レオナの母親はどうした発言に思案顔になったバランさんだが「貴様等には関係ない」と切り捨て、ダイの勧誘を再開していた。
「もうよさんかディーノ。お前の気持ちも分からんでもないが、これ以上私の手を煩わせるな」
「うるさい!ディーノなんて呼ぶな!俺の名はダイだ!じいちゃんから貰った俺の名前なんだ!本当の名前もクソもあるもんか!俺は魔王軍と戦う……勇者ダイだ!」
「ダイ君……」
「……ダイ!」
「ふーん……」
なんとか穏便に話を進めようと思ったのにバランさんは我が子に会えてテンションが上がり過ぎたのか説明を端折った発言で今のナイーブな状態のダイを刺激してしまい、ダイは意固地になった上に問答無用で斬り掛かって来た。更にポップ達も話を聞かずにひたすら拒む態勢になっている。
魔王軍と勇者の橋渡しをしようとするのが大魔王の娘ってどんな構図だよ……
「大したもんだな勇者様は。お前の両親がお前の為に付けた名前は知らないとツバを吐く訳だ。確かにお前は人間寄りだよ。自分の価値観で他人を平然と傷付ける」
「……え?」
俺の発言にダイは目を丸くした。頭に血が上がっていたから出た発言なんだろうけど見過ごせないぞ今のは。ポップ達も嬉しそうな顔をするなっての。
「確かに育ての親が付けてくれた名も大事だろうけど、長年お前を必死に探していた親の気持ちは一切考えていない。さっきも俺達が魔王軍ってだけでいきなり斬り掛かって来たな。もしも俺達が魔王軍に居ても善良な存在だったらどうする?それとも勇者様は相手が魔王軍なら一方的な虐殺も良いってか?」
「で、でも……アイツは魔王軍で……アバン先生の仇が……」
俺の言葉にダイから闘志に揺らぎが見え始めている。うん、良い兆候だ。迷いながらも出した言葉に俺は畳みかける事にした。
「仇……仇ね。お前は知らないだろうから教えてやろうか。お前の母親を殺したのは……人間。それも王家の人間だ」
「なっ……!?」
「ま、マジかよ!」
「そ、そんな事……信じられないわ!」
「イーリス……余計な事は話さなくて良い」
俺の発言にダイ、ポップ、レオナは絶句し、信じられないと言った様子だ。バランさんは呆れた様子で俺を睨みながら呟く。俺はこの話は原作を知っていたと言うのもそうだが、バランさんから直接聞いた話でもあるのだ。俺が知っていても不思議は無く、話す事が出来た。
「いや……バランさん、話すべきだよ。世界のバランスを調整する竜の騎士なら人間が如何に間違っているか問うのも竜の騎士の務めじゃないかな?それにバランさんも息子に波風は立てたくないだろ?」
「そうだが……」
俺の発言にバランさんも冷静になり始めたのか若干落ち着いて来ていた。よしよし……このまま話を進めよう。
「そんな訳だからクロコダインも話に参加したら?」
「……気付かれていたか。流石だな、イーリス」
「クロコダインのおっさん!ありがてぇ、アンタが居てくれば百人力だぜ!……おっさん?」
俺は森の茂みに潜んでいたクロコダインも呼び寄せる。すると潜んでいたクロコダインが姿を現し、ポップが駆け寄る。クロコダインの増援に喜んでいた様だがクロコダインの体は震えているのだろう。
「おっさん……震えてるのか?」
「クロコダインか……いくらお前でも私。そしてイーリスとバズズを同時に相手にすればどうなるか分かるだろう?親が我が子を連れ戻すのを邪魔するか?」
「死ぬ……だろうな。そのつもりで手助けに来たのだが……イーリスが対話を望むとはな」
「バランさんから息子さんの話は聞いていたからね。まあ、その息子さんは年齢的にも反抗期真っ只中みたいだけどな。取り敢えず親子の再会を願っていたんだけどね」
ポップがクロコダインが恐怖に震えているのに驚く最中、バランさんが口を開き、俺は最低限話し合いをするつもりだったと告げる。
「だが、ダイの本意ではあるまい。母親の事も知らぬ事であったのも事実だが、だからと言ってダイが魔王軍に降る事もないだろう。ダイが居なければ俺やヒュンケルは未だに魔道を彷徨っていただろう。ダイは俺達の心に光を与えてくれていた太陽なのだ!生きとし生けるものには太陽が必要。それを奪おうとする者は断じて許さん!例え力及ばずとも戦うのみ!」
「成る程……完全に人間の味方って訳だ。んじゃリベンジさせて貰おうか」
「落ち着けバズズ。まだ話の途中だ」
「………」
クロコダインの宣言に試合開始のゴングだとばかりに襲い掛かろうとしたバズズを止める。まだ戦うなっての。バランさんは『太陽』のキーワードで奥さんを思い出してるみたいだし。
そんな事を思っていたら俯いていたダイが顔を上げた。そして額には竜の紋章が浮かび上がっていた。
「アンタが俺の本当の親だとしても……俺の母さんが人間に殺されたとしても……俺は勇者だ!人間の為に戦う!」
「やれやれ……ならば今は人間共の呼び方に倣ってダイと呼ぶ!ダイよ、我が軍門に下らん限り、その命は無いものと思え!」
ポップ達の思いやクロコダインの宣言に再び勇者としての闘志が湧き上がって来たみたいだ。ダイの紋章に呼応してバランさんの額にも紋章が浮かび上がって頭にもまた血が上って来たみたいだ。まあ……ある程度、下準備が出来たから上等かな。あ、俺の胸元も光って熱くなって来てるわ。
「なんで貴女は……此処まで介入するの?貴女が大魔王バーンの娘だと言うのは聞いているけど、それにしては口を挟み過ぎていると思うわ」
「魔王軍としてもダイの竜の騎士の力を必要としてるんだろうぜ……」
「ああ……俺は父上、大魔王バーンの娘でもあるけど血縁的にはバランさんと繋がりがある。敷いて言うなら俺はダイと姉弟……いや、年齢的には兄妹になるけど。ま、俺も一応、竜の騎士扱いだからな」
レオナとポップの疑問に答えた俺。まあ、隠す事でも無いし。俺の発言に今までの空気が四散して場が静まり返った。
「「「…………え?」」」
俺とバランさん、バズズを除いた全員が鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっていた。うーん、貴重なワンカットになったな。