紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Bとのデート/溢れて止まらない

 テーマパークに最後に行ったのはいつだろう。確か高校一年生の時にノリでワンドルで行ったのが最後だったか。ランスがやたらと女の子に話しかけに行ったり、アイスが無言でどこからか買ってきたスイーツくれたり、タイクーンがやけに興奮してパレードで手を振りまくったり、トーマが途中で当時から既に両片思いだったリサからの電話ににやけたり、バカ騒ぎしまくった男五人の楽しい小旅行だった。

 ──けど、今日はそんな何も考えずに楽しむことは、到底できなさそうだよね。なにせ相手が相手だから。

 

「おはようございます、カンベさん」

「お……おはよう」

 

 おいおいおいおい、おかしいな俺は20分前に来たはずなのに既にお相手様がいらっしゃるのですが。

 こちらの氷川紗夜さん。こんなんですけどビッチです。普段はキリっとしているんだけど、今日は妙に口許が緩んでる。どうやら相当楽しみだったらしい。

 

「ごめん、待たせた?」

「いえ……集合時間には早すぎるくらいですから、問題ありません」

 

 口調と仕草が全然一致してない。キリっとしてるのにずっとそわそわしてたし、今はすごく嬉しそうに俺の隣にやってきた。

 文化祭以前、あんなことがあったらしょうがないとは思うんだけど、紗夜さんは最近ただの乙女になってきてる。恋する乙女。

 きっと、以前のビッチ然として俺を誘惑していたのは、そうすることが自分と俺の距離感だという思いもあったんだろうな。

 久しぶりの二人きりだし、移動しながらしゃべることにする。

 

「白金さんとは、とても素敵なデートをしたようですね」

「素敵な……ステキな、ねぇ……」

 

 燐子さんとのデートは我慢してることが多くて家に帰って即……おっとなんでもありません。とにかく燐子さんの恋人のように、という条件は無事あれで達成できたらしい。

 そんな回想をしていると、紗夜さんは俺の腕を抱き込んで、肩の辺りに自分の唇をくっつけてきた。

 

「……私も、今日は」

「わかってます……そう言い出すんじゃないかって思ってたし」

「最近のカンベさんは……少し調子に乗ってます」

 

 いや乗らせてるのは紗夜さんや燐子さんだからね。

 そんな燐子さんとのデートに対して唇を尖らせたいのを俺の肩で必死に誤魔化してる紗夜さんとか、二人きりになった途端にすぐキスしてほしいですとか言っちゃう燐子さんのせいで俺は調子に乗っちゃうんだからね。

 

「乗るのは私です」

「は?」

「騎乗位、意外と人気ありますから」

 

 なんの話をしているんだろう? あれですね、惚れた弱味でマウントを取られるなら童貞相手に性知識でマウントを取ろうと、そういう浅はかな考えですね? やめてここ電車、電車内だから! 

 

「なにせジムのロデオで鍛えましたし、乗馬の経験もあるので」

 

 似合うー! ジムでトレーニングしてる姿も乗馬してるカッコいい紗夜さんも容易に想像できるくらいに似合うー! でも到達点が全く宇宙の方向なのはホントになんなんでしょうね! 

 

「恋人との猥談……電車内でムラムラが抑えきれなくて……はっ、今日はそういうプレイですか?」

 

 今日()ってなに? いつも何かしらのプレイをしているような発言はやめて、近くの部活に勤しもうと電車に乗ってる学生に聞こえるように言ったでしょ今。すごい顔してたからね今。

 

「さて、やはり定番はお尻からでしょうか」

「しません」

「えっ?」

「ええ……」

 

 なんでそう意外そうな顔ができるの? 大体燐子さんにも思ったけど紗夜さんは恋人というものをなんだと思ってるの?

 紗夜さんはコホン、と咳払いする。それでしたら、と紗夜さんは手を俺の股間にって待て待て待て待て待って! 

 

「待ちません」

「いやいや、そもそもしませんからね?」

 

 紗夜さんの細くてキレイな指を必死で抑え込む。何をしてるんですかあなたは。そんな残念そうな顔されても知らないんだけど。今からテーマパークに向かうデートなのに全てをすっ飛ばしてクライマックスになるのやめましょうよ。

 

「ガードが堅いですね」

「俺は好きなヒトとセックスがしたいんで」

「……そう、ですね」

 

 しかし、返した言葉に悲しい顔をされてしまい、しまったと思った。そうだ、少なくとも今日は俺は紗夜さんの恋人のつもりで挑まないといけないのに。

 反省して力が緩んだところで、紗夜さんはふふ、と笑った。笑いながら、抑えていた俺の手を自分の臀部に押し当てた。小ぶりできゅっと締まった……ってレビューしてる場合じゃない。しかも今日の紗夜さん、よりにもよってスカートだし、明らかに感触が下着しかないんだけど!? 

 

「……もんでも、撫でても、いいのよ? どうせですから、下着の中にもご案内しましょうか?」

「え、遠慮します……っ」

 

 久しぶりにこのモードの紗夜さんに出くわした。なんでそんなスイッチ入っちゃってるんですかね。と。そこで下着がずれて指が入っていく感覚がして、流石にまずいと俺は敢えて紗夜さんを抱き寄せた。おしりではなく腰に、そして背中に手を回してこれ以上触れないし触らせないように近づいた。

 

「これで……勘弁して」

「……やっぱり、最近のカンベさんは……調子に乗っています」

「そんなこと言われても」

「キスして」

 

 わお、唐突。紗夜さんはすっかり、俺からキスをするということに幸福感があるらしく何かある度にキスして、と言う。まだ背に何かを背負った制服の男の子がガン見してるから。今の状態でも結構、うわこいつら、みたいな顔されてるから。

 

「あとで……でお願いできますか?」

「ええ……いいわよ、今日中に一度、お願いしますね」

「りょーかい……」

 

 やっぱり俺は紗夜さんが苦手です。かわいいところあるし、同い年で演奏者としてめちゃくちゃ尊敬できるところあるけど、俺は紗夜さんのペースがどうにも苦手です。

 というかその約束したなら離れてもよくない? 

