紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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伸ばした腕をFに/救出作戦

「燐子さん」

「……カンベ、さん?」

 

 それから数日経ち、俺は燐子さんに声を掛けた。あれほど俺と一緒に通えるのが楽しみと言っていたのに、燐子さんは最初の一週以降、ほとんど一緒に通うどころか一緒に過ごすことがないくらいになってしまった。

 だから探すのにも苦労した。やっと見つけた燐子さんは一人で黙々とご飯を食べているところで、俺はその向かい側に座ってみる。なんて切り出せばいいんだろうか。なんでこういう時ばっかりは紗夜の信頼度が高いんだ。頑張ってきてくださいってなんだそれ、紗夜も来てよ。

 

「ひ、久しぶり、だよね」

「……はい」

「うん……」

 

 ──会話が終了しました。あれ、なんでこんなに気まずい、というか会話が続かない? なんか燐子さん戻ってる気がするんだけど? そう思いながら下を泳いでいる合わない視線に向かって話を続けていく。

 

「あのさ……燐子さん」

「はい……」

「最近、あんまり話せなかったからさ」

「……そう、ですね」

 

 壁を感じる。まるでベルさんという本性を隠してた昔の燐子さんだ。それでも俺はめげずに話しかけようとする。正直紗夜に助けてほしいところでもあるけど助けに来てくれないだろうなと、孤軍奮闘していた時に、俺はソイツに出逢った。

 

「白金さん……って、あれ? 誰キミ」

「どうも」

「白金さん」

「……彼は、知り合い……です」

 

 誰はコッチのセリフなんだけどおいおい、ってならなかったのはひとえにその男を見たことがあったからだった。この間見かけたやつ。燐子さんに似た相手と一緒にホテル方面へ消えたのは間違いなくコイツだった。

 

「そう」

「そうなんだよー、俺は赤坂陽太って言うんだ」

「おう」

 

 なんか警戒されてるけど俺は敵対するつもりはないよ全く、これぽっちもね。俺は基本的に誰とでも仲良くがスタンスだから。そりゃあ俺のことを苦手にしてるだろう人は何人かいたけど、俺は機会があればソイツらとも仲良くしたかったくらいなんだから。

 だがしかし、確定してしまった情報をどうしようか悩んでいると、電話がかかってきた。紗夜からだ。

 

「ごめん……出ていい?」

「はい、どうぞ……」

 

 困惑した様子の燐子さんに許可をもらって電話に出る。ここでカノジョがいるっぽい雰囲気を出せば流石に相手の警戒も薄れるだろうといつものノリでどしたの? と電話をした。その返しは見えていますから状況を、とのことだった。どっから見てるんですかストーカーさん。

 

「ああ、うん今ね、燐子さんに会って話をしてたんだ」

「……氷川さん、ですか……お相手は」

「うんそうなんだ……ん、ああでもさ、そしたらお邪魔だったみたいでさ、うん、うん今どこ?」

 

 会話で、現状を伝えていくと、どうやら伝わったみたい。紗夜はそう、ときっと顔を顰めているような声を出した。

 ──それにしても、紗夜の考えてることは正しかったみたい。燐子さんは、いわばツケを払わされている状態なんじゃないだろうか。それは過去のツケ。自分の変わりたいという欲がいつの間にか泥沼のようになってしまったというツケ。それによって燐子さんはまた殻を閉ざしてしまっているんじゃないだろうか。

 

「……カンベさん」

「ん、それじゃあ燐子さん、()()()

「……え?」

 

 取り敢えず今のところは撤退だよ。偵察みたいなもんだし、何より紗夜の判断を俺は信じてるから。

 またね、ってことはまた来るってこと。本当はあんまりこういう自信たっぷりな言葉は使えない俺だけど、燐子さんを変えたのは俺なんだ。だから俺は、燐子さんを変えたって責任は取る。無責任に過去を詰るようなやり方じゃなくて、今、紗夜が笑ってくれているような前に進むやり方で。こういう時くらいはカッコつけてもバチは当たらないよ、って花音さんも言ってくれたしね。

 

「あ、そうだ燐子さん」

「なん、でしょう……?」

「訊きたいことがあってさ」

「は、はい……?」

 

 なんだか男の方がイライラしだした。燐子さんはゆっくりペースが好きなんだって知らないなんてかわいそうに。会話もセックスも、あんまりガッツかれちゃうと疲れるんだって俺は知ってる。体験したことはないけど。

 だから俺は燐子さんのペースに任せてゆっくりと言葉を選んでいく。因みに言葉選びはド下手くそすぎて花音さんにホンットカンベくんってヘタクソな童貞くん♡ なんだねって言われた。悪意のある言い方だった。

