紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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迫りくるF/猛獣と猛獣使いの悩み

 高校の時、ビッチになんて絶対負けないもん! と息巻いていたのが昔に思える。ハジメテを見事その負けたくなかった紗夜(ビッチ)で捨ててしまった俺だけど、紗夜が言う通り俺に何か劇的に変化したわけじゃなかった。

 

「セックスしましょう」

「やだ」

「なぜ?」

「毎日はしないよ? 腰が痛くなるって言ったの紗夜でしょ?」

「そんな!」

「なんでそこで驚きの表情ができるんだよ……俺がそんなって言いたい」

 

 休日の会話はこんな感じ。俺の家で紗夜が俺の頭を膝に置きながらそんな風に抗議してくる。のんびりさせて、俺はそんな毎日ヤりまくり、みたいな爛れたカップルにはなりたくないし、そもそも疲れるからやだよ。

 

「……別にいいじゃない」

「よくない」

「すぐ……これだから童貞は」

 

 もう童貞じゃないんだけど、と言いたいがだったらセックスしましょうと言われるに決まってるから黙っておく。

 俺が理想の性生活を築こうと努力してるのに、紗夜はそれがよっぽど不満らしい。

 

「爛れるとかそういうのはないわよ。ちゃんとお付き合いしてるじゃない」

「いいや、紗夜は絶対にそのうちハードル下げて大学でシたがるからダメ」

「……いいじゃない」

 

 よくないからね。それがバレたら俺は脳内ピンクのモンキーみたいな扱い受けるじゃん。節度と適度、これが重要だってネットで見ました。

 付き合ったからいつでもどこでも合体じゃ長続きしないんだって、みんなも気を付けよう。

 

「陽太」

「……うぐ、その顔は反則では?」

 

 うるうる目を潤ませてもダメです。ダメったらダメ、迫ってこないで。

 さっきまで穏やかな時間を紗夜の膝で過ごせていたのにいきなり肉食獣の餌になりそうな予感がした。

 

「陽太」

「あのさ、名前呼べばいいと思ってるでしょ」

「ダメ?」

「ダメ」

 

 むしろなんでいいと思ったんだ。

 みんなの前ではカンベさん、のままなのに二人きりになると途端に名前で呼ぶようになった。それはそれでなんだか嬉しい感じがあるけど、だからって安易にシないですからね。やっぱりそういうハードルは下げちゃダメだと思う。

 

「けち」

「なんとでも」

「不能」

「おいこら待て」

 

 そっぽを向かれながらそんなことを言われるとさすがにムカっとする。誰が不能だ誰が。全然そんなことなかったでしょう、と紗夜の肩をつかむといつの間にか、唇が塞がれていた。艶めかしい紗夜の吐息が混じって唾液も混じる熱烈なディープキス。覆いかぶさってくる胸元からは、紺色で花があしらわれたブラジャーがチラリと見えた。

 

「……不能」

「違うって」

「じゃあ……ん、確かめさせて」

 

 そのまま紗夜は俺の股間にするすると手を伸ばしてきて、俺は抵抗できずに結局されるがままだった。

 もちろん紗夜が確かめるだけで終わるはずもなく、スカートを脱ぎ捨てて。

 

「──待って」

「なに?」

「なにって、惚気聞かせるためにアタシを呼んだの?」

「愚痴だよ」

「どこが!? アンタ頭おかしくなったの?」

 

 失礼な。俺は愚痴を聞いてほしいってお前を呼び出したんだから、内容は愚痴に決まってるでしょうが。

 幼馴染サマのなんちゃってギャルさん、もとい今井リサは俺の部屋のベッドに寝転がりながらふんふんスマホを触って聞いていたが、急に興奮しだした。いや、リサもそこで食いつくなんて、と言ったら枕を投げられた。おいそれ俺の。

 

「死ね」

「なんてストレートな罵倒」

「愚痴じゃないじゃん?」

「愚痴だよ」

 

 なんで愚痴じゃないと思うのか不思議でしょうがない。結局そのまま俺、二回もシたんだよ? やらないって散々言ってるのに全然聞いてくれないあの性欲まっすぐなビッチに対してなんとかしてほしいから俺はリサに聞いてもらってるんだけど。

 

「……はぁ」

「なんでため息つくのさ」

「まーだ、そんなドーテーみたいなことゆってんの?」

「紗夜みたいなことを」

 

 だってそーでしょー? と呆れ混じりに言われてしまう。俺は全然わかんないんだけど。あと俺のベッドからそろそろ降りてほしい。ここお前んちじゃないんだけど。

 あれですね、リサは俺に対していっつも横柄な態度取るよな。トーマには愛されてんだろと冗談交じりに返された。その愛はお前になすりつけていいんじゃなかろうか。

 

「よーたは、いつもいつも、自分より長いもののことをわかってないよね」

「長いもの?」

「そ、アタシもそうだし、紗夜も、この間の燐子のことだってそうじゃん」

「……それって」

 

 俺はどれだけ紗夜を待たせてきたんだってこと、だろうか。俺は俺で紗夜が単純にセックスにまた溺れてほしくない一心で自制してほしいって願ってるんだけど。

 だってそうでしょ? 紗夜はそれで一回痛い傷を負ってる。だから、紗夜はビッチになっちゃったんだから。

 

「それ、紗夜に知られたら、怒られるからね~?」

「なんで」

「いらない気を遣いすぎ。紗夜はそんなことよりももっと、よーたが欲しいんだよ」

「……それは」

「ただキモチイから、とかじゃなくて、よーただけを受け入れたいってことだからさ」

 

 ま、ドーテーにはわからないカモ? と煽られるとムカっとする。もう童貞じゃないのに! と思うけど、やっぱり俺は童貞な気がする。なにせムカっとしちゃうからな! 悔しいことに! 

