転生したら大魔王の娘だった   作:残月

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マァムとの出会い

 

 

 

 

◆◇sideマァム◇◆

 

 

不死騎団団長ヒュンケルとの戦いに敗れた私達だがダイとポップはクロコダインの助力もあり、戦場から逃げる事が出来たけど私は魔王軍に捕えられてしまった。手を縛られて身動きが取れない状態じゃ逃げ出す事は難しそうね。

 

 

「開けろ」

「っ……ヒュンケル!」

 

 

監視役のガイコツに扉を開けさせるとヒュンケルが牢屋に入ってくる。

 

 

「心配するな。お前はダイを誘き出す為の囮だ。事が済んだら逃がしてやる」

「こ、殺さないの?」

 

 

ヒュンケルの意外な言葉に私は聞き返してしまう。

 

 

「例え敵でも女は殺すな。武人の鑑であった父の言葉だ」

「お父さんを尊敬していたのね」

 

 

ヒュンケルは旧魔王軍の幹部であったバルトスと言うモンスターの教えから女性には手を上げないと言う騎士道を持ち合わせていた。

 

 

「お父さんを尊敬していたのね……そのお父さんの命を奪ったアバン先生を……正義を恨むのね?」

「そうだ、正義だとか平和のお題目の為だと俺の父を殺したアバンを許せる筈が無かろう!」

 

 

ヒュンケルは私の言葉に怒りを露わにして叫ぶ。ヒュンケルの心は怒りで支配されている。でも、それ以上の感情に私は気がつけば涙を流していた。

 

 

「ヒュンケル……可哀想な人。お父さんを失った悲しみから他人の所為にしないと生きていけないのね。でも、正義を憎むのは間違っているわ!だって貴方のお父さんは魔王軍の中にいても正しく武人だったんでしょう!?こんな事をしてもお父さんは生き返らないし、こんな事を望んではいないわ!」

「黙れっ!」

 

 

私の言葉に怒ったヒュンケルは私の胸ぐらを掴み、ビンタをしようと振りかぶっていた。殴られる、そう思った私は目を閉じて痛みに耐えようとした。でも、いつまで経過してもヒュンケルからのビンタは来なかった。私が目を開けるとヒュンケルの腕に何かが巻き付き、私の頬に当たる寸前のビンタを止めていた。

 

 

「ダメじゃないかヒュンケル。紳士なら女の子に乱暴しちゃいかんよ」

 

 

ヒュンケルの背後。牢屋の入り口に立っている女の子が面白そうな物を見つけた様な表情で私とヒュンケルを見ていた。

 

 

「イーリス……貴様、何故まだ地底魔城に居る……」

「さっきヒュンケルが言ったんじゃん。見物でもしていったらどうだってさ」

 

 

ヒュンケルが女の子を睨みながら私の胸ぐらから手を離す。女の子の名前はイーリスと言うらしい。でも、なんで地底魔城に女の子が?それに、よく見たらイーリスから生えている尻尾がヒュンケルの腕を絡めて動きを止めていた。頭には角も生えてるし、もしかしてこの子は魔族!?

 

 

「心配しなくてもハドラーは帰ったよ。俺は地底魔城の見学でウロウロしていただけさ。そしたらバイオレンスな状況に驚かされたよ」

「貴様には関係ないだろう」

 

 

イーリスはヒュンケルの腕に絡めていた尻尾を解くと私の方に向き合う。

 

 

「ふーん、勇者一行の僧侶さんか。可愛いね、ヒュンケルが夢中になるのもわかるわ。名前、聞いても良い?」

「へ?あ、あの……」

「さっさと帰れ。さっきも言ったが勇者討伐の任務は俺の担当だ。余計な口出しをするな」

 

 

イーリスが膝を曲げ、私の顔を覗き込む様に見てくる。ニヤニヤと面白そうに私を眺めるイーリスの尻尾をヒュンケルが掴んで引き剥がそうとしている。魔族らしさが無いイーリスに私は毒気を抜かれた気分になってしまう。

 

 

「ヒュンケルが勇者一行の討伐をするなら勇者と話せる機会はこれが最後だろ?だったら少しでも話が出来るならしておきたいんだよ」

「コイツはダイを始末したら逃すつもりだ。わかったら帰れ」

 

 

