「ねえカンベくん、ゴムは付けたい派? 付けられたい派?」
「は?」
なんだこの頭悪い会話からスタートするの……ん、毎回か。毎回ですね本当にありがとうございました。
というわけで、大学で紗夜を待ちがてらラウンジにいたら水色髪のヤベービッチに補足されたんだけど。いやいや、向かいに座って言うことがそれ? そろそろワンパターンですって星1評価つけられる展開だよ。
そんな毎度毎度の下ネタスタートだけど、スルーしても追いかけてくるのでテキトーにあしらうことにしよう。
「別にどっちでもいいよ」
「じゃあ、実際にはどっち?」
わーんこのお姉さん怖すぎじゃない? 絶対に何があっても答えさせるつもりなので諦めて考えることにする。
ええっと、燐子はいつの間にかつけてる。口で。絶対口でつけてくる。ていうかあの子は人の指舐めるし、キスしたがるしで、口内なんだと思ってるんだろうって思う時がある。
紗夜は……あ、まちまちだ。俺からの時は俺だし、紗夜からの時は紗夜って感じで。
「燐子ちゃんのそれはちょっと気になるけど……じゃあカンベくんはそれが嬉しい? 興奮する?」
「興奮というか……俺なにも知識なかったからさ」
だってほら、AVとかだとあんまりゴムを付ける描写ってないじゃない? それこそ燐子がするみたいな口で、とかならあるけど。だから燐子以外はどれが特殊でどれが一般的かなんて俺は知らないんだよ。
「ふーん……調教されてるねえ」
「言い方おかしいでしょ」
「ところで私が送ったやつ、ちゃんと使ってる?」
「消してます」
あんな卑猥な画像や動画、しかも花音さん自身が被写体とかいうのを送ってくるのはやめてほしいです。あの拗ねた一週間が終わったと思ったら急に今週はやたらと送りつけてきて。固定されたおもちゃに跨ってるやつとか、口でするのとか、しかもやたらと喘ぐからホントに最悪です。
「ちゃんと見てるんだ、ふふ……むっつりさんだなあ」
そりゃあ、ちょっとは……中身、見ますけど。すぐ消すから。だってこのデータが俺のスマホに残ってるってことは下手をすると燐子や紗夜にも見られるわけで。そうなった場合あの二人は嫉妬で襲ってくるから大変なんだよね。
「……そういえば、花音さんって案外そういうシチュエーション、所謂イチャラブが多いよね」
「ちゃんと聞いてくれてるんだ」
「ちょっとだけだって」
上原さんや、途中でやってきた宇田川さん……あこちゃんと被るな、巴さんから収集した情報によると花音さんはやっぱり童貞食いをしてるらしく、新人男子の何人かは花音さんのお世話になってるらしい。やっぱビッチじゃん。
そう聞くと、余計に送られてくる動画とか疑問なんだよね。花音さん、基本的に受け身なこと言ってる。もっとちょうだいとか、そこだめとか。基本上じゃなくて下なんだよね。
「言うようになったね、カンベくんも」
「実物を散々聞くようになったので、そこは流石に」
無感情に放っただけで興奮するほどじゃないよ。燐子も紗夜も経験上、男が興奮する喘ぎを熟知してるから。その点で言うならたぶん花音さんもそうなんだけど、そこでやっぱり疑問なんだよね。
「絶対、初めての相手に使う声じゃないよね?」
「ふふ、そっかそっか」
紗夜の女性経験値を伸ばす極意その一、小さな変化に気づき声に出せ。
気付いてもらうということは想いを通じ合わせる上で必要不可欠なこと。小さなことに気を回せるかどうかが、女性経験では大事になる。
純粋な疑問だったけど、花音さんとしてはそれは、気付いてほしいことだったらしい。
「推理はしてくれた?」
「んーっと、ヒントは?」
「前に同じようなこと言ったかなあ、なんで俺なのって訊いた時に」
えーっとそれって去年の水族館の話だっけ。セフレと結構仲良かった花音さんに対して、じゃあなんでセフレを誘わなかったの? って訊いた。それに対する答えは、セフレはセックスをする相手で、デートをする相手じゃないから。だった気がする。
「……俺、だから?」
