紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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迸るH/情と愛が交叉する時

 俺は昔、悩んでるとこの曲を聴いた。自分に自信がなくて、モテたいのにモテなくて、そんな自分が嫌な時は決まって、この曲を聴きながらベースを奏でていた。

 そうだよ、下手クソな夢でも、愉快な愛のある夢ならいいんだ。カッコつけてもしょうがないから、俺らしく、バカみたいに夢を語っていければいいんだって。

 

「あら、その曲」

「聴いたことある?」

「ええ、随分昔に流行っていたわね」

「そうそう」

 

 十年くらい前の曲だからね。大学の練習室でベースと共に奏でていると隣に紗夜がやってきて微笑んだ。俺はもう、行き場のない気持ちを抱えることも居場所のない孤独を抱えることなんてなくなった。するといつの間にか、俺にとってもこの曲はノスタルジックなものに変わっていた。少し寂しくもあるけど、それが音楽と共にあるってことなんだろうなって、俺はそう思うんだ。

 

「ふふ」

「どしたの?」

「いえ、音楽のことになると本当に、あなたはキラキラするわね」

「好きだから」

「私も」

 

 それはどっちが、そう言いかけて唇を奪われた。どっちもね。

 紗夜は俺にとって沢山のハジメテをくれたヒトだ。ハジメテ、恋ってなんだろうと真剣に向き合えたヒト、ハジメテの恋人で……もちろんソッチの意味でもハジメテの人。

 

「ねぇ、陽太」

「んー?」

「今日デートしたいわ」

「デートって、練習あるじゃん」

 

 その後よ、って言われても夜遅くまでする予定でしょう。けど紗夜はぐでーっと俺にしなだれかかりながらデートを連呼してくる。

 たぶん紗夜のことを知ってるこの大学の誰もが今のあなたを見たら誰って首を傾げるでしょうね。

 

「どんなデートがいいの」

「ラブホテルでゆっくりするの」

「ゆっくりするの?」

「ええ、スローセックスよ」

 

 言いたかっただけかな? ただこの定期的に下ネタ言いたい紗夜は本当に言いたいだけなのでホテルがいいのと肩に頭を乗せてくる。あの、一応ベース練習してるところだからね? 

 

「家に行ってもいいかどうか聞かなきゃ嫌よ」

「嫌って選択肢あるそれ?」

「白金さんと制服デートしたことをバラされてもいいなら」

 

 脅迫って言うんだからなそれ。わかったわかった。ホテル行けばいいんでしょ、と言うと泊まりでとか言い出した。どんだけガッツリセックスするつもりなのかなこのヒト。あと脚を撫でないで、吐息熱いんだけど? 

 

「……あの、紗夜?」

「なに?」

「もしかしなくても……ムラムラしてる?」

 

 顔が赤いし、熱い。なによりスキンシップが多い。これ今日の夜まで保つの? 無理でしょ。

 うーん、ただなぁ。午後の講義終わってからすぐ練習だからガス抜きもできないし、これが燐子なら実は奥の手をとしてはバレないように音楽かけてココで……ってのもアリなんだけど。なにせ紗夜はどこでもセックスのスキルは持ってない。

 さて、小さなことだけどこれは相当なピンチだよ。どうしたらいいんだろうか。

 

「陽太……」

「ああもう……わかった」

「え」

 

 腹を決めればいい。決意を固めれば俺はなんだってできるんだよ。燐子に電話をかけた。今頃だったらまだどこかでのんびりピアノでも弾いてるだろうからね。演奏の邪魔しちゃってたら申し訳ないけど。

 

『はい』

「ごめん、俺と紗夜、午後の講義休むから」

『え……大丈夫ですか、今日の、練習は』

「練習は大丈夫、よろしくね」

『はい……お任せください』

 

 燐子に連絡は完了、紗夜が何か言う前に決めちゃったよ。サボらせちゃってごめんだけど、これでなんとかなりそうだ。

 俺はベースを背負って、紗夜に手を伸ばした。

 

「行くよ」

「行くって……どこへ?」

「ホテル、は高いから俺んち」

「え……今から?」

 

 今からだよ。というか今しかチャンスないでしょ。そう言うと紗夜は、いいの? と首を傾げた。今日だけだからねこういうの。緊急事態……ってか、こんなの集中できないでしょ。そこで氷川紗夜の、俺が信じた紗夜の音がブレるなんて絶対やだよね。

 

「ガス抜きだよ……今日の練習では最高のパフォーマンスしてもらわなきゃね」

「陽太……」

 

 なにせ今日は合同練習だからね。そこで見せつけてほしいんだよ、紗夜の実力をさ。俺が普段ステージの上でしか味わうことのできない。紗夜の研ぎ澄まされた刃みたいなギターをさ。そのためなら俺が踏み台になってあげるよ。

 

「ほら、俺んち今の時間なら誰もいないし」

「それは……」

「練習の時間まで……俺が付き合っててあげるよ」

 

 このセリフ、本当は覚悟のいることなんだけどね。なにせ紗夜がムラムラしたってのは大抵ロクでもないことになるからね、俺が。

 紗夜は猛獣になるからね。俺が食われないように気を付けないといけないってわけだ。

 

「おじゃま……します」

「うん、先お風呂でも入る?」

「後でいいわ」

 

 そういう紗夜の顔にはもう余裕がないね。だけど俺はそんな紗夜を……この紗夜の傷に向き合うって覚悟を決めて付き合ったんだ。

 俺は違うよ紗夜。紗夜の身体だけが目的じゃない。だから安心して俺にもたれかかってきて、甘えていいから。そんな気持ちをめいいっぱい、両手に込めて広げた。

 