ヒュンケルは私とイーリスが触れ合う事を望んでいないのか早く居なくなる様に促している。イーリスはチラリと部屋の片隅に視線を移していた。視線の先は……通気口?薄暗くて意識してなかったけど、あの隙間からなら私なら通れるかも知れない。でも、ヒュンケルや監視の目があるんじゃ抜け出すのはむりね。

 

 

「やれやれ、仕方ないな。それじゃあね、マァム」

「う、うん……」

 

 

ヒュンケルに言われて諦めたのか牢屋から出て行くイーリス。あれ?私、イーリスに名前を教えてないのに、なんでイーリスは私の名前を呼べたの?ヒュンケルもイーリスと一緒に出て行ってしまったので私の疑問に答えてくれる人は誰も居なくなってしまった。でも、ヒュンケルも出て行ったのなら逃げ出すチャンスだわ。早く、ダイとポップと合流しなくっちゃ!

 

 

 

◆◇sideマァム•end◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僧侶の服を着たマァム可愛かったなぁ……武道着の姿も好きだけど僧侶の頃のも好きだったから見れて嬉しいわ。ヒュンケルがマァムに平手打ちしそうだったから思わず止めて、原作の展開をちょっと変えちゃった気もするけど誤差の範囲内だろう……多分。

それと牢屋の隅の隙間、あれは通気口だったな。多分、あの隙間を壊せば宝箱のある隠し部屋に行けるんだろう。違ったとしても原作通りならマァムが魂の貝殻だったっけ?あのアイテムを見つける筈だ。まあ、違ってたら俺が「地底魔城見学の時に見付けた」とか言って渡せば良いだろうし。

 

 

「いい加減、帰ったらどうだイーリス。先程の皮肉をそのまま受け取られたのは驚いたが邪魔だから、もう帰れ」

「痛っ!?」

 

 

考え事をしながらヒュンケルの前を歩いていたら尻尾を力強く握られた。この尻尾は割とデリケートだから痛いんだよ!

 

 

「はいはいっと。団長様の邪魔をするのは本意じゃ無いから帰らせて貰うよ」

「ふん……お前はもう来るな。バーン様のご息女なら戦場に来る必要もないだろう」

 

 

尻尾を掴んでいたヒュンケルの手を払いのけ、帰ろうとするとヒュンケルから後ろから声を掛けられた。ヒュンケルなりの気遣いなんだろうけど……今のお前の考え方は色々と矛盾してるんだよ?

 

 

「ヒュンケル……聞いておきたいんだけど、お前はアバンを、そして正義を憎んでいるんだよな?」

「さっきの会話を聞いていたな?ああ、それがどうした」

 

 

騎士道だなんだと言うけど、その矛盾に自ら気付かない段階で……いや、気付かないフリをしているだけなんだろうけど。

 

 

「アバンが死んだら、その弟子を憎む。そこまでは良いけど、その後はどうするんだ?お前がダイを倒したら後は魔王軍の天下だ。そしたらお前の憎む対象は何処へ行く?バルトスを死なせる原因となったアバンに敗北したハドラーか?それとも人間達を継続して憎むか?女には手を掛けないと言うけど魔王軍は人間を滅ぼすぜ。子供だろうが女だろうが……な」

「そ、それは……」

 

 

やっぱりな。俺の問いに即答出来ない辺り、ヒュンケルはその事を考えなかった。いや、考える事を避けていたと言うべきか。今までのヒュンケルはアバンやハドラーを憎む心を持ち続けて成り立っている。その本懐を遂げてしまえば人間を憎む心は消えるだろう。原作を読んでいた頃から思っていた事だ。仮にヒュンケルがダイに勝ったとしても、いずれは自分の行いを恥じて魔王軍の敵となるだろうと。物語後半で父上もヒュンケルはアバンの事を憎み切れておらず、正義の心が奥底に眠っていた、と。今はバルトスの事があるから人間の敵となっているが、それが無くなればヒュンケルもアバンの弟子として戦場に舞い戻るだろう。でも、今この場でそうはならないだろうけどな。

 

 

「ま、その辺りはダイ討伐が済んでから聞かせてもらうよ。帰るぞゲレゲレ」

「ガゥッ」

 

 

俺はガイコツの骨を齧っていたゲレゲレに声を掛けて地底魔城を後にした。もう来るなとは言われたけど次に来るのはヒュンケルがダイに敗れてからだから割と直ぐに来る事になるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?俺はマァムとヒュンケルに何を言おうと思ってたんだっけ?なんか最近、思考が定まらない時がある……疲れてるのかな、俺。

 


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