さて、これからダイ達を迎え打つべく中央塔の外へ……と思っていたらフレイザードが最上階から飛び降りて行った。いや、近道を選びすぎだろう!
「最上階で人質抱えて待ってるなんざ性に合わねぇからな!結界も無くなっちまったし、好きにさせて貰うぜ!」
「もう結界も消えて、俺達も全力で戦えるんだ!観念してレオナを解放しろ!」
「まあ、もう戦う以外の選択肢は無いだろうからな」
「ガウッ!」
中央塔内部からから入口に到着すると既にダイとポップとマァムが揃っていた。ゲレゲレと共に中央塔から出ると凄い驚かれた。フレイザードは地面に潜って待ち伏せする暇は無かったんだな。
「まさか、イーリスが中央塔に居るとはな……」
「フレイザードには恨みはあるが……」
「クロコダインにヒュンケルか……軍団長二人が敵に回ってるってのはキツいなぁ」
それぞれ氷魔塔と炎魔塔を破壊したクロコダインとヒュンケルも中央塔に揃った。これで役者が揃ったな。
「フレイザード、不意打ちもせずに正々堂々戦いに来るとはどう言う心境の変化だ?」
「どうもこうも……お前らがハドラーを倒したから、このままだと禁呪法で生まれたフレイザードは魔力供給が絶たれて消えちまうんだよ。お前達を倒して、父上にフレイザードの命の助力を願うからさっさと掛かって来な」
「え、父上って……あの子は何者なんだ?」
ヒュンケルはフレイザードが堂々と戦うつもりになっている事に疑問に思っている様だ。ポップは俺の事が気に掛かる模様。まあ、ろくに説明もしてないから当たり前か。
「あの少女の名はイーリス。魔軍司令補佐にして、その正体は大魔王バーンの娘だ」
「いいっ!?大魔王バーンの娘!?」
クロコダインの解説にオーバーリアクションのポップ。まあ、俺がそっちの立場なら同じ様に驚くだろう。さて、そろそろ本格的にやるとするか。
「フレイザードは勇者達を頼むわ。俺とゲレゲレは裏切り者の軍団長二人を相手にするから」
「ヒャハッハッハッ。勇者討伐の手柄は俺が貰っちまうぜ!」
俺とフレイザードは互いに背中合わせになってダイ達とヒュンケルとクロコダインと向き合う。更にゲレゲレが俺の隣に並び立ち、俺の護衛用のメタルハンター二体がダイたちの背後に一体。ヒュンケルとクロコダインの背後に一体現れて挟み討ちの形になった。
「くそ、挟撃の為の伏兵を隠していたのか!」
「戦況を有利にする為の伏兵だっての。そもそも俺とフレイザードは五対三の状況で不満を言わずに戦おうとしたんだ、それが五対五の対等な数になったんだから……卑怯とは言うまいね?」
原作でもフレイザード一人相手に五人で戦いを挑んでいたのに、自分達は卑怯とは言わなかった。条件が対等になっただけなんだから不満は口にするなよ?