 

「それで~? モテるだけのドーテーくんは他になんの悩みがあるのかな~?」

「……なんで知ってるの」

 

 まだなんにも言ってないのに見抜かれてた。なんでさ、と思ったけど俺がリサを頼るなんてよっぽどのことか本当にクソほどにくだらないかの二択なので、前者だと思われたらしい。いやまぁ合ってるんだけどね。

 

「実は──ひっ」

 

 ここでまさかの電話がかかってきた。この着信音に設定してるのは……あれだよ。

 ──Fサイズの二番目に甘んじてる方のビッチさんのだ。そして今まさに幼馴染に相談をしようとした相手でもあった。出なよ、と言われて俺は少しだけ上ずった声でもしもし、と電話に出た。

 

「あ……カンベさん♪」

「り、燐子さん……」

 

 最近ね。燐子さんからひっきりなしに連絡が来るの。困ってるの。助けてほしいの。そう相談しようと思った矢先にこれだ。

 燐子さんは特に用事はなくても、誘いをかけてくる。何ってもちろん童貞が羨ましがるアレである。セックスね。

 

「今……家にいます、よね……?」

「そうだけどなんで知ってるの?」

「……うふふ」

 

 いやうふふじゃないですけど。なんで知ってるの? って訊いたんだからなんで知ってるのか教えてねめっちゃ怖いから。紗夜といい燐子さんといいストーカー化するのだけはやめてほしいところである。俺はもう逃げないから、ストーカーになるんじゃなくて堂々とどこにいるのか訊いてほしいよ。ちゃんと答えるから。

 

「……なんの、衣装がいいですか?」

「うーん、コスプレ前提で来ないで、というかうちでセックスはしません」

「氷川さんとはシてるくせに……ですか?」

 

 ──そう。そうなんだよ。リサに泣いて縋りたいくらいの現象がこれ。怖い、怖いんだよ燐子さんが。なんか焦ってる、というよりは待ちわびてると言った方が正しい。そんなことを言ってるとリサが溜息をついて寝がえりを打って、待ってるんだよ、シてあげれば~? と言い放った。

 

「無責任では?」

「……責任は、取ります」

「あ、ごめん燐子さんじゃない」

「……どこの、女……ですか?」

 

 あなたのバンドのベーシストです。それをどこの女って、キャラ迷子ですよ燐子さん。キャラ作りはオフパコ中にしかしたことないって言ってなかった? 

 スピーカーにしていたので聞こえていたリサも流石にその発言には顔を引き攣らせていた。紗夜じゃないとわかった瞬間にこれだもんな。

 

「アタシなんですケド~?」

「……今井さん。浮気、ですか……?」

「違うって」

「……むぅ」

「疑うならおいでよ燐子」

 

 ちょっと待ておいこらそこの寄せてあげてトーマ相手に勝負に出ることに命を懸けてたCサイズのなんちゃってギャル。お前なんてこと言ってんだと怒ったらアンタ誰に口利いてんのと低い声で怒られた。ごめんなさい、というか俺の幼馴染怖すぎでは? 

 

「……イキ、間違えた、行きます」

 

 何を間違えたのか小一時間問い詰めたい。

 そうして電話が切れたタイミングで、リサはとっとと荷物を纏めだした。と言っても家めちゃくちゃ近いから貴重品だけだけど。じゃなくて、置いてくの? ねぇ? こんないたいけな童貞をあんな肉食系ビッチの前に放置するってもうそれって見殺しにするのに等しいよ? 俺死んじゃうからね? そうしたら恨むからね? だからいて、ここにいてくださいマジで俺まだ死にたくない、死にたくない! 

 

「どーせアタシは見栄張って寄せてあげて見た目がDですよ、ばーか、死ね」

「ひど! 謝るから!」

「吐いた暴言は元には戻らない」

 

 覆水盆に返らず、ということらしい。はい、俺は見捨てられた。

 これは紗夜の時以上に史上最大のピンチがやってきていた。相手は暴走気味のFサイズビッチ。暴走度合いも性欲も正直他のビッチとは一線を画している気がするその見た目はお淑やかおっとり系黒髪清楚巨乳お嬢様は、とてもにこやかで晴れやかすこやかな顔して玄関の前に立っていた。

 

「……カンベさん……会いたかった、です……」

「い、いらっしゃい……」

 

 ──それは紗夜とセックスをしてからほんの一週間二週間したくらいの頃だった。

 いつものゴシックでかわいらしい服装の白金燐子さんが、俺の家に遊びに来た。なんの用事もないのにウチに来るのはそれが初めてのことだったと記憶してる。

 そしてそれによって予想される結末の前に、俺は紗夜に連絡をしておくのだった。返事はどうせ優しくしてあげるのよ、くらいなもんだろうけどね! 

 

 

 

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