父上から許可も貰ったので来ました地底魔城。ハドラーのルーラで一緒に来て貰ったけど、すぐに帰ってしまった。まだトラウマなんだよね、多分。帰ったら優しくしてやろう。
「お待ちしておりました。私、ヒュンケル様にお仕えする執事モルグと申します」
「魔軍司令補佐のイーリスです。今回は急な話ですいません」
チリーンと鈴が鳴り、現れたのは執事服を纏った紳士的な腐った死体のモルグさん。後ろにはマミーが二体付き添っている。初めて腐った死体とマミーを見たけどリアルで見るとキツいなぁ……リアルバイオハザードだよ。
「魔軍司令補佐様が私などに下げて良い頭ではないでしょう。ヒュンケル様から魔軍司令補佐様がお望みの物が保管されている倉庫にご案内するよう申し付けられております」
「お願いします、モルグさん」
紳士な腐った死体のモルグさんに思わず敬語で返してしまう。そして、そのまま地底魔城に足を踏み入れる。
「ふわー……広いし、深いんだな」
「ほっほっほっ、中は広い上に迷宮となっております。はぐれると探すのも困難ですので、お気をつけ下さい」
中に入ると、入り口こそ隠されていたものの、中はめちゃくちゃ広かった。地下とは思えない程に広いホールになったかと思えば、そこから複数の道があり、その先が迷宮になっているのだと言う。キョロキョロと見回しているとモルグさんが微笑ましい笑いをしていた。
「では、此方になります」
「あ、お願いします」
田舎者みたいにキョロキョロしていた俺だが、モルグさんの案内でキラーマシンが保管されている倉庫へ移動する。道中でガイコツやアニマルゾンビとかが徘徊してるのが普通にホラーだった。
「此方になります」
「あ、どうも。って、うわー……」
案内された倉庫には、長らく放置されていたのか作り掛けのキラーマシンが数台放置されていた。片腕が無かったり、宙吊りになってるのもある。でも、作り掛けでも五台くらいはありそうだ。
「これらはハドラー様が使われていた頃のままです。ハドラー様が眠りについてから、誰の手にも触れられていません」
「なるほどね……」
つまり、完全にあの頃のままと。でも、15年前でこれだけの物が作れるのは凄いな。ん、ハドラーの頃から?
「モルグさんは此処に何年居るんですか?」
「ハドラー様が地底魔城を拠点にされていた頃からです。ハドラー様が倒されたと世間で騒がれていた頃も、地底魔城に来る人間は皆無でしたので残った我々は地底魔城に潜伏しておりました」
つまり、地底魔城には本当に誰も侵入する事もなく放置され続けたのだろう。考えてみれば魔王の居城だった所に度胸試しに入る奴は居ないよな……いたら相当な馬鹿だ。恐らく、国の兵士も調査には来なかったんだろう。だけど、だ……ハドラーの死でバルトスも死んだと言うのであれば、何故モルグさんは生き延びているのだろうか。その回答になんでヒュンケルは気付かないんだろう。
「長年の勤務お疲れ様です。じゃあ、此処にあるキラーマシン達を運びたいので、お願いします」
「かしこまりました。マミー達よ、キラーマシンを運ぶのだ」
まあ、俺が此処で指摘すると絶対にややこしい話になるだろう。余計な口出しはしないでおこう。
俺がお願いをすると、モルグさんの指示でマミー達がキラーマシンのパーツをバラして運び出す。さっきの広い場所まで運んでくれれば俺のルーラで纏めて運べる。
何体ものマミーやガイコツが慌ただしくキラーマシンのパーツを運ぶ姿を見ると、少し可愛く見えた。
「俺もやるか……よっと」
マミーならともかく、ガイコツにキラーマシンのパーツは運べても、キラーマシン本体は運べないだろうと思って、俺はキラーマシンの胴体を抱える。
「ふん、そんなガラクタを運ぶとは……魔軍司令補佐殿はよほど暇と見える」
