まいったな……壮絶な親子喧嘩を回避してバランさん生存で父上との戦いに親子タッグを成立させようと思ったのにどうしてこうなった。
俺の目的の一つであるバランさん生存。その為にダイとバランさんの確執を少しでも減らして和解への道を……と思っていたけどダイは想定以上に勇者としての使命に目覚めていたし、バランさんは人間を憎む心が強かった。しかも俺の紋章への影響からダイの記憶喪失イベントも無くなるという最悪の事態。
このまま力尽くの展開になったら勇者パーティ全滅で『ダイの大冒険・完!』となりかねん。
「バランは俺が抑える。お前達はイーリスとバズズを相手にするんだ!」
「な、何言ってんだよ、オッサン!?連携して戦った方が……」
「そうだよ、いくら相手が強いからって……みんなで戦った方が」
クロコダインがダイ達に指示を出す。しかしポップが反発してダイもポップに賛成している。
「それがダメなのだ……どう言う訳だか分からんがこの男には呪文の類が効かんのだ。この男を倒すには純粋なパワーで挑むしかない。そしてイーリスとバズズも相当の実力者だ。ならば俺がバランを押さえている間にダイ達がイーリスとバズズを倒し、全員でバランに立ち向かわねば倒せまい」
「じゅ、呪文が効かない?!」
「だったら尚更……」
「流石はクロコダインだな。確かに私には並の呪文は通用しない。竜の騎士にはドラゴニックオーラと言う特別な闘気がある。これを纏っている限り私には呪文は効かん。私のドラゴニックオーラを突き破る程のパワーを持った呪文か闘気なら別だがな。クロコダインの提案は的確な戦力の振り分けと言えるが……そう上手く行くかな?いくらお前でも私を相手にどれ程保たせられる?その僅かな時間にイーリスとバズズを倒せるとでも?」
クロコダインの発言にポップが青くなり、ダイも戸惑いを隠せない。ヒュンケルの時もそうだけど呪文が通用しない相手にぶつかると魔法使いは大変だよなぁ……あれ?そもそもポップって今までの対戦相手が悪かったんじゃ……
ヒュンケル→魔装の鎧で呪文が通用しない
フレイザード→炎と氷の呪文が無効化
アーマードフレイザード→呪文を弾く装甲
バラン→ドラゴニックオーラで並の呪文が通用しない
歴代の相手を考えるとポップと相性が悪い相手ばかりじゃん。それを考えるとポップって今まで相当頑張って戦列に加わってたんだと実感する。クロコダインやハドラーとの戦いって割とマシな分類だったんじゃ?そんな事を考えているとバランさんはドラゴニックオーラの説明をしてポップやレオナの顔色が更に悪くなる。そりゃ呪文が主体の魔法使いと賢者との相性最悪だから、そうなるか。
「くそっ……ダイ、速攻でイーリスとバズズを倒してオッサンに加勢だ!姫さんも援護してくれ!」
「わかった!」
「ええっ!回復や援護は任せて!」
腹を括ったのかポップの号令でダイとレオナが構える。何気に現段階で状況把握が出来ている辺りマトリフの教えがあるんだろうな。本人に自覚はないんだろうけど。俺がどうしようかと少し悩んでいるとバズズが一歩前に出た。
「そりゃテメェ達が勝てたらの話だろ。覚悟しろや……フレイザード時代のリベンジだ!」
「……取り敢えずやるしかないか」
やる気十分なバズズにこりゃ俺も腹を括るしかないと俺も腰のホルダーからりゅうおうの杖を引き抜いて構える。ここで難しく考えても状況は好転しなさそうだ。ならば今は戦いを止めるよりも戦いに身を投じて、この後の流れを見極めなきゃだと思ったからだ。
「ダイ、俺が足止めをするから一気に決めるんだ!ベタン!」
「ぐっ……またこの呪文か……だけど……」
「二度も通用するかと思ったか!くたばれや、クソガキ!」
ポップのベタンの重圧に俺は呪文を放つ為にりゅうおうの杖を構える。バズズは気合いでベタンの重圧を跳ね除けて走ってポップを殴り飛ばそうとしている。しかしポップの背後には剣を逆手に構えたダイの姿が。
ポップの呪文で俺達を足止めすると同時に視界を悪くさせるのが目的で、その重圧から抜け出したらダイのアバンストラッシュって訳か……いや普通にえげつない戦法だよな。させないけどね!