「陽太……っ!」

「いいよ紗夜」

 

 言いながら紗夜のシャツの間に手を差し込んでいく。捲り上げて、お腹に触れて、紗夜の求めるままスキニージーンズのベルトを片手で外して、ボタンを外して……そこから見えた紺色のショーツに触れた。

 

「陽太……私も」

「だからいいってば」

 

 なんでもいいよカモン! というか躊躇わないでほしい! 俺も覚悟を燃料にテンションあげてるんだから。紗夜はそれがもうスイッチだったようで、俺の名前をしきりに呼んで息を吐き、耳や首元にキスをしながらオレの服を捲って触れてくる。

 

「上来る?」

「……いいの?」

「紗夜の好きなように、その代わりホテルは俺のペースでね」

 

 負けないように、紗夜の背中に触ながら笑う。そのままホックまで手を伸ばすとびくっと反応する紗夜がなんともかわいらしいよね。抱き寄せて、抱えてブラのホックを外すと紗夜は自分からシャツとブラを脱ぎ捨てた。そして俺は押し倒され、求めるままの欲望を唇や舌で受け止めていく。

 

「陽太……私の陽太……全部、ココに……注ぎ込んで」

 

 後でちゃんと避妊薬飲んでくれるならね。まったく花音といい紗夜といい……燐子はほら、ゴムつけるプレイ好きだから喜んでシてくれるんだけど。

 ──と、そんな余談はさておき、紗夜は散々俺を貪り、俺が応えるというかたちで何度目かの絶頂でようやく収まった。

 

「汗すご……」

「水分を補給してから汗を流した方がいいわね」

「ツヤツヤしてんねぇ!」

 

 キラキラしていらっしゃる。スッキリできてなによりです。俺が先に入って、紗夜が後から入って、時間がなくて大慌てで重たい身体を引きずってスタジオに向かっていった。

 燐子にはサボってセックスなんてずるいです、とお怒りの連絡が、リサやトーマからも冷たい対応をされてしまったけど、紗夜のギターパフォーマンスが見られるなら安いもんだ。それになにより。

 

「その……陽太?」

「ん?」

「ありがとう、やっぱり私……陽太を好きでよかったわ」

「俺も」

「……そう?」

「うん。紗夜がハジメテの相手でよかった」

 

 カッコいい紗夜も、かわいらしい紗夜も、全部俺は特等席で見ることができる。求めてもらえるし、求められるところにいる。これがなにより嬉しくて愛おしいんだ。

 いつだって、紗夜は俺の憧れでもあるから。

 

「んー、どうしたらいいんだ。このイメージ、イマイチ膨らまないな」

「……でしたら、お手伝いしましょうか?」

「へ? って紗夜……なに今の」

「ですからカンベさんの悩みをスッキリさせてあげようと言うのです」

「言い方おかしいね」

「下の方もスッキリさせた方がいいかしら?」

「それは……この後ね」

「……ええ」

 

 俺と紗夜はこうやって愛して、愛されている。お互いを見つめてるからこうやって弱いのに強く生きていけるんだよね。

 そして、やっぱり今日もダメダメだったタイクーンにも、同じ事が言えるんじゃなかろうか。俺はそれを燐子と紗夜に相談した。

 

「タイクーンさんが……湊さんに、ということ?」

「うん、それだけじゃなくて」

「ゆ、友希那さんも……タイクーンさんを、想ってる……カンベさんはそう考えるん……ですね」

 

 そう、実はこの二人両想いなんじゃねぇの? と思うわけですよ。友希那の方は確信はできないけど、なんとなくよりタイクーンに厳しいイメージがある。けどそのために寄り添うような優しさも……あれだよ、音楽センスを俺に叩き込んでくれた時の紗夜みたいな感じ。

 

「なるほど、愛の鞭ですね」

「わたしは……打たれる方が、好みですけど」

「うんその鞭じゃないね」

 

 サラっとドМ発言はしなくていいからね燐子。友希那の言動は親しい人に対するソレだし、なにより大樹と呼ぶ。プライベートとしては相当仲がいいんだと思うんだけど、どうだろう? 

 

「いえ……わたしは、把握、できていません」

「それがわかるのは当人以外だと今井さんと、トーマさんだけでしょうね」

 

 でも、俺の予想は遠くないところにあるよ。何せタイクーンはおそらく、だけど自分のその憧れや理想と、それとは別に友希那に惹かれてるってことで苦しんでるんだと思うから。

 だから、この練習の場で友希那もほぼ無意識に放つ親しい感情を向けられて、困惑してるんじゃないかな。

 

「つまり解決法は」

「……単純、なことですね……?」

「うん、めちゃくちゃ単純だ」

 

 俺はその確信に近い予想を持ってリサとトーマに話を持っていった。リサとトーマ、俺と紗夜と燐子……なんかあれだな。ワンドルとRoseliaは一体何を目指してるんだろうな? そんなことを考えてしまう一瞬だった。後は割と恋愛に造詣の深いウチの三人目にも相談しなきゃな。実は恋愛ポンコツ勢ばっかりだしここ。

 

「どこが」

「……そんなこと……ありません」

「よーたがソレ言うんだ?」

「悪いが否定はできないと思うが」

「まぁ……うん全員だしね」

 

 この恋愛下手たちにあの恋愛下手たちをサポートするなんて不可能にもほどがある。そうすると残りのキーキャラはウチのバンドの女誑しと花音なんだよなぁ。

 あと、美鈴にも電話がかかってきた際に相談っぽいことをしておいた。こうして、合同ライブに向けてワンドルとRoseliaは大きな作戦に乗り出していたのだった。

 

 

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