「ゲゲっ、さっきのメタルハンターがまだ居たのかよ!?」
「落ち着きなさいよ、ポップ!」
「え、ポップ達の方にも居たのかアイツ!?でも大地斬で倒せるから大丈夫だ!」
「メタルハンターはキラーマシン程の強さは無い。呪文は効きにくいが力で対応すれば問題ない!」
「うむ、先程の個体同様に獣王痛恨撃……いや、獣王会心撃で砕いてくれるわ!」
メタルハンターに怯えたのはポップだけだった。と言うか口振りからするとダイは大地斬で、ヒュンケルとクロコダインは一人一体の割合でメタルハンターを倒したんだな。いや、ヒュンケルは一人で二体倒したな多分。グランドクルスなら纏めて倒すのも可能か。
ヒュンケルが言った通り、メタルハンターはキラーマシン程の強さや防御力は無い。けど、それを差し引いても強敵の筈なんだが、軍団長相手じゃ力が足りないらしい。
「メタルハンターだけを相手にするなら出来るだろうな。でも、俺とフレイザードを相手にしながらメタルハンターを倒せるかな?」
「逆に聞くが、俺達を相手にそれだけで足りると思うのか?」
「気は進まんが覚悟して貰おう」
俺がりゅうおうの杖を構えるとヒュンケルも剣を構えた。こう言う時の思い切りが早いよなぁ。クロコダインもそれに倣って真空の斧を構えた。ぶっちゃけ怖いよ、この状況。でも、これからを乗り切るなら必要だから頑張らないと。そう思いながら俺はゲレゲレとメタルハンターを率いてヒュンケルとクロコダインに戦いを挑んだ。
◆◇sideヒュンケル◆◇
地底魔城でフレイザードに引き起こされたマグマに飲まれかけた俺をクロコダインが救ってくれた。俺はそのまま死のうと思っていたが、クロコダインに諭され、死したアバンの代わりにダイ達を助けるべく、再び戦場に赴いた。俺がバルジ島に辿り着いた際、クロコダインと二手に分かれダイ達の助っ人に向かう事にした。俺が駆け付けるとマァムがハドラーに殺されそうになっていた。俺はマァムを救う為と氷魔塔を破壊する為にブラッディースクライドで氷魔塔を砕いた。ギリギリのタイミングでマァムを救う事が出来た俺はポップに手持ちの薬草を渡すと直ぐにダイと合流する様に頼んだ。
ハドラーは案の定、ポップとマァムの事は追わずに先に俺を始末するつもりらしい。俺にとっても好都合だ。俺はハドラー配下のアークデーモンを何体か瞬殺し、ハドラーとの一騎打ちをした。伊達に魔軍司令を名乗っていないハドラーは強く、苦戦させられたが何とか倒した。だが、それは俺の油断を誘う為の罠だった。心臓をブラッディースクライドで貫いたがハドラーの心臓は両胸に一つずつあると判明し、絶命していなかったハドラーは俺の鎧をヘルズクローで貫くと、メラゾーマやベギラゴンを叩き込んできた。満身創痍と化した俺に更なる悲報が重なる。ハドラーはその存在を隠していたが、キラーマシンの量産型のメタルハンターと言うモンスターを切り札の一つとして隠していたのだ。あのメタルハンターはイーリスが以前持ち帰ったキラーマシンを解析して量産したのだと言う。
イーリス……魔王軍に所属しながら魔族らしからぬ行動と言動の大魔王バーンの娘。俺は魔王軍を抜けると決心したが、あの娘にした事は謝罪しなければと考えていた。彼女が以前言っていた自分が『不良品』だと言う意味。その一言を発した彼女は悲しそうで、泣きそうな顔をしていた。はっきり言って大魔王バーンの娘とは思えぬ姿だった。
その『不良品』と言う意味が彼女自身を意味するなら、彼女は本来なら戦いたくないと言う意味なのだろうか?大魔王の娘と言う立場から戦う事を強要されているのだろうか?
俺はそれらの疑問を抱きながらもアバンから過去に学んだ技の中でも一笑に付した闘気を用いた技『グランドクルス』を放った。自分でも想定した以上の威力となったが、その反動から俺は意識を失い……気が付いた時に見たのはグランドクルスで倒したモンスター達と粉々に砕けた二体のメタルハンターだった。辺りを見回したが、ハドラーの死体は無かった。
「俺は本当に……ハドラーを倒したのか?」
薄れた意識の中でハドラーを倒した感覚はあったが、実感は無かった。だが、呆けてる場合ではなく俺は急いで中央塔へと向かい、フレイザードとの戦いに臨んだ。
中央塔に辿り着くと意外な事にフレイザードは正々堂々と俺達と戦うつもりらしい。残虐で卑怯な戦法を好むコイツがどんな心境の変化だ?その疑問はイーリスの口から語られた。ハドラーが死に、フレイザードへの魔力供給が絶たれたからだと口にした瞬間、俺はアバンと父バルトスの仇が討てたのだと確信して、少しだけ気持ちが和らいだ。だが、気は抜けない。何故ならば、これからフレイザードとイーリスとゲレゲレに加えてメタルハンターを倒さねばならないのだから。
だからこそ、俺はイーリスの何かを決意した様な表情が気に掛かった。