「せいかい。カンベくんとは、甘く一晩蕩けちゃうようなセックスがしたいから、その願望かな?」
「俺、三人相手にするのはキツいんですけど」
「……そっかあ」
花音さんの反応を見て、俺は自分が放った言葉の意味を改めて知って、おかしな話だけど自分で驚いてしまった。
まぁ、そうだよね。俺ってあんまりもう花音さんのことビッチだのなんだのって拒絶できない状況だからね。その上で、花音さんって人間に触れて……まだ触れ合ってないけど、人間性に触れて、こうして向き合って話して、悪くない印象を持つんだから。
「でも安心してカンベくん、私の生理周期は二人ともと被ってないから」
「なんで二人の周期知ってるの?」
素早くツッコミをしてしまった。紗夜と燐子が丁度被ってない。だから辛くもあり、棲み分けというか独り占めできる時間が決まっていたりする。そこに花音さんが例えばもし万が一にスケジュールに組み込まれるようなことが起こりうるとするなら、俺は二人を常に相手にし続けることになるんだけど。死んじゃうよ俺。
「ねぇ、今日……は?」
「今日は既に紗夜がウチに来る日なので」
「ん、そっかあ……」
「今週末、なら」
「いいの?」
「紗夜が日菜さんと出かけるらしいので空いてるんですよ」
「じゃあデートだ」
嬉しそうに花音さんは微笑んだ。その破壊力といったらこの周囲にいる全ての童貞を一瞬で食べつくすほどの威力だよ。
でも、俺は条件を突きつける。俺はセフレになるのは勘弁なんで。
「童貞食いはやめること」
「だめ?」
「ダメ……別に俺は紗夜と燐子いるんでどっちでもいいんですけど」
「脅しかあ……カンベくんも素敵なことをするんだね」
正直、花音さんの暴走、というかこのアプローチからの逃げ場を失っていたところだったから、もういっそ飛び込んでしまえばいいのでは? と紗夜と燐子からも許可を貰っていた。代償はポテトとネカフェ。お金なんて安いもんだ、特に俺のは、みたいな。
「その分、カンベくんは満たしてくれるんだよね……?」
「保障なんてこれっぽっちもありませんよ」
「うん、じゃあ私が教えてあげるね……私の気持ちいを、骨の髄まで♡」
この人は悪魔だ。俺は悪魔との契約をしたみたいだ。たぶんだけど花音さんは依存癖がある気がする、と言っていたのは燐子だったかな。
前のカレシはその依存とそのくせ男漁りをやめないってところから嫌になったんだ。前はいいと思っていたのに、いざ依存されたら自分の気持ちと花音さんの気持ちが釣り合わなくなった気がして。というか花音さんがある意味一番重いのでは? あれ、俺選択ミスってない? 大丈夫?
「……これで、三人目。やはりモテるわね」
「嬉しくないよ」
「どうして?」
「わからない?」
帰り道、紗夜と一緒に歩いていて、俺は少しだけ胸に穴を開けられた気分だった。モテるってことの痛さは去年に嫌というほど思い知った。誰かの気持ちを完全に断ち切らなきゃいけない恐怖と痛み、そしてそんなこともできずに甘い顔をして抱きしめてしまう痛み。
だから俺は紗夜だけでいい、もう紗夜がカノジョなんだからと言い聞かせた。
けど燐子も花音さんも諦めることなく、結局はこうなった。じゃあ、俺が選択した紗夜の努力って、痛みってなんだったんだろう、なんて考える時がある。結局絆されるなら、こんなに頑張らなくてよかったんじゃないかって。
「陽太」
「……紗夜?」
「私の痛みはあなたのものじゃないわ……それに、私はあなたのハジメテの女なのよ?」
「そうだったね、うん」
「それに今のところデートやセックスの頻度に不満はないわ。濃密さは、陽太だけの問題じゃないもの」
「紗夜には敵わないな」
「ふふ、童貞が私に勝てるわけありません」
カノジョになったらなったでこんなに寛大で強いヒトなんだよね紗夜は。俺の手を握って、微笑んで、ちゃんとセックスとかそういうのじゃない幸せを俺にくれる。
──こんな顔を見たら、俺はあの日、紗夜と手を繋いでよかったなぁと思うよ。ありがとう、紗夜。