラクエとは微妙に違う部分が多いんだよなぁ。この辺りもその一例だ。
うろ覚えだけど、ばくだんいわとかフレイム、ブリザードなどはゲームだと悪い精霊とされていたが、ダイの大冒険世界では禁呪法で生み出された生物だとか世界の悪意の成れの果てだとか言われている。そんな風に考えていると呪文を唱え終えたのかハドラーが俺を見ていた。
「禁呪法の見学とは物好きな奴だ」
「知識として知ってるのと見るのじゃ大違いだからね。ま、後学の為にも知りたいんだわ」
実際、他じゃ見れない光景だからなぁ。まさか、父上に見せて貰う訳にもいかんし。
「ふん……ならば見ておけ!これぞ生命を弄ぶとして禁忌の秘術とされた呪われし技よ!」
ハドラーが叫ぶと全身に魔力を行き渡らせているのが分かる。そしてハドラーは魔力で目の前の赤い石と青い石を融合させ、一つの石に仕立て上げた。赤い石と青い石は空中で形を変化させトゲの様な物が複数飛び出てきた。
「ぬぅぅぅぅぅぅっん!貴様の名は『フレイザード』氷炎将軍フレイザードだ!」
ハドラーがコアに名前を刻むと周囲の岩がそれに呼応し、コアに向かって飛んでいく。岩は次々に合体していき、遂には氷河魔人と溶岩魔人を合体させたかの様な一体の岩の魔神が完成した。これって体力消耗した時のフレイザードだったよな。生まれたての時って、こんな感じだったのか。
「ク、カカカ……俺を生み出してくれて感謝するぜハドラー様」
「ふふふ……成功だ」
「おおー」
喋りだしたフレイザードにハドラーは笑みを溢し、俺は拍手をした。聞いた話によると、この術式は失敗すると制御できないバーサーカーの様な化物になるらしく、最初の受け答えでその真偽が計られるらしい。
「凄いなハドラー。流石、伊達に魔王じゃなかったって訳だ」
「俺は嘗て、禁呪法で生み出した配下に裏切られた……次こそはあんな不良品は作らんと誓ったのだ!」
裏切られた配下ってバルトスの事だよな。ヒュンケルの義理の父親の。その事を踏まえて残虐な性格のフレイザードを生み出したって訳か。
「おい、テメェ。いくら、バーン様の娘だからってハドラー様を呼び捨てたぁどういう事だ?」
「生まれたてでもハドラーの知識があるってか。益々凄いな。でも呼び名に関してもハドラーと決めた事だからフレイザードが口を挟む事じゃないさ」
フレイザードが指摘した俺とハドラーの呼び名。ハドラーは魔軍司令であり、俺は魔軍司令補佐。だけどハドラーは俺が父上の娘って事で萎縮して呼び方に悩んでいたのだが、役職と立場のバランスを考えて『互いに呼び捨て』って形で収まった。これは父上にも話して許可は貰ってる。
「その通りだフレイザードよ。納得は出来んかもしれんが理解はしろ」
「ちっ、バーン様のご指示ってんなら仕方な……げふっ!?」
「俺を甘く見るなよ、フレイザード?俺はその気になればお前のコアの位置を把握できるんだからな?」
俺はフレイザードの腹を杖の先で突いた。油断してた事もあり、フレイザードは痛みに膝を着いた。
「な、なんで俺のコアの位置が!?」
「俺も禁呪法で生み出されたからなのかな。コアの位置が分かるんだよ」
実は完全把握じゃなくて、なんとなくだけど分かるレベルなんだけどね。寧ろ、半信半疑で杖の先で突いたらコアにビンゴだったから突いた本人が一番驚いたわ。
「ま、そんな訳だ。俺が只、贔屓されただけの存在だと思うなよ?」
「けっ……だったら俺の実力も示してやらぁっ!」
「よせ、フレイザード。貴様はまだ生まれたばかりだ。イーリスはバーン様の娘。その潜在能力は計り知れんし、今のやり取りだけでも貴様が不利なのは分かっている筈だ。やるならば貴様も実力を増してからにするんだな」
俺の言葉に怒ったのかフレイザードの左側から炎が吹き出す。しかし、それを止めたのはハドラーだった。ハドラーの制止を聞き、フレイザードは舌打ちをした後に腕を組みながら俺を睨んだ。
「ハドラー様のご指示だ!今は諦めるが、俺がテメェよりも弱いなんて認めないからな!絶対に見返してやる!」
「ハハハッ……やんちゃな弟が出来た気分だ」
「ほう、ならば姉貴として頑張るのだなイーリスよ」
強がりを言うフレイザードに生意気な弟みたいだと思ってしまった。ハドラーの発言に自分が女の身である事を再認識させられ、ちょっとへこんだ。