やって来ました、バルジ島。俺はハドラーとの打ち合わせ通りにメタルハンターを二体とゲレゲレを引き連れて中央塔に来ていた。そしてフレイザードに作戦の全容を伝えると……酷く不満そうだった。
「結界を作ったから勇者達は足止めで更に魔王軍全軍で戦うってなりゃあ、俺の出番が無いじゃねぇか!手柄が逃げちまうぜ!」
「全軍って言ってもバランさんの超竜軍団は来ないし、手柄ってんならパプニカの姫様を手中に収めて、勇者を誘き出した段階で結構なもんだと思うけどな」
中央塔の最上階、レオナが氷漬けにされている場所で外を眺めながらフレイザードと話をする。結界の影響から体がダルいが仕方ない。
「それにイーリスのメタルハンターも居るんだろ?こりゃマジで出番がねーじゃねーか!」
「俺の護衛に二体。ハドラーの軍勢に二体。ミストバーンとザボエラに二体。計六体のメタルハンター。仮にハドラー達を切り抜けても、中央塔には俺とフレイザードにゲレゲレ。俺の護衛のメタルハンター二体……確かに出番は無いかもな。かと言って此方から打って出る訳にはいかないんだぞ、結界の都合上」
フレイザードがイライラしている最中、俺はリンゴを剥いて半分に割ってからゲレゲレに差し出す。ゲレゲレは嬉しそうにそれを食べ始めたので、残りの半分は俺が食べる。あ、このリンゴ甘いなぁ。しかし、視界の端に氷付けにされてるお姫様が居るってのは若干メンタルにダメージがあるな。
「わかってるっての!」
「ま、ハドラーやミストバーン達の報告を待とうや」
しゃりしゃりとリンゴをゲレゲレと食べながらフレイザードと会話を続ける。滾っているのかフレイザードの炎がメラメラと揺らいでいた。やっぱ、この間から何処か焦ってる感じなんだよなぁフレイザード。この間、バランさんがリンガイアを速攻で潰したと聞いてから功を焦ってるというか……
「なあ、フレイザード。そんなに焦らなくても……おわっ!?」
「なんだ、爆発か?」
「グルル……」
夜の帷が明ける前。まだ薄暗い空に場違いな程の光と轟音が鳴り響いた。もしかして、もうポップとハドラーが戦っているのか?となるとダイもミストバーンとザボエラが戦っている頃か。
「おいおい……なんか面白い事になって来たんじゃねーか、おい!」
「楽しそうに言うなよ。戦いの音かな?って事は勇者一行が炎魔塔と氷魔塔に来たか」
爆音の後に僅かに聞こえて来る更なる爆発音。最初の爆発音は爆弾で今のはハドラーのベギラゴンかな。だとすれば、そろそろクロコダインとヒュンケルが戦いに参加する頃か。立ち上がり、中央塔の最上階から身を乗り出して外を見ると夜が明けてきている。爽やかな朝の筈なのに、戦闘音のBGMで台無しだよ。
「クックックッ……退屈してたが、面白そうな音が聞こえてくるねぇ」
「上司や同僚が苦労してるのを想像して、悪い笑みを浮かべるなよ。でも、なんか不確定要素でもあったのかな?苦戦して……あ」
隣のフレイザードは楽しそうにしてるし……あ、音に反応して、中央塔の下に配置してた二体のメタルハンターが動き出しそうになってる。なんて、思っていたら衝撃音と共に氷魔塔がガラガラと崩れて行った。
「おいおいおい!氷魔塔が崩れたぞ!?」
驚いてるフレイザード。そりゃ魔軍司令が防衛してる筈の氷魔塔が崩れれば驚くわな。氷魔塔が崩れたって事はヒュンケルが来たか。あの超絶良いタイミングで現れてマァムとラブコメ展開してる頃合いだな。可哀想だからポップに薬草恵んで上げたい。しかし、ヒュンケルが現れたとなれば炎魔塔の方には既にクロコダインがダイの加勢をしているんだろう。正直、戦闘音だけで状況判断するのは難しいな。悪魔の目玉でも連れて来て戦闘を見れる様にすれば良かったな。
「勇者のガキがこんなに強いってのか……ハドラー様を出し抜く程の強さを……」
いや、ハドラーを出し抜いたのはポップで氷魔塔を砕いたのはヒュンケルだよ……と言えたらどんなに楽か。なんて、思っていたら炎魔塔も崩れていった。って事はヒュンケルとハドラーが戦い始めて、クロコダインが炎魔塔に獣王痛恨撃を撃ち込んだか。となるとハドラーの敗北も時間の問題だな。そろそろ、スタンバイするか。
「フレイザード、どうにも不穏な……」
「ク、ククク……ハドラー様や他の軍団長が軍を率いて倒せない勇者ダイ。ソイツが結界を破いて俺の所に来る……ヒャーハッハッハッ!!」
フレイザードに戦闘準備を促そうと思ったらフレイザードは笑い始めた。大爆笑でだ。なんなんだ、一体!?
「笑っちまうよなぁ……勇者ダイを倒した手柄が……功績が全部、俺達の物になるんだからよ……」
「フ、フレイザード?」
ん……『俺(達)』?フレイザードは原作だと『俺の手柄になる』って叫んでたけど、ちょっと変わってる?俺が思わず、フレイザードを見上げるとフレイザードは俺を見下ろしながら何か思案顔だった。
「いいねぇ……悪くない。いや、実に良い!ヒャーハッハッハッ!気合いが入るってもんよ!」
「そ、そっか……頑張らなきゃな」
なんなんだ?なんかフレイザードのテンションがドンドン上がってんだけど。すると、辺りに眩い光が溢れ始める。その光が何なのか理解する前に衝撃波が中央塔を襲った。今のはまさか、グランドクルス!?氷魔塔から中央塔まで結構距離があるのに、衝撃波が届くってどんな威力だよ!?そんな事を思っていたらフレイザードが静かになっていた事に漸く気付く。
「たった今、ハドラー様からの魔力供給が途絶えた……ハドラー様も情けねぇな。援軍に来て負けるなんてよ。だが、奴等も相当な体力と魔法力を消費してる筈だ。なんせ、魔王軍全体を相手にした後なんだからよ」
その表情にゾクっと背筋が凍りそうになった。先程まで手柄だ功績だと騒いでいたフレイザードが冷静に状況分析してるんだから。炎の様な獰猛さと氷の様な冷徹さと評されるだけあるわ、コイツ。
「見てろよ……俺は他の誰にも負けねぇくらいの手柄を上げてやる!」
そう叫んだフレイザードに、俺は何故か不安が込み上げて来た。原作通りに話が進んでいる筈なのに、何処か違う気がする。この不安は後に的中する事を今の俺は知るよしも無かった。