マミー達と一緒にキラーマシンの胴体を運んでいたら、悪い笑みを浮かべている不死騎団団長のヒュンケルが立っていた。
「仕事だっての。父上からも許可を貰ってるし、その事も連絡は来てるだろ不死騎団団長。それとも父上の決めた事が単なる暇潰しだとでも?」
「………ちっ」
俺の発言に舌打ちをして顔を背けるヒュンケル。思い出すと初期のヒュンケルって、人の話を聞かないひねくれ者って印象だったな、そう言えば。意固地になってると言うか。
「それに、今回は俺一人で此処に来てるんだ。現地のスタッフに手を借りてるんだから俺も動かなきゃだろ。ほら、仕事の邪魔すんなら退いてくれ」
「…………ふんっ、敗れた魔王の不良品の廃品回収とはくだらんな!」
俺はキラーマシンの胴体を抱えたままヒュンケルの横を通りすぎようとしたら、めっちゃ睨まれた。
「その敗れた魔王を補佐するのが俺の役割だ。それに……不良品ってのは俺も同じなんでな」
「なんだと……それはどう言う意味だ!」
俺は竜の騎士の劣化コピーみたいなもんだ。不良品と呼ばれれば、そうなるのだろう。自分で言っておきながら、ちょっとアンニュイになった。
◆◇sideヒュンケル◆◇
不死騎団の根城となっているこの地底魔城は、かつて魔王ハドラーの居城だった場所で、今でもハドラーが使っていた頃の倉庫や拷問部屋が残っているが、触れたくないので手付かずのままの場所が多い。元魔王軍の拠点だけあって、人間が入り込んだ様子もなかった。
そんな中、魔軍司令補佐が地底魔城のキラーマシンを回収に行くと大魔王バーン様から連絡を受け、執事のモルグに迎えに行かせた。
「バーン様の娘と聞くが……子供のわがままを許すとはな」
俺はバーン様の娘だけあって、権力に物を言わせる小娘だと思っていた。実際に鬼岩城での態度は頂けないものだと考えていた。
しかし、その考えは迎えに行かせたモルグの報告で四散した。
「なに?魔軍司令補佐殿が自ら働いているだと?」
「はい。マミーやガイコツ達に交ざって、キラーマシンを解体した後に運んでおります。我々の事も気遣って頂きました。良いお方ですな」
モルグの報告では、魔軍司令補佐はモルグ達の話を聞いて感心したり、今もモンスター達と共に肉体労働をしているのだと言う。ハドラーの補佐だから、権力にすがる愚か者だと考えていたのだが……違ったのだろうか?俺は魔軍司令補佐の様子を見に行く事にした。
「………なっ」
モンスター達に交ざってキラーマシンを運ぶ魔軍司令補佐の姿に、俺はかつての自分を重ねた。父バルトスが生きていた頃、この地底魔城で俺はモンスターに囲まれて生きていた。俺にとってモンスター達は家族同然で彼等と笑いあった。その姿と光景が魔軍司令補佐と重なったのだ。彼女の周りに居るのはマミーやガイコツと言った骸共だが、何処か彼等も楽しそうにしている様に見える。
俺は、なぜかその姿に苛立ちを感じた。その苛立ちを彼女にぶつけると、正論で返される。彼女はバーン様に話を通し、魔王軍の戦力強化の為に動いていて、邪魔をしているのは俺。だが、言い負かされたままで居られなかった俺は、さらに言葉を重ねてしまう。
「…………ふんっ、敗れた魔王の不良品の廃品回収とはくだらんな!」
吐いた言葉は戻せない。その言葉を出した自分自身に後悔した。
「その敗れた魔王を補佐するのが俺の役割だ。それに……不良品ってのは俺も同じなんでな」
「なんだと……それはどう言う意味だ!」
キラーマシンを抱えたまま振り返った彼女の表情は、寂しそうで悲しそうな顔。そして、最後には悟った様な笑みを浮かべて再び歩き出す。
「まー、楽しみにしてろよ。改良して戦力にするからさ」
振り返らずにそう言った彼女に、俺は掛ける言葉が見つからず、立ち竦んでいた。