俺のカノジョは最強だと思う。惚気てごめんだけど、至極真面目な顔でそんなことが言えてしまうくらいに、俺のカノジョ……え? どっちのこと?
そりゃもちろん、Bサイズからクラスアップしちゃったビッチさんのことだよ。というかどっちとか思うのやめて、俺もおかしいって思ってるんだから。今日はそんな話をバカ正直に紗夜にした時の話を聞いてもらいたい。
「私が最強……?」
「うん、俺はそう思うなって話」
「そもそも他にお付き合いした経験もない童貞がよく吠えるわね」
は? なんだこいつ。その童貞はあなたに一年狙われ続けついにぱっくんされちゃったんですけど。そんな風に文句を言ったらポテトを口に絶えず運びながらこのクールビューティーなファッキンビッチはいつも通りの無表情で毒を吐き出した。
「私はカンベさんのセックスに不満があるわ」
「うん、ここ公共の場なんだけど」
「最初は経験がないからと我慢していたけれど、ハジメテから一ヶ月、そろそろお互いの気持ちいセックスのために話し合うべきだと思うの」
「じゃあとりあえず俺の話聞こう?」
相も変わらず食事中に公共の場で他の人が苦い顔をするような下ネタぶっ放すよね。
でもまぁこれ系の指摘は効果ないし、とりあえず話を進めることにする。そもそも、と厳しい表情をする紗夜。ツンとデレの差が激しい。
「私は激しいのが好みなの」
「え、まだ?」
「カンベさんは気を遣いすぎなのよいちいち止まったり、痛くない? と何度も訊くのは冷めてしまうの」
──と、まるで※個人の感想です。すべての女性が同じというわけではありません、と右下にテロップが出そうなことを言ってくる。俺まだ経験浅いからよくわかってないんだけど、燐子は前にチラっと聞いた時に優しいからきゅんきゅんします的なこと言ってたよ。
「は?」
「なんでキレたの?」
「そういうところが童貞なのよね……はぁ」
うざ、なにこいつ今日いつもより三割増しでうざくない? 童貞食っといてカレシを童貞呼ばわりな方が不満あるんですけど。嫉妬! 嫉妬なんですか! とでも叫べばいい? 発狂して八割体力持ってかれればいいの?
「白金さんと私では感じ方が違うことくらい、わかってほしいわ」
「感じ方って、弱いところとか、ってこと」
「性感帯ね」
「あのね、ここ公共の場だから一応オブラートに包んだつもりなんだけど」
なんでわざわざオブラート剥がすの? そのまま咀嚼してくれます? 知ってる? オブラートって口の中で溶けるんだよ? 味はそれほどよいわけじゃないけど昔のお菓子の包み紙にあった時は面白くてめちゃ食っちゃうよね。
──じゃなくて、話を戻すと性感帯の違いは確かにあると思う。燐子の方が微妙にフェチズムを刺激する箇所が多い気がする。耳とか、脚とか舌とか。紗夜は王道だよね。
「わかってるなら何故違うセックスができないの?」
「ええ……」
無茶言うね。俺はそもそもセックスするだけで手いっぱいなんだけど、紗夜も知ってると思うけど前戯とか割とそっち任せなところあるからね。
あと行為の好き嫌いはわかるけど。一番大きなのはフェ……じゃなくて口でシてくれる時。燐子は割と好きらしくて一回目と二回目の合間によくする。紗夜はほとんどしない。
「……私だって」
「ん?」
「さっきから白金さん白金さんって、私の方がハジメテなのに」
いつの間にか紗夜は拗ねてしまっていた。最強なのにいじいじとしてるし、恋する乙女になると本当に弱くなるよね。それは俺だけの特権なのかなって思うとちょっときゅんとしてしまうというのが最強たる所以だけど。ヤキモチ妬かなくても、燐子もそうだけど、俺は紗夜が好きだからこうして一緒にいるし、紗夜のことを大切に想ってるからさ。
「でも……私は、白金さんより……気持ちよくないのでしょう?」
「そんなこと言ってないよ、比べることすらおかしいでしょ。どっちもいいよ」
「そんな決められない優柔不断クソ童貞みたいなこと言うのね」
「……は? は?」
キレちまったよおい。表出ろやこのファッションビッチ!
