「メラ!メラッ!メーラッ!メ~ラ~!」
「後半からミュージカルみたいになっていますよ、イーリス様」
ひたすらにメラを放つがポヒュっと小さな音と共に火の粉が舞うだけの結果となってしまっていた。ミザルさんから呆れと同時にツッコミを貰っていた。
大魔王の娘に転生してから数ヶ月。未だに魔法の上達が見えないのが泣ける。
「何故、ここまで魔法の発動が悪いのか……竜の騎士とは『人間の体と心、魔族の魔力、龍族の強大な戦闘力』を併せ持つ存在。それが竜の騎士であるのですが……」
「出来の悪い生徒でスイマセン……」
ため息を吐きながらレポートを作成しているミザルさん。そういや初期のダイも魔法が全然、使えなかったっけ。中盤から普通に使ってたけど。
「イーリス様は魔法よりも肉弾戦の方がお得意のようですね。午前中の私の授業はお見事でしたよ。さ、お茶にしましょう」
「お見事と言う割にはボコボコにされてましたけどね」
魔法の授業も一休みを挟む事にした。アイナさんの淹れてくれたお茶を飲むために席に着くが俺よりも先にミザルさんが席に着いていた。
「あら、まだ未熟とは思いますが進歩してますよ。ミストバーンから学んでる闘気の扱いも上達してますし」
「本人の口から上達したと聞いてないから、なんとも……」
アイナさんの発言通り、俺はミストバーンから闘気の扱い方を学んでいる。最初の方こそ上手く使えなかったが現在ではそれなりに闘気を扱えるようになってきてるのだ。
身体能力の底上げや闘気を纏わせた拳や蹴りでの戦法。そしてそれを体外に放ち、遠距離攻撃をする仕方。最近では闘魔傀儡掌も練習してる。
そっち方面はある程度の成果が出てきたけど魔法はさっぱり。
「イーリス様はバーン様譲りの魔力があるから魔法の練習でも尽きる事はありませんが……意味の無い練習は無駄ですよ」
「そうは言っても練習しない事には……」
キメ顔をしながらクッキーを頬張るミザルさん。ちょっと残念イケメンな絵だ。しかし、ミザルさんの言うことも分かる。だって全然、上達しないんだもん。
「少々、授業を変える必要があるかも知れませんね。このままでは進展も無さそうですし」
「でも、どうやってですか?イーリス様はルーラを使えない所かバーンパレスの内部の宮から出た事もないんですよ」
俺の授業を変えようとしているミザルさんだったがアイナさんが疑問を口にする。そう、俺はバーンパレスの外は愚か内部の宮から出た事すら無いのだ。しかも俺は移動呪文であるルーラが使えないのでルーラが使える他の人と同行しないと外にすら出られないのだ。
「うふふ……キミってば思ってた以上に箱入り娘みたいだね」
「なんの用ですか、キルバーン殿」
「うおっ!?」
お茶をしていたテーブルに気が付けば黒い衣装を身に纏った仮面の男『キルバーン』が優雅にお茶を飲んでいた。いや、ちょっと待て。お前、ロボットだからお茶飲まなくてもいいだろ。あ、使い魔の一つ目ピエロのピロロも一緒か。こっちが本体なんだよな。
「初めまして、お嬢様。僕の名はキルバーン。バーン様の使い魔みたいなもんさ。この子はピロロ」
「あ、えと……イーリスです」
俺はキルバーンと握手を交わす。コイツ、最終的には大魔王バーンも裏切るんだよな……あんまり、仲良くしない方がいい気もするけど、今の俺じゃ確実に返り討ちだな。
「それでキルバーン殿、暗殺が主な仕事のアナタが何の用ですか?」
「僕もバーン様の配下だ。そのご息女の成長を促すのも仕事の一つさ」
ミザルさん、キルバーンの事を知ってたんですね。考えてみればバーンパレスの内部の宮に居る幹部待遇の魔族だから、ある意味妥当か。
「それで……イーリス様に何をさせる気ですか?」
「怖いなぁ……そんなに睨まないでよ。単なる課外授業さ。バーンパレスを飛び出して地上へ行ってみようじゃないか」
アイナさんがとてつもなく恐ろしいオーラを放ちながらキルバーンを睨む。近くで見ている俺やミザルさんの方が圧倒されるほどなのに、キルバーンはその殺気をサラリと受け流していた。
それはそうと……バーンパレスの外に出るって初体験だな。