鬼岩城の天守閣にあたる頭の部分でハドラーに下克上を叩き付けていたガルヴァスに呆れながらも、フレイザードの話をハドラーにしなきゃと思っていた俺は、どうしようかと悩んでいたらガルヴァスが俺に気付く。
「おや、イーリス殿。私が魔軍司令となった暁には貴女にも働いて貰いますぞ」
「粋がるのは良いけど、父上には話を通したのか?まさか、無断出撃しようってか?」
俺の質問にガルヴァスはニヤリと笑みを浮かべた。
「大魔王様も無能なハドラーよりも勇者を倒した功績を持つ私を重用してくださる筈。私は貴様等とは頭の出来が違うんでな。ハーハッハッハッ!」
既にダイを倒したつもりのガルヴァス。つまり、ダイを倒した功績を土産に魔軍司令になるってのが奴の描いた未来って訳か。ガルヴァスは高笑いをしたまま姿を消した。
「むう……奴は俺と違って卑怯な事を平気でする男」
「卑怯な真似をしても負けたら意味が無いとは思うけどな。取り敢えず父上に報告を……」
「……必要ない」
ハドラーの呟きに俺はガルヴァスの行動に不安しかなかった。だって策を弄する割には詰めが超甘いんだもん、アイツ。ガルヴァスの行動を父上に話そうかと思っていると、背後から声を掛けられ超ビビる。振り返るとミストバーンが立っていた。
「報告の必要が無いとはどう言う意味だ、ミストバーン」
「………」
「えーっと……」
「ミストバーンはガルヴァスの行動を静観する様ですね。少なくともパプニカ攻略の一助にはなるでしょうし、勇者一行の戦力を削れるでしょう」
ガルヴァスの行動を黙認するミストバーンに理由を尋ねても無言を貫かれた。するとミストバーンと共に来ていたのかアイナさんが説明してくれた。
「しかし……ガルヴァスがダイを倒してしまっては……」
「………」
「あ、帰った」
「後は任せるとの事です」
ハドラーの心配を他所にミストバーンは姿を消してしまった。ミストバーンの言葉なら父上も多分、把握してるんだろうな今の状況を。
「はぁー……となれば魔軍司令補佐として俺は見に行った方が良いんだろうな。ハドラー、後でフレイザードの事で相談があるからヨロシク」
「う、うむ……ガルヴァスの行動には注意しろ」
「では、行きましょうイーリス様」
ため息混じりにガルヴァスの事を見に行くと告げるとハドラーからの忠告を受け、アイナさんと一緒に退室した。ガルヴァスの行き先ってなるとパプニカだよな。
「ガルヴァスの行動はダイの戦力の把握とパプニカへの追加侵略となるでしょう。ミストバーンはダイとガルヴァスとの戦いをバーン様にご報告するつもりの様ですね」
「なるほど……だったら尚更、俺は手出しをせずに見るだけにした方が良さそうだ」
アイナさんの発言からミストバーンは元々のフレイザードの役割をガルヴァスに与えたんだな。勝手な行動をしたガルヴァスだけど、渡りに船だったんだ。
「ガルヴァスの話からすると、すぐに行動に移すでしょう」
「そうだね、じゃあ行こっか」
「行こう、行こう!」
「……いつから居たんだ?キルバーンにピロロ」
俺とアイナさんの話にサラッと混じって来たキルバーン。いつから居たんだコイツ。全然気付かなかったわ。
「面白い話を聞いてね。最近仕事も無かったし、見学するには面白そうだったから僕も同伴するよ。保護者がいないとバーン様もミストも不安だろうからね」
「でしたら、決してイーリス様に怪我が無いように願います。私は他の用事があるので、ご一緒出来ないのは誠に遺憾ですが貴方に任せます」
いや、お前と一緒の方がよっぽど不安になるよ。そんな事を思っていたらアイナさんがキルバーンの肩を掴んでる。握力が凄まじいからキルバーンの肩からミシミシと軋む音が聞こえてるんだけど。
「うん……気を付けるから手加減してほしいかな」
「なら、結構。イーリス様、私は妖魔士団から届く物の受け取りの準備をしておきますので」
「あ、うん……お願い」
キルバーンは仮面だから表情はないんだけど焦ってるのは伝わってくる。そんなアイナさんはキルバーンの肩から手を離して俺に頭を下げて離れて行った。
話は既にアイナさんまで伝わってるんだな。フレイザードの新しい体の件。
「さ、行こうかお姫様。エスコートは僕が勤めよう」
「キルバーン、カッコいいー!」
「……ヨロシク」
紳士的に手を差し伸べるキルバーンに楽しそうにしているピロロ。俺は躊躇いながらもキルバーンの手を取った。なーんか、嫌な予感がするんだけど。