◆◇side大魔王バーン◆◇
よもやの事態に余も驚きを隠せなかった。
バランとダイが親子である事をキルバーンから報告を受け、ハドラーの動揺からダイが竜の騎士であるのは間違いない事からバランはダイを自身の味方に引き入れようとするのは明白であり、我が娘イーリスを含めて竜の騎士が三人も世の配下となるのだから笑いが止まらなくなりそうだった。しかし、そう上手くいかないらしい。遠見の水晶で奴等の動向を見ていたがダイはバランに反発し、人間の為にバランに戦いを挑もうとしている。イーリスからの口添えはダイには多少は響いたらしいが勇者としての矜持かダイは戦う道を選んだ。戦力差は明らかであるのに戦おうとするとは愚かな……
裏切り者のクロコダインも戦列に加わり、ダイの助太刀に現れたがクロコダインはバランに鎮圧され、ダイ達はイーリスとバズズと良い勝負をしている……様には見えるだろうがイーリスは本気で戦ってはおらんな。あやつの今の実力を考えればダイを圧倒する事も可能な筈だがイーリスの攻め手は生ぬるいと言えよう。何故、イーリスはダイと仲間に手心を加えているのか……
禁呪法で余が生み出したイーリスだが性格では余に似ず、人間寄りに育ったイーリス。バーンパレスと鬼岩城から外に出さぬ様に育てさせたが、よもや勇者との戦いでも手心を加えようとするとはな。血と暴力を好む魔族の因子が目覚めぬのは問題だな。そう思っていた矢先にイーリスに動きがあった。
バランとダイの紋章に呼応してイーリスの紋章が輝き始めた時、その紋章に影響が出始めた。
バランとダイの紋章の力を全開にした結果近くに居たイーリスの紋章に影響が出始めているのは明白だ。紋章の力が強いのかイーリスは胸を押さえて今にも倒れそうになっておる。
竜の騎士の紋章の力は未知数だ。成人であるバランの実力もさる事ながらダイの潜在的な力もそうだ。イーリスの中にも解放されていない力が眠っているとは思ってはいたが、それが今共鳴と言う形で解放されようとしている。力が強すぎるが故にイーリスの体を蝕んでいるのだろう。だが……余の見立てではそれだけではないな。あの表情……あれは何かを自覚、または実感した顔だ。バランとダイの顔を交互に見て安堵と憎しみの表情を繰り返しているのが何よりもの証拠だ。
恐らくだがバランの人間を憎む心とダイの魔王軍を倒すと使命の感情の両方が紋章を介してイーリスに流れ込んでいる。イーリスの心は今までどちらかと言えば人間寄りだった。その心がバランの人間を憎む心で魔族の側の力が強まり、逆にダイの勇者としての心も流し込まれて相反する感情を受け止め暴走を始めている。あのままでは以前、イーリスがグリズリーと戦い、覚醒した時と同様に破壊と殺戮の魔獣となりかねんな。
「バ、バーン様。あのままではイーリスが……」
「落ち着けハドラー。確かに少々想定外の状態になってはおるが今はまだバランとイーリスの動向を見守ろうではないか」
イーリスのあの状態にハドラーも焦りを感じておるようだな。だが、余の仮説が正しいか見極めるにはこれが手っ取り早い。余の魔力で生み出した竜の騎士……その姿に少々疑問があったが此度の事がその答えとなり得るか……
「子の成長を見守るのも親の役目と言うではないか。困難を乗り越えた者がどう成長するのかも楽しみの一つと言えよう」
「はっ……畏まりました」
ハドラーめ。イーリスの心配もそうだがバランがダイを仲間に引き入れたら魔軍司令の座を奪われる事への焦りで冷や汗が止まらぬ様だな。ハドラーには最強の肉体を与えたが精神的な脆さが目立ち始めている。此奴も追い詰めれば化けるやも知れん。それを含めてもイーリスの事で今は手を出さぬ方が良さそうだな。そう思っていたが余は遠見の水晶から部屋の片隅に視線を移す。
「落ち着きなってミスト。イーリスが心配なのは分かるけど今回はバラン君に任せる話になっているだろう?バーン様も見守るって言ってるんだから行っちゃダメだよ」
「…………っ!」
部屋の片隅では今にも飛び出していきそうなミストバーンをキルバーンが羽交い締めで取り押さえていた。ミストバーンにはイーリスの世話をしろと申し付けたが少々、気持ちが偏っているようだな。
さて、イーリスよ。何か目論んでいたかも知れんがお前の望む展開になるか否か見届けさせて貰うぞ。