「メラミからの……バギマ!」
「え……どわぁぁぁぁぁぉっ!?」
「ポップ危な……うわっ!?」
「追加で焼き入れてやらぁ!メラゾーマ!」
「ダイ君、ポップ君!?この……ヒャダルコ!」
俺は右手でメラミを発動させて左手のりゅうおうの杖からバギマを放つ。俺の合体呪文で炎の渦となったバギマをポップに浴びせるとポップは炎の渦に巻き込まれながらダイの方向へと飛んでいき、アバンストラッシュを放とうとしていたダイは慌てて技を止める。それと同時にダイとポップは激突しながら炎に焼かれていき更にバズズが追加でメラゾーマを叩き込んだ。その様子にレオナが慌ててヒャダルコで炎の鎮火を試みる。
「た、助かったぜ姫さん……」
「イーリスも強いけど……バズズも相当だ……フレイザードの時よりも手強くなってる……」
炎の渦に飲み込まれてブスブスと服の一部が焦げたポップとダイが髪や服の一部が凍った状態で起き上がってきていた。やっておいてなんだが、あの炎の渦に飲み込まれてダメージがあの程度って……アバンの使徒はタフだねぇ、おい。普通の兵士なら丸焦げになってるっての。
「ちっ……焼き加減が足りなかったらしいな。やっぱ生焼けはダメだよなぁ……」
「それを放ったらウェルダンを通り越して炭になりそうだけどな」
「ぐわぁぁぉぉぁぁぁぁぁぁっ!」
「クロコダイン!」
炎の渦から生還したダイとポップに舌打ちしたバズズは左手を前面に突き出すと左手の指先全てに火が灯る。バズズがフィンガーフレアボムズを放とうとしたら背後から叫び声が振り返るとバランさんがクロコダインの目の辺りに紋章閃を放った直後だった。目を潰されたクロコダインにダイが叫びを上げた。
「両眼が見えなければ戦えまい。さて、これでクロコダインは片付いた。お前達もイーリスとバズズを倒せないどころか劣勢の様だな。これで勝敗は明らかになったと思うが?」
「俺の中の竜の騎士としての力よ……目覚めてくれ!今、魔王軍に負ける訳にはいかないんだ!」
バランさんがダイに再度降伏を勧めようとしたがダイは自身の紋章の力を発動させた。自力で紋章の力を発動させた事にバランさんも驚きを隠せていない。
「驚いたな……通常、竜の騎士の子は成人するまで己の意思では紋章の力を引き出す事は出来ない。余程、良い師良い戦に恵まれたのだな」
「感心してる場合じゃないと思うんだけど……凄いとは思うけどさ」
驚いてはいるけど我が子の成長が嬉しいお父さんの発言だよなぁ。バランさんは落ち着いた様子で真魔剛竜剣を鞘から抜き始める。そしてバランさんの額にも竜の紋章が浮かび上がって……うぐっ!?
「言った筈だ!俺はアンタを倒すと……ライデインストラッシュ!」
「やった!ヒュンケルも倒したライデインストラッシュだ!しかも今度のストラッシュは完璧版!こりゃ決まったぜ!」
「むぅん!」
「ぐ……あ……あぐ……あぁ……」
「お、おい……お嬢!?どうした!?」
ダイのライデインストラッシュを受け止めたバランさんだが俺はそれどころじゃなかった。ダイの紋章が輝き、バランさんの紋章が強く輝いたと同時に俺の胸はドクン!と跳ね上がった。今も俺の胸に……いや、胸だけじゃない。
「な、なんだ急に苦しみ始めたぞ、アイツ!?」
「おい、イーリス!?どうした!?」
「ふ……く……はぁ……はぁ……」
ポップの言葉が遠くに聞こえる。俺はそれどころじゃない。胸がバクバクうるさいぐらいに騒いでいる。それに何故だか……頭の中で魔王軍が許せない……そんな感情が湧き上がってきている。その筈なのに人間を皆殺しにしろと叫んでいる感情もあった。訳がわからない……まったくの反対方向の感情が俺の中で渦巻いている。なんなんだ……今までこんな事……なかったのに……俺は膝から崩れ落ちそうになるのをりゅうおうの杖で支えてなんとか持ち堪える。
「イーリス、何があった!?」
「ぐぅ……バラ……ン……さ……」
俺を心配する表情のバランさん。世話になり尊敬していた人だった筈なのに……今はその顔を見ていると殴りたくなってきている。バズズ……俺が助けたフレイザード……なのに今は滅ぼさなきゃと思ってしまう。
ダイやポップ……先程まで敵対していたけど俺は原作を良い方向へと持っていきたかったから戦う気なんか無かった。コイツ等を憎む感情なんか無かった筈なのに今は人間を滅さなければと強く考えてしまう。憎い?そんなもんじゃない……嫌悪すら感じる。人間が生きている事自体が間違っているとすら思えてきた。
本当になんなんだ……ダイとバランさんの紋章が最大限に輝いてから体が熱い。頭の中で様々な感情が渦巻いている。魔王軍を倒せと、人間を滅ぼせとリフレインしている。
まるで……ダイとバランさんの感情が俺の中に流れ込んできたかの様だ。
ここ最近の『人間が酷いよね』的な話が多かったのは、この展開の為でした。