鬼岩城に戻った俺は自室で悩んでいた。
バルジ島で魔王軍全隊が大打撃を受けたから立て直しに数日費やし、その後ダイを始末すると言うのがハドラーの言い分だ。原作だとその数日でバランさんがカール王国を滅ぼして、次にダイと戦うのは自分だと主張する。俺はそれまでに『コイツ』をどうにかしないと。
「おい、イーリス!まだかよ、早くしてくれや!」
「次のボディをどうするかとか、暗黒闘気の使い方とかで悩んでるんだよ。適当な体じゃフレイザードも嫌だろ?」
鬼岩城の俺の部屋の机の上で炎の欠片が叫んでいた。これはダイのアバンストラッシュで砕かれたフレイザードの欠片だ。砕かれたフレイザードは目の部分だけを残して殆ど失われたから、残っているのはこの部分だけだ。ミストバーンからこの欠片を受け取った後、フレイザードのマスター権を俺に移した。元々生みの親であるハドラーがマスターだが、魔炎気になった際にマスター権はミストバーンに移り、その後さらに俺に移動した。それと言うのも、ミストバーンからの課題で「暗黒闘気の更なる使い方を学ぶ為に、フレイザードを次のボディに移してみろ。禁呪法を記した書も渡すからやってみせろ」と言われたのだ。
魔法使いの間で卑怯な技とされる呪法を使った者は外道として魔法使いの間では仲間はずれにされてしまうってのに、それを学べって……人道とは真逆のベクトルを行く教育法だよなぁ。
「フレイザードも炎の側だけになっちまったから、現状で再生しようとすると、中途半端なようがん魔人みたいになっちまうぞ」
「ぐ……だったらミストバーンが用意した鎧とかよ……」
今の俺の暗黒闘気で復活させようとすると力不足で中途半端な状態になるのが目に見える。
「その鎧は砕かれたばっかりだろ。かと言ってキラーマシン2は開発中だし」
「もどかしいぜチクショー!」
フレイザードはミストバーンが出した魔影軍団の鎧みたいなのを期待してるけど、キラーマシン2は未だ開発中で完成には至っていない。それに俺としてはフレイザードを炎と氷の体で復活させたかったけど、氷の半身が失われた状態ではそれも厳しいだろう。
「そうなると……いっそ別の生物に転生でもさせるとか、かな?」
「そんなやり方もあるのかよ」
ペラペラと禁呪法を記した本を読む。そこには死者を蘇らせる技術として魂を別の肉体に定着させる技術などが書いてあった。外法と呼ばれる技術なだけあるな。読んでるだけで内容に引くわ……やり方もエグいのが多いし。
「でもよ、別の生物に転生ったって体が無きゃ駄目なんだろ?」
「ああ、だから気は進まないけど、そう言うのを研究してるマッドサイエンティストを頼る事になるな」
アイツ等は正直、頼りたく無いんだよなぁ……頼ったら後から色々と吹っ掛けて来そうだし。
「まあ、でも……フレイザードの為だし、気は進まないけど行くとするか」
「行くって……何処にだよ?」
俺はフレイザードの欠片を手にして立ち上がる。フレイザードが行き先を聞いてくるけど俺は少々テンション低めに答える事にした。
「……妖魔士団」
「はぁ!?ザボエラのジジィの所かよ!?」
行き先は妖魔士団。フレイザードはザボエラの名を叫んだけど、用があるのは息子のザムザなんだよ。
◆◇sideクロコダイン◆◇
フレイザードを倒し、パプニカの姫君を救出して魔王軍を撃退したと今宵は宴となっていた。だがリザードマンで元魔王軍の俺が宴に参加する訳にはいかず、俺は宴の場から離れた丘で酒を飲んでいた。そんな俺にバダックの爺さんやパプニカの兵士達が酒を持って来てくれた。あんなに美味い酒が飲めるとは思わなかったな。
「姫様の命の恩人なんじゃ!遠慮なんかせんと、ドンドン飲んでくれぃ!」
「恩人か……俺は色々あって魔王軍と戦ったんだがな。しかし、姫様か……」
爺さんの『姫様』のフレーズに思い出したのは魔王軍の姫様だった。
「おお、そう言えば魔王軍の姫も来ておったんじゃな。確か……イーリスとか」
「ああ、大魔王バーンの娘だ。本来なら戦場に出るタイプでは無いんだがな」
あの娘は魔の森のモンスター達が大人しく懐いてしまう位に惹きつける何かを持っていた。大魔王バーンの娘だと言う事を忘れてしまうくらいに気さくで人懐っこい性格。間違っても人を傷付けるタイプではない。
「あの娘っ子は信用出来るのか?姫様の氷は確かに溶けとったが命の危険すらあったと言うのに……」
「確かにパプニカの姫は助けなければ危険だったが、氷は溶け始めていた。嘘は言っていなかったさ」
そう、イーリスの言葉から俺達はパプニカの姫の氷は完全に溶けたのだと勘違いしたが、氷が溶け始めたのはフレイザードの半身が失われてからだった。故に日没までに氷が溶ける事が無く、パプニカの姫君の命が危ぶまれた。ポップの尽力とダイの紋章の力、そしてマァムが魔弾銃を犠牲にパプニカの姫を助け出した。
「それに、あの時イーリスの言葉に嘘は無かった。魔王軍において、あの娘は信用に値する。魔王軍を抜けた俺が言うのもなんだがな」
「なら、お主みたいに我等の仲間になってくれるかも知れんな!」
俺の言葉に笑い飛ばす爺さん。俺もそれを望む。あの娘は魔王軍に向かないと思うからだ。だが、あの娘は大魔王バーンの娘で師がミストバーンだ。そう簡単にはいかんだろう。だが、俺はそれでもイーリスが魔道から抜け出す事を願わずにはいられなかった。