紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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始まるV/一年越しのリベンジ

 花音さん……花音は俺との最後の一線を越えてから、態度が劇的に変わり始めたことがあった。

 まず花音の俺に対するテンションが変わった。前よりも一段階明るい反応で、俺に手を振ってくれるようになった。

 

「カンベくん、おはよ」

「おはよ」

 

 ちなみにだけど実は花音の家が俺の家に一番近かったりする。だから一番最初に遭遇するのが花音だったりする。だからか知らないけど二人の間にやたらとくっついてくるようになった。

 

「おはよう……ございます」

「おはよ燐子」

 

 その次が燐子と出会う。花音がくっついてるのを見るなり、ちょっと拗ね気味に俺の横にやってくる。ちなみに俺としてはこの状態でかわいいやら困ったやらで感情が朝から追いついてこない。あと圧迫感すごい。

 

「鼻の下と股間が伸びてるわよ」

「おはよう、でしょ?」

「おはようございます」

「待て待て、どこに挨拶してるどこに」

「カンベさんのカンベさん……ですよね」

「今日も元気いっぱいだしねえ」

「誤解を招く言い方はやめてもらえます?」

 

 そして、紗夜。

 ──いつかの頃、俺は好きな女にフラれたことでどうにかして童貞を卒業したいと思うようになった。前はただヤったらそれでいいのかとも思った。童貞っぽさなんて女を知れば簡単に変わるだなんてナメてた。だけどそうじゃないことを知った。モテるってことは、童貞を卒業するってことはなんなのか。彼女たちに教えられてきたから。

 

「さて、今日もカンベくんの脱童貞目指して……襲っちゃっていい?」

「はぁ、これだから身内も見境のないビッチは困ります」

「んん? おっぱいないからひがんでるの?」

「……今のはいくら松原さんでも許せませんよ」

「ま、まぁまぁ……落ち着いて、ください」

「燐子ちゃんは引っ込んでてくれないかなあ?」

「そうです、持つものは持たざるものの苦労はわからないのです」

「……か、カンベさん」

「ごめん、俺もあの二人を止めるのは無理かなぁ……」

 

 バリエーション豊かな、あ、胸の話じゃなくてね。個性豊かなメンバーばかりだけど、俺はこの三人とこれからの青春を過ごしていくことになってしまった。ちなみにここで一番悔しいのはどこぞのランスと同類扱いされてるってこと。くそう、信じられない。何故こうなったのか。

 

「カンベさんが優柔不断クソ童貞だからじゃない」

「まぁ童貞クンにはその程度だよねえ」

「……選べたら、苦労はしませんから……ね」

 

 すごい煽られてめちゃくちゃイラっとしたので今日はリサと友希那とトーマの四人で帰ることとします。女三人寄れば姦しいを地でいくのホントなんなんだろうね。紗夜と花音も仲が悪いってわけじゃなくて、胸襟を割ってるからの言い合いなのは助かるよね。

 

「あ、あの……わたし」

「ああごめん、挟まれた燐子は可哀想だよね」

「……わたしは挟む方が得意、なのに」

「ん? ごめん俺の童貞イヤーじゃ聞き取れなかった」

 

 Fサイズを寄せていらっしゃるところ悪いけどここ往来だから。やめてね? あとサイズアップしたとはいえまだまだコンプレックスらしい紗夜さんが睨んでるからね? あのお姉さんそっちのことになると結構本気で怒るから気をつけてね? 

 

「というかそもそも燐子ちゃん、抜け駆けしてない?」

「して、ません。今日は……わたしの日です」

 

 そんなのあるの? いやないと困っちゃうところは多々あるのか。ちなみに今週は紗夜がアウトなので、花音と燐子の二人らしい。この話をしたらトーマに本気で相談に乗られた。ちゃんとスケジュールに記入しとかないと一歩間違えたら責任問題だから気を付けろよと言われました。変なところで気を遣うよね。

 

「そういえば、カンベくんってもうすぐライブだよね」

「うん、まぁね」

 

 もうすぐ夏休みだし、夏前に一回、それから夏に一回のスケジュールで進めてく予定だ。あと秋の学園祭でも出るし。学祭はまたRoseliaも出るんだよね? 

 確認をすると紗夜がにやりと挑戦的に笑ったのだった。

 

「楽しみにしていてください」

「なにそれ」

「……秘密、です」

 

 燐子にまでそんなことを言われて俺と花音が首を傾げた。

 なにやらRoselia側には秘策があるのかな? ひとまず俺は電車内では燐子の脅威、もとい胸囲の圧力を受けながら大学へと向かっていった。どこでも発情するのはやめなさいってば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか鬱陶しいことが始まる予感がすでにしている。なにやらタイクーンのテンションが無駄に高い。というかもはやウッキウキのモンキー状態。

 こういう浮かれた雰囲気の友人はろくな提案をしてこないことで有名である。タイクーンにとっては花畑でも俺にとっては死神のパーティタイムだよ。死ぬまで踊りたくはないんですよ。

 