誰が優柔不断クソ童貞みたいなこと言ってるだよ! 優柔不断じゃなくて、マジで比べるとかわかんないの! そんなことを叫ぶとそろそろ出禁になりかねないので、黙っておこう。
「俺は二人と付き合ったんだけど」
「そうよね」
「……比べていいの?」
「いけないことよ」
「ほら」
「比べていたじゃない、フェラの頻度とか性感帯とか」
比べてる……のか? 確かに対比してるって意味だと比べてたのか。それなのにどっちも気持ちいよ、なんて言うから紗夜が拗ねるってことね。
そういうことなら、ううん、なんて言ったらいいんだろうか。ありのまま言うしかないな。俺は童貞で、女性経験もほとんどない、そんな男だし。
「正直ね、燐子の方が反応いいよなーって考えてた」
「……そう」
「すげー性欲強いみたいでずーっとほしがってくるし、蕩けた顔で何回も名前呼ばれるとめちゃくちゃ好きって気持ちが溢れて、ああ、これが溺れるくらいなんだなって感じるくらいなんだ」
燐子は愛されることに飢えてた。いつもあのオフパコレイヤーベルさんとヤれるっていう身体目的とコスプレでキャラを投影したセックスばっかりで、白金燐子という人格はこれまで無視されてきた。
だから白金燐子を愛してる俺は、燐子にとってずっとほしかったものなんだ。だから二番目でもいいからってこうして紗夜がいても、傍にいてくれる。そういう存在。
「でも紗夜の反応はね、かわいいんだ」
「え?」
「求めてくる時も、全部声が甘くて熱くて、いつもクールな紗夜のそういう一面が出てるのかなって思うくらい」
「……そう、なのね」
それは、俺が紗夜にとって安心できる居場所だかという証拠だ。自分を偽らなくていい、ってのは燐子と同じだけど、何も気にせずに、罪悪感も、お金とかそういう対価もなく、ただ純粋に人を好きになって、好きだという事実を胸に抱いて裸になる。そういうのが紗夜には幸せなんだ。
「ごめんね、紗夜。あんまりがっついちゃうとさ、もしかしたら嫌な思い出でも思い出しちゃうのかなって思って」
「……カンベさん」
紗夜がなんで激しいの好きか、ちょっと花音さんや燐子と話し合ってた時があったんだよ。ちょっと気になってね。そうすると二人とも同じ答えだったんだ。
──そうすることでしか、従順でいなければいけない状態だったから。借金という負い目、必要とされなければ捨てられるという恐怖。そんな鎖に縛られていたアトなんじゃないかって。
「バカね……そんなの、全部陽太が癒してくれたに決まってるじゃない」
「自信あるわけないじゃん。だって俺だよ?」
「そうね、気の回らない童貞にそんな自信あるわけなかったわね」
「そうそう」
「なら……今日は激しくシて、くれるわよね?」
とろんと、それまでの無表情はどこにいったんだろうと思うくらいドキっとする微笑みを浮かべてきた。
囁くように、甘く高い声で、紗夜は俺を誘う体制に入っていた。紗夜の惜しげもなく晒された生足が俺の足をサンドしてすりすりとさすってくる。手も、腕をずっと触られてる。露骨に誘ってくるね、と思ったらヒールを脱ぎだして、急に……って待ってそこはまずいよ!
「……っ、ふふ、準備万端、なのね?」
「そりゃあね……童貞はちょっと女の子に誘われたら期待しますよ」
「じゃあ期待に応えて、私もイキたい気分よ」
今日は少し遠いところまで行きましょうかと、紗夜が立ち上がった。
なんで急に遠いところ? と訊ねると紗夜は少しだけ考えるような仕草をしてから、時計を見せて、まだ昼じゃないと言った。
「ここ……ポテトが頼めるのよ」
「……うわ」
「なにかしら?」
「ナンデモナイデス」
ほらね、今日も紗夜はこうしてかわいいし、カッコいいところもあって、それでもやっぱり甘えてくるときも、気持ちいとつい爪を立てるところも、無駄に脱ぐし脱がしたがるところも、やたらとキスをせがむところも、全部が紗夜なんだよ。
──ちなみに激しくした結果は言いません。紗夜は実は燐子よりМなんじゃないかな~なんて思ってません。ええ断じて。