目が覚めたらバーンパレスの自室だった。俺の世話をしてくれたメイドさん達の話では、俺は父上に魔法を披露している最中に魔力&体力切れで倒れたらしい。しかも、父上は俺を横抱きのお姫様抱っこで運んだとか。何それ怖い。大魔王バーンにお姫様抱っこされる娘って、凄い絵面になるな。
数時間寝て体力が回復した俺は、現在の状況を聞く為に父上の所へ。ハドラーとアバンの決闘は原作通りの結果に終わってる可能性が高いが、俺と言うイレギュラーがあるのだ。予想外の結果になっている可能性もある。
「父上、失礼します」
「む、目覚めたかイーリスよ。ちょうど良い、そなたにも聞かせよう」
玉座の間に行くと父上が水晶に話し掛けていた。あれが鬼岩城の壁に打ち付けてある顔に連動するのか。どんな仕掛けなんだか。
「ハドラーは見事に勇者アバンを打ち倒した。だが、アバンは弟子を育てていて、その内の一人が非常に強くハドラーに傷を負わせたのだ」
「両手を切り飛ばされて、胸に十字の刃跡を刻まれたのを『傷』の一言で済ませて良いんですか……?ともかく、アバンの弟子と言えばヒュンケルがそうでしたね」
水晶に映されたハドラーは鬼岩城の玉座に座っていたが、原作通り両手を切り飛ばされ、胸にアバンストラッシュの傷跡が残されていた。俺は父上の言葉にすっとぼける。何か知ってたら怪しまれるからな。
「そのヒュンケルの弟弟子と呼べる者共が居るらしい。だが、アバン亡き後の弟子程度では大した事ではあるまい?」
『ハハーッ!これより我が魔王軍はアバンの使徒を倒すと同時に各所の王国を制圧致します。そして……世界をバーン様の手に……』
父上がハドラーに『アバンを倒したのなら弟子なら問題ないだろう?』と問い掛ける。ハドラーは実際に戦ったからなのか冷や汗を一筋垂らしたが、魔王軍を総出で動かして王国を攻め、そのついでにダイ達を倒す計画らしい。ここで父上やハドラーがダイを甘く見なければ終わってたよな大冒険って。
「だったら、魔軍司令補佐として俺も出なきゃだな」
『おお、イーリスが戦線に加わってくれれば部下の士気も上がろう……』
「いや、イーリスには少々確認したい事がある。参加させるのはその後だな」
早めにダイ一行を見ておきたい俺は、それっぽい理由でバーンパレスから出ようと思ったのだが、父上から止められた。
「えっと……確認したい事とは?」
「それは後で話す。ハドラーよ、傷が癒え次第行動に移せ」
『か、かしこまりました』
俺が父上に問い掛けると、父上はハドラーとの通話を切って俺に向かい合う。なんかピリピリした空気になってきた。
「そなたが先程行使した呪文……余はラグナ・スレイブと名付けた」
「ラグナ・スレイブ……」
いや、あの呪文ですか!?光魔の杖を自力で再現したんですが!?なんで、そんな仰々しい名前を付けた!?
「完成すれば、あの呪文は神々の魂すら切り裂く刃となろう……余でも、りゅうおうの杖を使ったとしても扱うのは不可能だろう。そなたの独自の呪文となったな」
「あ、ありがとう……ございます」
なんか父上に褒められてるのにむず痒い気分だ。最初の頃は呪文もろくに扱えなかった俺が、父上から称賛の言葉を貰える程になるなんて。
「だが、あの不完全なままでは危険だ。余の見立てではラグナ・スレイブは呪文の発動まで十数秒掛かり、発動は数秒が限界。さらに素振りを数回したら魔力切れになるのではないか?」
「……その通りです」
父上が考察したラグナ・スレイブの弱点は全て見抜かれていた。威力・破壊力が抜群になった分、魔力消費が激しい上に制御するだけで精一杯なのだ。素振りを数回したら確実に息が上がる。
「発動時間の短縮と振り抜く際の制御が必要だな。現段階では実戦では扱えまい」
「………はい」
凄まじい呪文であるが故に制御が困難なのは仕方ない事だとは思うが、課題が多すぎる。これじゃ確かに前戦なんか出れんわな……そんな風にラグナ・スレイブの欠点にへこんでいると、父上が口を開いた。
「喜べ。数日は余が直々に相手をしてやろう」
「……………え?」
父上から出た発言に俺はフリーズした。あ、これ死ぬわ。それはそうと、初戦のクロコダインは見ておきたかったけど仕方ない。むしろ、俺が死なないように頑張ろう。
呪文のネーミングは中々思い付かなかったのでイメージした魔法の名前をオマージュしました。