紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Fの牙城/青いバラの瞳

 午後四時半頃、俺はラストダンジョンの入口からそびえる建物を見上げた。

 中高一貫なだけに大きめの敷地。部活の掛け声は女性の声しかしない、まぁ、女子校だしな。

 ──そう、女子校。俺は今花咲川の校門にいる。一歩踏み込めばそこは女性ばかりの世界。バラ色に感じるか? でも、バラには棘がある。俺はそこに生身で突っ込む勇気なんてとてもない。

 

『……お願いします』

 

 でも、紗夜さんはお願いします、って言ったんだ。覚悟を決めるしかねぇ……! 幾ら童貞でも、友達のためになら頑張るしかねぇんだよ! 

 

「……そんなに気張らなくても、私から来るに決まっていますよね?」

「ぅわお!?」

 

 気合いを入れていると、後ろから声を掛けられた。

 夏服らしい白のセーラー服という出で立ちの氷川紗夜さん。

 いつもと違うのは服装と、妙に化粧っ気がないことくらいかな。こう見ると真面目で潔癖症な風紀委員、という噂も納得だ。ビッチだけど。

 

「ふふ、わざわざありがとうございます」

「いやいや、紗夜さんが困ってるんだから当然でしょ」

「つまりはようやく身体を開いてくれる気になった、と」

「言ってねぇ……」

 

 でも口から出てくるのはいつもの下ネタ。くすくす笑いながら、つまりはなんだかご機嫌らしい。あとせめて心から開かせてほしい。

 

「はい、ピック」

 

 そんなやり取りはさておき、俺は紗夜さんにピックを手渡そうと取り出した。

 ──しかし、紗夜さんはそれは受け取れません、と毅然とした態度で首を横に振った。

 

「はい?」

「それは言わば学校にとってみれば不要なモノです。そして花咲川には学校生活に不要なモノを持ち込んではいけない、という規則があります」

「……えぇ?」

 

 つまり、このまま手渡して紗夜さんが花咲川の校舎に入ったら校則違反になるってこと……だよな? 風紀委員である以上紗夜さんには立場がある。だから受け取れない、と。

 じゃあ、どうしたらいいんだよ? 

 

「問題ありません。対策は立ててきました」

「お、よかった。その対策とは?」

「コレです」

 

 そう微笑みながら取り出したのは生徒会長と風紀委員、そして教師の連名で出されたであろう、外来の入校許可証……そこには俺の本名、ではなくバンドグループ名と、カンベ、という名前が記されていた。

 

「……えぇ、と? 状況がつかめないんですけど」

「理解と射精が遅いと女の子が苦労しますよ?」

「やかましい」

 

 本気で心配する表情はやめろ! 射精の早さとか大きさとかは参考がないから童貞はみんな不安になるんだからな! それを弄られると童貞は余計に童貞をこじらせるんだよ! 覚えときな! 

 

「つまり、カンベさんに来ていただいて、一緒に帰る際に渡していただければ、校則違反にはならない、ということですよ……ふふ」

「……ハメやがったな」

 

 それなら終わる時間を教えてくれたらよかったんじゃないですかね? あなたはそこを敢えて黙ってて、俺といる時間を確保したってことですよね? 楽しそうな顔しやがって、最初から、紗夜さんはわかっててピックを置いていったんじゃないよな? 

 

「ハメるのはこれからではありませんか?」

「いやそうじゃ、って、あーもう、話を逸らさないでください」

「でも、終わる時間が分からないというのは事実よ? それなら、その時間も一緒にいたい、というのは乙女心じゃありませんか?」

「……勝手にしてください」

 

 それにしても、紗夜さんにしては回りくどいですね。いつも直球勝負、100マイルオーバーの豪速球放ってくる紗夜さんにしては、これはまるでゆったりとして手元で曲がってきたみたいな驚きがある。

 

「それで、何処に連れ込まれるんですかね?」

「保健室です」

「やっぱ帰ります」

「冗談ですよ、それに先生や保健委員がいるのにセックスなんてできませんよ」

 

 ああそう、つまり逆を返せばいなかったらセックスするのか。

 冗談を挟みながら案内されたのは生徒会室。どうやら連名を見るに生徒会長は紗夜さん側っぽいな。多分仲がいいんだろう……一体どんなビッチが出てくるのか。もしかしたら紗夜さんとは対照的な、見るからに肉食系女子か? 