 

「去年の文化祭手伝いで言ってたことあるじゃん? 俺がフラれた先の話をした時のこと」

「……はい、まだ、覚えて……ます」

 

 よしよし、何せFは揺れる、でのできごと……はて、今変なことを口走ったな。

 ええっと去年の秋口に入る頃の話だから覚えてないかと思ったけど、燐子さんが記憶力よくて助かった。

 

「あの時に教えてくれたこと、まだ俺だけ?」

「……あ」

 

 そうそう、ちゃんと気付いてくれる。燐子さんは俺にだけ教えてくれることが多すぎるから、その辺の確認作業が楽だって、これは紗夜の入れ知恵だけど、どうやら燐子さんもその意図に気づいたっぽい。

 

「……はい、ずっと」

「あ……なんかごめん」

「いえ」

 

 ──ただし訂正が怖かった。まだ俺だけじゃなくてずっと俺だけね、了解。それが訊ければいい。それが俺にとっての燐子さんからのSOSとして捉えられるから。同時に燐子さんが少し前の調子に戻ったことも大きな成果だ。

 

「それじゃあ、今度は紗夜も一緒で、そうだないつものところで」

「……待ってます」

「たぶん俺たちのが早くなるかな、またね」

 

 そう言って俺は燐子さんから離れていった。正直なところは今すぐにでも燐子さんを奪還して逃げ帰りたいところではあるが、紗夜がもっと慎重にと言うから。ああでもここで背を向けるのなんか燐子さんを置いて行くみたいで胸糞悪いなーと思っていたら、カンベさんと燐子さんに呼び止められ、振り返った。

 視界が燐子さんでいっぱいになって、俺は反射的に手を出して彼女を受け止めることに成功した。えっと、結構周りに人がいるんで目立っちゃってるし男の方が唖然とした顔してるんですけど。

 

「──なに、やって……?」

「助けて……ください」

「燐子さん……」

「一緒に逃げて、ください……」

 

 ──わたしの王子様。

 そんなことを耳元で呟かれた。なんか燐子さんの妙なスイッチが入ったみたいだと考えながら、後に引くわけにもいかずに手を取って取り敢えず入学前に燐子さんが送ってくれた人気のないところリストで近いところを選んでいく。役に立って嬉しいような、あいやでもやっぱり複雑だ。

 

「はぁ……ここまでくれば大丈夫でしょ」

「……カンベさん」

「え、えっと……んぐっ!?」

 

 漸く辿り着いた先にはピアノの自主レッスン室だった。そこで一息ついた瞬間に首に腕を回され、俺は燐子さんの熱烈な愛情を受け取ることになった。いや押し売りでしょうとツッコミを入れる暇もないくらいに舌が入ってくるんだけど。ぎゅうっと肢体を押し付けられ、燐子さんはキスの合間に俺の耳にひたすら好きを連呼してくる。

 ま、前々から思ってたけど、燐子さんの好きはなんだか激しいよね! 紗夜の好きはもっと、なんだろう……涼しい風と鈴虫の声を聞きながら月を見上げてるような好きだけど、燐子さんは真夏の太陽の下で大合唱をするアブラゼミな感じ。七日間しか生きられない中、恋をしているみたいな、熱を感じるよ。

 

「はっ、はっ……ちょ、りん、こさん……すとっぷ、すとっぷってば……」

「止めないで……ください。もっと、もっと……わたしを見て、わたしを……愛して」

「……これは、一体……?」

「何やってんのよーた。心配してきたのに?」

 

 なんで紗夜は困惑でとどまってるのにリサが怒ってるのかわかんないけど、取り敢えず助かった。Roselia四人と一緒、ということはトーマとタイクーンも一緒なんだってことは察しがつく。流石紗夜、ちゃんと頼れるメンツを素早く呼んでくるなんて俺は増々紗夜のことが好きになりそうだ。

 

「なんとなく予想はできましたが……一応、ことのあらましを説明してください」

「あ、えっと……それは」

「……ごめん、なさい……!」

 

 俺が説明しようとしたら唐突に、燐子さんが頭を下げた。え、なんのこと、と俺だけでなく全員が頭の上に疑問符を浮かべた。

 えっと、なんで燐子さんが謝罪してるんだ?

 

「……え?」

「え、はこっちのセリフよ、白金さん」

「あの……わたしに、怒ってるんじゃないん……ですか?」

 

 これまた全員が頭の上に疑問符を浮かべた。なんで? 燐子さんに対して怒るようなことなにもないんだけど。

 そう思いながらも俺たちは燐子さんのことをじっと見つめていた。

 

 

 

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