「練習前にひとつ! 俺とトーマから報告がある」

 

 浮かれたタイクーンに代わって、トーマがいつも通りのテンションで実は秋の学祭に向けて、思い切った提案をさせてもらいたいんだと言葉を放った。

 ──タイクーンが提案してトーマが調整した。なんだかもうやな予感しかしないし俺がハブられてる理由としても絶対にヤバい。

 

「実は! 対バンすることになった!」

「え、夏休みのほうで?」

「そうだ、夏休みライブと学祭の二ステージだ」

 

 なんと二つステージを跨いでのコラボということで、いよいよ俺の嫌な予感は現実味を帯びてきた。

 ある意味では俺たちの最大の挑戦になるであろうコラボ。完全に相手様方の胸を借りる形になる気がするんだけど。

 

「二人ともそれってさ……まさか去年のリベンジ?」

「そう、相手はガールズバン界の女帝Roseliaとだ」

「……ほう」

 

 ランスがはっとしたように言葉を口にして、肯定の言葉にアイスが興味を示したようにつぶやいた。

 ああやっぱり、そうなるんですね。道理であの二人がにこにこしてたわけだ。

 

「よく友希那がいいって言ったね」

「そりゃ、俺たちの努力の結果だな」

「あの歌姫がコラボしていいと思えるところまでボクたちが来たってことかぁ」

 

 いいことだね。そしてトーマはそのための打ち合わせ係ってことか。俺じゃなくてよかった。安堵していたら、いつも通り運営のスケジュールはカンベ中心と言われて俺は去年の羽丘と花女の合同文化祭の地獄を思い出した。

 

「おいお前ら」

「どうしたバカ」

「なんだ色狂い」

「は? は? なんだお前ら?」

 

 ランスに肩をたたかれた。どうやらいつの間にか俺は完全にソッチ側扱いらしい。ひどいよ俺まだ童貞扱いなのに! 

 そしてその計画でRoseliaへのスケジュール打診が俺なのは完全に何か別の意図を感じるよね。

 

「愛されてるな」

「あはは、トーマでもよくない?」

「うちのは俺が絡むとポンコツになる」

 

 それはうちの紗夜もですけど? あの氷の女王は俺と向かい合うだけで日差しにあてられたスノーマンの如く溶けますけど? 

 だがしかしその俺の文句に対して、トーマは向こうからの要請なんだと諦めたように首を横に振った。

 

「満場一致らしい」

「ふざけてるね?」

「まぁ、人間関係的にカンベ以外ないでしょ」

 

 ランスに言われて考えてみる。まず最初にビッチコンビが俺の名前を挙げて、友希那としては現在一番交流があるのはタイクーンだが話が進まない可能性を考慮して俺を、あこちゃんとしてはかかわりが俺かトーマなので燐子のことを考え俺を。リサはトーマと一緒にいるとうっかり恋人オーラ出すのが嫌だからサンドバッグとして俺を、なにそれ地獄かな? 

 

「……一年、目標にしてきた」

「アイスまで」

「というわけで頼んだカンベ」

「せめてタイクーンとトーマもついてきてよ」

「最初からそのつもりに決まってるだろ!」

 

 そりゃそうだよね、なにせタイクーンは友希那に会いたいだけだもんね。

 トーマはどうするかな、みたいなリアクションだった。あれね、リサ姉の仮面が剥がれるのが嫌なんだもんな。

 でもまとめ役にはトーマ必須だしなぁ。まぁでもとりあえずは俺たちがRoseliaと対バンできるなんていう吉報に胸を躍らせておくとしよう。中身はアレだけど、実力ははっきり言うと俺たちよりも数段上だしね。

 

「楽しみです……カンベさんたちと、一緒に演奏できる、なんて」

「それは俺も楽しみだよ」

「……はい」

 

 帰りに待ち合わせた燐子もさっそくそんな話題を出した。

 俺としてはその前段階に問題があると思うんだけどそれはさておき、楽しみなことが増えたな。そして同時にこの夏は間違いなく問題だらけの予感もしてるよ。

 

「利害の、一致ですよ……」

「紗夜と燐子だけじゃなくてリサとトーマ、そしてタイクーンの思惑は同じところにあるからなぁ」

 

 そこのお互いのバンドで会いたい人がいる連合は強いよ。アイスは純粋にドラムを叩くのに喜びがあるっぽいから拒否はしないだろうし。ランスもどうしようもなく音楽バカだからね。

 

「陽太さんも」

「ん?」

「十分、音楽バカ、ですよ……」

「そりゃあ、俺にとって音楽は特別だから」

 

 仲間とこうやっていつになってもバカなことが言い合えるのはバンドやってるから、俺がたくさんの人と関われたのはバンドやってるから。

 そしてなにより、紗夜や花音、そして燐子に出逢えたのは、バンドやってたからだ。

 俺の思いを汲み取ったように燐子のキレイな手が俺の手を包み込んでくれた。その手の熱は夏が近づいているのに、不思議と心地よく感じられた。

 

 

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