◇◆sideバラン◆◇
魔族として……いや、竜の騎士として覚醒したイーリスはその力を解放していた。ガルヴァスの攻撃で気絶したイーリスは意識を失ったまま魔力を解き放ち、ヒャド系呪文で周囲を無差別に凍り付かせていた。
張り付いた様な冷たい笑みを浮かべたイーリスに恐ろしさを感じながらも私はどうするかを考えていた。今の彼女は半ば竜魔人になっている様なものなのだ。半端な攻撃ではビクともしないし逆効果になってしまう。
それにバズズやクロコダイン達は気付いていない……と言うよりは竜の騎士にしか分からない事だろう。紋章を介して伝わってくるのはイーリスの心の悲鳴。この悲鳴は恐らくディーノも感じている。だからこそイーリスとの戦いを拒む様な姿勢になっていた。
私自身、戦いの歴史に塗れた経験があるからこそ受け入れられているが正直堪えるものがある。
イーリスが何か大きな悩みを抱えている事に私は気付いていたが誰にも話していない事だから私が聞き出す訳にはいかないと考えていたのだが今にして思えば聞き出すべきだったかも知れんな。
抱えた物を誰にも言えず、疲弊した心にこの状況だ。彼女の心の慟哭が解放され暴走しているのだと私は推測した。
ディーノやクロコダインは仲間を守りながらこの暴風雹を防いでいるが長くは保たんだろう。
ヒュンケルやあの魔法使いの少年も来たが役には立たんだろうな。奴等がラーハルト達を倒したのも驚かされたがヒュンケルがラーハルトの鎧を託されたのにも驚かされた。ラーハルトが人間を信用するとは……。
「今のイーリス様は自身の力に振り回されている様に見えるな。あの様子では早めに元に戻さんと後遺症が残りかねんぞ」
「だったらどうすりゃ良いんだよ!?今のお嬢にゃ近づくのも難しいんだぞ!」
ガルヴァスの支配から脱したデスカールが頭だけでバズズに指摘していた。イーリスがガルヴァスの体を粉砕した際にデスカールの頭だけはギリギリ残されていた様だ。それを考えればイーリスの意識は残っているのかと考えたが無意識にデスカールを助けたのかも知れんな。あの子はそう言う子だ。
「ふむ……イーリス様の呪文を無効化しつつ肉弾戦で完全に気絶させるしかあるまい。まあ、今のイーリス様の呪文を防ぐなぞ実質不可能だろうがな。あれは触れただけで体が一瞬で凍りつき砕かれるぞ。先程もガルヴァスがそうなったのを見ただろう?」
「火葬すんぞクソガイコツ!解決方法を教えろって言ってんだろうが!何で、絶望感増す情報しか寄越さないんだテメェ!」
「俺の鎧なら呪文は通じ……があっ!?」
「ライデイン!?イーリスはデイン系の呪文まで使えるのかよ!?だったらメラゾーマ!」
「ダメだ、イーリスには呪文が通じんぞ!」
一向に好転しない状況に苛つきが隠せずにデスカールの頭を持つ手とは反対の手でメラを構えて燃やそうとするバズズ。
ラーハルトの鎧ならばあの暴風雹を防げると考えたヒュンケルがイーリスに挑もうとしたが直後、イーリスが放ったライデインに迎撃された。魔法使いの少年が叫んだ様にイーリスはライデインを唱えた。イーリスは元々ライデインは使えなかったが今の覚醒した状態のイーリスはライデインを使える様になったのだろう。
近付けば雷。離れれば暴風雹。周囲にも影響を及ぼす広範囲呪文。遠距離から呪文を放ったとしても竜闘気で弾かれるだろう。事実、魔法使いの少年の放ったメラゾーマは暴風と竜闘気の二重の効果でかき消された。これは打つ手がない状況だな。
いや、打つ手はある。前例はないが竜の騎士が放っている攻撃や呪文ならば同じ竜の騎士ならば対抗出来る筈。だが今のディーノは役に立たんだろう。私と対峙していた時ならば闘志を沸き立たせていたディーノだがイーリスから伝わる慟哭に動揺して戦う気が削がれている。
ならば私がどうにかするしかあるまい。
今のイーリスを制圧するには……これしかないだろう。覚悟を決めた私は竜の牙に手を伸ばした。
◇◆sideバランend◆◇
◇◆sideキルバーン◆◇
新たな力に覚醒したイーリスの事は喜ばしいけど……僕にとってはどうかと言われればどうなんだろう……
「成る程……竜の騎士としての力が覚醒したか。それに伴い魔族の本能が刺激され、暴走しておる。バランも今のイーリスを止める為に伝説の竜魔人になろうとしているな……」
「…………っ」
バーン様は相変わらず指でトントンと肘掛けに穴を開け……って言うか穴を開けすぎて肘掛けが割れてるよ。あの椅子、新しく発注しないとだね。ミストはミストで貧乏ゆすりが止まらなくなってるし。それに……
「通してくださいマキシマム!イーリス様の所へ行かなければならないのですから!!」
「なりませぬぞ!バーン様からもアイナ殿を絶対に行かせるなと厳命されておるのですからな!」
謁見の間の窓から見える外ではアイナとマキシマムが騒がしかった。バーン様からの命令でイーリスの世話を終えたアイナはバーンパレスへと帰還させられていた。現地に居るとアイナは確実にイーリスの手助けをしてしまう。だから世話を終えたアイナを帰還させたのだけど……今のイーリスを見たアイナは即行でテラン王国に戻ろうとした。それをマキシマムが止めようと必死になっている。
「退かないと言うのなら……押し通ります!」
「我がボディを素手で殴ろうなど……ぐぼはっ!?」
キレたアイナにボコボコにされていくマキシマム。アイナのゲンコツって痛いんだよねぇ……あ、マキシマムの体に亀裂が入った。マキシマムの体ってオリハルコンだけどアイナは拳で砕き始めてる。やだ、怖いんだけど。
「さ、流石はバーン様に仕えてる歴が長い方は違いますな。まさか我がオリハルコンボディを砕こうとするとは……吾輩よりも歳が上な……ぐぎゃ!?」
「黙れ」
アイナに顔面を打ち抜かれて沈黙したマキシマム。アイナに歳の話題を振っちゃダメだよねぇ。
「……ミストバーン、キルバーン。アイナを止めてこい」
「………」
「え、ちょ、マジですか?」
マキシマムがやられたのを確信したバーン様はミストと僕にアイナを止める様に命令してきたけど……ミストとは即座に行動に出たけど僕はぶっちゃけ嫌だった。だって素手でオリハルコン砕く人をどう止めろってんですか?
僕はため息を溢しながらミストの後を追ってアイナを止める為に覚悟を決めた。