転生したら大魔王の娘だった   作:残月

9 / 72
当代の竜の騎士と会いました

 

 

建設中の鬼岩城にバーンと共に視察に行くと誘われて来たは良いのだが……予想外の人物が待ち構えていた。

とてつもなく……とてつもなく空気が重い。相対する男達から放たれる闘気と殺気。それらが混ざり合い、その場の空気を重くしていた。

 

 

バーンはなんと竜騎将バランを呼び出したのだ。いや、類を見ないほど貴重なシーンなのは分かるけど、凄まじく気まずい。

それと言うのも、バーンがバランに俺の事を説明した際に新たに様々な事が発覚した。

バーンはバランから研究に血液を譲り受けたと俺に説明していたが、実際にはバランが冥竜王ヴェルザーとの戦いの際に流れた血を勝手に採取していたらしい。戦いの場に居なくても、戦いの後に流れ落ちた血液を採取することなんて容易い事だったらしく、バランにとって俺と言う存在は寝耳に水。しかも、バランはまだ実子が死んだと思っているから、代わりに俺を宛がうつもりなのかと深読みしているみたいだ。

 

 

「バーン様……いや、この場には我等しか居ないのだから敬語は外させて貰うが、正気か?禁呪法で竜の騎士を生み出すとは……本来ならあり得ない事だ」

「余は正気だ。バランよ、そなたに黙っていた事は悪いとは思うが、これが現実だ」

 

 

やめて!会話が進む度に空気が重くなってくから!圧が増してるから!

 

 

「ふん……私の血液を勝手に採取した挙げ句、竜の騎士を複製するとはな」

「だが、一向に目覚めなかったが一年程前に目覚めたのだ。もう少し成長してからそなたにも会わせようと思っていたのだが……少々事情が変わってな」

 

 

バランの殺気が収まらないのをバーンも理解しているだろうが、バーンは俺の事を話し始めた。

 

俺が目覚めた時の事。俺の今の実力。先日、初戦闘の際に感じた高揚感の理由。魔族の側面が際立つとバーサーカーと化す事。早急に対処しないとマズイ事になりかねない事。

 

いや、待って。後半の話は俺も初耳なんですけど!?そんな事になってたの俺!?このままいくと『URYYY』みたいな感じになるの!?

 

 

「余としてはそうなる前に人格の確立をさせたいと思っているが、余や幹部が育てたのではやはり魔族寄りになってしまう。故に当代の竜の騎士である、そなたにイーリスを任せたいのだ」

「…………良いだろう。私としても竜の騎士が増えるのであれば心強いし、人間を滅ぼす戦力が増すのも反対する理由にはならん。だが、大魔王バーンよ、一つだけ言っておく」

 

 

バーンは意外にも俺の事を思ってバランに俺を任せるらしい。バランも苦虫を噛んだ表情になった後に口を開いた。

 

 

「これ以上は竜の騎士を禁呪法で増やそうとするな。それを守れないと言うのなら……」

「心配せずとも、これ以上は増えん……と言うか増やせんのだ。そなたの血を媒介にして生み出せたのはイーリスのみ。他は反応も起きずに血液のままだった。そのイーリスも目覚めたのは最近。つまりは偶然の産物に過ぎんのだ。余としても目覚める可能性の低い竜の騎士を増やすよりも計画している魔王軍六団長の方が期待が持てるのでな」

 

 

睨みを効かせるバランに、バーンはこれ以上は増えないと断言した。話は前にも聞いてはいたけど、やっぱ俺ってイレギュラーなんだな。それはそうと六団長って言えばハドラーが目覚めるまで後二年くらいか?

 

 

「死んだそなたの息子の代わりなどと言う気はないが……次代の竜の騎士候補として育ててくれぬか?」

「人間を滅ぼした後に竜の騎士の存在価値があれば良いがな。だが、イーリスの育て役。確かに拝命させて貰ったぞ」

 

 

いや、アンタの息子はデルムリン島で生きてるよ、と思わず言いそうになったのを堪えた。ここで余計な発言をしてストーリーを変える訳にはいかないからな。

それはそうと、これからはバランが先生か……

 

 

「私の名はバラン……当代の竜の騎士だ」

「イーリスです。ご面倒を掛けますが、お願いします」

 

 

自己紹介をされたので頭を下げながら応えた。するとバランは複雑そうな表情で俺を見ていた。そりゃそうか……さっき俺も思わず言いそうになったがバランは息子を失った悲しみを抱えたままなんだ。そんな中、禁呪法で、しかも勝手に血を使われて親族増やしましたなんて許せる事じゃないよな。それに俺はバーンを父上と呼ぶけど、血縁上の父親はバランな訳だし。暫くはバランに気を遣う日々が増えそうだな、こりゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideバラン◆◇

 

 

 

大魔王バーンに呼び出された私は、建設中の魔王軍の拠点に案内された。大魔王バーンが直々に私に話があると連絡してきたからだ。メイドの魔族に案内されて入った謁見の間で会ったのは大魔王バーンと見知らぬ魔族の少女。

 

メイドの魔族が下がると謁見の間には我々だけとなり、私はバーンと対等に話をさせて貰ったが……久し振りに頭に血が上るのが、自分自身で感じれた。大魔王バーンは無断で私の血液を用いて禁呪法で竜の騎士を生み出したらしい。基本的に禁呪法で生み出した生物は無機質な存在だけだが、大魔王バーンともなるとその法則を破る事が出来たのか。

しかし、その禁呪法で生み出された擬似的な竜の騎士であるイーリスは長年目覚めなかったが、一年程前に急に目覚めたらしい。本来ならハドラーが目覚め、六団長の集結の際に紹介するつもりだったらしいが、イーリスの魂が安定しないと言うのだ。それはそうだろう。竜の騎士は戦闘の記憶と歴史を次代の竜の騎士に受け継いでいくものだ。それらを受け継がずに竜の騎士が生まれれば魔族の本能が勝ると言うもの。しかも大魔王バーンの魔力で生み出されたとあれば尚更だ。

 

大魔王バーンは折角生み出した竜の騎士をバーサーカーにはしたくないらしく、私に指南を頼んできた。私に無断で勝手なことをしておきながら虫の良い話だ……とは思ったものの、ソアラを殺し、私からディーノを奪った人間を根絶やしにすると約束した大魔王バーンを信じるとしよう。約束を違えば私が敵になると大魔王バーンも重々承知の上だ。

 

 

「ならば、この鬼岩城を拠点にイーリスを鍛えてやってくれ。ハドラーは、あと一年程で目覚める筈だ。イーリスの世話係はアイナに任せる」

「え……あと、一年?」

 

 

大魔王バーンの発言に驚いているイーリスに、私は疑問を感じた。何故この娘はハドラーの目覚めをそんなに驚いているのだ?私は大魔王バーンからその話を伺っていたから疑問には思わなかったが、イーリスの驚き方は少々違って見えた。まるで自分の知っている知識とは違うと言わんばかりの表情だ。それをイーリスから聞き出すのも視野に入れながら鍛えてやるとするか。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。