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ 

 

 

 

 

 

 テーマパークについた紗夜さんはさっきまでのセックスしたいモードは何処へ行ったのか、とため息をつきたくなった。

 いや実際にため息が出た。というかこのヒト誰ですか? 妹さんと入れ替わりのドッキリかと思った。

 

「カンベさん、次、次に行くわよ」

「えぇ……」

 

 すっごい元気。普段のクールな感じなんてどこへ行ったのかわからないくらいに笑顔で俺を振り回してくる。ああもう、こういう紗夜さんはギャップがありすぎて俺の心臓が持たないよ。

 

「ふふ、楽しいわね」

 

 ええ、かわいいわねこのヒト。なんなんですかあなたは。いやまぁめちゃくちゃ楽しそうで安心はしてるけど。

 そうじゃなくて、キャラ崩壊もいいとこすぎてコメントに困る。かわいいなぁくらいしか言いようがない。

 

「紗夜さんってさ……」

「ん?」

「なんでもない、ほっペにアイスついてますよ」

「あ……ふふ、恥ずかしいわ」

 

 いちいち仕草も口調も普段の紗夜さんからはかけ離れてる。

 でもここに行くのが純粋に楽しみだった、ってことなのかな。楽しみたくて、Roseliaも、妹も誰もいない中でこんな風にはじけてみたかったんだろうか。

 ──そう思うと、悪くはないよね。それに選ばれたのが俺なんだから、素直に喜んでおこう。

 

「次はどの絶叫に乗りましょうか?」

「絶叫縛りなんですか……」

「ジェットコースターが楽しいんです」

「よかった」

「カンベさんと一緒だから……もっと楽しいのかも、しれないわ」

 

 紗夜さんはずるいよ。そんなこと言われたらさ……俺だってくらりときちゃうわけですよ。いやほんとずるい。

 俺は、美鈴が好きなのに、好きなのにさ。その想いが揺れるわけじゃない。けど、そんな顔をされたら、微笑む紗夜さんを見たら、このヒトとこうやって純粋にデートに行ける相手のことが()()()()って思うじゃんか。

 

「紗夜さん……ごめん」

「──え」

 

 その世界が二人きりになる。

 道行く人がひゅうっと口笛を吹いた。そんなのも気にならないくらい、人目なんて関係ないくらいに俺は紗夜さんとのその一瞬の唇の触れ合いに全てを奪われた。俺からしたはずなのに、なのに。

 

「……カンベ、さん?」

「ごめん……ごめんね、紗夜さん」

「なぜ……泣くの?」

「だって……俺は」

 

 好きとか嫌いとか、もう俺にはわからなくなったよ。カノジョとか恋人とか、セフレとか、なんにもわかんなくなった。

 俺がしてることは、かつて紗夜さんのセフレがしたことと何が違うんだろう。いくら紗夜さんの気持ちの有無があったとしても、恋人になるつもりもないのに、紗夜さんの唇を奪って、手を繋いで、今日だってそもそもチケットとかは紗夜さん持ちだ。それって、不純じゃないのかな。

 

「……わかんなくなっちゃった」

「どうしたの?」

「俺……燐子さんともキス、してるんですよ」

「……ええ」

「カップルシートで、身体をくっつけ合って……たぶんそれを見て俺と燐子さんの関係を疑うヒトいなかったと思います」

「そう、でしょうね」

 

 でも俺と燐子さんの関係は恋人でもなんでもない。なのにあんな恋人()()()をして、満足そうな燐子さんを送って最後にまたキスをして別れた。付き合うつもりもないのに、そのすぐあとに、同じようなことを紗夜さんとも。

 ──それでいいわけがない。俺の言葉と、やってることはめちゃくちゃだ。最低だよ。

 

「カンベさん……」

「ごめん……俺、自己嫌悪でどうにかなりそう」

「優しいのね……」

 

 優しいなんて場違いでふわっとした言い方、しないでほしい。

 俺が優しいなんてありえないでしょ。だって、俺はこうやって思い出を更新し続けて縛り付けてるだけなのに。

 

「謝るのは私の方よ……傷つけてしまって、ごめんなさい」

「そんなこと……嬉しいよ、紗夜さんの気持ち、めちゃくちゃ嬉しい」

 

 それは本心だ。自慢したいくらいに嬉しいし、なんならタイクーンには自慢してるくらいだよ。

 だけど、俺がこうやって返してあげられないだけなんだ。縛り付けることでしか、返すことができないって状況が、俺は嫌いだし、紗夜さんが誘ってきたときになによりも苦手だと、困ったと感じた理由も、きっと近いところにあるんだと思う。

 

「こんな風なのに、美鈴が好き……だなんて、言っていいんでしょうか」

 

 ああもう、限界だ。燐子さんには吐き出せなかった。けど、紗夜さんにはどうしても止められない。

 溢れて止まらない。溢れて止まない。それは美鈴が好きって想いと同じくらい強い真実が、紗夜さんにはあるからだった。吐き気がするほどの真実が。

 

「──好きです。美鈴もそうですけど……燐子さんが、好きです。紗夜さんが、好きなんです……」

 

 やっぱり、俺は最低な童貞クソ野郎だ。

 向けられたハジメテの好意にあっちへふらふら、こっちへふらふらした挙句、ハジメテの相手も見分けられない、蝙蝠なんだから。

 

 

 

 

 

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