「イ、イーリスの手料理か……」
「魔軍司令補佐殿の手料理とは光栄ですな」
「ほう、珍しい香りだ」
「…………」
「………俺、食えねぇ」
「ふん、食べられるんだろうな」
「やれやれ、老人に変な物を食べさせるんじゃないわい……」
ハドラー、クロコダイン、バランさん、ミストバーン、フレイザード、ヒュンケル、ザボエラの順番にコメントを溢す。皿を目の前に、まともなコメント出したのクロコダインとバランさんだけだよ。へこんだ様子のフレイザードに「ああ、岩の体じゃ食べ物の味とか分からないよな……」とあの体の不便さを改めて感じた。戦闘では強いのだが、日常生活では過ごしにくい体なんだよな。
「ほう、これは美味い」
「なんともめずらしい味ですな。味わった事がない」
「美味いぞ、イーリス」
「ちくしょう……だが食うぞ」
「…………」←無言で皿を持ち姿を消す。
「………温かいな」
「染み渡る味じゃのう」
ハドラーは恐る恐るスープを食べると顔を綻ばせた。クロコダインとバランさんは絶賛。フレイザードは味が分からないと言ってはいたが食べてくれた。ミストバーンは皿を持ってフッと消えた。ヒュンケルはたっぷりと間を空けてからコメント。ザボエラはゆっくりとスープを飲んでいる。
「多分、ミストバーンはバーン様にイーリス様の手料理を運んだのでしょう。バーン様も悔しがりそうですから」
「いや、本来なら何回か練習してから父上に振る舞う予定だったんだけど……」
消えたミストバーンの行方を考えていると、アイナさんが耳元で俺にだけ聞こえる様に耳打ちをする。
この世界では珍しい調味料である『味噌』を見つけた俺は、所謂『豚汁もどき』を作った。出汁やスパイス等を味見しながら豚汁に近い味を作ったつもりだが、味が安定したら父上に出す予定だった。が、ミザルさんとアイナさんに嵌められた為に、完全に試作品の段階で出す事になったのだ。
「初めての味だったな。どんな味付けをした?」
「あ、ああ……人の町で情報収集をした時に見つけた調味料の味噌を使ったんだ」
「ちなみに此方になります。豆を発酵させた物の様ですね」
バランさんの問い掛けに俺が説明し、アイナさんが補足する。
「見た事がないな……して、イーリスよ。人の町での情報収集の成果を聞かせて貰おうか?」
「はいよ、頼まれたアバンの行方だけど……」
味噌を見せると全員が珍しそうに見ていた。そもそも、アンタは料理なんかしないから調味料を見る機会なんかなかろう、とツッコミを入れそうになったが、先に報告をする事に。俺は人の町で得た情報と予想を報告した。そういや、ミストバーンが居ないままだけど会議を再開していいのだろうか?
◆◇その頃、ミストバーン◆◇
「此方がイーリスの作ったスープになります」
「ミザルとアイナめ……余よりも先に六団長に振る舞おうとするとはな」
私は食事が出来ないのでバーン様にイーリスのスープを届けた。鬼岩城からバーンパレスまでの移動の最中、メラとヒャドで温かさを調整しながらバーン様に献上する。
本来ならイーリスの手料理を振る舞うならバーン様が最初だろうが、ミザルとアイナの二人の悪戯で六団長が最初となってしまった。鬼岩城のイーリスの反応を見ると、それが間違いないと感じる。
アイナも、よくイーリスを着せ替え人形のようにして遊んでいる。特にアイナの事だから、私やフレイザードが食事が出来ない事を承知の上で我々にスープを提供したのだろう。意地の悪い事をしてくれる。
と言うか、バーン様に悪戯を仕掛けるのはアイナかキルくらいなものだろう。
「余ですら味わった事のない味だ。だが、悪くなかった」
私が考え事をしている間にバーン様はイーリスの作ったスープを食べ終えていた。私は空になった食器を手にバーン様のお部屋から退室する。
「良いなぁ……僕も食べてみたかったよ」
「食べたかった、食べたかった!」
「…………」
退室するとキルと使い魔のピロロが皿を見ながら羨ましそうに呟いた。私ですら食べられないのに、貴様等に食べさせてなるものか。私はそう思いながら再び鬼岩城に戻った。
◆◇◆◇
俺は人の町で得たアバンの情報を、ミストバーンを除くハドラーと六団長に報告した。
ヒュンケルの情報通り、アバンは旅の家庭教師を続けており、今は弟子を一人連れている。
アバンはパプニカ方面からロモス方面へと向かった。
ロモスでは以前俺も見たのだが、モンスターの暴動騒ぎがあり、その中でも一人の少年が話題に上がった。
ロモス方面にその少年をスカウトしに行ったのでは?と予想を立てた。
それらを報告し、近隣の魔物やガーゴイル等の飛行できる魔物に偵察をさせるプランを提出した。
「なるほど、確かに以前ロモス城が騒がしかったですな。イーリス殿が居たのは意外でしたが」
「ああ、キラーパンサーを従えた時の事か」
「その騒ぎになったガキをスカウトしにってか。勇者ってのは暇なんか?」
「…………ふん」
「ふむ、じゃがそちら方面に居ると言うのも確証が無いのぅ」
「確証が無くても構わん。イーリスの提案通りにロモス方面に偵察部隊を派遣する。怪しげな奴がいればアバンに違いあるまい」
クロコダイン、バランさん、フレイザード、ヒュンケル、ザボエラ、ハドラーの順にコメントが出る。ハドラーはアバンとの決着に執着している。父上からの命令もあるのだろうが、ハドラー個人としてもアバンとの決着を意識しているのだろう。
「…………」
そんな事を考えていたら、姿を消していたミストバーンが帰って来た。手には空になった皿がある。ああ、やっぱりアイナさんが言った通り、父上の所に豚汁を届けに言ったのだろう。次回のチェスの時までに父上に言い訳と別の料理を持っていかないとだなぁ……
あ、そう言えば俺の融合呪文の事を誰にも話してなかった。まあ、言い出せる雰囲気でも無かったのだが。
この会議の日から数日後、デルムリン島付近に偵察に行かせたガーゴイルが戻ってこなかった。怪しいと思ったハドラーは遠巻きに他のガーゴイルにデルムリン島の偵察に行かせた所、不自然な程に大規模な結界があると報告が上がった。