 

「……失礼、します」

 

 鬼が出るか蛇が出るか、そんな心持ちで扉を開くと、そこには、誰もいなかった。

 出払ってるのか? と訝しむと紗夜さんは呆れ顔で白金さん、と部屋の奥まで進んでいった。

 

「言った通り連れて来ましたから、隠れてないで出てきてください」

「……ひ、氷川、さん……でも」

 

 紗夜さんについて奥を覗くと、そこには同じように夏服に身を包んだ、美少女がいた。

 たぶん日本人の男性全員にどう思うかと訊いたら99.9%の男が好意的な感情を抱くだろう美少女。サラサラの黒髪ロング、小さな顔に大きめの瞳、薄桃色の可愛らしい唇。

 ──そして、なによりも目を引くのが、紗夜さんより小柄なのに、一目でわかる巨星。童貞たる俺にはサイズを目で測る技術なんてありはしないからでかい、しか言えないけど、でかい。いや、でかい。というかこの子、めちゃくちゃ見たことあるんだけど。

 

「ひっ……あ、あの……っ」

「カンベさん、滾らせるなら私にしてください。白金さんが困っています」

「滾ってないし」

「視線が胸を見ていますよ」

 

 バレてる。そんな紗夜さんがオドオドとまともに目も合わせられないその子の代わりに紹介してくれた。その名前にやっぱりそうか、と俺は納得した。

 ──白金燐子さん。花女生徒会長は、紗夜さんと同じRoseliaの一員だ。担当はキーボードで、その滑らかな指から放たれる超絶技巧は、わかるやつ曰く、ピアニストのそれなんだと。よくわかんないけど、俺としてはそんなステージに立って凛とした表情をする彼女とは似ても似つかない様子だから、最初は別人かと思ったよ。

 

「白金さん、コチラがカンベさん」

「……あなたが」

「はい、本名は違うんですけど、ベースのカンベって言えば、わかりますか?」

「……はい、名前は良く、伺っています。どんな方なのかも」

 

 紗夜さん……じゃないか。俺のことをペラペラしゃべるのは違うやつだな。まぁ、そんなことはいいんだけど、小さな声で、途切れ途切れにしゃべる彼女は相当な人見知りなんだなってことはわかった。よく生徒会長やってますね。

 

「それでは、私は残った仕事をしてきますので、白金さんも作業を続けていてください」

「は、はい……って、ひ、氷川さん!? か、カンベさんは……?」

「出歩かれては困りますので、そこに置いておきます」

 

 おい、俺はモノじゃないんだけど? あと出歩かれて困るなら敷地に入れること自体ナンセンスなのでは? 

 そんなツッコミをする暇もなく、紗夜さんは生徒会室から出ていってしまった。いやいや、気まずいんだけど。

 お互い知ってる人とは言え初対面、しかも異性となるとハードル高いんだけど。

 

「……あの」

「はい」

「氷川さんと……お付き合い、されてるんですか……?」

「えっ、いやいや、俺なんかがあのヒトとはないでしょう!」

 

 こんなこと聞かれたら、紗夜さんはきっと不機嫌になるだろうけど。そういう自虐がやめられないのが俺が童貞たるゆえんでもあるらしい、紗夜さん曰く。余計なお世話だ。

 

「カンベさんは、知って、いますか……? 氷川さんが、その、複数の……男のヒトと」

「セックスしてること、ですか?」

「せ……っ、は、はい……っ、そうです」

 

 あ、やべ、白金さんがすごく顔を赤らめてしまった。紗夜さんと話してるテンションだとセックス、くらいじゃまだ下ネタとしても序の口の日常会話すぎて口から出るハードルが下がってたっぽい。どうやら知らない間にあのビッチに毒されてるな。

 

「知って、いるんですね……」

「そうですね」

「それじゃあ……カンベさんも」

「いやいや! 俺はまだ清いカラダです! ちゃんと紗夜さんの誘惑から耐えきってますから」

「そ、そうなんですね……」

 

 知っているもなにもそれが出逢い、だなんて言ってもびっくりされるだろうからな。というかRoseliaメンバーは紗夜さんの男遊び知ってるのか。なんだか隠された事実、みたいな勢いだったけど、そりゃあ同じバンドじゃ、有り得るよな。

 ──それにしても、白金さんは俺が求めていたようなヒトだなぁ。紗夜さんとオトモダチになった時にも思ったけど、やっぱり本物の清楚系だよね。

 一部じゃ、黒髪ロングで小柄でナイスバディなんて清楚系ビッチだなんて言われるけど、白金さんに限ってそれはなさそうだし! 

 

「……いいなぁ」

「え? なんて言いました?」

「あ、いえ……なんでも、ありません。お茶出しますね……せっかくですから、ゆっくりしていってください」

「ありがとうございます、白金さん」

「燐子、でいいですよ……カンベさん?」

 

 なんだか意味ありげな流し目をされた気がするけど、気のせいだよな? それともまさか……胸見ちゃってるのバレてる、とか? それは非常に恥ずかしいけど、名前呼びを許してくれたってことは、いい傾向かも? 

 紗夜さんには申し訳ないけど、お近づきになるならこういう子とゆっくり心を通わせたかったんだ。

 ──これでもう、俺はビッチになんか負けないからな! 

 

 

 

 

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