頭が痛い。雪崩の様になだれ込んでくる感情の波に冷静ではいられなかった。
『人を滅ぼせ』「魔王軍は悪い奴」『人間を許すな』「先生の仇」『竜の騎士の使命として人の存在は認めない』「大魔王を倒さないと爺ちゃんが」
頭の中に響く、様々な声に俺は耐えきれず膝から崩れ落ちる。息が荒くなり、マトモに呼吸が出来なかった。
「ハァ……ハァ……ぐう……あ……」
「な、なんか分からないけど苦しんでる?」
「ダイ!?お前もか!?」
「う、うぅ……」
俺が苦しんでいるのと同様にダイも苦しんでいるのがポップからの発言で分かる。だったら……
「どう……したよ、正義の味方さん?魔王軍の幹部が弱っているんだからトドメを……刺しに来たらどうだ?」
「出来ないよ……だって……」
「一先ず此処は退くとしよう。だが次は容赦はせんから覚悟するんだな」
俺が顔を上げて挑発するがダイは何かを躊躇う様な表情になっていた。するとフワッと体が宙に浮いた。見上げるとバランさんが俺をお姫様抱っこで抱き上げていた。ちょっと俺よりもダイを気遣ってあげて。
「バランさん……俺よりも息子さんと……」
「私はバーン様から君を預かっているんだ。無理をさせる訳にはいかんのだ。ディー……勇者ダイよ、考える時間をやろう。先程、紋章を介して見たのだろう?考えるまでもないだろうがな」
「そ、それは……」
「ダイ?何を見たってんだ?」
俺がバランさんを嗜めようとするとバランさんはダイに話し掛ける。俺がバランさんとダイの感情を紋章を介して感じ取った様にバランさんとダイにも互いの感情が流れたのだろうか?ダイのリアクション見る限りそんな風に思ってしまう。
「よう、バラン。なんだったら俺が奴等を消してやろうか?」
「貴様はイーリスの護衛だろう。ダイへの対応は私に一任されている。余計な真似はするんじゃない」
バズズがニヤリと笑みを浮かべながらポップ達を見ている。その仕草にポップ達が青い表情になったがバランさんに止められ、バズズは舌打ちをして引き上げた。
俺はバランさんの腕の中で揺られながらどうしてこうなったのか回らない頭で悩んでいた。
俺はこの世界に転生してから、ずっと考えていた。俺にとってのハッピーエンドとは何か。
初めから人間側に転生していたら迷わずに魔王軍と戦う道を選んでいただろう。もしかしたらアバンの使徒にでもなっていたかもしれない。でも俺は魔王軍の……大魔王バーンの娘として転生した。しかも禁呪法で生まれたからダイ達が大魔王バーンを討伐したら俺も一緒にくたばってしまう。ならば死なない為に魔王軍として人間を滅ぼすかと言われれば否だ。
元々人間の俺に人間を滅ぼせとかどんな無茶振りだよ。かと言って人間側に付いて魔王軍と戦えるかと問われれば、それも無理。原作では見られなかった魔王軍の人達の面白おかしい面を見てしまって情が完全に移ってしまっている。
父上はあんな調子だが親バカだ。ミストバーンは意外にも過保護。ハドラーも悲しき中間管理職の叔父さん。渋くてダンディだが息子の事にはポンコツ気味のバランさん。口は悪いがやんちゃな弟分の元フレイザードのバズズ。マッドサイエンティストだが知識は一級品のザムザ。ドラクエⅤ並に人懐っこいゲレゲレ。原作に存在しなかったけど優しいアイナさんやミザルさん。
それとなんか違和感を感じるキルバーン。明確に何かが違うと言われたら分からんが妙な違和感を覚えるんだよなぁ。
この人達と戦えって……今更無理だよ。だが、このままで良いとは思わない。何故ならばバランさんとの戦いが終われば人間と魔王軍との戦いは本格化する。その前に俺が生き残る為にはどうするべきか……それを考えた時に必要な事としてバランさんとフレイザードの生存。そしてミストバーンから学んだ禁呪法とザムザの超魔生物の知識。それぞれが揃って尚且つ戦いの場をコントロールして初めて成功になる……と思っていたんだけどまさか竜の騎士の紋章が足枷になるとは……そんな事を思っていたらなんか眠くなってきた。なんでだ?紋章の力を引き出した所為で肉体的な疲れが出たのか……
俺の意識はそこで途絶えた。